学校経営スタートの時期から、気を配りたい4,883人の警告~教員不祥事を防ぐ学校版インテリジェンス経営~

学校経営のトップである校長の任期は、一般企業のそれに比べて非常に短いことをご存知でしょうか。平均値では、なんと一般企業の半分程度の任期で他校に異動するのです。短い任期の中で教職員それぞれとの信頼関係を結び、管理指導をしっかり行うことは、非常に難易度が高いとも言えます。全国で年間4883件もの不祥事が起こっているのは、その現実をいみじくも表しているのではないでしょうか。そして不祥事は、皆さんにとっても決して他人事ではありません。今回は、コミュニケーション分野の専門家である著者が、学校での不祥事を未然に防ぐポイントをご紹介します。
執筆/株式会社電通総研 研究員・慶應義塾大学SDM研究所 研究員・元横浜市公立小学校教諭
岡田芳樹
シン・コミュニケーション#10
目次
教員不祥事は「毎日13人」
4,883人。これは文部科学省が公表した令和6年度に懲戒処分や訓告等を受けた公立学校教職員の人数です。単純計算すると、毎日13人以上が何らかの処分対象になっていることになります。またその内容も、体罰311人、不適切な指導485人、性犯罪・性暴力等281人と重い事例が多くあります。文部科学省が公表したこの数字は、学校不祥事が「まれな事故」ではなく、学校経営が早急に向き合うべき「恒常的リスク」であることを示しています。
教員の不祥事が生じると、メディアを中心にその教員個人の資質、そして教育委員会や学校の謝罪と事後対応に注目が集まります。
しかし、本当に議論すべきはその点なのでしょうか?
これは小学校教員を務めていたときからの私が抱えていた疑問です。
教員の不祥事が当事者個人の資質の課題なら、採用時点での対策が必要ですし、定期的な個人診断が求められます。しかし、採用時に数千人もいる採用試験受験者一人ひとりの資質を見極めるのは現実的ではありません。日本版DBS※も2026年12月よりいよいよ施行されますが、これは過去の犯罪歴を掌握するだけ。そもそも、わいせつ事案以外にも阻止すべき教員不祥事は多々あることを考えると、やはり対策は不十分と言わざるをえません。事後の対策や関係者の謝罪などより、考えるべきはリスクマネジメントなのです。
ここで分けて考えるべきなのが、クライシスマネジメントとリスクマネジメントです。
クライシスマネジメントとは、不祥事が起きた後の謝罪、調査、説明、再発防止を指します。
一方、リスクマネジメントとは、不祥事が起きる前に兆候を見付け、その芽を摘むことを指します。
今の学校現場に足りないのは、後者のリスクマネジメントです。
安全工学では、事故は突然発生するのではなく、小さな異常の積み重ねによって発生するとされています(Reason, 1997)。学校でも同様です。不祥事の多くは、疲労の蓄積、恒常的な孤立、不満の増加、指導の粗さ、規律の緩みといった前触れを伴います。
つまり不祥事は、「突然の事故」ではなく、兆候を見逃した結果として起きる「組織事故」なのです。
その兆候をいかに事前にキャッチし、対策するか、学校経営者はそこに注力すべきなのではないでしょうか。
そのような研修は既に各校で実施している? ——おっしゃる通りですね。
しかし、それでも不祥事が減らないなら、残念ながらその研修は意味を成していないのです。筆者も元教員であり、コンプライアンス研修は何度も受講しました。しかし、どこか形骸化している、前年度の使い回しのような研修が多いことはこの場で正直に申したいと思います。研修が効果を生み出せていないなら、しっかりその原因を追究して、改善する必要があります。
※日本版DBS=こども性暴力防止法。性犯罪歴を持つ人が子どもと接する業務に就くことを防ぐため、事業者が犯罪歴を確認できる制度のこと。イギリスの制度をモデルにしています。
学校現場の組織と個人が抱える問題
教員不祥事の責任は、組織と個人、この双方にあると筆者は考えます。上述したように、組織として対応することで、個人の不祥事を未然に防ぐ、これが望ましいシステムと言えるでしょう。ここでは、組織的問題の解決のために再認識しておきたい問題点をお示ししたいと思います。
一般企業平均の半分以下。異常に短い校長の任期
文部科学省の資料によると、公立小学校校長 (退職者含む)の同一校平均在職年数は2.9年、中学校でも3.0年です。これに対し、Russell Reynolds Associates (2025) のグローバル調査では、上場企業の退任CEOの平均在任期間は7.1年でした。単純比較でも、学校のトップは企業トップの半分以下の期間で組織を預かっていることになります。
