教師の「ポジショニング」アップデート|“子供の中に入る”立ち位置を中核に【中野裕己の授業技術アップデート02】

連載
明日からできる!授業技術アップデート

『小学校国語授業アップデート』著者で、国語科(読むこと)、対話指導、ICT活用の研究を精力的に進める中野裕己先生による新連載!「発問」「教師の“ポジショニング”」「価値付け言葉」「問い返し」「ICT活用」「話合い活動」「授業準備」の7つの柱をテーマに、“明日から”できて“ずっと”役立つ授業の技を、多岐にわたってお届けします。

第2回目のテーマはポジショニング、《子供の学びを「支える」教師の動きです。


執筆/新潟大学附属新潟小学校教諭・中野裕己

「教師の“ポジショニング”とは

連載2回目となりました。新潟大学附属新潟小学校の中野裕己(なかの・ゆうき)です。

2024年となりましたね。本年も、先生方と教室の子供たちのお役に立てるよう、“明日からできる!”授業技術を紹介してまいります。どうぞよろしくお願いいたします。

さて、今回の授業技術は、教師の“ポジショニング”を取り上げたいと思います。発問と比べてあまり馴染みのない授業技術のため、少しだけ解説をしたいと思います。

この教師の“ポジショニング”を意味する『居方(いかた)』は、佐藤学氏(東京大学名誉教授)の造語です。佐藤氏は、著書『教師花伝書―専門家として成長するために』(小学館)の中で、「教師の居方(ポジショニング)」について、以下のように述べています。

「『居方』というのは私の造語である。この言葉で私は、教師の立つ位置の取り方とその立ち位置からの子ども一人ひとりとの関係の取り方を示している。したがって、『居方』は『ポジショニング』と言い換えてもよい」

出典:佐藤学『教師花伝書―専門家として成長するために』, 小学館, 2009年4月, p.34

この佐藤氏の考えに基づきながら、日頃私が意識している教師の立つ位置の取り方を、子供との関係の取り方に結びつけながら説明していきます。

【Before】漫然とした教師の“ポジショニング”

まずは【Before】ということで、アップデート前の教師の“ポジショニング”——つまり「漫然とした」立つ位置の取り方——をいくつか挙げてみたいと思います。

【Before】①黒板の前に立つ

写真①黒板の前に立って説明する教師
写真①黒板の前に立って説明する教師

この立ち位置は、「漫然とした」という表現が最も当てはまりやすいポジションです。多くの先生方が、黒板の前を定位置と考えておられるのではないでしょうか。気をつけておきたいのは、この立ち位置は、「教師―集団」という関係の取り方になりやすい立ち位置だということです。子供にとっては、なんだか圧を感じたり、声をかけづらい存在として映ったりすることがあります。

【Before】②座席の間を周回する

写真②座席の間を周回して、子供に応答する教師
写真②座席の間を周回して、子供に応答する教師

いわゆる「机間指導」の際の立ち位置です。教師は、「個とつながる」という意図をもって、座席の間を周回します(しているはずです)。しかしながら、立ち止まることができなければ、それはただ周回しているだけ、つまり「漫然とした」周回になってしまうでしょう。ただし、子供にとっては、教師との物理的な距離が近くなる分、声はかけやすくなるかもしれません。

①、②のいずれの立ち位置も、「漫然とした」ものであるため、佐藤氏の述べる教師の“ポジショニング”としての機能はありません。つまり、子供との関係の取り方が頭にない立ち位置になっています。

【After】教師の“ポジショニング”アップデート                   

そこで、「子供の中に入る」立ち位置を中核として、教師の“ポジショニング”について提案したいと思います。

【After】子供の中に入る

写真③子供の中に入る教師
写真③子供の中に入る教師
写真④子供の中に入る教師
写真④子供の中に入る教師
写真⑤子供の中に入る教師
写真⑤子供の中に入る教師

子供の中に入るとは、子供たちの座席の近くにしゃがみこむ立ち位置です。ここで大切なことは、どのような子供の近くにしゃがみこむかということです。

私は、学習に対してアクティブになることが難しくなっている子供の近くにしゃがみこみます。

物理的な距離を近づけて視線を揃えることで、その子供との関係をより太くしたいと考えています。

物理的な距離を近づけることは、「あなたと一緒に考えるよ」というプラスメッセージを伝えることになります。また、視線を揃えることは、その子供の見え方を共有することになります。

なお、近くに位置していない子供との関係も意識していないわけではありません。時折視線を遠い位置の子供に向けるようにしています。必要に応じて移動して、また別の子供との関係を太くします。

そうなると、ある地点に位置するのは1分、長くても3分程度になります。そうやって、絶えず子供との関係の取り方を意識して子供の中に入っています。

この「子供の中に入る」立ち位置が私の“ポジショニング”の中核です(研究授業などで授業風景を撮影してもらうと、③④⑤のような写真がとても多くなります)。したがって、【Before】に挙げた①黒板の前に立つ立ち位置は、全体に向けて指示や説明をするときのみになります。また②座席の間を周回する立ち位置は、ある子供から次の子供へ動く間のみになります。

そうやって、立ち位置と関係性の太さを結びつけながら、“ポジショニング”を調整しているのです。


……ということで、ズバリ! 今回の教師の“ポジショニング”アップデートは、

子どもの中に入る立ち位置を中核にしながら教室を動いてみよう

と、いうことになります。

明日の授業づくりで、教室に立つときの参考にしてくださいね。


次回のテーマは、《価値付け言葉》です。どうぞ、お楽しみに……!

中野裕己先生

【著者紹介】
中野裕己(なかのゆうき)
新潟大学附属新潟小学校教諭。1986年新潟県生まれ。新潟市公立小学校教諭を経て、現職。「授業は、子供と教材の相互作用」を合言葉に、子供の学びを「支える」授業づくりを大切にしている。全国国語授業研究会監事。授業改善コミュニティ「授業てらす」プロ講師。教員サークル「国語授業“熱”の会」代表。

[著書]
『教科の学びを進化させる 小学校国語授業アップデート』(2021年)
『学びの質を高める!ICTで変える国語授業3 Google Workspace for Education編』(2022年、共編著)
『子供が学びを創り出す 対話型国語授業のつくりかた』(2022年)

X(旧Twitter):https://twitter.com/yuuuuki0430
新潟大学附属新潟小学校初等教育研究会HP:https://www.fuzoku-niigata.jp

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