授業の目的は座っていられる子をつくることじゃない|沼田晶弘の「教えて、ぬまっち!」

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沼田晶弘の「教えて、ぬまっち!」
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国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭

沼田晶弘

「ダンシング掃除」「勝手に観光大使」など、ユニークな取り組みで注目を集める「ぬまっち」こと沼田晶弘先生。今回は、「授業中に座っていられない子に対し、どう対応してよいかわからず悩んでいる」という先生の質問に答えていただきました。

沼田晶弘先生 撮影/下重修
沼田先生に実際に相談をしている気持ちでお読みください。
沼田晶弘先生 撮影/下重修

授業中に座っていられない子への対応例

学級開きから時間がたって、少しずつ緊張もほぐれてくると、子供たちの特性もわかるようになってくるよね。

「落ち着かない」「指示が通らない」「感情の起伏が激しい」など、いわゆる「気になる子」が目立つようになってくる。

引継ぎの時にも、「昨年度こんなことがあった」「こんな困難を抱えている」など、いろいろと情報交換するだろうけれど、昨年度の情報は参考程度に確認しつつ、先入観は捨てたほうがいい。

子供は日々変化するものだし、「どう対応したらよいだろう」と悩んでも、その都度状況は違うのだから、状況に応じて対応していくしかないからね。

例えば、授業中じっとしていられないという子はよくいるよね。じっとしていられなくて、課題が終わるとすぐに立ち上がってしまったり、授業中でも教室から出てしまったりする子を、ボクも何度も担任したことがある。

M君もその一人。

ある日、「座っていられないの?」と聞いてみると、M君は「うん。動き出したくなっちゃう」と答えたんだ。

そこで、「それなら、ベランダ散歩してきたら?」と言ってみた。

ベランダなら教室からもよく見えるからね。

最初M君はびっくりした顔をしていたよ。「ちゃんと座っていなさい」と言われると思っていたのかもしれない。M君は言われた通りに、しばらくベランダをウロウロしたり、走っていたけれど、やっぱりクラスが気になるんだよね。

ずっとクラスの様子を窓の外からチラチラ眺めていて、そのうち飽きたのか、席に戻り、その後M君は授業中に外に出ていくことはなくなった。

それでもやっぱり座っていることは苦手という特性は変わらない。
M君は授業中じっとしていられない時、ボクの足にまとわりつくようになったんだ。ボクの足にしがみついたまま、「落ち着く〜」って言うわけ(笑)。

ボクもびっくりしたけれど、「そこが落ち着くの? じゃあそこにいていいよ」と言って、そのままの状態で普通に授業を続けていた。

クラスのみんなに、「M君はここが落ち着くって言ってるんだよね」って言ったら納得してくれたし、席には座っていないけれど、他の子には迷惑かけてないからね。

苦手なことは際立たないようにしてあげる

そもそもボクは、その子がどうしてもできないことを無理にさせても仕方がないと考えているんだ。

誰にでも苦手なことはあるし、どうしても直せないことをわざわざ取り上げて叱っても、お互い疲れるだけ。
特性を見極めてその子の苦手なことは、いかに際立たせないようにしてあげるかも大切な工夫。

本来授業の目的は、座っていられる子をつくることではないはず。座ってはいるけれど、ぼーっとして授業を聞いていなくても何にも言われず、つまらないから動き出したり、座っているのが苦手だから足にしがみつきながら授業を聞いたら怒られるって、ちょっとおかしいとも思っている。

もちろん、ちゃんと座っている子が損をする、そんな空気をつくってはいけない。

だから、なぜM君は座らなくてもOKなのか、理由をちゃんと説明しておく。

さらに、そういう子を受け入れるようなクラスづくりも必要だよね。その子の特性を受け入れられる温かいクラスであれば、じっとしていられなくて立ち歩いてしまっても、クラスが荒れたり、先生が無駄に叱って授業を中断する必要はなくなる。

こういう特性がある子を受け入れるようなクラスにするためには、その子が活躍できる場をつくることが大切。苦手なことをみんなと同じようにできなくても、得意なことで活躍できれば、その子にとって居場所ができる。

M君の場合も、座っていることは苦手だけど、クラスを盛り上げることは得意だったし、音楽発表会で指揮者を務めるなど、活躍できる機会もあった。クラスのみんながM君の特徴を理解し、長所もちゃんと認めてくれていたんだよね。

「誰でも得意なことがあるし、誰にでも苦手なことがある」ということが理解できれば、お互いを受け入れられるクラスになっていくんじゃないかな。

あの子を輝かせる、魔法の声かけ

その子が活躍できることを見つけるには、よく観察すること。その子がイキイキしていることを見つけたら、ボクは

「なにそれ? それって超面白くない?」

って大げさにほめる。

先生が「なにこれ! すごいよ!」と言って驚嘆してあげると、それだけでクラス全体に魔法がかかるんだよね。

その子に対する印象や態度がガラリと変わるし、それまで「困った子」のように思われていた子が一気にスーパースターになることもある。なによりも、その子にとって自信が生まれるし、クラスに居場所ができることが大きいよね。

その子の居場所は、必ずしもクラスのセンターでなくてもいい。その子にとって、居心地のよい場所であればいいんだ。

誰かと比べて優劣をつけなくても、好きなことや自信を持てるものはあるし、その子が伸びる場所はたくさんあるはずだよ。

課題を抱えている子も、自分の苦手なことをちゃんとわかっている。みんなと違うことにも気付いている。だからといって、一人で外れていたいと思っているわけではないんだよ。

だから、その子の得意なこと、好きなことを一つでもいいから見つけてあげて、認めてあげて、自分の居場所があるということを感じさせてあげることが大切だと思う。

MC型自己紹介で、苦手なことをクラスで共有

ただ、苦手なことがあるって、子供にとってもやっぱり辛いことなんだよね。

あるとき、「ボク、人と話すの苦手なんだよね」という相談をしてくる子がいたんだ。

「そのわりに、ボクとよくコミュニケーション取れるじゃん」と言ったら「それが不思議なんだよね」と笑ってくれたけど、子供も悩んでいるんだなと思ったよ。

得意なことだけでなく、苦手なことも自己開示させて、クラスで共有するとよいと思う。同じように悩んでいるのは自分だけじゃないって思えるかもしれないからね。

ボクは子供たちに自己紹介させるとき、いろいろとツッコミを入れて話を掘り下げるんだよね。

だって、自己紹介って、みんな同じになるでしょう?

