コロナ下の子供の困り感 ケース別対応のポイント
新型コロナによる社会不安・ストレスは、子供の心や体にも大きな影響を与え、さまざまな困り感が出やすくなっています。子供の心に寄り添いながら、安心できる学びの場をつくるために、不安を抱えている子供たちにどのように対応すべきか、ケース別のポイントを紹介します。
監修/東京都公立小学校校長・井口修
目次
学校、保護者、専門家が協力し、子供の「思い」に寄り添うことが大切
登校渋り、無気力、カッとなりやすいなど、さまざまな困り感を抱えている子供にはどう対応したらよいのか―。
まず大切にしたいのは、その子の「思い」に寄り添うことです。登校渋りをはじめとする行動には、必ず理由があります。しかし、低学年では、自分の気持ちや状況を言葉で伝えられません。うまく言葉にできないがために、「登校渋りなどの行動」によって「どうしたらよいか分からなくて、困っている」というメッセージを発しているのです。
まずは、その思いをキャッチしましょう。そして、子供が何に困っていて、その原因はなんなのか、本人は何を望んでいるのか、さまざまな方法で子供の「思い」に寄り添っていきましょう。
その際、担任の先生が一人で抱え込んではいけません。ささいなことでも「おや?」と気になることが出てきたら、学年主任や生活指導主任に相談したり、校内委員会で話題に上げたりしましょう。時には、保護者を交えて話し合ったり、スクールカウンセラーや特別支援などの専門家のアドバイスを求めたりする必要もあります。担任の先生や周りの大人が一生懸命関わることで、子供は「自分のことを真剣に考えてくれる人がいる」と気付きます。それこそが、その子の安心感につながり、回復への第一歩となります。
子供の性格や心の発達段階、家庭環境や置かれている状況は、一人ひとり違います。信頼関係を築く方法も、違います。そのため、どんな子供にも対処できる万能のマニュアルはありません。困っている個々の子供や保護者に寄り添い、よりよい道を一緒に探して歩んでいくという地道な取り組みが大切なのです。
望ましいのは、日頃から子供の「よいところ」や「成長している点」を心を込めてていねいにとらえ、それを子供や保護者に具体的に伝えることです。そうした普段の関わりが、子供一人ひとりを安心させ、自信を与えます。
さまざまな行動は子供からのSOSのサインです。周りと協力しながら、その子がどうしたら幸せに過ごせるかを探っていきましょう。
登校を渋る子への対応
子供を追い詰めないことが鉄則
今年は特に、コロナ禍で感じた不安な気持ちを「学校に行きたくない」という言動で示すケースも見られるようです。まずは、その子の今の状況をまるごと受け止め、「だいじょうぶ、ゆっくりでいいよ」と安心させましょう。そのうえで、その子ができることやどうしたいかを聞きましょう。
保護者と一緒なら登校できたり、「少し遅れて登校してもいいよ」と声をかけると、登校できたりするケースもあります。また、登校後、保健室に入って気持ちが落ち着くと教室に入れたり、保護者とのやりとり(お母さんがギューッと抱きしめたりハイタッチしたり)など、決まった行動(ルーティン)を経ると教室に入る気持ちになれる子もいます。
大切なポイントは、子供に大きな無理をさせたり、追い込んだりしないことです。学校まで来たなら、まずは「よく来たね」と迎えましょう。そのうえで、どうしたいのかその子の気持ちを大切にしましょう。もし本人が「家に帰る」と言うのなら、「分かった。じゃあ、明日も昇降口まで来て、顔を見せてね」と受け入れることも一つの方法です。
保護者の気持ちにも寄り添って
保護者の気持ちに共感することも大切です。なぜなら、「不登校になったら、子供の将来が閉ざされてしまう」と、深く思い悩んでしまうこともあるからです。それがプレッシャーとなり、子供をさらに追い込んでしまうこともあります。不安でいっぱいの保護者には「登校渋り(不登校)だからといって、その子の将来が閉ざされるわけではない」と伝え、保護者と子供に寄り添い続けましょう。
