教師のスキルを学校以外で活かすには?|沼田晶弘の「教えて、ぬまっち!」

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沼田晶弘の「教えて、ぬまっち!」
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国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭

沼田晶弘

ユニークな実践で注目を集め、 教育関係のイベント企画を多数実施するほか、 企業や一般の人向けの講演会など様々な仕事をしているぬまっちこと沼田晶弘先生。今回は、学校以外の場所で教師のスキルを活かすポイントを聞いてみました。

撮影/下重修

日々の実践を積み重ね、結果を出すことが大事

ボクは、一般の方向けの講演会やコンサルタントなど、教育関係ではない企業や、さまざまな団体の方とお仕事をさせていただく機会があるけれど、それらの仕事に自分のどんなスキルが活かされているかは、正直自分でもわからない。自分から「ボクにはこんなスキルがあります」と売り込んだことはないし、スキルがあるかどうかは、周りの方が評価することだからね。

ただ、自分の中で一番大事にしているのは、やはり学校現場において日々実践を積み重ねることであり、「学級づくりを充実させ、世界一のクラスをつくる」という自分の軸から外れたところでは、強みも発揮できないと思っている

例えば、企業の講演でとくに多いテーマは、「チームのモチベーションを上げる方法」や「組織の中で、一人ひとりの意欲を伸ばすコツ」というもの。

これらは、学級づくりのために、日々積み上げている取り組みを生かすことができるテーマだよね。

つまり、目の前の子供たちに向けて、毎日工夫していることや、意識していることを変換しているだけなんだ

だから、「学校以外で自分のスキルを活かしたい」と考えるなら、まずは目の前の子供たちのことを考え、実践を磨いて、成果を上げることに注力したほうがよいと思う。他の人から、「真似をしてみたい」「この人の実践の効果を知りたい」と言われるような実践が増えてくれてば、そのスキルをさまざまな場所で活かせる機会も増えてくるだろう。

子供も大人も、意欲を引き出す方法は同じ

ボクは、子供も大人も、モチベーションを向上させたり、意欲を引き出したりする方法は基本的には変わらないと思っている。そもそもボクは、子供は「小さな大人」だと思って接しているので、大人だから、子供だからと態度を分けていないということもあるけれど、子供に対して実践してみてうまくいうことは、大抵大人にもうまくいくことが多い。ただ、子供の方が反応が早いので、データが取りやすい、ということはあるかもしれない。やればやるほど、「やる気をアップするコツ」のデータを溜めることができる。

それに、ボクにいろいろな仕事の依頼がくるのは、自分ががんばっているだけでなく、クラスの子たちががんばってくれているからだと思っている。ボクがいくらいろいろな工夫を凝らして学級づくりをしても、結果としてよいクラスになっていなければ意味はないし、評価はされないだろう。

毎日本気で「どうすれば子供たちのモチベーションが上がるだろう」と考えて、とにかくやってみる。

その実践がしっかり成果を上げることで、「それは面白いね」「もっと広く伝えたい」と思ってくれる人が現れて記事を書いてくれ、その記事を読んで「面白い」と思った人がまた声をかけてくれる、というくり返しなんだよね。

依頼された仕事はできるだけ断らない

ただし、他の人が求めているものが、必ずしも自分の得意分野であるとは限らない。

自分なりにあるスキルを磨いたからといって、そのスキルを生かせる仕事が舞い込んでくるかというと、そうとも限らないのが現実なんだ。

でも、ボクは依頼をいただいた仕事はできる限り引き受けるようにしている。

仕事を断らないというポリシーを持っているわけではなく、ボク自身は得意ではないと思っていることに対して、依頼がくるということは、ボクが気が付かないところを評価してくれたのかもしれないと考えるようにしているんだ。ボク自身はそれを自分がやる価値があるのかどうかわからくても、先方は、「価値がある」と思っているからオファーしてくれるわけだから、やってみる価値はあると思うようにしている。

実際、チャレンジしてみてよかったなと思うことが多いよ。

例えば、最近、「板書で分かる世界一のクラスの作り方 ぬまっちの1年生奮闘記」(学校図書株式会社)という本が出版された。これは、ボクの1年生の授業の板書の記録を本にまとめたものだ。

実は、ボクは中学年や高学年を担任することが多かったので、初めて1年生の担任になったときは、どうすれば子供たちが自ら課題を見つけ、それを解決していく課題解決型の授業ができるのか、すごく悩んでいたんだよね。そして、試行錯誤しながら授業を工夫し、板書をTwitterを載せたところ、面白いと思ってくれた出版社の人が声をかけてくれて本を出版することにつながったんだ。

本当は中学年、高学年のほうが得意なのだけれど、本を出版する機会をいただいたことで、低学年向けの板書のアイディアも広がったし、自分の自信にもつながった。さらに、その後他の学年を受け持つことになっても、ここでの実践が基礎になり、非常に役に立っている

他業種の人とコミュニケーションの機会を増やす

もう一つ、日頃から教員以外の人たちとお付き合いすることも、プラスになっていると思う。

ボクは他業種の人とよくご飯を食べたり、飲みに行くようにしたりしていた。最近は、オンラインでの飲み会もあるので、さらにその機会は増えていると思う。

教師も一社会人なのだから、一般的な社会人としての感覚は忘れたくないと思っているのと、自分の知らない世界に目を向けることで視野が広がるからだ。

いろいろな業種の人と話をしていると、学校以外の世界を知ることができるだけでなく、一般の人と近い感覚で、学校以外の分野の話もできるようになる。だから、企業の人から依頼を受ける時も、先方が依頼しやすかったり、講演でも、一般の人向けにわかりやすく話をすることができているのかなと思っている。

考えてみると、自分がクラスで教えている子どもの保護者の職業も、ほぼ教師ではないよね。学級づくりにおいても、保護者との信頼関係づくりにおいても、世の中には、学校の常識とは違う常識があることを意識することはとても大事だ。いろいろな業界の人と話す機会をもつことで、学級づくりに還元できることは確実にあるし、世の中に求められているスキルも見えてくるかもしれないよ。

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沼田晶弘先生
沼田晶弘先生

沼田晶弘(ぬまたあきひろ)●1975年東京都生まれ。国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院にて修士課程を修了。2006年から現職。著書に『「変」なクラスが世界を変える』(中央公論新社)、「板書で分かる世界一のクラスの作り方 ぬまっちの1年生奮闘記」(学校図書株式会社)他。
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取材・構成・文/出浦文絵

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