「沼田晶弘です。好きな食べものは○○です。よろしくお願いします」で終わりとかね。

そこを強引に広げていくのがボク。MC風にツッコミを入れていく。

「好きな食べ物はイチゴです」と言われたら、「イチゴ? ショートケーキに載っていたら、最初に食べる派?後から食べる派?」なんて質問してみる。

「最初です」って答えたら、「ショートケーキのイチゴを最初に食べる人は手を挙げて」なんてクラス全体に問いかけて、さらに話を広げていく。

そんなやり取りの中で「苦手なことは何?」という質問も入れてみる。

もし、「じっとしているのが苦手です」なんて言う子がいたら、

「何で? 何で?」って聞いてみる。

「なんか座ってられないんですよねー」と言われたら、

「へー、確かに止まると死んじゃう魚もいるよね。君も止まると死んじゃう?」

「えっと、3分は大丈夫」

「ウルトラマンか! でも、それを言えるってすごいじゃん」

なんて、明るく話を広げながら、「別にそれって恥ずかしいことじゃないよね」という雰囲気をつくっていく。

そうすれば、「俺もじっとしているのが苦手!」と言ってくれる子が出てくるだろうし、授業中にじっとしていられなくても、その子の特性をみんなが知っていれば受け入れやすくなるよね。

教師も自分の失敗はきちんと認める

教師が子供たちの前で失敗したり、負けたりする姿を見せることも、お互いを許容し合うクラスをつくるのに有効だと思う。

ボクはよく失敗をするし、失敗に気付いたらすぐに負けを認めるタイプ。そういうと、わざと負けていると思われるかもしれない。

でも違うんだよね。

失敗して見せているんじゃなくて、本当に失敗しているの(笑)。でも失敗したら、ちゃんと認めて、次に活かそうと思っている。

ボクには、「これだけは負けない」という部分があるから、それ以外では素直に負けを認められるんだ。

負ける時のポリシーは「面白く負けること」!

ただ失敗したり、負けるのではなく、面白く負けて、笑いをとりにいく! それで、負けることも失敗することも、そんなに悪いことではないってことに、誰かが気付いてくれたら「OK!」だと思うようにしている。

負け惜しみみたいだけどね。

自分の授業、話し方を見直してみる

教師としてもう一つ大事な視点がある。それは、子供が座っていられないのは、その子の特性もあるのかもしれないけど、自分の授業や話がつまらないのが原因かもしれないということ。

  • 話が長すぎないか。
  • 指示が複雑すぎないか。
  • 子供の興味を惹きつける工夫に欠けていないか。

など、自分の授業や話し方、内容をよくふり返ってみよう。

ボクもふり返って、失敗したなと思って反省することもある。子供たちがつまらなそうにしているときは、すぐに子供たちに「今日の授業つまらない?」なんて聞いたりしてふり返り、改善策を考えるようにしているよ。

大人の都合で「困った子」のレッテルを貼るのはやめよう

学習や集団生活で困難を抱える子がいると、すぐに病名をつけたがる人がいるけれど、勝手に決めつけているだけでで、専門の医師が診断を下したわけではないことも多い。

だからその子の能力を勝手に決めつけないでほしい。

大人の勝手な決めつけや思い込みが、子供が持っている「伸びる力」を奪ってしまうことは、絶対に避けなくてはいけないと思う。

保護者も自分の子供が他の子と少し違うとすごく心配するけれど、実は保護者は子供が本当に見てほしいと思っているところは見ていなかったりするんだよね。

工作をほめてほしくても、「お姉さんは忘れ物なんてしなかったわよ? あなたももっとちゃんとしなさい」と言われる。

学校ではかけっこで活躍したり、グループ発表で褒められても、家に帰ると「なんであなたはみんなと同じように座ってられないの?」と叱られる。

何をしても「困った子」のレッテルを貼られていたら、子供は自信を失くしてしまう。これってとってももったいない。

でも保護者は、自分の子もみんなと同じ様に座らせなくてはいけない、という気持ちがあるからつい叱ってしまったり、悩んでしまったりするんだよね。

だからこそ、課題を抱えている子やその保護者のために、その子が活躍できるポイントを探してあげてほしいと思う。

子供たちはみんな発展途上なんだ。

「困った子」なのではなく、「自分の仕掛け次第でちゃんと伸びる子」と、思考をプラスにシフトさせ、その子が持っている素晴らしい魅力や可能性を信じてあげてほしい。

考えてみれば、「じっと座っているべき」というのは、大人の都合だよね。

大人が大人の都合で「いい子」「悪い子」のレッテルを貼っていると、子供の本来持っている魅力や可能性を見逃してしまう。

そのことは絶対に忘れてはいけないポイントだと思うよ。

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沼田晶弘先生
沼田晶弘先生

沼田晶弘(ぬまたあきひろ)●1975年東京都生まれ。国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院にて修士課程を修了。2006年から現職。著書に『「変」なクラスが世界を変える』(中央公論新社)他。

取材・構成・文/出浦文絵

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