感覚過敏の子供を「虹色」と理解すると支援しやすい

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支援を要する子への適切な対応ポイント記事まとめ
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低学年の不登校の大きな原因となっている「感覚過敏」。視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚など、多くの人が気付かないわずかな刺激が気になり、生きづらさを感じている子供たちのもつ「感覚過敏」の特色を解説し、学校生活をスムーズに送れるようにするための支援法を紹介します。

執筆/保健学博士・星山麻木

星山麻木●明星大学教育学部教育学科教授。一般社団法人 こども家族早期発達支援学会会長。行政や教育委員会と連携しながら、さまざまな地域の子育て支援、子育て支援ワークショップの開発、療育や特別支援教育の実践を行っている。著書に『星と虹色なこどもたち』(学苑社)『ちがうことは強いこと』(河出書房新社)。

知覚過敏の子供の理解と支援

「感覚過敏」「感覚鈍麻」とは

「感覚過敏」とは、感覚の特性であり、その子の脳の機能でもあります。  

「感覚過敏」には、大きく分けると、感覚がとても過敏で生活に不便を感じる「感覚過敏」と、逆に感覚にとても鈍感で不便を感じる「感覚鈍麻」という特性があります。私は発達障害児の教育に携わって約40年になりますが、こうした感覚の特性のある子が、小学校の通常学級にも一定の割合で在籍し、最近は少しずつ増えてきていると感じています。

感覚過敏・感覚鈍麻には、

  • 「まぶしくて目がチカチカする」
  • 「字を書くのに時間がかかる」
  • 「字の重なりが見分けられない」
  • 「すぐに耳をふさぐ」「音でパニックになる」
  • 「よく人とぶつかる」
  • 「ガサガサした食感のものが食べられない」
  • 「レモン石けんの匂いを嫌う」 

など、さまざまな特徴がありますが、これらが「感覚の特性」であることがあまり知られていません。そのため支援が遅れ、当事者の子供はもちろん、先生や保護者など、周囲の人もとてもつらい状況になってしまう現状を見てきました。特に3歳から8歳までの子供は感覚の過敏性が強いため、ぜひ低学年の先生方には、この「感覚」における特性や対応法について学んでいただきたいと思っています。

この感覚過敏・感覚鈍麻は、脳の感覚刺激の処理の違いで起きるものです。

人間は聴覚や味覚、触覚、嗅覚など、いろいろな感覚器をもっています。これらに共通して言えることは、人と比べにくく、個人差が大きいものであるということです。

例えば、「空間の認知」とは視力だけで認知しているのではなく、形や色、奥行き、高低差など、目で受け取った映像を「脳」で認知しています。つまり、人間は目で見ているだけでなく、脳で見ているので、どのように感じるかは、その人の脳の刺激の受け取り方で違ってきます。

そして、感覚過敏は、まわりからは気付かれにくく、その人にとって不快な環境があったり、生活しにくい状況があったりしても、周囲の人に理解してもらえないため、努力や我慢が足りないと誤解されやすいのです。

「感覚過敏」の特性を理解することで問題行動の要因を知る

以前より、専門家の間では発達障害のある人の中には、「感覚過敏」の特性をもち合わせている人が多いという理解がありましたが、学校の先生方のなかには、ご存じない方も多いと思うので、ぜひ知っていただきたいと思います。

なぜならこの感覚過敏は、個人の学習や生活、対人関係などに非常に関係があり、問題行動の背景に、感覚過敏からくる要因が隠れていることがあるからです。

「上履きが足を締め付けられるようで履けない」という感覚の子がいる場合、そういった感覚への理解がないと、「上履きをちゃんと履きなさい」と言って無理にがんばらせようとするでしょう。これは実はとても危険な状態なのです。不登校や問題行動といった「二次障害」を誘発してしまうことになりかねません。

また、繰り返し指導するなかで、がんばって履けるときもあるかもしれません。しかし、本人はとても不快に感じながら無理をしているのです。私は「感覚過敏」の子供にとって、「がんばれないとき」がやってくるのをたくさん見てきました。そしてがんばり続けたお子さん ほど、いわゆる心因反応が出てしまうのです。

後々、「なぜ自分はがんばれないんだろう」と 自己肯定感が下がってしまったり、どうにもならないときにパニックを起こして、他の人を傷付けたりというようなことが起こったりします。

こうした二次障害の予防のためにも、これは本人の努力不足ではなく、もともとの脳の機能であるという理解が進んでほしいと思っています。特性への共通理解が進めば、本人もまわりの人も、自分や誰かを責めることなく、協力して支援の方法を探すことができるはずです。

