スペシャル対談 隂山英男×井上皓史「子供の学習意欲を引き出す指導とは?」
「百ます計算」をはじめ数々の教育メソッドを生み出す隂山英男先生と、さまざまなメディアからも注目されている朝活コミュニティ「朝渋」代表の井上皓史さんの対談です。「早寝早起き」の有用性から学習意欲を高める指導法までをお届けします。
右)隂山英男(教育クリエイター、隂山ラボ代表)
左)井上晧史(朝活コミュニティ「朝渋」代表)
かげやま・ひでお 1958年兵庫県生まれ。1981年、兵庫県公立小学校にて教員人生をスタート。1989年、徹底反復学習で基礎学力向上をめざす「隂山メソッド」を確立。2001年「徹底反復百ます計算」(小学館)出版。一般財団法人基礎力財団 理事長、NPO法人日本教育再興連盟 代表理事。
いのうえ・こうじ 1992年、東京都生まれ。一般企業で働きながら新卒2年目の2016年、東京・渋谷に朝活コミュニティ「朝渋」を立ち上げる。会員とともに読書や英会話などさまざまな活動を行う。2018年、勤務先を退職、株式会社Morning Laboを設立し、「朝渋」の活動に専念。
目次
作業効率のよい朝の時間を無駄にしない
― お二人とも、幼少の頃から早寝早起きを習慣にしていたそうですね。
隂山:僕が意識的に早寝早起きをするようになったのは中学生のときです。夜遅くまで勉強するのが苦手だったので、早朝にやることにしたのです。それから、今までずっと早起きを続けています。5時に起きて、勉強するなり、体を動かすなり、一定の作業枠をとっています。そのあと7時くらいに朝ごはんを食べて、教員時代だったら学校に行き、今なら次の作業に入るわけです。
井上:偶然ですが、僕もずっと5時起きを続けています。父親が6時に家を出て会社に行っていたので、それに合わせて子供の頃から5時に起きるのが普通でした。ところが、社会人になって、最初に入った会社では、10時に出社して終電で帰るような生活をしていました。出社してメールの返信、ミーティングなどに参加して、「よし、やるぞ」と自分の仕事に取りかかるときには、午後3時くらいになっています。でも、僕は5時に起きているので、もう疲れているんです。生産的な働き方ではないと思ったので、上司に交渉して、3時間早く出社する代わりに3時間早く退勤する働き方を認めていただきました。それで6時半くらいに出社するようになると、結果も出てきて、社内から認められるようになりました。
隂山:それは素晴らしい。早起きの最大のメリットは、新しい発想が生まれやすいことですね。それから、作業効率がよい。
井上:そうなんですよ。普通なら2時間くらいかかる資料の作成が、早朝なら30分くらいで終わる感覚があります。早朝は誰も起きていないので、途中でSNSやメールのやりとりに時間を取られることがありません。つまり、仕事の効率が圧倒的によいんです。
隂山:こういう感覚って、子供だって同じです。早寝早起きの子はだいたい成績がよい。なおかつ、余力がある。汲々としてテストでよい点を取っているのではなくて、なんとなくできてしまっているという感じを受けます。テスト前に夜遅くまで勉強してよい点を取っても、余裕がないから続きません。
それと、早寝早起きと同じくらい大切なのが、朝ごはんです。朝ごはんを食べてこない子は、目を見れば分かります。ぼーっとしていて、「勉強なんか勘弁して」という顔をしている。つまり、子供の学習意欲を高めたいなら、「早寝早起き朝ごはん」という規則正しい生活を習慣化させることが基本です。
例えば、僕は、子供が遅くまで起きているとどういう問題があるのかという授業を、授業参観日に行ったりしていました。これは単にスローガンを掲げて保護者に伝えるのとは違います。子供だけでなく保護者も指導するのです。それから、子供たちには毎日、チェックシートを課していました。「朝ごはんは食べましたか?」「宿題やりましたか?」「何時まで起きていましたか?」といった設問があって、最後に1日の簡単な日記を書くといった形です。それを週に1回、コメントを入れて返します。子供たちにはよく、「登校する1時間前には起きていなきゃいけないよ」と伝えていました。「朝、宿題をやったっていいんだからね」とかね。
子供が集中しているときは余計な言葉はかけない
― 今、隂山先生が支援している学校ではどんな取り組みをしているのですか?
