教師の「価値付け言葉」アップデート|子供の少し後ろをついていく【中野裕己の授業技術アップデート03】

連載
明日からできる!授業技術アップデート

『小学校国語授業アップデート』著者で、国語科(読むこと)、対話指導、ICT活用の研究を精力的に進める中野裕己先生による新連載!「発問」「教師の“ポジショニング”」「価値付け言葉」「問い返し」「ICT活用」「話合い活動」「授業準備」の7つの柱をテーマに、“明日から”できて“ずっと”役立つ授業の技を、多岐にわたってお届けします。

第3回目のテーマは、《子供の学びを「広げる」価値付け言葉》です。


執筆/新潟大学附属新潟小学校教諭・中野裕己

「価値付け言葉」とは

連載第3回目となりました。新潟大学附属新潟小学校の中野裕己(なかの・ゆうき)です。

年度末となり、いつにも増して慌ただしい毎日を過ごされていると思います。忙しい中ではありますが、年度末だからこそ、子供たちの成長を見つめていきたいですね。

ということで、今回の授業技術は、「価値付け言葉」を取り上げたいと思います。

「価値付ける」という表現は、教育現場ではよく使われる表現ですが、ここでは以下のように定義したいと思います。

教師が子供の言動を見取りその意味や価値について言語化すること。

教師が言語化することにより、子供は、自分が無意識で行っていた言動を「よい学び方」として理解することができます。

また、教室においては、価値付けられた他者の言動を多くの子供が耳にすることになります。すると、その他者の言動を自らの学びに生かす姿も期待できます。

このように、子供の学びを充実させる授業技術の1つとして、「価値付け言葉」をお示ししたいと思います。

ここまでの連載記事と同様に、【Before】【After】のアップデートでご覧ください。

【Before】子供を“束ねる”価値付け

まずは【Before】ということで、アップデート前の教師の「価値付け言葉」をお示しします。

題に掲げた「子供を“束ねる”」とは全ての子供を同じように動かそうと意図することを指します。例えば、次のような言葉が考えられます。

①教師が説明を行う授業場面

①教師が説明を行う授業場面「先生に目を向けて聞いているね!」

②文章を音読する授業場面

②文章を音読する授業場面「大きなはっきりとした声で読んでいますね!」

③考えを文章に書き表す授業場面

③考えを文章に書き表す授業場面「理由をしっかり書けているね!」

④全体で考えを交流する授業場面

④全体で考えを交流する授業場面「みんなの方を見て、意見を言えているね。」

上掲のような「価値付け言葉」は、多くの教室で聞こえてくるのではないでしょうか。このような「価値付け言葉」を、言ってはいけないとするつもりはありません。①であれば、目を向けて話を聞く聞き方は、素晴らしい聞き方だと思います。そのような子供の姿は、価値付けてあげるべきです。

しかしながら、教師の限定的な見取りに基づいた価値付けであることを留意しておく必要があります。

つまり、たった1つの「こうあるべき」に当てはまった子供を取り上げて、他の子供に「そうしなさい」と指示することになっていないか、ということです。教師が設定した、たった1つの「こうあるべき」を苦手とする子供にとっては、苦しい価値付け言葉になってしまいます。

【After】子供の多様性を尊重する価値付け

そこで、1つの授業場面でも、多様な子供の姿を価値付けられるようにします。例えば、次のような言葉が考えられます。

①教師が説明を行う授業場面

①教師が説明を行う授業場面
「先生に目を向けて聞いているね!」
「文章を確認しながら聞いているんだね。よい聞き方だね」
「つぶやきが聞こえたけど、気になることを声に出すことは大切ですね」
「さっそく作業を初めているんだね。すばらしい」

②文章を音読する授業場面

②文章を音読する授業場面「大きなはっきりとした声で読んでいますね!」
「『、』『。』に気を付けて落ち着いて読んでいるね」
「場面に合わせてスピードで読んでいるね」
「人物にぴったりな言い方で会話文を読んでいるね」

③考えを文章に書き表す授業場面

③考えを文章に書き表す授業場面
「理由をしっかり書けているね!」
「『例えば』を書いているんだね。わかりやすいね」
「文章を確認しながら、考えを書いているね。すごい」
「気になることを友達と相談してるんだね。大切ですね」

④全体で考えを交流する授業場面

④全体で考えを交流する授業場面
「みんなの方を見て、意見を言えているね」
「きちんと文(根拠)を示して話しているね。わかりやすい」
「示された文を、教科書で確認しているんだね。すごい」
「気付いたことを口にできて素敵だね」

このように、1つの授業場面において、子供の価値ある姿を多様に想定しておくのです。そうすることで、多様な子供の姿を価値付けることができます。

様々な価値付け言葉を耳にした子供たちには、選択肢が生まれます。すると、「次は自分もそれをやってみよう」「自分はこっちのやり方がいいな」などと、自分らしい学びを考え始めます

教室が、どの子供も安心して学べる空間になる可能性が高まります。

なお、子供の価値ある姿を多様に想定するためには、以下の2点が重要です。

①学習指導要領や指導書を基にその教科の指導事項をきちんと理解しておくこと。

②学習の方法を多様に捉えておくこと(考えを書く、教材を見る、他者と相談する、考えをつぶやく、相手に目を向けて聞く、など)

なお、①の指導事項がなかなか理解できない場合は、その教科の教育書を参考にしてみるとよいかもしれません。国語科であれば,拙著『授業はタイミングが9割』(明治図書)にて、「国語の眼鏡」として指導事項をまとめております。ぜひ参考にしてみてください。


……ということで、ズバリ! 今回の価値付け言葉アップデートは、

価値づけ言葉アップデート!
一つの授業場面から子どもの多様な良い姿を見つけて価値付けよう

と、いうことになります。

明日の授業づくりの参考にしてくださいね。


次回のテーマは、《問い返し》です。どうぞ、お楽しみに……!

中野裕己先生

【著者紹介】
中野裕己(なかのゆうき)
新潟大学附属新潟小学校教諭。1986年新潟県生まれ。新潟市公立小学校教諭を経て、現職。「授業は、子供と教材の相互作用」を合言葉に、子供の学びを「支える」授業づくりを大切にしている。全国国語授業研究会監事。授業改善コミュニティ「授業てらす」プロ講師。教員サークル「国語授業“熱”の会」代表。

[著書]
『教科の学びを進化させる 小学校国語授業アップデート』(2021年)
『学びの質を高める!ICTで変える国語授業3 Google Workspace for Education編』(2022年、共編著)
『子供が学びを創り出す 対話型国語授業のつくりかた』(2022年)

X(旧Twitter):https://twitter.com/yuuuuki0430
新潟大学附属新潟小学校初等教育研究会HP:https://www.fuzoku-niigata.jp

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