「感覚過敏」は個人差があり、環境によって大きく左右される

感覚の特性を理解するうえで重要なポイントは、「個人差があり、人と比べにくい」、そして「環境に非常に左右されやすい」ことです。

例えば音。先生にとっては「気にならない小さな音」でも、過敏な子にとっては、「非常に不快な耳障りな大きな音」である可能性があります。また、「家庭ではおとなしいのに、学校では音でパニックになる」のは、環境の違いかもしれません。小さな音に敏感なお子さんの場合は、家庭では大きい音を出さないように気を使って子育てをしている場合が多いのです。ところが学校ではいろんな音がするので、とたんに騒ぎだしてしまいます。しかも何が嫌なのか上手に伝えられず、「みんなと一緒にいたくない」「運動会の練習が始まったら学校の外に出たい」といった表現・行動となって表れるため、大人には問題行動に見えてしまいます。

支援をするうえで大切なのは、アセスメントです。通常学級の中でインフォーマルなアセスメントをするときに大事な視点は、「寄り添う」ということです。黒板の文字をノートに写すときに、非常に時間がかかっている子がいた場合、「ダメじゃないか」と言うのではなく、「この子は見え方が違うのかもしれない」と考え、「こんなに努力をしても、このようにしか見えていないんだな。うまく書けずに困っているんだな」と気持ちを寄り添わせていただきたい。そして、原因を見付けたら無理をさせず、不快なものはできるだけ取り除いたり、距離を離したりしてあげていただきたい。また保護者と連携することで、学校でもその子が安心できる環境を整えてあげることができるでしょう。例えば、安心できる場所を用意したり、「ノイズキャンセラー」や「イヤマフ」などの安心できるアイテムを見付けておいたりする工夫が有効です。こうした支援は、「合理的配慮」の一つです。

私は発達に特性をもつ子を、グレーという色ではなく、7色の「虹色」で表現し、それぞれの特徴やアセスメントの方法を解説し、自分の色を生かせるよう支援する活動をしています。

今回はそのうちの三つの例を紹介しますので、先生方にはぜひ特性をもつ子供の困難さに寄り添うことで、感受性の違いを尊重する豊かなクラスづくりにつなげてほしいと思っています。

レッドさん

レッドさん
参考動画:YouTube「レッドくんの『いろんな一番』ホタルみつけた!」

特徴

  • 人間が大好き
  • なんでも一番になりたい
  • 面白いことはとことん調べる
  • 細かい絵を描いたり覚えたりするのが得意
  • 字を書いたり読んだりすることが苦手
  • 自閉スペクトラム症傾向が強い

困っていること❶

よく人や物にぶつかる
距離感がつかめない

光や音には敏感で、まぶしく感じる。視野が狭く、遠くの物はよく見えるけれど、近くの物がぼんやり見えたりする。人との距離感も異なるので、人にくっつきすぎたり、人によくぶつかったりしてトラブルになることも多い。

矢印

アセスメントの視点と支援の仕方

「空間の認知が違うのかな?」

遠くはよく見えても、近くの景色は見えていません。本人にはぶつかった友達が見えていないので、「謝りなさい」と言われても理解ができないのです。「ここに来てごらん。いまレッドさんがここを通ってノートを取りに行ったんだよね。気付いていなかったかもしれないけど、後ろをふり向いたらBさんが転んでいたんだよね。どうしようか?」などと、ロールプレイで経緯を再現してあげると、分かりやすくなります。

困っていること❷

文字を書くことが苦手

空間認知の発達が多数派と異なるため、空間と形が歪んで見えたり、記号の向きが反対に見えたりする。字を書くときに、逆さ文字になったり、枠からはみ出たりするので、黒板の文字をノートに写すのにとても時間がかかる。

矢印

アセスメントの視点と支援の仕方

「見え方が違うのかな。鏡文字に見えているのかもしれない」

文字が歪んで見えたり、左右反対に見えるなど、見え方が違うので、「字がはみ出してる! 書き直しなさい」と叱るのではなく、「文字を大きくしてみようか」と言って、タブレットなどを使って文字を拡大し、見えやすくしてあげるとよいでしょう。また文字を書くときも、鉛筆ではなく、サインペンを使わせたり、タブレットを使うなど、道具を変えてあげるとよいでしょう。

お助けグッズ

  • サングラス        
  • 電動消しゴム 
  • 書きやすい鉛筆やサインペン
  • タブレット 
レッドさんお助けグッズ

ワンポイントアドバイス

なんでも一番になりたいレッドさんは、ちょっとしたミスを指摘されるとカッとなってしまうこともあります。イライラしているときに話しかけられると、さらに感情を爆発させてしまうので、そんなときは落ち付ける場所でそっとしておいてあげましょう。またその子の得意なことで活躍できる場をつくってあげると、がんばり屋のレッドさんは、輝きだします。

