小学生の頃の思い出|絵本作家 村上康成さん
雑誌『教育技術 小一小二/小三小四/小五小六』では、月替わりで人気の高い絵本作家に表紙用のイラストの作画をお願いしていきます。本コーナーでは、その絵本作家さんに、小学生の頃の思い出を当時の写真とともに綴っていただきます。2019年6月号は、村上康成さんの思い出です。
目次
無限大の楽園
海のない岐阜県は、郡上市に生まれ、瑞浪市(みずなみし)と中津川市で少年時代を過ごした。
毎日、そばにあるのは、池や田んぼ、そして川。それは少年には無限大の楽園だった。
夏の日に温まった田んぼの水に足を突っ込めば、ムニュっと泥が摑んで引きずり込む。
タガメやトノサマガエルがスーイスイ。足が取られて四つんばい、「たすけて〜」。
瑞浪市を流れる土岐川は、高度成長期真っただ中で、陶器工場からの排水で、真っ白だった。
雪の降る日、底の見えない白い川に魚をすくいに行って、深みにはまり、流された。どんぶらこ、どんぶらこ。
幸い一緒にいた友達が河原を走って、ぼくを引き上げてくれた。
それでも、川には知らない生命が潜み、少年の心は躍り続けた。初めて、ミミズでオイカワを釣った時、大人になっちゃったと、心が震えた。
デビュー作へとつながる水中体験
ときどき連れられて出かけた中津川市の付知川(つけちがわ)は、青く澄んだ流れで、魅惑の水の色。
父がまだ泳げないぼくの水泳パンツを摑んで、「潜って見てみい」と教えてくれたのが、アマゴの群れだった。
エメラルドグリーンに差し込む太陽の光に、ゆらめく魚体の美しさたるや!
絵本のデビュー作『ピンク、ぺっこん』へとつながる衝撃だった。
潜ったり、流れたり、釣りしたり、アユやニゴイと泳ぎ、瀬や淵の水の流れを知った体は、今もなお突然に疼き出し、都会のアトリエから、無限大の楽園へと脱走する。
村上康成
1955 年 岐阜県出身。絵本作家。エッセイスト。1986 年に絵本『ピンクとスノーじいさん』でボローニャ国際児童図書展グラフィック賞受賞。以後、『プレゼント』『ようこそ森へ』で同賞受賞。また1991 年『ピンク!パール!』でBIB 展金牌受賞。2003 年『なつのいけ』で第8 回日本絵本賞大賞受賞
http://www.murakami-museum.co.jp/