存在感の薄い小学校の学年主任【現場教師を悩ますもの】
「教師を支える会」を主宰する『現場教師の作戦参謀』こと諸富祥彦先生による連載です。教育現場の実状とともに、現場教師の悩みやつらさを解決するヒントを、実例に即しつつ語っていただきます。
目次
【今回の悩み】学年主任という仕事に悩んでいます
中規模の小学校に勤務しています。学年主任として20代の女性の先生と組んでいます。彼女はとても真面目で仕事が早く、デキる人なのですが、学級の中の特別な支援を要する子供に振り回されているようです。
5月くらいからほころびはあったようですが、学級がうまくいってない状態と私が知ったのは6月……。いろいろな問題が付随してきてしまい、管理職を介しても解決がこじれそうです。
なぜもう少し早く気付いてあげられなかったのか、また、なぜ問題が小さいうちに彼女から言ってくれなかったのかと、自分のできなさが悔やまれます。
今後同じようなことを防ぐには、学年主任として何をしていけばいいのでしょうか。言い訳になりますが単学級の担任経験が多く、学年主任という仕事が今ひとつピンときていません。
(公立小学校教諭・40代、教職年数:18年)
少子化と学級担任制で、学年主任の感覚が薄い小学校
私は、数多く小学校や中学校、高校の先生方と付き合ってきました。中学校に比べると、小学校はチームワークや学年団の動きがずいぶん少ないです。学級担任制ということもあるでしょうし、全国的に子どもが減っていて、学校の規模や1学年のクラスの数が減っています。3学級あれば大きな学年という寂しい時代になってきているわけです。
学年主任という感覚が強いのは、1学年5学級ぐらいあるような中学校や高校だけで、ご相談の先生のように小学校では、単学級の学年をずっとやってきたという先生が非常に多いですよね。学年主任と言っても、ペアやトリオで役割を果たしている先生が多いのです。
主任というよりは、先輩の先生と後輩で先生がペアを組むという感覚が強いかもしれません。若手の先生が多くを占めている学校もありますから、そうすると場合によっては学年主任のほうが後輩だったりすることもありえます。
そういった事情がある中で、「学年主任と言われても……」という小学校の先生のつぶやき、「学年主任という仕事が今ひとつ自分にピンとこない」というのは、よくわかる話です。
若手が言い出せないのは、自信がなく援助希求性が弱いから
20代の先生は、なぜもっと早く言ってくれなかったのでしょうか。40代と20代の間に大きくなりつつある、世代間のジェネレーションギャップが原因のひとつでしょう。私の感覚だと、30代前半までの教員と40代以降の教員との間に段差が起きている感じがしています。
若い先生が上から目線で指導されることに違和感を覚えている。そして、同世代だけで相談して、上の世代の先生とはあまり関わらないようにしよう、という感じの先生が結構多いのです。そういうこともあって、今回のような悩みが生まれてくるのかもしれません。私のところにも特に50代の先生から「若い先生と、どう付き合っていいのかわからない」という相談が多いのです。
もともと若い教員はまだ自信がなく傷つきやすいです。自ら助けを求めて声を上げる「援助希求的な態度」は、どちらかというと弱い。誰かに相談するのがあまり得意ではないのです。なぜかというと、まだ自信がないからです。他の先生に対して強がったり、子どもたちに対しても過剰に厳しくなったりする。それは「なめられてはいけない」という気持ちがあるからです。
学校だけでなく社会全体の傾向として、最近の若い人はこの「傷つきやすさ」の傾向、「なめられてはいけない」と思う傾向はさらに強くなっています。このコロナ禍で他者との生の関係が少なくなり、SNSで「いいね」と言われることを求めたり、ブロックされることに敏感になったりしている人が多くなっていますので、さらにこの傾向は強まっていくと懸念しています。
ほどよい距離の関係ならば、力む必要はない
こうした傾向を踏まえると若い先生が何も言ってくれない、という状況は特別なことではない、ということがわかります。ご相談の文面から責任感の強い学年主任の先生なのだなということが伝わってきます。「何でもっと早く相談してくれなかったんだ」という思いが強すぎると、若い先生は「1人で抱え込むなんて無責任だ」と言われている感じがして責められた気持ちになると思います。
そうなると余計に若い先生とのギャップは大きくなっていくのではないか、と心配です。なので、あまり学年主任としての責任感を感じすぎずにいた方がいいのではと思います。むしろここは、「ほどよい距離をとる先輩と後輩ぐらいの関係」でいいのではないでしょうか。学年主任だからと力みすぎなくてもいいのではないかなと思います。
その20代の先生も「学年主任が何とかしてください!」と急に言い始めるような責任転嫁タイプではないようです。もし、普段から若手の先生もそれほど強く求めてきていないのであれば、力みすぎる必要はないと思います。これが一つ目のアドバイスです。
雑談や日常会話から始め相談体制を作ることから
では、実践的にはとしてどうすればいいかというと、普段からの日常会話が大事だと思います。普段からあまり話をしていない人に相談をするというのはハードルが高すぎますよね。普段から雑談と日常的な会話が行われていたかどうか。そして、困ったことがあったら相談できるような体制が整っていたかどうかを考えてみてください。
私は「そばにいるだけでほっとできる関係づくり」と言っています。「この先生のそばにいるとほっとできて、ものを相談できる」。そんな風に思ってもらえる関係ができていたかどうかを考えてみましょう。
気軽にこちらから「最近どうですか?」と声をかけて関係性を作っていく。これぐらいから始めてみてはどうでしょうか。
諸富祥彦●もろとみよしひこ 1963年、福岡県生まれ。筑波大学人間学類、同大学院博士課程修了。千葉大学教育学部講師、助教授を経て、現在、明治大学文学部教授。教育学博士。臨床心理士、公認心理師、上級教育カウンセラーなどの資格を持つ。「教師を支える会」代表を務め、長らく教師の悩みを聞いてきた。主な著書に『いい教師の条件』(SB新書)、『教師の悩み』(ワニブックスPLUS新書)、『教師の資質』(朝日新書)、『図とイラストですぐわかる教師が使えるカウンセリングテクニック80』『教師の悩みとメンタルヘルス』『教室に正義を!』(いずれも図書文化社)などがある。
諸富先生のワークショップや研修会情報については下記ホームページを参照してください。
https://morotomi.net/
取材・文/長尾康子