グリーンさん

グリーンさん
参考動画:YouTube「グリーンくんと『遊ぼう』」

特徴

  • がんばり屋
  • 真面目
  • 繊細
  • 好きなことは集中できる
  • 完璧主義
  • 「助けて!」が言えない

困っていること❶

音や光、触感、食感など、感覚特性が強くて敏感

特性によって敏感に感じる部分にそれぞれ違いはあるが、レモン石けんや柔軟剤の香りも苦手だったり、コロッケの衣のカリカリした部分が痛く感じて食べられない子や、衣服が濡れるのを極端に嫌がる子、上履きの足を締め付ける感じがつらい子などもいる。

矢印

アセスメントの視点と支援の仕方

「この感覚がとてもつらいんだな」
「衣がチクチクして痛いのかな? 無理して食べなくていいよ」
「ちょっとあそこで休んでいていいよ。大丈夫になったら戻ってくればいいよ」

感覚過敏は、無理をさせないことが基本。うるさい、まぶしい、痛い、疲れるなど、困っていることがたくさんあるけれど、自分から言い出せないのも特徴。苦手なことをできるだけ排除させてあげたり、「無理しなくていいよ」と言ってリラックスさせてあげたりしましょう。

困っていること❷

SOSを出せない
抵抗できない

困っていてもSOSを出せないのが特徴。みんなと遊びたいけれど言い出せない。友達に誘われたとき、少しだけその場から抜けたくても言い出せない。大きな音が苦手でざわざわした場所は、刺激が強くて落ち着かなくなるけれど、言えずに我慢してしまう。

矢印

アセスメントの視点と支援のしかた

「大丈夫って言っているけれど、緊張しているのかな」
「フードをかぶっているのは、ざわざわする場所は落ち着かなくなるからなのかな」

緊張が強く、自分から困っていることを言い出せないので、「がんばりすぎなくても大丈夫だよ」「大丈夫? 一緒に行こうか?」など、安心感を与える温かな言葉がけを心がけましょう。また、一度にいろいろな音が頭に入ってきてしまったり、さまざまな刺激に敏感だったりするので、静かで暗い空間や安心できるグッズがあると落ち着きます。

お助けグッズ

  • 静かにできる「セーブスペース」
  • 触り心地のよいガーゼ
  • ふわふわしたボール
  • イヤマフやノイズキャンセラー
グリーンさんお助けグッズ

ワンポイントアドバイス

グリーンさんは、耳が敏感なので、人がたくさんいて、ざわざわしているところは刺激が強くて苦しくなることも。でも友達が大好きでみんなと遊びたい気持ちももっています。静かにできる場所、狭くて少し暗い空間「セーブスペース」があると安心できます。

アクアさん

アクアさん
参考動画:YouTube「アクアちゃんの『ほんとは音楽だいすき』」

特徴

  • 一人でいるのが好き
  • 記憶力がよい
  • 完璧主義
  • 創造性がある

困っていること❶

感受性が強く、大勢の子といるのが苦手

感受性が強く、授業中も疲れてしまうから、休み時間はできるだけ一人でいたい。自分のペースやリズムを大事にするので、みんなで盛り上がろうとするときに、付いていけずに誤解を受けることもある。

矢印

アセスメントの視点と支援のしかた

「疲れているのかな? セーブスペースで休んでいいよ」

アクアさんは感受性が豊かで鋭いため、大勢の子といるのが苦手。特に、聴覚が敏感な子には敏感さや繊細さに対する配慮が重要です。授業中は特にイライラしているので、授業外で一人でいる時間が必要。休み時間に一人でいてもそっと見守ってあげましょう。静かにできる場所を用意してあげるのも有効です。本を読むことで気持ちを落ち着けている子もいるので、ゆっくり読書できるスペースをつくってあげるのもよいでしょう。

困っていること❷

自由時間や、自由作文が苦手

予定が分からないと不安になる。はっきりしない説明にも困惑する。音楽の才能があっても、合奏で他の子の音が外れていたり、みんなで自由に音を出したりすると、何重にも音が重なり、頭痛がして苦しくなることもある。

矢印

アセスメントの視点と支援のしかた

「自由時間は不安になってしまうのかな」
「得意な音楽の時間だけど、合奏は苦手なのかな」

自分のペースやリズムを大事にするアクアさん。でもやることがはっきりしない自由時間や不明確な説明は、どうすればよいか分からなくなってしまいます。しかしコミュニケーションが得意ではなく、本当の気持ちを伝えるのは苦手です。お友達の中に、アクアさんが苦手なことに気付き、「○○さんはこの音が苦手なんだよね」などと気付いてくれる「セーフパーソン」がいるとよいですね。

お助けグッズ

  • ノイズキャンセラー
  • セーブスペース
  • 大好きな物
アクアさんお助けグッズ

ワンポイントアドバイス

アクアさんは、文学・作曲・観察・アート・数学、など、一人ひとり得意なことは違うけれど、優れた才能の持ち主。記憶力のよさや、敏感さを生かして、その子らしく才能が発揮できる機会をつくれるとよいでしょう。

取材・文/出浦文絵 イラスト/大橋明子

『教育技術 小一小二』2021年10/11月号より

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