心の病で休職した小学校教師の復職への道<後編>
過労が原因で心を病み、休職した経験を持つ公立小学校教師の体験談。症状が緩和し、長時間外を歩いたり、カフェや自宅で仕事関係の作業ができたりするようになってきたら、いよいよ勤務先の学校でリワークをすることになります。しかし、いきなり以前と同じように働くのは不可能です。松原先生は、どのようにして復職に至ったのでしょうか。
執筆/東京都公立小学校・松原夢人
【関連記事】こちらのお記事も併せてお読みください→心の病で休職した小学校教師の復職への道<前編>
※必ず担当医と管理職の先生(校長、副校長)と相談しながら、リワークプログラムを立てましょう。
目次
①スケジュールを立てる
復職する日から逆算して、スケジュールを立てていきます。私の場合は1か月半(6週間)という期間で、少しずつ出勤できる日数や時間を増やしていきました。
復職する日
通常の勤務開始
1週間前から(6週間目)
週5日リワーク…午後4時まで
例:月・火・水・木・金
2週間前から(5週間目)
週4日リワーク…午後3時まで
例:月・火・休み・木・金
3週間前から(4週間目)
週3日リワーク…午後2時まで
例:月・休み・水・休み・金
4週間前から(3週間目)
週3日リワーク…午前
例:月・休み・水・休み・金
5週間前から(2週間目)
週2日リワーク…午前
例:月・休み・水・休み・休み
6週間前から(1週間目)
週2日リワーク…1時間
例:月・休み・水・休み・休み
7週間前から
学校に行き、管理職の先生とリワークプログラムを立てる…短時間
いくらスケジュールを立てても、体調によって学校に行くことができない日もありました。それでも、「スケジュール通りにいかなかったこと」や「復職に向けて思うように体調が改善されていかないこと」を悲観せず、「心の病には波がある」ということを念頭において、今の自分にできることに集中することを心掛けました。
②「久しぶりに学校に行く日」を乗り越える
ずっと家の中や近所で生活していた期間を抜け出し、職場に行くのは、大変勇気がいることです。また、多くの先生や子供たち、保護者に迷惑や心配をかけてしまったことに自己嫌悪し、気が滅入るほどの不安に陥ることがありました。しかし、大きな一歩を踏み出さなければ復職をすることができません。
そこで、担当医の助言を受けて、最初の目標を「通勤だけ」にしてハードルを下げました。また、心身の負担を減らすため、朝のラッシュ時を避けて11時頃に学校に到着するようにしました。
学校でのリワーク初日、職員室に入ると校長先生と副校長先生が温かく出迎えてくださいました。校長室へ移動し、病気の経過やリワークへの思いを親身に聞いてくださり、涙が出るほど嬉しかったのをはっきりと覚えています。学校の滞在時間は20分程度だったと思いますが、とても有意義な時間を過ごすことができ、前向きな気持ちになることができました。
産休や育休明けの場合は、すぐに勤務をスタートができるかもしれません。しかし、心の病の場合は「また途中で病気になってしまったらどうしよう」「迷惑をかけてしまった分、何倍も頑張らないと」という気持ちが強く出てしまい、復職した途端に病気が悪化することがあるようです。
厚生労働省の「こころの耳」によると、うつ病の再発率は60%もあると言われています。リワークは職場復帰だけでなく、再発防止の観点からも注意して進めていく必要があります。
③学校現場でのリワークプログラムの内容
管理職の先生と相談して、リワークプログラムを以下のように決めました。
- 休職中に実施していた研究授業の指導案や動画を見る
- 休職中に実施していた学校行事の動画を見る
- 教材研究
- 教材作成
- 自分の机やロッカー等の荷物の整理と掃除
- 教材室の整理と掃除
- プリントの印刷
- パソコンのデータファイルの整理
これらの仕事を継続してできるようマイペースに取り組みました。
そして、担当医の助言通りに「全力でやり遂げよう」と思うのではなく、疲れない程度に余力を残して行動するように心掛けました。
リワークを続ける中で、「どうして自分はこんなことをやっているのだろう」「どうして自分だけこうなってしまったのだろう」など理由が判明しない悩みが頭に浮かんでくることが何度もありました。1日も早く回復しなければならないという焦りも感じました。けれども、リワークは復職するための準備として大事な期間であると捉え、冷静かつ客観的に自分を見つめられるようにしながらリワークを進めました。
心の病から回復し復職するためのリワークプログラムは、周囲の人から理解されにくいものだと思います。頭に包帯を巻いたり松葉杖を使ったりしているわけではありません。手術をしていないため、傷口を見せることができません。
見た目には元気な姿に映るかもしれませんが、大変な思いをしながらリワークをしている実情があるのです。
この状況を勤務先の学校の管理職の先生や同僚の先生に伝え、理解してもらうことで、私の場合は、復職を比較的スムーズに進めることができました。
いかがでしたか?
私はこのようにリワークを終えて、学校現場に復帰をすることができました。
「復帰することができた」と言っても、完全に心の病が治ったわけではありません。毎日薬を飲んでいますし、通院もしています。おそらく、この病気と一生付き合っていくことになるでしょう。
だから、私は病気と闘うのを止めました。長く付き合っていくのであれば、仲良くしようと考えています。
「仲良くする」というのは、疲れたら休む、体調が悪い時は無理をしないなど、症状に対して抵抗しないことです。
自分の心の声に耳を傾ける。このことが、復帰への大きな一歩になると思います。
松原夢人/1981年生まれ。東京都公立小学校主任教諭。教員14年目。研究分野:算数