47都道府県縦断!全国オリジナル地域教材でつくる「本気!」の道徳授業 #5 「日本一貧乏な観光列車」が走るまで

全国各地の「ひと・もの・こと」を教材化し、子どもたちの思考、価値観を大きく揺さぶる道徳授業を提案。さらにそれらを集めてアーカイブ化しようという野望に満ちたリレー連載です。今回の執筆者は、北海道函館市の松倉翔太先生です。
編集委員/藤原友和(北海道函館市立鍛神小学校教諭)
執筆/松倉翔太(北海道函館市立本通小学校教諭)
目次
はじめに
「え!? 僕が地域道徳の原稿を書いていいんですか?!」
連載記事の話を藤原先生から頂いたのは、2025年8月頃。僕と地域教材道徳の出会いは、2023年1月、大雪の冬の青森。そのころの僕は、小学校教員初任2年目。地域教材そのものよりも、その場に集まるベテランの先生方は、どんな授業づくりをしているのか? ということそのものに興味が湧いている時期でした(いや、今もあまり変わりないか…?笑)。
その会に参加して、授業づくりの上手さとか、資料提示、発問の工夫とか、そういう“技術的なこと”だけでは届かない何かを感じました。子どもが地域の物語に触れ、誰かの生き方を知り、そして「自分だったらどうするだろう」「これからの地域に、自分はどう関わっていけるだろう」という考えが駆動し始める。たった一つの授業、教材、単元が、世界とのつながり方を変えてしまう。そんな可能性があるのかもしれない、と思うようになりました。
僕が、地域教材開発に携わるようになって、以下のタイトル画像から始まる動画も作るようになりました。記念となる第10回の青函地域道徳のセミナーのオープニングムービーです。
よろしければリンクからこの動画を再生しながら、今回の記事をご覧頂けると幸いです。
1.教材について
この授業のタイトルになっている「日本一貧乏な観光列車が走るまで」は、実際に発行されている書籍がもとになっています。その書籍は、『〝日本一貧乏な観光列車〟が走るまで 「ながまれ海峡号」の奇跡』(佐藤優子/著、永山茂/監修、ぴあ、2018年)です。
ちなみに、「ながまれ」とは、函館弁で「ゆっくりして」「のんびりして」という意味です。2018年に発行されたこの書籍の帯には、以下の文章が書かれています。
知恵と情熱で日本一となった
北海道の小さなローカル線の物語旅行会社と鉄道会社、地域住民の三位一体で
「鉄旅オブザイヤー」グランプリを獲得!
この観光列車プロジェクトを牽引した
永山茂の言葉からは地方創生の起爆剤となる
鉄道観光の未来が見えてくる―――。
ふらっと書店に立ち寄った時にたまたま発見した、この書籍。タイトルの力強さに加え、この帯のキャッチコピーを読んで、道南の息吹を感じられる授業ができそうだとひらめき、教材化することにしました。
2.授業の実際~日本一貧乏な観光列車が走るまで~
対象:小学6年
主題名:地域を活かし、地域を愛する心
内容項目C-15:「伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度」
導入: 2016年3月26日 今から、約9年前のニュースを紹介します。6年生のみなさんにとっては、生まれて間もない頃のお話です。

「乗ったことある!」
「新幹線だ!」
『この時、函館はとっても盛り上がっていたんだけれども、じつは、その裏で、函館市の「観光」を支えてきた人がいます。次の写真から、どんな人か予想してみましょう。』

「運転士?」
「鉄道会社の人?」
『今日の主人公は、永山茂さん。旅行会社に勤めています。新幹線が函館の経済をより発展させていく波をもたらした一方で、経営が苦しい路線(在来線)は、廃止しようとする動きが出てきたんです。どうなってしまったかというと……。』
江差線、廃止だってね。(スライドで提示する。以下、太字部分は同様)
『在来線であったJR江差線が廃止されました。地域の人の交通手段がなくなってしまう。そこで、地域の会社「道南いさりび鉄道株式会社」に移行することになりました。しかし、運営が引き継がれた時点で、路線の経営収支は10年で23億円もの赤字が予想されていたそうです。』
「ええ―――!23億円?!」
『また、この路線には重要な役割がありました。それは年間500万トンもの貨物輸送です。農作物を全国各地へと運び、また、全国からの物資を運び入れるという重要な役割をもっていました。
そこで、「重要な地域の鉄路を守るために、何かできることはないか。」永山さんは考えた末に、次のような結論に至りました。』
「そうだ、観光列車を走らせよう!」(スライドで提示)
子どもたちは、観光列車についてイメージすることが難しいので、写真や資料で補いながら進めます。
そして、次からの展開で、永山さんが観光列車を走らせる夢を実現するために行ったことを、「永山さんのここがスゴい!」という形で紹介していくことを伝えます。
永山さんのここがスゴい!① すべて俺たち「旅行会社」で企画する!
