力を合わせて入院中の友達を励まそう!心の絆を深める自治的活動【5年3組学級経営物語18】
通称「トライだ先生」こと、2年目教師・渡来勉先生の学級経営ストーリー。5年2組のスミレは、重病を患って入院中。鬼塚先生の遠隔授業で、スミレとクラスメートの間に心の絆が深められていきます。しかし、突然の体調悪化に、動揺する5年2組と鬼塚先生…。みんなでスミレを励まそうと、話合いで決めたことを自主的に進める2組の子どもたち。お互いを思いやり、励まし合うことができるクラスづくりを目指して! さあ、心の絆を深める活動にレッツトライだ!
文/大和大学教育学部准教授・濱川昌人
絵/伊原シゲカツ
12月②「心の絆」にレッツトライだ!
目次
<登場人物>
トライだ先生(渡来勉/わたらいつとむ)
教職2年目の5年3組担任。 真面目で子ども好きの一直線なタイプ。どんなことでも「トライだ!」のかけ声で乗り越えようとするところから、「トライだ先生」とあだ名が付く。トラブルに見舞われることが多く、学級経営の悩みが尽きない。特技は「トライだ弁当」づくり。
しずか先生(高杉静/たかすぎしずか)
5年1組担任で、今年はじめて学年主任に抜擢された、教職10年目の中堅女性教諭。ベテラン教諭に引けを取らないリーダーシップぶりは、剣道五段の腕前に依るところも。産休明けで、子育てと仕事の両立に日々奮戦中。
オニセン(鬼塚学/おにづかまなぶ)
教職生活4年目の5年2組担任。祖父と父が有名校長で母も教師という教育一家出身。イケメンでなおかつ優秀な成績で教育大学を卒業したという、典型的な〝オレ様〞タイプの教師。しかし、昨年度、学級内のトラブルに十分対応できず、再び5年担任を任じられたという経緯をもつ。
トライだ先生のリリーフ
「では、『頑張れスミレ作戦』の話合いを始めます。時間がないので、積極的に発言しましょう」 …ポイント1
司会のジュンの言葉で、一斉に手が挙がります。6時間目に急遽開かれた学級活動。鬼塚先生の横には、作戦に引っ張り込まれた渡来先生。
「申し訳ない、オレは学級活動が苦手だから…」
小声で謝る鬼塚先生、厳しい表情の渡来先生。
『当日は面会禁止。明後日の午後に届けねば…』
学級の歌も旗も無い、自治的活動が低調な2組。しかし…、今回は熱量が違いました。次々と提案されるアイデアに、耳を傾ける渡来先生。
「みんなの励ましの言葉。歌をうたう。寄せ書きや折り鶴。先生の言葉…。もうないですか?」
まとめにかかるジュン。折り鶴と寄せ書きを合体する案が決定して、案は出尽くしました。
「次は役割分担。各役割が決まり次第、あさっての午後に完成させるよう活動を始めるぞ!」
渡来先生のアドバイスに、大きく頷くみんな。ジュンの呼びかけで、各役割が次々決まります。渡来先生が、ホッとした表情で鬼塚先生に告げます。
「では、私は戻りますよ。後は、2組だけで取り組んだ方がいいでしょうから…」
ポイント1【心の絆を深める自治的活動】
入院や転出入等がある場合、学級として励ましたり、歓迎や送別の機会を持ったりしようと提案されることがあります。この場合、単なる「お楽しみ会」に留まらず、該当児童との心の絆を深める機会にする配慮や目標設定が必要です。さらに、その機会を子どもたちの自治的活動として実施することで、みんなの心をしっかり繋ぐ有意義な教育実践となります。
結集しよう、2組の総力を!
