子供の主体性を生かした自然体験活動 実践編!【5年3組学級経営物語8】
通称「トライだ先生」こと、2年目教師・渡来勉先生の学級経営ストーリー。今回は、自然体験活動にトライします。
実行委員会方式で、子どもたちの主体的な活動につなげながら実施することになった、自然体験活動。鬼塚先生は前年に失敗したトラウマを乗り越え、活動を成功させることができるでしょうか。チーム5年で自然体験活動にレッツトライだ!
文/大和大学教育学部准教授・濱川昌人
絵/伊原シゲカツ
7月②「自然体験活動」にレッツトライだ!
目次
<登場人物>
トライだ先生(渡来勉/わたらいつとむ)
教職2年目の5年3組担任。 真面目で子ども好きの一直線なタイプ。どんなことでも「トライだ!」のかけ声で乗り越えようとするところから、「トライだ先生」とあだ名が付く。トラブルに見舞われることが多く、学級経営の悩みが尽きない。特技は「トライだ弁当」づくり。
しずか先生(高杉静/たかすぎしずか)
5年1組担任で、今年はじめて学年主任に抜擢された、教職10年目の中堅女性教諭。ベテラン教諭に引けを取らないリーダーシップぶりは、剣道五段の腕前に依るところも。産休明けで、子育てと仕事の両立に日々奮戦中。
オニセン(鬼塚学/おにづかまなぶ)
教職生活4年目の5年2組担任。祖父と父が有名校長で母も教師という教育一家出身。イケメンでなおかつ優秀な成績で教育大学を卒業したという、典型的な〝オレ様〞タイプの教師。しかし、昨年度、学級内のトラブルに十分対応できず、再び5年担任を任じられたという経緯をもつ。
自然体験活動にトライだ!
「さあバスレクです。最初は3組のクイズです」
夏空の下、高速道路を快調に進む各学級混乗のバス。マイク片手に語り出す、レク担当のタケシ。賑やかな車内で、隣席を見る渡来先生。
「久しぶり。よろしく頼むよ、大和川くん!」
学校ボランティアを再開した”小イワオジ”の大和川強くんが、満面の笑みを浮かべて応えます。
「参加できない大河内先生の分も、頑張ります」
微妙な表情の渡来先生を呼ぶ声が響きます。
「先生もバスレク参加して!」「盛り上げて!」
「ではわが恩師、大河内先生の真似をします!」
自らマイクを受け取り、声色を真似る大和川くんに拍手喝采。お手上げポーズの渡来先生。
『怒られても知らないぞ…。調子に乗りすぎだ』
”小イワオジ”こと大和川強くんって、どんな人? 大和川くんの登場回をチェック! ⇒ 【4年3組学級系物語18】
主体的な集団生活を目指して!
開舎式、昼食、山々に囲まれた清流での川遊びと行事は続きます。夏の日差しを受けキラキラ反射する水飛沫。腕時計を見る高杉先生。ピーッと笛の音が響き、川遊びをやめた水着の子どもたちが、グループ毎に川岸に戻ります。
「1組3班、全員です」「2組1班も全員います」
タオルを被り、高杉先生に次々と報告。学級班毎に整列して座る姿に、嬉しそうな鬼塚先生。
「去年は、…もうこの段階で規律が乱れていた」
「子どもが叱られないように、事前に活動目標や予定を理解させて参画意識を高める。叱られ追い立てられる自然体験など、誰も楽しめない。…大河内先生の提案が、実現しつつあります」…ポイント1
渡来先生の話を、急いでメモする大和川くん。
「名言です…。卒業論文に絶対取り入れます!」
夕食の時間も食事担当の活躍で、予定通り終了。その後、大広間に集まり全員参加で明日のフィールドワークの打ち合わせ。高杉先生が、学級班毎に座る子どもたちに話しかけます。
「山の向こう側の村で、昼食の
ウェ~と悲鳴をあげる子どもたち。腕組みして聞いていた鬼塚先生が、思わず呟きました。
「高杉先生が言うと、冗談には思えないなぁ…」
ポイント1 【自己効力感、自己肯定感を高める指導】
自己肯定感を高める、つまり「自分を肯定的に見られる」ことが重視されています。自分を肯定的に見ることが、積極的な生き方の根本。ただ、「日本の子供たちの自己肯定感が低い現状について」(文部科学省提出資料/平成28年10月28日)に見られるように、日本は国際的に見て低い状況です。自己肯定感を高めるには自己効力感、つまり「自分は役立っていると感じられる」ことが大切だと言われています。役割の分担、遂行を通じて自己効力感を高め、自己肯定感の向上を図る指導は現在の我が国の子どもたちには非常に重要な指導なのです。
行くぞ、フィールドワーク!