『「観光列車を走らせる!」と決めた永山さんは、企画からプロデュース、募集、販売促進、旅行の計画、会計、協賛集めまで、すべてを旅行会社で引き受けると宣言しました。』

通常、このような大規模なプロジェクトは、複数の会社や組織が分担して進めるものです。しかし永山さんは、自分たちの手で一貫してやり遂げようとしました。地域の観光を誰よりも理解している自分たちだからこそ、できることがあると信じたのです。
永山さんのここがスゴい!② 北海道から来た改装用補助金が…9両で3500万円!?
『観光列車をつくるには、もちろん、これまで使っていた車両を観光列車用に改装するお金が必要です。そこで、北海道から特別に改装用の補助金が出ることになったそうです。
その金額は、9両で3500万円。
発問:これって多いと思う?少ないと思う?
「多いでしょ…これだけあったら、改装もできそう」
「少ないんじゃないかな…?」
色々考えをめぐらせた後、次のような説明をします。
『これはじつは、とっっっても、少ないんです。』
そういうと教室は「えー!これで?!」とざわつきます。
『他の観光列車と比べてみましょう。』
- JR四国「四国まんなか千年ものがたり」: 3両で2億円
- JR九州「ななつ星in九州」: 総工費30億円
教室がさらにざわつきます。圧倒的に少ない予算で、観光列車を走らせようとした永山さんの挑戦が自分ごとになっていきます。
『永山さんは、この状況を、
「“日本一貧乏な観光列車”がどこまでできるのか、日本中に見せてやろうじゃないか。」
そう、考えていたそうです。
はこだて未来大学と協力し、地域の建築家、地元のデザイナーを起用することで経費を削減することに成功しました。限られた予算の中で、最大限の美しさを引き出し、長く乗り続ける列車にすることができるように、なるべく色の数を少なくし、塗り替えの経費を少なくするように計画をしていました。』
永山さんのここがスゴい!③ 観光列車に必要なものが「なにもない!」
『予算が限られているということは、観光列車に必要な設備も準備をすることが難しいということです。もちろん、これまでは普通の「電車」だったので、
- 駅弁用のテーブル
- ドリンクホルダー
- 車内販売用のワゴン
- 業務用電子レンジ
- 冷蔵庫、冷凍庫
- スープストッカー
- ヘッドレスト
などなど、観光列車に必要なものが、本当に「なにもない」状態です。じつは、これ以外に「観光列車」といったら必要なある2つのモノがなかったのです。
それは、「クーラー」と「駅弁」です。
北海道とはいえ、最近の夏は30℃を超えることがあります。
クーラーがない車両で、熱い夏をどう乗り切るか、大きな課題となったのです。』
発問:永山さんが考えた、暑さを乗り切るアイデアとは何でしょう?
子どもたちは、色々と考えをめぐらせていきます。
子どもたちから色々なアイデアを聞いたのち、永山さんのセリフを紹介します。
「暑かったら、窓があります。」
子どもたちは、総ツッコミ。
「窓!? それで涼しくなるの?」
『永山さんはなんと、これを「新幹線にはない魅力」として打ち出したのです。永山さんはこう述べています。
「最近の車両は、窓が開かないものばかり。キハ40系のように、窓が開く車両自体が全国でも希少価値なんです。暑くなったらお客様には窓を開けて、北海道の夏の空気を思い切り感じて頂きましょう!」
マイナスをプラスに変える、見事な発想の転換で、暑さの課題をクリアしていくことに成功しました。』
永山さんのここがスゴい!④ 地域の人脈、地域の食材を活用する
『観光列車の大きな魅力の1つが、車内で提供される食事「駅弁」です。
しかし、予算がない。電子レンジもない。どうやって魅力的な食事を提供するか。
永山さんは、地域の人脈を最大限に活用することにしました。』
- 北斗市企画財政課長、種田宏さん
- 上磯郡漁業協同組合、金子久さん
- JA新はこだて、田山光幸さん
(肩書きは取材当時のもの)
この3人を、僕は勝手に「財の種田」、「海の金子」、「農の田山」と称し、「いさりび焼き弁当アベンジャーズ」のごとく、盛り上げながら紹介しました(笑)。
発問:この3人がそろったら、どうなると思う…?