隂山:僕が関わっている学校では、毎朝15分間のモジュール授業として、漢字、音読、計算などを全学級で一斉に行っています(詳しくは記事末のコラム参照)。
井上:隂山メソッドを使ったトレーニングですね。
隂山:そう、トレーニング。このモジュール授業を実践している学校は、全国学力・学習状況調査ですさまじい好成績を収めています。応用活用力が圧倒的に高いんです。基礎基本をやるのだから、基礎基本が上がると思うかもしれません。でも、違うんです。基礎基本をやると、応用から上がるんです。
井上:そうなんですか。教材のよさもあるけれど、朝やることで効果が高まっているんでしょうね。朝は、やっぱり集中力が高いですから。僕も朝は会社のミーティングなどは入れないようにしています。朝は一人で黙々と作業するような仕事をすることが多いですね。
隂山:朝、短時間行うことがポイントです。特別支援学級で学んでいるIQ70〜90くらいの子供が、数年間この実践でトレーニングを積むと、中学校では成績上位に入ることが分かってきました。
井上:毎日続けるから、1週間前の自分よりもスピードが速くなったとか、自己肯定感にもつながりますよね。
隂山:それから、子供が集中してくると、ほめ言葉でも余分になってくるということも分かってきました。これは僕も衝撃でした。先生はストップウォッチで時間を計りながら、「音読。はい、読んで。はい、次。はい……。じゃあ、次は書いて。はい、次。はい……、終わり」って、これだけ。他は何も言いません。次のテキストに移るときは、3秒で転換します。子供が集中しているときに、余計な言葉はかけないほうがいいんです。ていねいな指導は最も効果が上がりません。
井上:それはすごいですね。小学生からこんな時間管理ができたら、すごい基礎学力になりますね。
隂山:そう。進んでいる学校では、ペアで見合いながら行っています。右の子が漢字を書いているときは、左の子はそれが正しいかどうか見ている。書き順なんかは人に見られていないと、なかなか意識が向きません。だから、子供同士で見合うことも大事な要素です。低学年でも普通にやっています。
仕事を仕分けして効果的なものから始める
― お二人から、多忙な先生方にメッセージはありますか?
井上:作業効率を上げるために、生活のリズムを2時間朝型に変えてみてはいかがでしょうか。例えば、放課後、事務作業に追われているなら、思い切ってその日は家に帰って、翌日の朝に行う。疲れている身体で夜遅くまでがんばるのと、すっきりした頭で朝行うのとでは、何より高揚感がまったく違います。
隂山:まずは、効果的な仕事と効果的ではない仕事をきちんと仕分けすることから始めましょう。そして、効果の高いものから作業していくのです。成果が出たものは、またやる気が出るじゃないですか。一番いけないのは、一生懸命やっているのに仕事が残ること。僕は、それを「焦げ付き」と呼んでいます。仕事が焦げ付いてくると、それが気になって次の仕事が手に付かなくなる。そして、いつかパニックになってしまいます。そうならないように、時間管理をしながら効果的な仕事から行うことが大事だと思います。
取材・文/長 昌之 撮影/田中麻以(小学館)
『教育技術 小一小二』2020年7/8月号より
朝のモジュール授業で隂山メソッドを!
毎朝15分のモジュール授業として、『徹底反復 一年生の漢字』『1年生の国語・算数 たったこれだけプリント』(それぞれ各学年あり)『徹底反復 音読プリント』(すべて小学館)の教材を組み合わせて実践する学校が増えている。福岡県、宮崎県、岡山県、新潟県、福島県、山形県、岩手県などの学校で導入されているという。「基礎基本を徹底して行うと、応用活用力から上がるんです」(隂山)
『昨日も22時に寝たので僕の人生は無敵です明日が変わる大人の早起き術』
井上皓史・著 1400円+税(小学館)
朝2時間早起きすることで、自由になる時間を確保して、人生を変えよう! 「遅く帰る日はシンデレラルールを適用」などの独自のメソッドを公開。忙しい先生方にオススメの一冊。