理不尽な要求、子供のトラブル…ぬまっちの保護者対応エピソード|沼田晶弘の「教えて、ぬまっち!」

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沼田晶弘の「教えて、ぬまっち!」
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国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭

沼田晶弘

ユニーク&斬新な実践で子供のやる気や意欲を引き出す「ぬまっち」こと沼田先生。「理不尽な要求をする保護者にはどう対応しているの?」「子供同士のトラブルがあった時に保護者からのクレームに発展させないようにするにはどうすれば?」という質問に、ご自身の経験から答えていただきました。

沼田晶弘先生
実際に相談をしている気持ちでお読みください。
沼田晶弘先生 撮影/下重修

理不尽な要求をする保護者への対応例

「運動会では絶対に自分の子供をリレーのアンカーにしてほしい」

「学級会では、息子を主役にしてほしい」

「音楽会では、娘にピアノを担当させてくれないと困る」

など、など…。難しい要求をする保護者が時々いるって話を聞くよね。

こうした要求に対しては、保護者の気持ちを察した上で、きちんと学校や担任としての方針を説明する必要があると思う。

実際、ボクも保護者から「うちの子はものすごくがんばって練習したのに、なぜリレーでアンカーにしてもらえないんですか?」と言われたことがあるよ。

でも、そんな時、ボクの答えは1つ。

「そうなんですね。確かにAさんががんばっていたのは分かります。でも、みんなもがんばっているんですよね」

保護者の思いは受け取りつつ、客観的な視点も伝える。もし、それだけでは納得してもらえない場合は、選出方法もきちんと説明する必要もある思う。

ボクは、保護者からそうした要望があることを想定して、リレーの選手を選出するときなどには、できるだけ誤解を生まないような選出方法を考え、保護者にも子供たちにもオープンにするようにしているんだ。

リレーの選手を決める時も、例えばタイムが早い子を選ぶことにしても、担任がストップウォッチを調整しているのではないかという疑惑が出たりするから、子供たちを全員横一線に並べ、一斉に走らせて決める。

リレーの順番を決める時は、リレーのメンバー全員を横に並ばせて、他の子供たちはゴールで待たせておく。そして、「よーい、ドン!」で一斉に走らせて、ゴールした順に選んでいる。

大事なのは一発勝負にすること。二回やると選ばれなかった子供や保護者が、「もう一回やって」と言い出してずっと永遠に続いちゃうからね。

リレーに限らず、何か重要なポジションを決める時には、具体的な選出の方法や、選出した日の様子を学級だよりなどで早めに連絡しておくといいよ。

保護者からの要望も、「どうやって選出したのかを知りたいのか」「どうしても自分の子を選んでほしいのか」によって説明の仕方や対応は変わるよね。

とりあえず保護者の話を聞き、何を求めているのかを見極めるようにしよう。

子供同士のトラブルに対する対応例

子供同士のトラブルも、対応を間違えると大きなクレームになりやすいよね。

よくあるのが、保護者が事実を把握せず、自分の子供の報告だけを鵜呑みしてしまい、誤解が生まれてしまうこと。

できれば保護者会などで、「学校にいる間のトラブルは学校にお任せください」とお願いしつつ、「子供は自分に不利になることは、家庭では報告しないものですよ」と伝えておくほうがよいと思う。

子供同士の喧嘩の場合は、一人ひとり呼び出すか、あるいはどちらとも呼びだし、両方から話を聞くことにしている。

その上で、保護者に事実を報告する。

報告するときに大切なのは、トラブルが起きてしまったことをまずはお詫びすること。

口論の末に暴力を受けてしまったようなトラブルの場合、「息子さんがB君にこんなことを言ってしまい、B君が手を出してしまった。お互いに悪いところがあった」という流れで話をしてしまうと、「うちの子が悪いんですか? 暴力についてはどうなんですか!」と言われることにもなりかねない。

まずは、「こんなことが起きてしまい本当に申し訳ありません。暴力はよくないことです。きちんと指導します」とお詫びと指導方針を伝えた上で、「こうしたことが起きた経緯について、二人に確認したところ…」と事実を伝えると、保護者も納得しやすいと思うよ。

活動中の事故やトラブルに対する対応例

喧嘩だけでなく、授業や活動中のちょっとした事故についても、保護者対応には注意が必要。

これは実際にあったことなのだけど、掃除中にある子供が机を運んでいたら、机の上に置いていた水筒が落ちてしまい、そこに別の子の机が倒れてしまって、水筒が壊れたことがあったんだ。

