子どもの悩みを解き去る「教師の心」で立ち向かえ【4年3組学級経営物語23】

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学級経営のポイント満載の学級小説「4年3組~6年3組 学級経営物語」
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2月② 「心の交流」 にレッツ・トライだ!

文/濱川昌人(よりよい学級経営を考える大阪教師の会)
絵/伊原シゲカツ

4年3組担任の新任教師・渡来勉先生……通称「トライだ先生」の学級経営ストーリー。児童同士で起きたケンカトラブルで、口を閉ざす子どもたち。ケンカの解決には、ケンカに至った理由を双方が理解し、どうすればよかったのか双方が考えて納得すること。まずは原因の聴き取りに“レッツ・トライだ!”

<登場人物>

トライ先生
トライだ先生(渡来勉/わたらいつとむ)
主人公。教職1年目。教師になる熱意に燃えて、西華小学校に赴任。 やる気とパワーは人一倍あるものの、時には突っ走り過ぎるのが玉にキズ。しばしば飛び出す口癖から「トライだ先生」と 呼ばれるようになる。4年3組担任。
イワオジ
イワオジ先生(大河内巌/おおこうちいわお)
教職20 年の経験豊富な学年主任。4年1組担任。一見いかついが、 温かく見守りながら的確なアドバイスをしてくれ、 頼れる存在。ジャグリングなど意外な特技も。
ゆめ先生
ゆめ先生(葵ゆめ/あおいゆめ)
教職3年目。4年2組担任。新採のトライ先生を励ましつつも一 歩リード。きまじめな性格で、ドライな印象を与えてしまうことも。音楽好きでピアノが得意。
大和川強

大和川くん(大和川強/やまとがわつよし)
西華小学校にボランティアで手伝いに来ている教育学部生。小学生時代、イワオジのクラスで、イワオジに憧れて教師をめざす。ルックスがイワオジに似ていることから、クラスメートから「小イワオジ」と呼ばれていた。

トラブルの裏に隠れた真の友情

学級経営物語イラスト

「ヒロとタカは幼馴染で大親友、それから…」

昼休みの教育相談室、話を続ける渡来先生。

「サッカーのクラブチームでも一緒、…この前の夜もな」

「…はい」

オドオドと答えるヒロと、終始無言のタカ。二人を静かに見守る葵先生。渡来先生は、タカをジロッと睨んで問いかけました。

「ヒロが一方的に乱暴した。…間違いないか?」

「胸倉をつかまれただけ。…ホントもういいんだ」

「よくないんだっ!」鋭い声でタカに迫る渡来先生。

「自分を誤魔化すな! ヒロは親友を庇っている…。タカを気遣っているから、黙ってくれているんだ。ヒロの優しさがわからないのか!」

その言葉に、タカの顔が蒼白になりました。

「…タカ、大丈夫か」

気遣うヒロを遮り、タカが突然立ち上がって深々と頭を下げました。

「ゴメンなヒロ。ずっと黙っていてくれて。でも、もう全部言う。…言わなくちゃダメだよな」

呆然とするヒロ。涙声のタカが続けます。

「ずっと頑張ってきたけれど、僕はいつも補欠。今度の試合も…。もうサッカーが嫌いになった。あの夜は練習をサボったんだ。ヒロは…、そんな僕を心配して来てくれたんだ。…あの公園に」

タカの頬に伝う大粒の涙。

「あの厳しい監督がサボったことを知ったら、練習も出られなくなる。サッカーが大好きなら、逃げずにボールと向き合え…。そう言って、本気で叱ってくれた。でも、レギュラーのヒロに僕の気持ちはわからないって向かっていった。…全部僕が悪いんだ」

涙を拭くタカを、しっかり抱きしめる葵先生。

「やっと心を開くことができたね…。ヒロの言う通りよ。逃げずに本気でボールと向き合うの。先生も、キミを本気で応援する」

「タカ…、頑張れよな!」

涙ぐむヒロの肩に、そっと手を置く渡来先生。

「結果が出なくても、頑張るって大切だ…。でも、自分の事よりも友達の事を思いやるヒロって、本当にカッコイイ。…感動したよ、先生も」*POINT

メガネを外し、溢れる涙を拭う渡来先生。ティッシュを差し出し、葵先生が優しく諭します。

「…いつまでも大切にするのよ、この友情をね」

大きく頷くヒロとタカ。涙の跡がつく顔で、心からの笑みを交わしました。

その笑顔が先生たちの心も温め、渡来先生は鼻水をかみました。

高学年へ向けて、最後のワンプッシュ!

自立心が強くなり、自分たちでできることも増えているはずです。子どもたちを信頼して思い切って任せる場面も必要です。頑張ろうとする子どもたちの意欲を尊重し、最後まで成し遂げられるよう支援してあげてください。
また、高学年に向け、自分で考えて行動することの大切さも伝えていきましょう。

「教師の心」とは…

「お疲れ様・・・」

職員室に戻り報告する二人を、大河内先生が労います。

「成長すると、心の動きも複雑になる。見えにくくなり、見逃されたり誤解されたりする。隠れた部分も見逃さなかったから、心の奥まで見渡せてヒロとタカは救われた。本当に…いい教師になってきたなぁ」

嬉しそうな主任に、言葉を詰まらせる二人。

「全部、大河内先生に教えていただきました!」

「学級づくりに何度もつまずいた私に、『教師の心』を示してくださり…。本当に感謝しています!」

照れてゴシゴシ頭を掻く主任。遠くに目をやると、思い出をポツポツと語り出しました。

「…私も新任の頃、学年主任に鍛えられたんだ。毎日様々な事を教わり、励まされ、叱られた。だが、本当に楽しい充実した日々だった。学年最後の日、感謝の気持ちを告げようとする私に主任が言われた。…教師は現場で育っていく。それを育てるのは先輩の仕事。次は君の番だ。自分がしてもらった様に、学校を支えて、後輩を育てていくんだぞ。しっかりやれよ…、とな」

「大河内先生の原点…、感動しました。新たな目標も見えてきました!」顔を上気させる渡来先生に大きく頷くと、主任は思い出したように机の引き出しに視線をやり、言葉を続けました。

「自信が無くても、若手は意欲的にトライする。ベテランは、より以上に研鑽を積み、支援し、見守る。みんなの頑張りが、子どもたちをもっと幸せにするんだ。教師ならやるしかない!」

ハイッ、と元気よく答える二人に言います。

「カッコ良すぎだな…。どれ、薬膳茶でも飲んで英気を養おう。年末にひいた風邪を、これで乗り切った。マイブームになったよ、あれから」

引き出しから茶筒を出す主任を、慌てて手伝う二人。渡来先生には少し苦手な薬膳茶ですが、心の奥まで温めます。

冬の日差しが、ゴール間近のチーム4年に明るく降り注いでいました。

(3月①につづく)

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『小四教育技術』2017年8月号増刊より

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