模擬クラスで一日の流れを試す【あたらしい学校を創造する #8】
先進的なICT実践と自由進度学習で注目を集めた元・小金井市立前原小学校教諭の蓑手章吾(みのて・しょうご)先生による連載です。公立学校の教員を辞して、理想の小学校を自らの手でつくるべく取り組んでいる蓑手先生に、現在進行形での学校づくりの事例を伝えていただきます。今回は、模擬クラスで実施した一日の流れを紹介します。
目次
模擬クラスのタイムテーブル
これまで僕たちは、来春からの入学をご検討いただいている方を対象に、オンラインで学校説明会や座談会などを5~6回行ってきました。その一方で、教員向けの座談会も2~3回やってきました。そして、僕らの理想の見える化のひとつとして「模擬クラス」を実施しました。今回はその模擬クラスで実施した一日の流れを紹介します。僕たちがあたらしい学校でどんな教育をしようとしているか、具体的に感じていただけると思います。
紹介する模擬クラスは、ヒロックキンダースクール(幼稚部)の年長組8人を対象にして実施したものです。タイムテーブルはこんな感じです。
9:30-9:45 | ①サークルタイム |
9:45-9:46 | ②瞑想 |
9:50-10:10 | ③読み聞かせ |
10:10-10:30 | ④自由進度学習 |
10:30-11:15 | ⑤英語×STEAM |
11:30-12:15 | ⑥テーマ学習 |
12:15-13:00 | 外でランチ、外遊び |
13:00-13:15 | ⑥テーマ学習振り返り |
13:15-13:30 | ⑦掃除 |
13:45-14:15 | ⑧プログラミング |
9:30。子供たちが続々とスクールに集まってきます。
①サークルタイムでは、輪になって自己紹介を行いました。自分たちで指名しあうことで、「学びの主体」が子供たちにあることを自然な状況でつくりました。そして②1分間の瞑想タイムをしてから、③絵本の読み聞かせをしました。
次は、④自由進度学習の時間です。ここでは今回は、「THE T」という知育パズルをやりました。様々なパーツを組み合わせることで、指定された図形を完成させるものです。今回のねらいは、自分で目標を決め、自分のペースで進んでいく学びである「自由進度学習」を体感してもらうことでした。
その後、⑤英語×STEAM(*)の時間です。英語講師の指導のもと、オールイングリッシュでピタゴラスイッチの装置づくりに取り組んでもらいました。教材は、ヒロックの副理事長でSTEAM教育スクール「STEMON(ステモン)」代表の中村一彰さんのところの教材を使いました。パーツを組み合わせながら坂道を作り、ボールが転がるように調整します。何度もトライ&エラーが起こり、一人として同じ作品がないところも魅力の一つでした。
*STEAM…Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学・ものづくり)、Art(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)
そして、⑥テーマ学習です。今回は、歩いて30秒のところにある公園で「フィールド・ウォーク」という、『探究する力』(知の探究社)の著者・市川力さんの実践をやってみました。具体的には、「公園に行き、いろんな疑問を探す」という活動です。「この木に数字が書いてあるよ!」「このポンプ、どこから水が出てくるんだろう?」「なんでここだけ水たまりがあるの? ここだけ雨が降ったの?」子供たちは発見したらすぐに言いたい。おもしろがってもらえ、否定されない。だから、もっと見えてくる。友達の発見が、新たな気づきをもたらし、新たな視点が生まれていきます。
教室に戻ってみんなで⑦掃除をした後は、最後に⑧「ビスケット(VISCUIT)」というプログラミングアプリで作品づくりを楽しみました。自分の描いた絵が、メガネのフレームに入れ込むことで動き出す。そんな夢のあるプログラミングアプリです。子供たちも始めて触るとは思えないほど夢中になって、自分の世界を表現していました。
午後2時半まで、都合5時間ほどのプログラムでしたが、子供たちはめちゃくちゃ楽しんでくれましたし、保護者もこの様子を見て「すごくイメージが持てました」と言ってくださいました。僕も子供たちのキラキラした目を見て、「きっと楽しいスクールになる」という確信が持てました。
今回ご紹介した模擬スクールのメニューは、僕たちがやろうとしている授業のひとつのモデルにすぎません。カリキュラムづくりについては話合いを続けています。ヒロック初等部で検討中のカリキュラムについて、次回お話ししようと思います。〈続く〉
蓑手章吾●みのて・しょうご 2022年4月に世田谷に開校するオルタナティブスクール「HILLOCK初等部」のスクール・ディレクター(校長)。元公立小学校教員で、教員歴は14年。専門教科は国語で、教師道場修了。特別活動や生活科・総合的な学習の時間についても専門的に学ぶ。特別支援学校でのインクルーシブ教育や、発達の系統性、乳幼児心理学に関心をもち、教鞭を持つ傍ら大学院にも通い、人間発達プログラムで修士修了。特別支援2種免許を所有。プログラミング教育で全国的に有名な東京都小金井市立前原小学校では、研究主任やICT主任を歴任。著書に『子どもが自ら学び出す! 自由進度学習のはじめかた』(学陽書房)、共著に『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』(ジアース教育新社)、『before&afterでわかる! 研究主任の仕事アップデート』(明治図書出版)など。
連載「あたらしい学校を創造する〜元公立小学校教員の挑戦」のほかの回もチェック⇒
第1回「あたらしい学校を創造する」
第2回「ちょうどいい3人の幸運な出会い」
第3回「なぜオルタナティブスクールなのか」
第4回「多数決に代わる『どうしても制度』とは」
第5回「自分たちのスクール憲法をつくる!」
第6回「スクール憲法の条文づくり」
第7回「教師と子供をどう呼ぶべきか」
取材・構成/高瀬康志 写真提供/HILLOCK