21世紀に求められる「4つの読解力」を育む教育とは

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備えあれば憂いなし!オンライン授業・ICT活用術

まずは、21世紀を生きていく子どもたちに求められる読解力とは何かを明らかにしましょう。長年、学校に求められる新しい教育手法の研究に取り組んできた早稲田大学教職大学院の田中博之教授に聞きました。

早稲田大学教職大学院教授 田中博之
早稲田大学教職大学院教授・ 田中博之さん

①情報の真偽を見抜く力

子どもたちの今現在の読解力に加え、将来まで考えたとき、小中学校で身に付けるべき読解力は、これまでよりも広い意味で捉える必要があります。その読解力は4つあると私は考えています。

10年ほど前までは、多くの人が新聞や雑誌、テレビなどのマスメディアから情報を得ていました。それが今は、スマホやタブレットを使って、一人一人が欲しい情報をインターネットから収集できる時代になりました。同時に、ブログやSNS、YouTubeなどを使って、誰もが情報を発信できるようになったため、インターネット上には、誤情報や偽情報、偏った意見、不確定な情報、根拠や出典が明らかではない情報などが入り乱れています。子どもたちに求められる読解力の1つ目は、情報危機管理能力の一部としての読解力です。

なぜこれを最初に申し上げるのかといいますと、GIGAスクール構想が動き出し、小中学生に1人1台の端末が配備されたことで、多くの保護者が不安を感じているからです。端末に、ある程度のセキュリティ対策を講じてあっても、リスクをゼロにはできません。保護者の中には、学校から子どもが端末を持ち帰ることで「犯罪者と出会ってしまうドアが、家庭内にできてしまった」と危惧している人もいます。

これまで学校の授業では、基本的に教科書に書いてあることを教えてきましたので、情報の真偽を疑う必要がなく、学校はその見分け方を子どもに教える必要がありませんでした。しかし、これからは子ども一人一人が端末を使って、様々な情報に触れていくのです。学校は情報の真偽を見抜く読解力の育成に、すぐに取り組む必要があります。

それには練習をさせる必要があります。例えば、道徳科の授業で資料「誰も知らないニュース」(文溪堂)などを読解し、道徳的問題を提示した後に、疑似的なSNS環境をつくり、体験してみるのです。SNSの疑似体験をするときには、情報モラル育成のためのシミュレーション教材などを利用するといいでしょう。

そのSNS上に1人1台の端末を使って、不確かな情報や偽の情報を書き込み、どんなことが起きるのかを体験したり、そのことについて友だちと交流したりする機会をつくります。情報の真偽を見抜くことの大切さやその方法、偽の情報に遭遇した際にどんな行動を取るべきなのかについて考える授業を行ってほしいと思います。

②複数の資料を比べて読む力

子どもたちに求められる読解力の2つ目は、「複数の資料を関連付けて比べて読む力」です。現代社会を生きていくには、バランス感覚と多角的なものの見方が求められます。複数の情報を組み合わせたり比較したりする読解力は、多角的な視点を獲得することにつながります。

その育成は、ぜひ社会科の授業で行ってほしいと思います。小学校の学習指導要領には社会科の目的の一つとして、「社会的事象の特色や相互の関連、意味を多角的に考えたり、社会に見られる課題を把握して、その解決に向けて社会への関わり方を選択・判断したりする力、考えたことや選択・判断したことを適切に表現する力を養う」とあるからです。しかし、実際は社会科のテストで出題されるのは用語、年号、人名などです。授業中も子どもたちに穴埋めプリントを完成させています。資料集は知識の確認のために使われることが多く、複数の資料を関連付けることはあまり行われていないようです。

例えば、小学校の高学年以上で日本の歴史の学習をするときは、複数の資料を関連付けて「このとき世界はどうなっていたのか」を考える機会をつくってはどうでしょう。ペリーが来航したのは1853年です。当時、イギリスでは何が起きていたのかがわかる資料を関連付けることで、その後、明治政府が殖産興業、富国強兵をスローガンに、なぜ近代化を急いだのか、その切迫感を実感できるはずです。

ただし、1時間の中で複数の資料を読み込む時間はないはずです。そこで1人1台の端末が役に立ちます。先生が日本の歴史の資料と世界の歴史の資料をクラウドにアップしておき、子どもは家庭学習でそのうちの一つの資料を読み、何が書いてあったのかをまとめてきます。そして、授業中にもう一方の資料を読み、日本の歴史と世界の歴史を授業でつなげて考えるのです。このような1人1台を使った新しい予習の仕方を習慣付けていくことで、関連思考、比較思考を含んだ、複数の資料を組み合わせる読解力を育むことができます。

③心を読み取る力

3つ目の読解力は、これまでにはなかった新しい考え方です。新型コロナウイルスの感染拡大により、社会全体でリアルのコミュニケーションの機会が減り、そのかわり、オンラインの画面上でコミュニケーションをする機会が増えました。

