授業開きの初発は「算数は何のため?」【教科担任制 最前線!! 算数専科を楽しもう】②

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今回は、算数の授業開きと学び方について考えていきます。算数の授業は、3~6年生の場合、週5回授業があります。175回の授業をより充実したものにしていくためには、最初の授業開きが大切です。どの教科の授業開きであっても、その教科に対して、得意な子どもも苦手な子どもも、「1年間、楽しく学んでいこう!」という前向きな気持ちになれたら最高です。

執筆/奈良県公立小学校教諭・頃橋真也

子どもが求める専科教員って?

先生方の学校では、教科担任制を行っていますか?

文部科学省が2022年度から導入を進めている教科担任制ですが、年々小学校現場でもこの言葉を聞く機会が増えてきました。今後さらに拡大していくのは間違いありません。この教科担任制により、学級担任以外が各教科の授業を担当することになります。では、子どもたちはどのようなことをこの教科担任制に期待しているのでしょうか?

私は子どもたちが教科担任制(専科教員)に求めるものは、以下のようなものと考えています。

① 学級担任がする授業では得られないスペシャル感のある授業をしてほしい。
② 楽しく学べる授業をしてほしい。

私のこの考えは、文部科学省の教科担任制の導入目的にも合致します。

文部科学省の『義務教育9年間を見通した教科担任制の在り方について(報告)』に、教科担任制導入の趣旨・目的として、「教材研究の深化等により、高度な学習を含め、教科指導の専門性を持った教師が多様な教材を活用してより熟練した指導を行うことが可能となり、授業の質が向上。児童の学習内容の理解度・定着度の向上と学びの高度化を図る。」と示されています。

つまり、専科教員がすべきことは、

「教材研究の深化等により、熟練した指導を行い、授業の質を向上させること」です。

その結果として、子どもが理解度・定着度を向上させ、学びの高度化を図れるようになるということです。

スペシャル感を生み出す授業をつくるには、教材研究が最も大切です。

私は、子どもが「楽しい!」と思えるような授業をつくるために、教科書レベルの問題だけでなく、高度な学習(ジャンプの課題…「1人では解くことはできないけれど、仲間と学ぶことで解けるかもしれないような課題」)を多くの授業で取り入れることより、子どもの学びの高度化を図るような授業づくりを行うことを考えました。

学級担任は4月当初の学級開きで自分の思いやどんなクラスにしていきたいのかについて語ります。私は専科教員も同じだと思います。

自分が担当する教科をどのように授業していきたいのか?

どんな力を子どもたちに身に付けていってほしいのか?

では、実際に私がどのように算数の授業開きをし、何を語ったのかお伝えしましょう。

専科教員の授業を受ける子供たち

算数の授業開き~なぜ算数を学ぶのか?~

算数の授業開き(3~6年生)では、自己紹介とともに、① なぜ算数を学ぶのか? ② 算数の時間の学び方の2つについて語りました。

①「なぜ算数を学ぶのか?」とは

「なぜ算数を学ぶのか?」については、語るというより、子どもに発問しました。

どの学年の子どもにも、共通していた考えは、

「大人になったときに困らないため」

というものでした。つまり将来のためという考えを多くの子どもがもっていました。

ただ、これはどの教科にも共通しているものです。すべての教科で、「大人になったときに困らないため」と言えますよね。

準備していたスライドを見せて、各職業でどのような場面で算数の学習が生かされるのかについて考えました。

例えば「パン屋さん」。パンを作る上で、粉を計量したり、長さを測ったり、売り上げを表やグラフにして分析したりすることもあるかもしれません。

このようにして6つの職業を見せ、すべてで算数の学習が使えそうであることに気が付きました。しかし、「仕事(職業)のため」だけに算数の学習は生かされるのでしょうか?

私は、算数の学習で最も大切なことは、算数的な考え方や見方を生かして思考することだと考えています。

じゃあ、将来の職業のために算数の勉強をするの?

それもあるけど、将来生活して生きていくため!