「さあ出発だ。協力して正午までに戻るんだぞ」
宿舎を午前8時に出発した各グループは、山の向こうの村を目指しています。その様子を撮影する鬼塚先生に、渡来先生が話しかけます。
「凄かったですね…昨日のアクセス数は!」
「情報担当の子どもたちの撮影映像を、オレが整理し学校ホームページにアップした。大好評だ!」
嬉しそうな鬼塚先生。前方の林道に、他のボランティアたちと歩く大和川くんが見えます。
撮影と遅れた子の看護を担当する鬼塚先生と別れ、大和川くんを追う渡来先生。早朝、軽トラで村に向かった校長先生と高杉先生を支援します。夏空の下、グループ行動の子どもたちを励まし、山の向こうを目指して歩き続けます。
2時間後…。首に巻いた汗拭きタオルを外し、キチンと挨拶をして食材を受け取る腕白なノリ。
「おや、行儀がいい子ねえ。それにイケメン!」
村のお婆さんに褒められ、満面笑顔のノリ。
木陰には、食糧袋を抱え休憩中の到着グループたち。点呼をとる高杉先生が確認をします。
「あと3グループ、ケガや体調不良はないか?」
「大丈夫です、最後尾もすぐ到着するでしょう」
トランシーバーを片手に、報告する渡来先生。
十分間の休憩が終わった班は出発用意。宿舎に戻り、飯盒炊飯の準備だ!」
渡来先生に後を頼み、高杉先生と校長先生は再び軽トラに乗り、一足先に宿舎に向かいます。
「うちのカレー、最高!」「先生、味見してよ!」
いい匂いが立ち込める野外炊飯場。フィールドワークの疲れも見せず、班で協力してのカレーづくり。事前に学校で実施した調理実習の経験が役立ち、どの班も上手に仕上がっています。…ポイント2
「いただきます」の合図で食べ始めたカレーを片手に、鬼塚先生が不安そうに聞いてきました。
「オレ、今夜のスタンツを辞退してもいいか?」
「ダメ! 許しません。自己改造にトライです!」
渡来先生は、怖い顔で鬼塚先生を睨みました。
ポイント2【事前の関連的な指導】
例えば、飯盒炊飯の事前指導として直火で米を炊く、野菜を炒める等の調理実習の既習事項の活用が非常に効果的です。「学習指導要領 特別活動編」の学校行事の解説には、カリキュラムマネジメントの視点で各教科等の指導との関連を図ることが記されています。学校行事は「平素の教育活動の総合的な発展の場」であり、「日常の教育活動の成果が生かされるようにすることが大切」なのです。その効果的な実施が、子どもの主体的参加を生むことにつながるのです。
思い出のキャンプファイヤー
校長先生扮する火の神の点火で夜空に赤々と炎が立ち昇り、いよいよ司会のカズが登場。
「ビッグイベント開始です。今夜は、先生方のスタンツもあります。さあ張り切っていくぞ!」
オーッという掛け声で始まった各グループのスタンツ。ゲームや漫才、歌や踊り等々…、みんな工夫を凝らした内容です。
炎の調節をしていた渡来先生に、大和川くんが話しかけます。
「もうすぐです。そろそろ衣装を着ましょう」
うなずき、宿舎の陰で衣装をまとう渡来先生。その時、付近の物陰から小さな声が聞こえました。
「…明日には戻るよ。いい子で待っていてね」
思わず覗くと、スマホ片手の高杉先生の姿。
「さあ、スタンツだ。気合を入れていくぞ!」
木刀を持ち飛び出していく雄姿と、先程の優しい声が一致しません。しかし、もう出番です。
「それでは、先生劇『さすらい剣士の鬼退治』です。先生方、よろしくお願いします!」
カズの言葉に続き、村人に扮した渡来先生と大和川君が登場。各々がセリフを述べます。
「昔々、この辺りには村人を苛める悪い鬼がおった。わしらは、鬼を退治する剣士を待っていた」
「また鬼が来たぞ~。イジメられるよ~!」
鬼に扮した鬼塚先生が、ノッシノッシと登場。
「村の食物を全部寄越せ。米一粒残さずにな!」
強さを誇示してウオーッと咆哮。そして懇願する村人を引き摺ります。悲鳴と鬼の高笑い。そこに突然響く「非道は許さん!」という大声。”さすらいの剣士”高杉先生が登場、見事な刀さばきで、一瞬のうちに鬼を退治します。倒れてヒクヒク動く鬼を見下ろして、剣士は村人に告げます。
「村は平和になった。イジメは滅び正義は勝つ」
万雷の拍手を浴び、先生劇が終了。物陰で衣装を脱ぐ鬼塚先生に、そっと告げる渡来先生。
「ホームページにアップします、村人を襲う鬼の形相を」
大慌ての鬼塚先生の姿に、微笑む渡来先生。
『教師っていいな…。母の愛情と教師の職務を両立する高杉先生、知恵を授け励ましてくれる大河内先生』
みんな最高の仲間、同志です。…ポイント3
『もっとトライしていかなきゃ、教師だから』
子どもたちの歓声を耳にしながら、この想いを大切にしよう、と渡来先生は心に誓いました。
ポイント3【教師社会の人間関係】
教師も百人百様…、一人ひとりに様々な人生があります。しかし、「教育者」という一点では必ず理解しあえます。考え方や性格は違っても、教師はその部分で分かり合えるのです。多少の違いはあっても、教師同士という気持ちで交流してみると、新たな理解、人間的魅力の再発見につながることが意外とあります。視野を広げ、より柔軟に物事を捉える好機と思って交流すると、これまで感じられなかった「教師のよさ」を発見できるかもしれません。
(次回へ続く)