小学校教師は「先回りしすぎ」に注意しよう
自らの体験に裏打ちされた教育哲学と再現性の高いスキルをTwitter(@YoshiJunF)で発信し、若手教師を励まし続ける古舘良純先生が、Twitterではつぶやききれなかった思いを綴る連載。今回は、教師が「先回りしすぎない」ことの重要性についてのお話です。
執筆/岩手県公立小学校教諭・古舘良純
目次
何気ない教師の声かけが「思考停止状態」を生む
5分後、算数、準備しておいてね〜
理科室行こう。整列!
掃除だ! 身支度整えて行きまーす。
子どもたちは、先生方のこうした言葉がけを4月からずっと聞いてきているはずです。しかし、年度の後半になるにつれ、子どもたちは育ってきています。
先生から同じことを同じように言われ続けたら、子どもたちはどう感じるでしょうか。
またかよ…
と意欲を低下させるばかりか、
はいはい…
と思考停止状態に陥ります。考えることをやめ、言われたことを言われたようにしかやらなくなります。
いわゆる「真面目」な子も、言われた通りに動き、波風立てずに過ごすかもしれません。すると、「指示待ち人間」が教室に育つようになります。
先生、どうしたらいいですか?
次は算数ですか?
理科室に行きますか?
掃除は何をすればいいですか?
と、いちいち先生の「指示」を待つ人間を生み出してしまいます。言われなければ動けない、「思考停止」の状態を生み出してしまうのです。
しかし先生方は、こうした指示や言葉かけが思考停止を促しているとは思わず、「子どもたちのためを思って」という善意で言っている場合が多いと感じます。ついつい、言ってしまうのです。
この背景には、1日の生活を滞りなくスムーズに終えること、45分間の授業時間をきっちり確保すること、集団行動やルールからはみ出すことなく子どもたちを動かすことなどが、優先順位として高いからというのが考えられます。
もちろん、時間通りに活動を進めることや集団行動を成立させることを蔑ろにしてよいと言っているわけではありません。
「子どもたちを育てる」という視点を、もう少し意識した方がよいのではないか…と考えているのです。
指示から確認へ
ここでキーワードになるのが、「指示から確認へ」ということです。
5分後、算数、準備しておいてね
と言うと、子どもたちへの指示になってしまいます。しかし、
5分後ね
という言葉で済ませることで、「はい、算数ですよね」という子どもたちとの確認作業になります。「みんなならわかっているよね?」という信頼を伝えることにもつながり、子どもたちの思考を促すやりとりになっていきます。
また、「え? 5分後? 何だっけ?」という場合にも、子どもたち同士で聞き合う場面が生まれたり、お互いを頼り合う場面を生み出すことができます。自分たちで自分たちの生活をよりよくしていくきっかけになるのです。
指示を出さなかったことによって授業開始が遅れる場合も考えられます。しかし、その数分の価値を考えていくようにします。
「誰か気づいた人がいなかったか」「どう思っているか」「どうすべきか」そして「先生の指示は必要か」を考えます。その上で、「先生はこう思う」という望ましさを子どもたちに伝え、次の時間、翌日に改善していけばよいのです。授業時刻だけではなく、移動や準備などのあらゆる場面を子どもたちと考えられたら、素敵な学級に育っていくはずです。
しかし、「確認」で済むようになるまでには、時間がかかります。一緒に考え、修正するための時間を費やさなければいけないからです。それが1週間か、1か月か、半年か…。子どもたちや、学級の実態によって変わってきます。
子どもたちの育ちを待ち、伴走者として進む姿勢がこちらに求められるでしょう。ゴールを見据え、共に成長を願う教師の在り方です。
育てたい子どもたちの姿を考えて
子どもたちが育っていけば、指示を出し続けなくても、子どもたちが主体的に行動するようになります。丁寧に時間をかけて「指示から確認へ」と移行してきた成果が出始め、教室に能動的な空気感が醸成されていきます。そして、担任は子どもたちを信頼し、任せられるようにもなります。もはや確認作業すら必要ない状況が生まれるかもしれません。
これは、教師が「先回りしてはならない」というわけではありません。「先回りしすぎない」ということが言いたいのです。今自分が放つその言葉は、本当に子どもたちのためになっているのか、育てたい子どもたちの姿に近づくためのものかを考えるべきなのです。
そのために、普段から言葉を精選して話すようにしています。一言一言に意味を持たせ、「言うこと」と「言わないこと」を意識して話す必要があると考えているからです。
担任として教室にいると、担任業務の優先順位が高まる瞬間が何度となく訪れます。授業時刻を守らなければならないことはもちろんです。専科の先生の授業となると、教室移動や授業準備に時間をかけたくなります。配り物やアンケートなどがあると、短時間で消化しなければなりません。場合によっては授業を5分早く終えて実施する場合もあります。「急いで!」「次はこれ!」「早く!」と、完全に教師の都合で動かしてしまっている状態が生まれます。私自身も反省しています。
しかし教室は、担任が「教える場所=教室」であると同時に、子どもたちが「学ぶ場所=学習室」でもあります。思考停止状態や受動的な態度を生み出すばかりの場所にしていいわけがありません。だからこそ「先回りしすぎ」は避けるべきなのです。
子どもたちの育ちを願い、応援し、待つ。そんな教師のあり方を目指していきたいものです。
古舘良純(ふるだて・よしずみ) ●岩手県久慈市出身、北海道教育大学函館校出身、菊池道場岩手支部代表、バラスーシ研究会所属、共著『授業の腕をあげるちょこっとスキル』(明治図書出版)、平成29年度千葉県教育弘済会教育実践研究論文にて最優秀賞を受賞