この任期の短さが不祥事の大きな原因となっている、筆者は強くそう思います。
張頔(ちょうてき・2020)は、校長が学校を十分に把握する前に異動してしまう制度そのものが、経営行動を制約していることを明らかにしました。また、Antiaら(2010)の研究では、トップの意思決定期間(在任期間)が短いほど、代理コストが増え、企業価値が下がり、情報リスク*が高まる傾向が示されています。
※情報リスク=組織が持っている有益な情報の「機密性」「完全性」「可用性」が外部への漏えい等で損なわれること。
企業と学校はもちろん同一ではありません。ただ、任期が短いトップほど長期投資より短期安定を優先しやすい、という構図は学校でも十分当てはまりますね。
任期が短いと、校長は以下の3つの思考に傾きやすいと考えられます。
1つ目は、「把握優先・介入先送り」思考です。
学校長は着任直後、学校文化も人間関係も見えません。そのため、「まず様子を見る」が最善手になりやすいです。しかし不祥事リスクは、様子見をしている間にも進行します。そして、張頔の研究が示すように、短期間で方針提示と経営を進めること自体が難題です。
2つ目は、「見える成果優先」思考です。
長期的な学校改革より、行事運営や対外説明のような短期で見えやすい成果にエネルギーが向きやすくなります。企業でもトップの意思決定期間が短いほど短期収益志向が強まりやすいことが示されています。
3つ目は、「摩擦回避」思考です。
厳しい注意、人事の是正、問題教師への早期介入は必ず反発を生みます。短期の任期では、その反発に立ち向かうだけの理由を持ちにくいのです。つまり「あの教師、気になるけどまだ表面化していないから踏み込まないでおこう」という判断が起きやすくなります。これは学校現場ではとても危険です。これこそが不祥事の火種です。
同僚が沈黙しやすい組織的特性
学校という組織は企業と異なり、かなり特殊な性質をもっています。学級においては担任が社長であり、授業の裁量などは担任に一任されています。もちろん、年間で授業を全て完了させなければならないという大きなミッションはありますが、それをクリアするなら1日の授業をどう組み立てるのかは新卒1年目の教員にも全権が委ねられています。
これは当然、教師にとってはクリエイティビティが発揮されるところであり、教師という職業の醍醐味だと筆者は考えています。筆者は、教室で子どもたちに授業したり、他愛もない話をしたりする時間も好きでしたが、授業準備でいかに面白い問いを作るか、といった業務も至福の時間だったことを今でも覚えています。
一方で、このシステムが残念ながら教員不祥事を引き起こす引き金にもなっています。
教師は「孤立性」が高い職種であり、互いのクラス、授業につい無関心になることも少なくありません。何しろ教師は、日中は子どもと過ごすのがメインの仕事であるため、同僚と他愛もない会話をするのが難しいのが現実です。また放課後の時間は保護者対応、会議、授業準備などで占められ、同僚とコミュニケーションを取る余裕などほぼありません。
「なんかあのクラス、違和感があるな⋯…」「ちょっと授業が逸脱していないか…⋯?」と思ったとしても、一歩踏み込んで介入しにくいのです。同僚教員こそ違和感に気づきやすいものですが、介入しようと問題の教員に声をかけたところで、その同僚教員自身にはメリットが生じませんし、反論されてしまえばそれで終わりでしょう。
組織の構成員が問題を認識していても発言しない状態を組織的沈黙(Organizational Silence)と呼びます(Morrison, 2014)。この組織的沈黙が生じやすいのが学校現場なのです。組織的沈黙は、同調圧力、上司への忖度、そして問題隠蔽を生み出します。
バーンアウトが生じやすい職業的特性
教師という仕事は、他の職業では得られない職務的充実感を得られます。一方、ストレスが溜まりやすい職種であることは周知の事実です。ある研究では、平均して企業におけるストレス量の2倍あるのが教師のストレス量と言われています。また前述したように、教師は孤立しやすい職種であり、それ故に不安も強まる職種でもあります。そうなると、燃え尽き症候群、いわゆるバーンアウト※に陥りやすくなり、情緒不安定な状態で働き、結果として休職・退職に追い込まれる教師は後を絶ちません。
このバーンアウトが、当該教員の孤立をさらに進め、孤立した教員が「規範違反」「不正」「職務逸脱」を引き起こす確率が有意的に高まることが、先行研究より明らかになっています。教師の不祥事研究は山ほどありますが、その中でもよく示唆されているのが、不祥事が起きる学校の特徴です。ズバリその特徴は、「教員が孤立している」「同僚間のコミュニケーションが少ない」「管理職の管理能力が弱い」などです。