と、問いかけながら、次の写真を提示します。
『電子レンジがないなら、ホームで焼き上げて、できたてアツアツを提供しようと考えたのです。完成するのは、なんとホームに到着してから。乗客は、焼きたての香ばしい匂いと湯気が立ち上る弁当を、車内で味わうことができる。こうして、「いさりび焼き弁当」という、道南ならではの特色を存分に活かした「駅弁」が完成したのです!』
永山さんのここがスゴい!⑤ 走れ! 「ながまれ海峡号」が「鉄旅オブザイヤー」優勝!
『こうして、観光列車「ながまれ海峡号」が誕生しました。
「ながまれ」とは、函館の方言で「ゆっくりしていってね」という意味です。地域に根ざした、温かい名前です。限られた予算、足りない設備―数々の困難を乗り越え、地域の力を結集してつくり上げた観光列車は、なんと、2016年度「鉄旅オブザイヤー」で見事優勝したのです!日本一貧乏な観光列車が、日本一の評価を受けることになりました。』
ここまで扱ってきた、永山さんの努力、永山さんに協力してくれた人、地域にあるものを活かしてきたことを振り返ります。
発問:なぜ、永山さんはここまで「地域」の「ヒト」や「食材」を活用することにこだわったのだろう?
『最後に、永山さんからのメッセージを紹介します。』
なんの変哲もない見慣れた鉄路に、ある日観光客がやって来た。
こんなものにわざわざ遠くから乗りに来るんだ。
どこが良いのだろう。そうしているうちに、またやって来た。
汽車に向かって手を振ってみた。振り返された。
駅前で、どこから来たのか、と話しかけてみた。
聞いたことのない街だったが、無性にその街に行きたくなった。
どうやらこの鉄路がつながっているらしい。
手を振るのになんの準備もお金もいりません。
ただ手を振るだけ。
それだけでお互いになんとも言えないやさしい気持ちが通い合う。
車やバスが走っていても、そんなことはしませんよね。
この温かい旅情は鉄道だけがもつかけがえのない魅力です。
鉄路がある街は幸せだ。
鉄路に乗って人が、貨物が、そして街に笑顔が運ばれてくる。
『今日の授業で考えたことを教えてください。』
最後にそう伝え、子どもたちに振り返りを記入してもらいます。
3.どこにどのようにつなげるか
今回の授業のテーマは「地域創生」や「観光業」です。
本校の6年生は、修学旅行で登別・洞爺湖方面にいきました。その見学先で、歴史や文化など様々な地域のもつ特色に目を向けていました。そこに目を向けることができたのも、このような地域道徳の授業の功績かも知れないとポジティブに考えています。
地域の特色は、「井の中の蛙」のままでは気が付きにくいものかなと思います。自分が住む所から出てみてはじめて、地域の良さが相対化され、気付くものです。
今回の学習は、総合的な学習の時間を通して、「地域の良さ」を探究する活動へとつなげていくことができました。
また、6年生の社会科の学習では、歴史を中心とした授業が展開されています。その社会科的な見方・考え方と結びつけることで、これからの地域交流、国際交流のあり方を考えるきっかけになるのではないかと思います。
おわりに
じつは、この授業をつくるにあたって書籍や資料を参考にしているのですが、まだまだ紹介したいエピソードが多くあります。きっと、これから何度も読み直し、何度も地域と関わっていく中で、この授業の形も多様に変わっていくのではないかなと思います。
改めて振り返りをしてみると、これまでの僕の授業づくりの発想は、「地域を授業に使う」という考えに基づいていました。でも、今は、「地域を学ぶことが、自分や子どもの生き方そのものにつながる」可能性を考えて授業化しているような気がします。
読んでいただいた皆様とどこかでお会いして、地域教材談義に花を咲かせることを楽しみにしています。ありがとうございました。
参考文献
*1 佐藤優子, 2018年,『“日本一貧乏な観光列車”が走るまで 「ながまれ海峡号」の奇跡』, ぴあ株式会社
*2 https://youtu.be/TsuQYaZbSaU?si=M3e_iomH5EIfACoi
写真資料
*PR Times
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000405.000004858.html
*はこぶら
https://www.hakobura.jp/features/322
*てつたびオブザイヤー
https://www.tetsutabi-award.net/2016/index.html
編集委員・藤原友和先生による共著・編著、好評発売中です。




