教師の「ICT活用」アップデート|「教える」よりも「支え導く」授業観で【中野裕己の授業技術アップデート05】

連載
明日からできる!授業技術アップデート

新潟大学附属新潟小学校教諭

中野裕己
明日からできる授業技術アップデート

『小学校国語授業アップデート』の著者で、国語科(読むこと)、対話指導、ICT活用の研究を精力的に進める中野裕己先生による新連載!「発問」「教師の“ポジショニング”」「価値付け言葉」「問い返し」「ICT活用」「話合い活動」「授業準備」の7つの柱をテーマに、“明日から”できて“ずっと”役立つ授業の技を、多岐にわたってお届けします。

第5回目のテーマは、《子供が「自ら学びすすめる」ICT活用》です。


執筆/新潟大学附属新潟小学校教諭・中野裕己

ICTの機能                          

連載第5回目となりました。新潟大学附属新潟小学校の中野裕己(なかの・ゆうき)です。

ゴールデンウィークが終わり、学級もリスタートですね。子供たちの表情をよく見ながら、ゆるやかに教育活動を進めていく時期です。また、ゆるやかではありますが、学びの質を高めていくための手立てを講じていきたい時期でもあります。

そこで、今回の授業技術は、令和の時代に欠かせない「ICTを活用する授業技術」を取り上げたいと思います。

この授業技術を語るにあたっては、まずICTのもつ機能を明確にしておくことが大切です。

ここでの機能は、特定の授業支援システムの機能というよりは、どの授業支援システムを使っても表れてくる「ICT自体の」機能として考えています。

私は、これまでの経験上、以下の3つに整理しています。

●情報源へのアクセス
ICTを使うことで、様々な情報源にアクセスすることができます。Web上の情報はもちろん、自分の学習履歴を参照したり、他者の編集している情報を参照したりすることも可能です。

●多様なコンテンツの使用:
ICTを使うことで、テキスト以外のコンテンツを使用することができます。例えば画像です。従来であれば、教師に頼んで印刷してもらわなければなりませんでしたが、子供が自分の判断で使用することができます。

●情報の編集

ICTを使った情報の編集は、加除修正が容易です。例えば、ある文章を指定して複製したり、誤って削除した部分を元に戻したりすることが簡単にできます。

大切なことは、これらの機能が生きて働く授業を構想するということです。

国語科であれば、イメージしやすいのは作文学習です。書くための情報を集めること(情報源へのアクセス)、文章に図表を挿入すること(多様なコンテンツの使用)、繰り返し書き直して文章を練り上げること(加除修正)のように、ICTを活用することで作文学習に必要な過程を充実させることができます。


それでは、よりよくICTの機能を発揮させるための授業技術について、今回も【Before】【After】でお示ししていきます。

【Before】ICTに縛りつける 

まずは【Before】ということで、ICTに縛りつける授業とその問題点を述べていきます。

ICTに縛りつけるとは、ICTを使うことを強要する、もっと言えば「この使い方をしなさい」と使い方を指定して固く守らせる指導を指します。そのような指導は、あまりふさわしくないのではないか——私はそう考えているのです。

「いやいや、それじゃあ子供たちはICTを使えるようにならないよ」と、そんな声が聞こえてきそうです。まずは「こうやってみよう」と教え導いてあげなければ、子供たちはできないのではないかと、そのような意見も一理あります。ですが、本当にそうなのでしょうか?

デジタルネイティブ(※)である子供たちは、ICT機器に触れながら育っています。

写真を撮ることができること、文字を入力することができること、端末を通して人とつながることができることなど、ある程度の機能を知っているのです。もしかしたら、既に家庭で使っている子供もいるかもしれません。

そのような子供に、教師が「ああしなさい」「こうしなさい」という指導は、ふさわしいと思えません。

デジタルネイティブ(イメージ)
デジタルネイティブ(イメージ)

※【デジタルネイティブ】生まれたときから、あるいはものごころついたころから、デジタル技術やそれを活用したゲーム機、携帯電話、パソコン、インターネットを代表とする新たなメディア環境のなかで育ち、生活してきた人々をさすことば。
——『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館)より

【After】子供に選択・判断させる                      

そこで、努めて「子供に選択・判断させる」ということを、提案したいと思います。例えば、先に述べた作文学習を例に考えてみましょう。

5年生に「資料を生かして書こう」という単元があります。ここでは、資料を使って自分の主張の説得力を増すことを心がけて、文章を書きます。

<書くために情報を集める学習場面>

まず、教師から3つの題材を提示します。ここでは「SNS」「読書」「ゲーム」といった、3つを提示しました。

そして、どの題材についてどのような意見を主張したいかを問います。ここでは、発問以上のこと、例えば「〇〇を使って考えましょう」などの指示はしません。ある程度の時間をとって、子供が自ら考えたり調べたりする様子を見守ります。

子供の様子を見ていると、友達と話し合って考えようとする子供、学校全体にアンケートをしたいと考える子供、Webで情報を調べる子供など、様々な姿が表れてきます。

Webで情報を調べようとする子供
Webで情報を調べようとする子供
友達と話し合って考えようとする子供
友達と話し合って考えようとする子供

そのような子供の姿を見取って、教師は、次のような言葉掛けをします。

「アンケート、よいアイデアだね。アンケートなら、Googleフォームで作れるよ。それで二次元バーコード(QRコード)作って印刷して紙で配るといいよ」

「何を検索してるの? あ、SNSの危険性を調べてるんだね。よいサイトがあったら、ブックマークしておこうね」

「検索するときは、『SNS 小学生』みたいに、自分の知りたいことに合わせてキーワードを付け足すと、知りたい情報が見つかりやすくなるよ」

(全体に向けて)「みんな、Aさんが、SNSに関係するよいサイトを見つけたみたいだから、気になる人はURLを送ってもらってね」


子供は、「必要だ」と感じれば、自ずとICTを活用し始めます。そのような子供の姿を見取って、よい姿を全体に紹介したり、困り感を共有して助言したりします。

すると、ICTを使っていなかった子供が「使ってみようかな」と動き出したり、困り感が解消されることでICT活用のスキルが高まったりするのです。

このような、“指導”というよりも“助言”を年間通して続けていくことが、結果的によりよくICTを活用する子供を育てるのだと考えています。

ICTを活用した授業を構想するにあたっては、「教える」のではなく「支え導く」授業観がより一層大切になってくるのです。


……ということで、ズバリ! 今回のICT活用アップデートは、

ICT活用アップデート!「教える」のではなく子供の選択・判断を「支え導く」授業観

ということになります。明日の授業づくりで、教室に立つときの参考にしてくださいね。


次回のテーマは、《話合い活動》です。どうぞ、お楽しみに……!

中野裕己先生

【著者紹介】
中野裕己(なかのゆうき)
新潟大学附属新潟小学校教諭。1986年新潟県生まれ。新潟市公立小学校教諭を経て、現職。「授業は、子供と教材の相互作用」を合言葉に、子供の学びを「支える」授業づくりを大切にしている。全国国語授業研究会監事。授業改善コミュニティ「授業てらす」プロ講師。教員サークル「国語授業“熱”の会」代表。

[著書]
『教科の学びを進化させる 小学校国語授業アップデート』(2021年)
『学びの質を高める!ICTで変える国語授業3 Google Workspace for Education編』(2022年、共編著)
『子供が学びを創り出す 対話型国語授業のつくりかた』(2022年)

X(旧Twitter):https://twitter.com/yuuuuki0430
新潟大学附属新潟小学校初等教育研究会HP:https://www.fuzoku-niigata.jp

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