孤立した環境下、口出しをしてこない管理職の下で働くということは、脳内のブレーキが弱まり、精神的にももろくなるというとです。どれだけ過去の実績や評判が良い教師であっても、こうした環境下では逸脱しやすくなるのです。
※バーンアウト=長期間のストレスや疲労、終わりの見えない仕事の徒労感などによって、ある日突然、心のエネルギーが枯れ果てて無気力になってしまうこと。心身の疲労感や脱人格化(相手を人として見られない、他人に対して冷淡、攻撃的、無責任になる)、無気力などが症状として表れます。
現実的な3つの対応策
ここがいちばん重要です。学校現場のリスクマネジメントは精神論ではなく、仕組みです。先行研究や他業種の事例を参考に、以下3つの対応策をここで提言させていただきます。
(1)学校版インテリジェンス体制の構築
校長の短い任期を変えるのはそう現実的ではありません。であれば、せめて管理職が短いサイクルで入れ替わっても変わらないリスクマネジメント体制を整えるべきです。具体的には、月1回、校長・副校長・養護教諭・生徒指導担当・スクールカウンセラーらが集まり、「最近増えた苦情」「疲れている教員」「指導が荒くなっている場面」などを共有する場を設けるべきです。これは学校版インテリジェンス会議です。学校長の指揮下で、学校職員の情報の収集、集約、分析を一元化し、司令塔機能を強化するのです。
また、内部通報制度も充実させるべきです。教員同士、互いの懸命な勤務ぶりを知っているものの、違和感を感じる(組織逸脱を感じる)こともあるはずです。それを本人に進言することは難しいでしょうから、匿名で通報できる制度を設けるのが至適でしょう。
(2)心理的安全性の高い職員室をつくる
2つ目は、心理的安全性の高い職員室をつくることです。三沢ら(2017)の研究では、校長のエンパワリング・リーダーシップが教師集団の心理的安全性を高めることが示されています。エンパワリング・リーダーシップとは何でしょうか? これは、リーダーが部下に権限や情報を委譲することで、部下の自律的な意思決定と行動を促す、いわば支援型リーダーシップです。近年リーダーシップ研究では、これが非常に重要視されています。
心理的安全性が高い組織では、ミスの共有、問題の早期報告、組織学習が促進されます。逆に言えば、言いにくい職員室では前兆が上がってきません。そのため学校では、ヒヤリハット共有会、ケース討議型コンプライアンス研修、定期的な対話などを通じて、違和感を共有できる文化を作ることが重要です。
また、前述したように孤立した教員を生み出さないためにも、放課後の業務改善を徹底することです。会議しなければならない、校務をしなければならない…⋯こういった先入観から脱し、まず優先すべきは教師同士が健全でいることです。優先順位を間違えやすいのが教育現場ですが、そこを覆さないことには教員不祥事防止は机上の空論で終わります。放課後ぐらい、教師同士で他愛もない話をすべきです。イノベーションは本来、そういった過程から生まれるものですから。それで教師が明日も逸脱することなく業務を務めることができるなら、学校としてこれ以上ない本望ではないでしょうか?
(3)前駆指標 ― 職場状況を定期的にチェックする
最後の提案は、前駆指標の測定です。安全研究(Dekker, 2011)では、事故の結果を示す「遅行指標」ではなく、事故の前に変化する「前駆指標」を測定することが事故防止に有効だとされています。
学校組織でも、「教師の疲労」「心理的安全性の欠如」「組織的沈黙」は重要なリスク兆候です。そこで教師タブレットなどを活用し、少なくとも月に1回程度は次のような簡易チェックを行うことを提言します。
【職場状況チェック】
- 今週、仕事による疲労を強く感じた
- 今週、業務量が多すぎると感じた
- 特定の人に仕事が集中していると感じる
- この職員室では気になることを言いやすい
- 問題に気づいても言いにくい雰囲気がある
- 困ったとき管理職は教員を支えると思う

【参考文献】
■Antia, M., Pintails, C., & Park, J. C. (2010). CEO decision horizon and firm performance: Evidence from the takeover market. Journal of Corporate Finance, 16(3), 1–17.
■Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission. (2020). Assessing corporate culture: A proactive approach to deter misconduct. The Center for Audit Quality.
■Dekker, S. (2011). Drift into Failure: From Hunting Broken Components to Understanding Complex Systems. Ashgate.
■Edmondson, A. C. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44 (2), 350–383.
■Maslach, C., & Jackson, S. E. (1981). The measurement of experienced burnout. Journal of Occupational Behavior, 2 (2), 99–113.
■Morrison, E. W. (2014). Employee voice and silence. Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior, 1, 173–197.
■OECD (2019). TALIS 2018 Results: Teachers and School Leaders as Lifelong Learners. Paris: OECD Publishing.
■Ortan, F., Simut, C., & Simut, R. (2021). Self-efficacy, job satisfaction and teacher well-being in the K-12 educational system. International Journal of Environmental Research and Public Health, 18 (23).
■Reason, J. (1997). Managing the Risks of Organizational Accidents. Ashgate.
■Russell Reynolds Associates. (2025). Global CEO Turnover Index. Russell Reynolds Associates.
■文部科学省(2025)『令和6年度公立学校教職員の人事行政状況調査』
■三沢 良・松下 慶太・田中 健太(2017)「校長のエンパワリング・リーダーシップが教師集団の心理的安全性に与える影響」『教育心理学研究』65 (4), 456–468.
■三沢良・鎌田雅史(2024)「校長のエンパワリング・リーダーシップが教師集団の心理的安全性および組織変革意識に与える影響」『学校改善研究紀要』第6号, 60–74。
■須藤康介(2022)「組織不祥事の発生メカニズムと組織文化」『産業・組織心理学研究』37 (1), 17–28。
■張頔(2020)「校長の人事異動制度と学校経営行動に関する研究」北海道大学大学院教育学院博士論文。
教育現場のコミュニケーションをアップデート! 元小学校教諭のプロ・コミュニケーター岡田芳樹先生の連載『シン・コミュニケーション』はこちらからご覧ください(以下、公開順)。
◆【シン・コミュニケーション #1】教師にとっていちばん大切な力は何だと思いますか? シン・コミュニケーション~教師というプロコミュニケーターになるために~
◆【シン・コミュニケーション #2】戦略とは戦わずして勝つこと。そして教師の最大の武器とは「戦略的コミュニケーション」。
◆【シン・コミュニケーション #3】コスパ・タイパにサヨナラを…仕事の成果が最大化する、一見無駄なこと。「雑談」は教育現場を、組織を変える!
◆【シン・コミュニケーション #4】雑談力…クラスでも職員室でも、絶対にプラスになる力を磨いていこう!
◆【シン・コミュニケーション #5】人間関係と生産性を高める、「非公式」な最適解〜インフォーマル・コミュニケーションのすすめ〜
◆【シン・コミュニケーション #6】「物語(ナラティブ)」は、新たな時代の新たなる武器!!〜教師のためのナラティブ・コミュニケーション〜
◆【シン・コミュニケーション #7】教師が注意したい「情緒的疲労」とは? 疲れの正体を知り、メンタルダウンを防ごう
◆【シン・コミュニケーション #8】新たな「知」を生み出す『インテリジェンス・コミュニケーション』のすすめ
◆【シン・コミュニケーション#9】子どもたちの「生きる力」が育つ機会を生成AIに奪われないために

執筆者:岡田芳樹(おかだ・よしき)
1986年、東京都生まれ。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了。新卒で政策シンクタンク勤務を経て、横浜市の小学校教諭として7年間勤務。現在株式会社電通総研にて研究員を務める。同時に慶應義塾大学SDM研究所の研究員、大学院のゲスト講師、『週刊教育資料』のコラムニストを担う(「バーンアウト防止に必要なデータによる感情管理」「安易なウェルビーイング教育は感情の資本化を促進する」など)。研究テーマは感情社会学、教育社会学、戦略(コミュニケーションやインテリジェンス)研究など。