保護者の付き添いもOK
子供が望むなら、保護者にクラスに入ってもらうのもOKでしょう。席のすぐ隣に座る、教室の後ろに座る、教室前の廊下に座る、保健室で待機する……など、少しずつ保護者との距離をのばしていくと、クラスになじんでいける場合もあります。
もし、他の子に「どうして〇〇ちゃんのお母さんがいるの?」と聞かれたら、「必要な場合(体調、ケガなど)は保護者が来ることもあるんだよ。みんなも、必要なときには来てもらっていいんだよ」と説明してあげてください。
解決のポイント
担任をはじめ、教職員が「よく来たね」と迎える。
子供に無理をさせない(子供の気持ちを受け止める)
無気力な子への対応
必要な支援を見極めるためたくさん関わろう
一口に「無気力」と言っても、その原因は子供によってさまざまです。何かつらいことがあって元気が出ない場合もありますし、長時間のゲームや動画視聴のため、寝不足でボーッとしていることもあります。一人でのんびりしたくてゆったりしている様子が「無気力」に見える場合もあるでしょう。
まずは、どのような支援が必要か見極めるために、子供とたくさん関わりましょう。普段の遊びやスポーツ、ゲームや動画など、その子の好きなもの、興味のある話題にふれると、子供も話しやすいはずです。子供によっては、担任の先生が自分の好きなことに興味を示してくれることがうれしくて、だんだん自分のことを話すようになる場合もあります。お話しすることがあまり好きではなくても、絵や文を書くことで自分を表現できる子もいます。
自信をもたせて意欲を高める
無気力な子供が活躍できる場をつくり、自分に自信をもたせることで、少しずつ活動エネルギーが高まっていくこともあります。
運動が得意な子なら、体を動かすクラス遊びに誘って活躍させるのもよいでしょう。プリント配りなどの係を任せることで、クラスのみんなから「ありがとう」と言われ、自信につながることもあります。
ここでも、ポイントは子供に無理をさせないことです。今、本人ができることのほんの少し上に目標を設定して、「できたね」「すごいね」と認めることを繰り返しながら、エネルギーが満ちてくるのを見守りましょう。
虐待の可能性も視野に
私たち教師は毎日子供のすぐ近くにいて、子供の安全を守る立場なので、無気力の原因の一つとして、つらい状況に置かれている可能性や、虐待の可能性も常に視野に入れておかなくてはなりません。特に、コロナ禍の事情で食事が十分に摂れない子や、長時間一人で過ごさなくてはならない子がいる可能性もあります。大声で怒鳴られたり、叩かれたりした子もいたかもしれません。専門家によると、そういう虐待を受けると、子供は自分を守るために心を閉ざして無気力になるケースもあるそうです。
この場合も、担任の先生一人で対処してはいけません。学校の同僚や先輩、管理職はもちろん、必要に応じて心理カウンセラーや医師などの専門家の知恵を借りて、対応していきましょう。
解決のポイント
原因を見極めるために、子供にたくさん関わる。
係の仕事を任せて、自信をもたせる。
情緒不安定な子への対応
心の動揺を受け止める
カッとなりやすかったり、大泣きしたりするなど情緒不安定な子には、「つらかったね」「苦しいんだよね」と、まず本人の心の動揺を言葉にしてまるごと受け止めます。そのうえで、原因を見極めていきましょう。
コロナ禍での不安な気持ちが原因かもしれませんし、つらかったことを急に思い出したのかもしれません。また、音やにおい、天候(気圧)の変化なども、子供の心が不安定になる原因になることもあるようです。あるいは、習い事が多くて疲れていたり、友達と遊びたいという不満を抱えていたりすることも考えられます。弟や妹が誕生して家族の手がそちらに多くかけられるようになり、寂しい思いをしているというケースもありえます。本当にさまざまな原因がありますから、周囲の意見も参考にして、その子が困っている原因を探っていきましょう。そして、その子の困り感に寄り添い続けましょう。
