ちょうどいい3人の幸運な出会い【あたらしい学校を創造する #2】
先進的なICT実践と自由進度学習で注目を集めた元・小金井市立前原小学校教諭の蓑手章吾(みのて・しょうご)先生による連載第2回です。公立学校の教員を辞して、理想の小学校を自らの手で創るべく取り組んでいる蓑手先生。今回は、オルタナティブスクールを自ら開校することに至った裏話や、学校の3つの特徴に込められた教育観を解説いただきます。
目次
ちょうどいい3人の幸運な出会い
今回は学校づくりの仲間の話から始めます。ヒロック初等部には、僕のほかに代表の堺谷武志さんと、カリキュラム・ディレクターの五木田洋平さんがいます。実際に子供たちに教えるのは、五木田さんと僕になります。
堺谷さんは、もともとビジネスマンですが、幼児教育にも長年携わっており、霊長類の研究やDNAの側面からの学びや教育科学、教育哲学などを研究している方です。僕もちょうどそのへんに学びのキーがあると感じていて、お話を聞きに行ったことが縁でおつきあいするようになりました。
堺谷さんは、実は学校をつくりたいんだと語ってくれました。でも、それは「学校らしくない学校をつくる」ということで、当時は学校の教員を採用する考えもなく、教員の知り合いもいないようでした。
しばらくして、学校の教員と一般の教育関係者がチームになって探究プロジェクトを行うという研修プログラムに、堺谷さんや以前からの知人だった五木田洋平さんを誘って一緒に参加しました。そのとき、堺谷さんの口から「小学校をつくりたいので、参画してくれないか」と打診を受けました。2年前にヒロック幼児部を始めていて、その延長線上に小学校をつくるというプランが出てきたのでしょう。
たぶん最初に出会ったときは、堺谷さんも開校時期までは決めていなかったと思いますが、ヒロック幼児部の子供が卒園するというタイミングにあわせて開校することになったわけです。僕のほうも、そこに向かって仕事の引き継ぎを進めていきました。
学校運営のパートナーとなる五木田洋平さんとは、堺谷さんより少しだけ前に出会いました。私立小教諭だった五木田さんは、探究学習の実践家で、国際バカロレア認定校の日本版を立ち上げた経験を持っている方です。ICT教育に詳しく、それがきっかけで知りあいました。
五木田さんを紹介してくれたのは、僕が勤務していた小金井市立前原小学校に理科講師としてやってきた中村一彰さんです。そして実は、堺谷さんを紹介してくれたのも中村さんなんです。中村さんは、実業家としてSTEM教育スクールの運営企業を経営するかたわら、小学校でも講師として教えるという珍しいタイプの先生でした。そんな中村さんとタイミングよく同じ職場で出会えたのは幸運でした。
堺谷さんとの出会いがなければ、僕が学校づくりに乗り出すことは難しかったと思います。今でも、それはすごく感じています。堺谷さんは、小学校ではないにせよ、もうすでに3校くらい幼児向けの居場所を経営していて、集客やマーケティングなど外側のことをよくわかっています。そして五木田さんも、私立小学校を立ち上げた経験があり、国際バカロレアのことに詳しい。
僕を含めたこの3人は、教育理念が重なりながらも、それぞれ得意分野が異なるという、ちょうどいい棲み分けができている関係なんです。
これからつくる学校の3つの特徴
こうした3人が中心になってつくるヒロック初等部には、以下の3つの特徴を掲げています。
1 ワイルド(自然に触れながら、たくましくしなやかに)
2 アカデミック(探究&教科、日本語軸バイリンガル)
3 東京がキャンパス(フットワーク軽く、社会とつながる)
ワイルドについては、まずは立地的なことでいうと、広大な面積を誇る砧公園まで徒歩30秒なので、都会にありながら自然を感じ、自然の中で実感を伴った学びを実践していくことができます。「東京がキャンパス」ということで、小さい規模の学校だから、ちょっと旅に出ようとか、博物館に行ってみようとか、そんな感じで社会とつながる校外学習をたっぷり実施したいと考えています。
さらにワイルドという言葉に込めたのは、自然との触れあいだけでなく、心のワイルドさも育んでもらうということ。心のワイルドさというのは、主体的なワイルドさのことで、信じたものを貫く心や、諦めない心を養うことを目指します。
アカデミックというのは、探究学習をメインに、学習活動にもしっかり取り組んでいくということです。しかし探究学習をメインに据える以上、教科学習については時数を縮小せざるをえません。
そこで僕たちが考えているのは、「学習指導要領の内容の7割を押さえる」ということです。学習指導要領の内容のなかで重要度の高い7割について、公立小学校が行う5割の時間で実施し、残りの5割の時間を探究学習や最先端の学びに当てる、ということを考えています。僕がやってきた自由進度学習の経験では、それが十分可能です。このカリキュラムづくりについても、いずれお話ししたいと思います。
次回は、オルタナティブスクールのよさや、本校では探究学習をメインにするということで、いま公立学校で探究学習がやりにくなっている理由について述べていきます。〈続く〉
連載「あたらしい学校を創造する〜元公立小学校教員の挑戦」第1回もチェック⇒第1回「あたらしい学校を創造する」
蓑手章吾●みのて・しょうご 2022年4月に世田谷に開校するオルタナティブスクール「HILLOCK初等部」のスクール・ディレクター(校長)。元公立小学校教員で、教員歴は14年。専門教科は国語で、教師道場修了。特別活動や生活科・総合的な学習の時間についても専門的に学ぶ。特別支援学校でのインクルーシブ教育や、発達の系統性、乳幼児心理学に関心をもち、教鞭を持つ傍ら大学院にも通い、人間発達プログラムで修士修了。特別支援2種免許を所有。プログラミング教育で全国的に有名な東京都小金井市立前原小学校では、研究主任やICT主任を歴任。著書に『子どもが自ら学び出す! 自由進度学習のはじめかた』(学陽書房)、共著に『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』(ジアース教育新社)、『before&afterでわかる! 研究主任の仕事アップデート』(明治図書出版)など。
取材・構成/高瀬康志 写真提供/HILLOCK