教師の「問い返し」アップデート|子供に“少し先”を見せる【中野裕己の授業技術アップデート04】

連載
明日からできる!授業技術アップデート

新潟大学附属新潟小学校教諭

中野裕己

『小学校国語授業アップデート』の著者で、国語科(読むこと)、対話指導、ICT活用の研究を精力的に進める中野裕己先生による新連載!「発問」「教師の“ポジショニング”」「価値付け言葉」「問い返し」「ICT活用」「話合い活動」「授業準備」の7つの柱をテーマに、“明日から”できて“ずっと”役立つ授業の技を、多岐にわたってお届けします。

第4回目のテーマは、《子供の思考を「ゆさぶる」問い返しです。


執筆/新潟大学附属新潟小学校教諭・中野裕己

「問い返し」とは

連載第4回目となりました。新潟大学附属新潟小学校の中野裕己(なかの・ゆうき)です。

まもなく新年度ですね。新たな出会いにわくわくしている先生方も多いのではないでしょうか。今回は、令和6年度の授業に役に立つであろう授業技術を取り上げたいと思います。

それは、「問い返し」です。

「問い返す」という言葉は、授業協議などの場でたびたび耳にする言葉だと思います。どの授業であっても、必ず問い返すという授業技術は駆使されているはずです。ここでは、以下のように定義して話を進めていきます。

子供の発言を一度受け止め、その次への一歩を促す発問。

この「問い返し」について、私は次のように整理しています。

図1 主な問い返しのパターンと効果

図1横軸【問い返しの3パターン】

横軸は、問い返しのパターンです。私は、次の3つのパターンを意識しています。

●根拠を問う:子供の発言を受け止めた後、何を基に考えたのかを問い返す。
《例》国語/(物語教材にて)どの場面を見て考えたのかな。

●目的を問う:子供の発言を受け止めた後、何を大切に考えたのかを問い返す。
《例》国語/(作文の学習にて)誰に伝えるために考えたのかな。

●判断を問う:子供の発言を受け止めた後、子供自身がよい(ふさわしい)と考えている事柄を問い返す。
《例》国語/(説明文教材にて)その段落は必要なのかな。

図1縦軸【話し手/聞き手への効果】

縦軸は、「話し手への効果」「聞き手への効果」としています。

問い返しは、基本的に話し手に対してするものですが、当然聞き手の子供たちも同じように聞いています。特に一斉授業の場面であれば、聞き手も意識する必要があります。

表の中には、その問い返しの効果を記載しています。基本的には、子供が無意識の内に発言していることを意識化することが、その効果となります。

子供たちが、自分の思考過程を振り返ったり、曖昧だった点を明確にしたりすることに、問い返しの価値があります。


それでは、このような問い返しがより機能するための授業技術について、ここまでの連載記事と同様に、【Before】【After】のアップデートでご覧ください。

【Before】話し手を追い詰める問い返し

まずは【Before】ということで、アップデート前の教師の「問い返し」をお示しします。

題に掲げた「話し手を追い詰める」とは、問い返された子供が苦しくなってしまう問い返しを指します。皆さんは、次のような場面を経験したことはありませんか。

図2 問い返しで話し手の子供が追い詰められる場面(例)
図2 問い返しで話し手の子供が追い詰められる場面(例)

どの教室でも行われる国語科の問い返しとして、「しょうこの文はどこ」という発問があります。先に挙げた問い返しのパターンで言えば、『根拠を問う問い返し』になります。

この問い返しが、話し手の子供を追い詰めるように作用してしまうことがあります。「しょうこの文はどこ?」と問われて、「えっと……」と子供が絶句してしまうような場面です。

おそらく、この子供は、叙述をきちんと読み込むという意識に欠けていたのでしょう。一読して頭の中に広がった物語世界を根拠に、考えていたのだと思います。そのような子供に「しょうこの文はどこ」という問い返しは、少し酷ではないでしょうか。

ここで問題にしたいことは、子供が考えていることと、教師の問い返しとの距離感です。

子供が少しも意識していない事柄を、他の子供たちの前で問い返すことは、いくら指導の意図があったとしても苦しすぎるということです。

【After】話し手をいきいきとさせる問い返し

このようなときは、子供の考えていることと、教師の問い返しとの距離感を近付けることが大切です。先の例であれば、次のように問い返すのはいかがでしょうか。

図3 問い返しで子供がいきいきとする場面(例)
図3 問い返しで子供がいきいきとする場面(例)

発言の内容から、叙述を確かめていない様子があったのならば、「しょうこの文はどこ」と問い返すのではなく、少し大まかに場面などを問い返すのです。

このような問い返しであれば、「このあたりかな」と、話し手の子供は答えることができるはずです。

話し手の子供がどのあたりを話題にしているかが分かることで、周りの子供たちも活性化するでしょう。すると、話し手の子供もいきいきとしてくるのです。

国語科の物語教材の学習を例として述べてきましたが、このことはどの教科でも同様です。問い返す時には、子供の考えていることと、教師の問い返しとの距離感を意識しましょう。


……ということで、ズバリ! 今回の価値付け言葉アップデートは、

と、いうことになります。明日の授業づくりの参考にしてくださいね。


次回のテーマは、《ICT活用》です。どうぞ、お楽しみに……!

中野裕己先生

【著者紹介】
中野裕己(なかのゆうき)
新潟大学附属新潟小学校教諭。1986年新潟県生まれ。新潟市公立小学校教諭を経て、現職。「授業は、子供と教材の相互作用」を合言葉に、子供の学びを「支える」授業づくりを大切にしている。全国国語授業研究会監事。授業改善コミュニティ「授業てらす」プロ講師。教員サークル「国語授業“熱”の会」代表。

[著書]
『教科の学びを進化させる 小学校国語授業アップデート』(2021年)
『学びの質を高める!ICTで変える国語授業3 Google Workspace for Education編』(2022年、共編著)
『子供が学びを創り出す 対話型国語授業のつくりかた』(2022年)

X(旧Twitter):https://twitter.com/yuuuuki0430
新潟大学附属新潟小学校初等教育研究会HP:https://www.fuzoku-niigata.jp

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