先生前夜、私たちの本音【令和2年度新任教師のリアル】

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小さい頃からずっとなりたいと思っていた先生に、やっとなれる…!

令和2年度、念願叶って小学校教師の道を歩き始めることになった優花と美咲(仮名)。

これは、ともに1997年生まれ、学生時代からとても仲がいい彼女たちが語る、教師という仕事の理想と夢、そしてこれから直面する現実を、一年間に渡って記録していく連載です。

第一回目となる今回は、2020年3月、先生になる直前の彼女たちにインタビューしました。

先生前夜、私たちの本音【令和2年度新任教師・密着リアルドキュメント】
写真/金川秀人

●優花……東京都出身。理系に強く、数学の美しさと哲学性に魅了されている。某県の教員採用試験に合格。

●美咲……東京都出身。楽器の演奏、運動や体操が好き。学芸会や運動会など大きな行事の運営に興味がある。

幼いころから「先生になる」と思っていた

――現在22才、新卒で採用され、これから子供たちの教育現場の第一線として働くお二人。学校の先生を取り巻く職場環境や状況についてのネガティブなニュースも多いですが、どうして先生という職業を選んだのですか?

優花・物心ついたころから、「先生になる」と思っていました。小学校の高学年のときには、卒業文集に「学校の先生になります」って書いていたんです。

美咲・そうなんだ! 私も似ているかもしれません。私が通っていた小学校は、先生同士が仲が良く、そういうことが子供である私にも伝わってきたんです。中学生くらいから、学校の先生になりたいと思うようになりました。

優花・いい先生、って何だろう?

美咲・人格的に非の打ち所がない先生……それは、優しく寛容で、厳しいところはきちんと指摘する。子供と全力で遊んでくれる先生だと思う。私が出会った小学校の先生方がまさにそんな感じ。子供たちが快適な学校生活を送れるようにアシストしてくれていたと思うな。

優花・そうだね。先生方が私たちとのかかわりを面白がってくれたことは、自分が先生の道を選んで思い出すようになったかな。ニコニコしながら見守ってくれた先生のことは今でも覚えているかな。

子供からの否定的発言への返答に困った

――とはいえ、「ブラック職場」「学級崩壊」などのネガティブなニュースも聞きます。

優花・職場のことはまだわかりませんが、「授業が成立しない」ということは体験しました。それは、大学時代にボランティアで行った小学校でのこと。授業中に大声を出す子供がおり、大声が苦手な子が反応し、爆発的な連鎖になって、授業がままならないケースに直面したのです。そのとき、「私がこのクラスの担任の先生だったら、どうしていたんだろう」と自問自答を繰り返しました。

美咲・わかる。『北風と太陽』だったら、太陽のような先生になりたいけれど、その太陽も厳しいことを言わねばならない。そこでの問題は、私がよいと思うことが、他の人もよいと思うとは限らないこと。

優花・そうだよね。教育観は人それぞれ違うから。子供との信頼関係の構築という課題もあると思う。

美咲・私は教育関連の施設で、大学時代の4年間アルバイトをしていたの。そこで気が付いたのは、小学校3年生くらいまでの多くの子供たちは、自分のやりたいことに取り組んでいるということ。でも、高学年になると「先生の教え方が悪いから私はできない」などと言う子が出てくる。それに、そういう子がいるグループでは、子どもたちが仲良くする場面を見る機会が不思議と少なくなるんだよね。

優花・大人を信頼していないのかもしれないし、自分を信用できていないのかもしれない。

美咲・おそらくそうだと思う。私は、子供になにか否定的なことを言われたときに、すぐに受け答えをすることができなかったのがショックだったな。

優香・それはわかる。私たちは、先生や親を含め、周囲の人々は相手の意見を肯定して、そこから一緒に考える人が多いもんね。私も驚くことは何回かあったよ。「私が〇〇できないのは〇〇さんのせい」などと、大人は面と向かって人のせいにはしないから。

美咲・そうだね…。先生になるというより、社会人になる。それはいろんな人と関わりを持つことだから、今からドキドキしています。

希望と不安が6:4

――新卒での採用が決まり、どのようなことを考えていましたか?

美咲・配属校は決まっているのですが、4月1日まではどの学年を受け持つのか、担任になるのかもわかっていません。でも、不安より楽しみなことの方が多いですね。

優花・私もです。どんな教室にしていこうか、ワクワクしています。その前に、「備品は自分で揃えた方がいいのかな?」とか「スーツは何着用意した方がいいのかな?」など細かいことも気になるように。

美咲・4月1日に着任して、1週間程度で子供たちが登校してくるんだよね。もっと前に学年を教えてもらえば、教材研究などが具体的になると思うけれど。

優花・希望と不安と6:4ってところかな。つい数か月前までは、卒論に追われており、卒論ロスを味わう間もなく、新生活準備が始まっているという……。

先輩先生からの心得

――小学校の先生は、職場の人間関係のほか、保護者対応なども仕事のうちのようですが。

優花・人間関係はついてまわると思っていますが、攻撃的な人はほんの一部だと思っています。教育の主体は「子供」なので、関わっている人が「その子のことが好き」という気持ちがあります。それを伝え続けていきたいです。

美咲・私は教育熱心な保護者が多いとされる地域の学校なので、子供たちもそれなりにプレッシャーがある環境で育っていることが予想されます。だから、家と学校の板挟みにならないように連携をとっていきたいと思っているんです。

優花・公立小学校は、いろんな考え方の人がいて、それぞれに正義があるから。そうそう、先輩に、「人から何か言われたら、納得いくこともいかないこともメモしておきなさい」と教えてもらったよ。自分の思考の整理になるし、トラブルに発展した時の振り返りの資料としても使えるって。

美咲・そうなんだ! メモは大切なんだね。

「人間力」を育てる先生になりたい

――これからどんな先生になっていきたいですか?

優花・人を「よく育てる」先生でありたい。一時期、数学の道に進むことも考えたのです。でも、幼いころから先生になると思っていましたし、やはり「人として人を育てる人」になりたいと改めて思いこの道を選んだからには、いろんなことがあっても歩んでいきたい。

美咲・私も同じ。学力よりも人間力を育てる先生になりたい。

優花・人間力って何だろうね?

美咲・う~ん。「自分のことを知っている人」だと思う。自分の興味があることを、とことんつきつめられて、個性に気づいて自ら伸ばしていくことかな。

優花・わかる。自分を肯定することにより、相手を認められるようになるから。その土台は小学生の時につくられるよね。私はそういう機会が少なく、優等生という枠で義務教育を終えてしまった。勉強ができない子のいいところに気づけるようになりたい。

美咲・それは私も同じ。

優花・でも、今は先生の気持ちもわかる。理想の授業をすすめているのに、へんてこりんなことを言われ、授業が崩れてしまうもどかしさもあるから。

美咲・それは感じる。でも、子供が好きだということは同じ。これからいろんなことがあっても、一緒に成長していこう。


取材・文/前川亜紀

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