机を倒した子はすぐに謝ったし、水筒が壊れてしまった子も、自分が水筒を机の上に乗せて運んだのが悪いと言って、二人の間では解決したんだよね。

ただし、二人の間で解決したからといって、そのままにしておくこととクレームの原因になるので必ず双方の保護者に連絡するほうがいい。

ボクも、「お家に電話して、事情だけ説明するね」と言い、まず水筒が壊れてしまった子供の保護者に連絡を入れ、お詫びしながら経緯を説明したんだ。

すると、「大丈夫です。怪我がなくてよかったです」と言ってくれたので、机を倒してしまった子の保護者にも連絡をして、「Cさんのご家庭も納得されていて、謝罪も弁償も不要だと言ってくれていますよ」と伝えた。

それでもその保護者はどうしても謝罪したいと言うので、「いつかお会いした時でもよいと思いますが、やはり早めにお話ししたいですよね。ではお電話だけされてみますか?」と、相手の気持ちを汲むような流れで聞き、謝罪の電話を入れてもらったんだよね。

この時、担任から「お子さんがCさんの水筒を壊してしまったので、お電話で謝罪されたほうがいいですよ」などと言ってしまうと、Cさんもちょっと納得いかないよね。

自分の子供の過失だとは理解できても、すべての責任を押し付けられているように感じ、「教師も水筒を机の上に置かないように指導すべき」などと言いたくなるかもしれない。

担任は保護者を責める意図がなくても、保護者は責められていると受け取ってしまうことがあるということを認識しておかないとね。

クレーム回避のポイントは、
保護者への迅速な連絡と謝罪

どんなトラブルも、とにかくできるだけ早く保護者には連絡するほうがいい。そのほうが、子供も保護者も安心するし、誤解が生まれにくいからね。

以前、二時間目の体育の授業で、バスケットボールをしていて、ある子供の手が別の子の顔にぶつかって、その子の眼鏡が壊れてしまったことがあったんだ。

怪我はなかったのだけれど、ボクは中休みにすぐに保護者に電話をして報告した。放課後に連絡しようかとも思ったけれど、うっかり忘れてしまうと大変だと思ったからね。

保護者には、謝罪し、経緯を説明をした上で、怪我がなかったこと、眼鏡を購入される場合は学校の保険を使うことができることも伝えた。

午前中に学校から電話がくるなんて保護者もとてもびっくりしたと思うけれど、迅速な対応だったので、安心してもらうことができたし、壊れた眼鏡についても、「こういうことがあるかと思って安い眼鏡にしているので大丈夫です」と言ってもらえた。

結果、トラブルにはならなかったのだけれど、これがもし報告が遅れてしまっていたら事態は変わっていたかもしれないよね。

ちょっと想像してみよう。

自宅に帰ると、子供の眼鏡が壊れている。

事前に先生から電話で報告を受けていれば、「聞いてるよ。しょうがないよね」となるけれど、報告がないと、当然保護者は「どうして壊れたの?」と子供に聞くだろう。

子供も一生懸命説明しようとするだろうけれど、多くの小学生は、状況を順序立てて正確な言葉で説明することが苦手だよね。

「えっと・・・○○ちゃんの手が顔に当たって・・」などとしどろもどろで答えたりすると、保護者はますます不安になり、「手が当たったの? それとも叩かれたの?」と事件化したくなってしまうこともあるかもしれない。

なぜ物損が起きたのか、正確な情報を事前に担任から受け取っていれば大きな問題にはならないのに…と考えると、やっぱり初期対応は本当に大事。

迷ったら、信頼できる先輩や同僚に相談を

大切なことは、なんでも自分一人で解決しようとしないこと。もし保護者の対応で迷ったら、先輩や上司にすぐに相談しよう。

トラブルと言えないような小さなことかもしれないと思っても、できるだけ早く相談しておくべきだよ。保護者対応は、時間をかけるほど複雑になるからね。

だから、日頃から何でも話せる仲がよい同僚や、信頼できる先輩を探しておこう。

それに、保護者の中には、「前任の先生はここまでしてくれたのに」「いつも学校はここまでは対応してくれていたのに」などと、過去の事例と比較して不満を感じてしまう人もいる。

先輩や同僚から、これまでの事例やその時の対応を聞くことで、解決できることもあるかもしれない。なによりも、いろいろな価値観や有効な手立てを教えてもらうことで、自分自身にとってプラスになるし、成長につながるはずだからね。

【質問募集!】
ぬまっち先生に質問がある方は、こちらまでご連絡ください。
※掲載時は匿名とさせていただきます。匿名のご希望がある場合は匿名もお書きください。
※全ての質問にお答えできるわけではありません。予めご了承ください。

沼田晶弘先生
沼田晶弘先生

沼田晶弘(ぬまたあきひろ)●1975年東京都生まれ。国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院にて修士課程を修了。2006年から現職。著書に『「変」なクラスが世界を変える』(中央公論新社)他。

取材・構成・文/出浦文絵

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