子供同士のケガや喧嘩に注意
カッとなったり大泣きしたりする子がいると、ケガや喧嘩などのトラブルが起きやすくなります。
子供が興奮している状況になったときに優先すべきは、子供たちみんなの安全です。担任の先生は、すぐに子供同士の間に入って仲裁し、ケガを防止しましょう。その際、双方の言い分をていねいに聞きますが、授業中であれば、「後で、きちんと話を聞くよ」と約束し、授業を受けるよう促します。どうしても気持ちのコントロールが難しい場合は、他の子供たちを待たせるのではなく、職員室にいる先生や管理職に応援を頼み、別室で心を落ち着かせましょう。
資料や保護者の話からも情報をキャッチ
低学年は、幼稚園(保育園)時代の友達関係や結び付きがまだ残っており、保護者同士も付き合いが深い場合が多いものです。子供の性格や特徴、友達関係を把握するために、クラスの子供たちの出身の幼稚園(保育園)を把握し、幼稚園(保育園)からの引き継ぎ資料も参考にするのがおすすめです。
そのうえで、連絡帳・電話・面談などで保護者と情報をやりとりし、子供が毎日楽しく元気に過ごせるように寄り添っていきましょう。
解決のポイント
「話を聞くよ」と約束し、双方の気持ちを十分に聞く。
出身幼稚園(保育園)も確認し、参考にする。
授業中のおしゃべりの多い子への対応
積極的にほめることが大切
授業中のおしゃべりが多い子は、どうしても先生や保護者から叱られることが多くなります。叱られてばかりいると、いつの間にか人の話を聞き流す癖が付いてしまったり、「どうせ、自分なんて……」と自信を失い、やる気をなくしてしまったり、授業と関係のないおしゃべりが増えたり……といった悪循環に陥ってしまうことも。
それを防ぐには、よくない言動は指導する一方で、子供のよい面を積極的に見付け、認め、ほめることが大切です。低学年には、がんばりシール(スタンプカード)もおすすめです。勉強やクラスの係、運動などでがんばった結果が目で見て分かるので、子供も自分に自信が付きます。子供を認め、ほめる活動は、ぜひ保護者とも一緒に進めてください。また、日記が書けるようになったら、交換日記も本音や友達関係の情報を知る手立てになります。
自分のことを本気で分かろうとしてくれる担任の先生の熱意は、きっと子供に届きます。信頼関係ができたうえで指導したことは、子供も受け止めやすくなります。
どんなクラスをつくりたいか子供たちに考えさせる
どんなクラスをつくりたいか、子供たちに問いかけ、考えさせることも、おすすめです。もちろん、はじめのうちは先生が司会をして話合いをサポートする必要はありますが、低学年でも「週に1回、みんなで遊ぼうよ」「困っている人がいたら助けよう」「チャイム着席で声をかけ合おう」などの意見が出てきます。
低学年のうちから、自分たちで考え、自分たちで決めたことを実行し、クラスをつくり、「できたね」とほめられることで、子供たちはぐんぐん成長していきます。すると、クラス全体を見る目が育ち、クラスづくりも自分事としてとらえられるようになります。関係のないおしゃべりについて、自分でも考えられると、改善に向かい始めます。
専門家にも相談を
興奮を抑えられなかったり、じっとしていられなかったりする子の中には、本人がさぼっているのではなく本人の特性などで特別な支援を必要としている子もいるかもしれません。学年主任や生活指導主任、管理職だけでなく、特別支援教育担当の先生、スクールカウンセラーや教育相談などさまざまな専門家にも相談して、手立てを考えていきましょう。
解決のポイント
指導する一方で、いい面にこそ目を向ける。
専門家にも相談する。
取材・文/ひだいますみ イラスト/きつまき
『教育技術 小一小二』2020年11月号より