「放課後、あれほど2組が残っているのは珍しい」
職員室に戻ってきた高杉先生がつぶやきました。
「手術に臨むスミレを励ます。その思いがみんなを突き動かしています。…頑張ってほしいな」と受け答える渡来先生。
「あの熱気なら大丈夫だ。鬼塚先生も2組もな」
そう言い、高杉先生はニコリと微笑みました。
翌朝、疲れた顔で出勤してきた鬼塚先生。
「…スミレの写真データの編集が、夜中までかかって…。今日は、歌と励ましの言葉を録画だ…」
心配そうな渡来先生に構わず、独り言をつぶやきます。そして忙しそうに教室に向かう鬼塚先生。
「あんな鬼塚先生は初めてだ。…驚きましたよ」
渡来先生の言葉に、高杉先生が答えます。
「一つの目標、スミレを元気づけるために2組が総がかりで取り組む。素晴らしいことだが…」
「災い転じて、…全部が福となってほしいです」
黙り込む2人。そして、授業が始まりました。
みんなの思いが奇跡を起こす
昼休みに2組を覗くと教室は無人です。戸惑う渡来先生は、背中をポンと叩かれました。2組のトモコでした。
「また来たの? 音楽室で全員で録画してたんだよ」
心配そうな渡来先生に、トモコが応えました。
「ああ、歌も完成したのか。…ホッとしたよ」
「ジュンやカズが中心になって、スミレの好きな曲に歌詞をつけて応援ソングを作ったんだ」
「励ましの言葉も、空き教室で一人ずつ録音してるんだ。…録音係のノリが頑張ってね」
続いて戻ってきたケンタが、説明をしました。
「みんな凄いなぁ。…何とか間に合いそうだな」
嬉しそうな渡来先生に、ジュンが誓います。
「オニサンタがプレゼントを無事に届けるためには、休み時間も放課後も全員で頑張らないと!」
首を傾げる渡来先生に、笑って伝えるトモコ。
「鬼塚先生のサンタさん! 12月だからねっ」
『あの”まとまらない2組”が…。これは奇跡だ!』…ポイント2
子どもたちの変化に、心を震わせる渡来先生でした。
ポイント2【 集団凝集性の高まり 】
所属成員が集団を形成、維持しようとする度合は、集団により異なります。凝集性が高い程、成員の規範意識や動機付けに大きく影響し、「朱に交われば赤くなる」という状況を生みます。「同調圧力」への配慮は必要ですが、凝集性の低さは「まとまらない混沌とした学級」をつくります。学級担任としては、適度な凝集性を持つ学級を目指す努力が必要です。
オニサンタのプレゼント
最終日の朝。職員室に飛び込んできた鬼塚先生が、タブレットを示し満面笑顔で告げました。
「遂に完成した! 予定よりもずっと早く…」
画面を見ると、子どもたちの言葉や励ましの歌等のチャプターが整然と並んでいました。
「寄せ書きも完成だ。…オレも信じられないよ」
「…凄い。では、今直ぐ病院に行かなくては!」
急かす渡来先生。高杉先生が指示をします。
「2組は私が授業するから、直ぐに行くんだ!」
と教務主任の大河内巌先生の声が聞こえました。
「全て私に任せろ。スミレを励ましてこい!」
厳つい顔が微笑み、温かさが伝わります。鬼塚先生は無言で頭を下げ、病院に向かいました。
「わあ、みんなで作ってくれたの。嬉しいな!」
病室に入ることを特別に許された鬼塚先生。手渡されたタブレットを抱え、満面笑顔のスミレ。起動させると2組の子どもたちが現れ、一人ずつ励ましの言葉を語り出しました。
『大変だけど頑張ってね』
『みんな、スミレを待っているぞ』
『会えないことがとっても寂しい…』
半泣きで語る親友のミサキに、涙目のスミレ。
「タブレットは置いていくから。寄せ書きも…」
体調を気にして席を立つ鬼塚先生。病床から見つめ、一語一語かみしめて語り出すスミレ。
「オニサンタのプレゼントで、勇気をもらえた。本当は怖くて…、でも頑張ってみることにした」
鬼塚先生は背を向け、あふれる涙を隠しました。
スミレからの伝言
それから一週間後…スミレのお父さんが、2組を訪れました。鬼塚先生の了承を得て、教壇に立ちます。一礼して、静かに語り出すスミレのお父さん。
「授業中にすみません。スミレの気持ちを直接皆さんに伝えたいと、先生に無理をお願いしたんです」
物音一つ聞こえない教室で、話は続きます。
「昨日、やっと会話ができるようになりました。でもスミレの話は、皆さんのことばかり…。『励ましが、本当に嬉しかった。2組でよかった』と何度も…。その気持ちを皆さんに伝えてほしいと。私も、言葉では伝えられないほど感謝して…」
嗚咽で言葉が途切れるスミレのお父さん。教室に響く拍手とすすり泣き。鬼塚先生も泣いています。
心配して駆けつけた渡来先生と高杉先生は、2組の素晴らしい変化をじっと見守っていました 。…ポイント3
ポイント3【学級の雰囲気】
学級には様々な雰囲気があり、子どもたちの規範意識や学習意欲に大きな影響を与えます。よりよい学級集団育成の基盤となる重要な要因であり、担任の大切な仕事です。それゆえ、雰囲気を改善する努力や、機会を生かす等の工夫が求められます。普段から学級担任として自覚し、具体的な配慮や手立てを磨いていくことが必要です。
(次回へ続く)