小中学校でも、昨年春の臨時休業以降、双方向のオンライン授業に挑戦した学校もあると思います。そのような学校の先生たちが、おそらく最初に行ったのは笑顔の練習ではないでしょうか。双方向のオンライン授業では、授業者は画面の中の自分の顔の表情に注意を払う必要があります。画面を通して見ると、本人にそのつもりはなくても、他者からは怒っているように見えてしまうことがあるからです。

もちろん、先生だけが笑顔ならいいわけではありません。画面の中の子どもたちがみんな無表情であれば、授業は盛り上がらず、子ども同士のコミュニケーションが活性化しないでしょう。しかも、最近は対面であっても、他者の表情から気持ちを読み取ることを苦手とする子どもが増えています。非対面のコミュニケーションでは一層感情が伝わりにくいですし、その場の雰囲気を共有しにくくなります。

つまり、オンライン上では他者との感情の共有や、表現が難しいという前提に立ち、他者の気持ちを理解しようとし、他者の意見に同意・共感したときにはそれを表情で表現しながら、コミュニケーションをとることが求められるのです。子どもたちは、このような気持ちの読解、共感性の読解を含めた、新たな「心の読解力」ともいうべきものを獲得する必要があります。

例えば、特別活動の時間に、遊びながら練習してみます。オンラインの画面上にクラスの子どもたちの顔を表示して、みんなで様々な感情を顔で表現してみます。あるいは、「今、先生はどんな顔をしているでしょう」などと、顔の表情の伝言ゲームをしてみるのもいいかもしれません。

④意思決定の力

4つ目の読解力は、AI(人工知能)に関連するものです。皆さんも、AIを搭載した製品やサービスの普及によって、今ある多くの仕事がなくなるのではないか、と言われていることはご存じでしょう。確かに、「単純作業の繰り返し」はAIの得意分野です。データの入力や、電話のオペレーターなどは、すでにAIに置き換わりつつあります。今後は銀行が顧客に融資をするかどうかの判断も、AIが担うようになると言われています。

ただ、AIが得意とするのは、ルールや判断基準が明確な業務です。判断基準が明確ではなく、その場の状況次第で結論が変わってくる業務では、AIには判断が難しいと言われています。例えば、製造業でAという製品を増産するのか、Aは製造を中止してBを増産するのか、などの判断をするにあたり、AIはデータを分析してくれますが、それはあくまでも補助的なものです。AとBに関連したデータや状況の変化を踏まえ、最後に意思決定をするのは人間なのです。

このようにAIの時代に必要なのは、情報を読み取り、さらに次の行動を判断する力、意思決定をする力であり、これらも含めて読解力だと私は捉えています。

それは、体育科の走り幅跳びの授業でも身に付けることができます。1人1台の端末を使い、グループごとに各人の助走と跳躍の様子を動画で撮影し合い、距離を測定し合います。撮影と測定は時間をあけて3回行い、データを使って各人の折れ線グラフを作っていきます。

1回目の測定が終わったら、動画とデータを見て、グループ内で交流しながら、数値をもっと伸ばすにはどうしたらいいのかを考えます。考えるためのヒントは先生が与えます。スポーツ科学の研究成果に基づき、助走、踏み切り、空中、着地など、いくつかの観点を与え、それぞれの場面で生じている問題を改善するための練習メニューの選択肢を提示します。その中からどのメニューを取り入れるかという判断を、子どもはグループの友だちからのアドバイスを参考にしながら、決定します。そして、2回目は選んだメニューで練習してから測定します。距離が伸びなければ、別の練習メニューを選択し、3回目の測定を行います。このように自分で意思決定を行い、その判断が正しければ、記録が伸びるという経験を積んでいくのです。

本稿では、子どもたちに育成したい4つの読解力について述べてきました。子どもの将来、社会との関わりも視野に入れ、これまでよりも広い意味で考えたとき、心を読み取る力や、意思決定を行う力も読解力と捉えることができ、どれも必要であることをご理解いただけたのではないかと思います。そして、それらを育成するにあたっては、拙著『GIGAスクール構想対応 実践事例でわかる! タブレット活用授業』も参考にしていただき、1人1台の端末を積極的に活用し、これまでICTの活用とあまり関連付けられることがなかった教科、生活科、体育科、家庭科、道徳科などでもぜひ取り組んでみてほしいと願っています。

田中博之(たなか・ひろゆき) 1960年北九州市生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程在学中に大阪大学人間科学部助手となり、大阪教育大学教授を経て、2009年4月より現職。深い学び、学級力向上、学習評価など幅広いテーマを研究対象とし、全国の小中学校に助言を行う。近著に『GIGAスクール構想対応 実践事例でわかる! タブレット活用授業』(学陽書房、2021年)がある。

『総合教育技術』2021年8/9月号より

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