と、どの学年の子どもも考えることができていました。

このように、各教科を「何のために学ぶのか?」ということを、授業開きのときに子どもたちに問いかけ、考える機会をもつことが大切です。そして、クラス全体で互いの考えを共有して、最終的に、自分なりの答えを導き出すのです。

1年間の算数の授業は3~6年生だと175回もあるのですから、ときには「何のためにこの学習せなあかんねん!」と不平を言いたくなることもあります。そんなときに、「4月の最初の授業で『何のために算数を勉強するのか』について考えたよね。この単元は、将来の自分が生きるためにどう役に立つのか、いっしょに考えてみようか」と声をかけることができますね。

②「算数の時間の学び方」とは?

先生方のこれまでのクラスの中で、算数が得意な子ほど、授業中に退屈しているということはなかったでしょうか?

実は、私のこれまでの授業を振り返ってみると、算数が苦手な子ども以上に、得意な子ども(すでに塾などで学習内容をある程度理解している)ほど「楽しくなさそうだったなぁ」と感じたことが多かったです。

今考えると、理由はとても簡単です。それは、授業中に選択肢がなく、待ち時間が長かったからです。

これまで課題が早く終わった子どもには、

・ 困っている子どもにヒントをあげよう(ミニ先生)。
・(全員がほどよく本題が解けたら)黒板に式と答えを書きに行きましょう。

などと、指示を出していました。

もし、毎日の算数の時間(全175時間)が、上記のような授業だとすると、子どもはどのように感じるでしょうか? 間違いなく退屈してしまいますよね。

つまり、子どもが退屈していたのは、私の授業のデザインが、算数が得意な子ほど手持ち無沙汰になり、待ち時間が長くなるような仕組みになっていたからです。

恥ずかしながらこのことに気が付くのに長い時間を要してしまいました。

そこで、今年は、算数が得意な子どもがワクワクするような授業をしたいと強く願い、授業をデザインしました。まさに、“算数が得意な子どもの力の解放(上位層の解放)”です。

そのために私が行ったことは2つあります。

・ラーニングピラミッドについての語り
・学び方の自己選択についての語り

では実際にどのように語ったのかについて見ていきましょう。

 

ラーニングピラミッドについての語りとは?

4月の授業開きで、下の絵を見せながら、どちらの子どもがより深く学んでいるのかについて、子どもに問いました。

学んでいるのはどっち?

勉強しているのは、いすに座ってノートに問題を書いている子だと思う!

でも、教えているほうも、勉強にはなっているかも……。

じゃあ、より学んでいるのはどっちかな?

ん~……。

やっぱりノートに書いているほうだと思う。

どちらか甲乙をつけるのが難しい子どももいましたが、多くは、座ってノートに字を書いているほうがより学んでいると答えました。

この絵をラーニングピラミッドを基に考えると、問題を解いている子どもが「ねぇ、どうしてこうなるの?」と自分の疑問点を聞いていれば、対話が生まれて「グループ討論」となります。ラーニングピラミッドの学習定着率で言えば、50%です。

一方、「ここは、〇〇〇の考え方を使うとね、△△△△になるでしょ」と教えている子どもの学習定着率は90%になるのです。人に教えたり、説明したりすることは、より高度な学びになっているということです。

つまり、この場面を見て、「より学んでいるのはどちらか?」という問いに対する答えとしては、「2人とも学んでいるが、ラーニングピラミッドの考え方で言うと、教えたり説明したりしているほうが、より深い学びになっている」ということです。

私は、この「教えたり説明したりしていることは、深い学びになっている」ということをクラス全員が分かっていることが大事だと思います。

学級で早く課題が終わった人が、ミニ先生のような活動を学級ですると、ミニ先生役が「教えてあげている」という少し上から目線のマインドになりがちです。しかし、これは誤りです。「いっしょに学び合っている」というマインドのほうがふさわしいと思います。

なぜかというと、人は説明するときに、自分の知識をフル稼働させて、言葉や図を用いて説明します。しかし、それでも、「うーん、やっぱり……分からへん」と相手が言うことがあります。これこそが、より深い学びを得られるビックチャンスです。相手の困り感に共感しようとして、どのような言葉で説明するとよいのか悩みますよね。つまり、「分からへん……」と相手が言ってくれることが、学びの出発点になるわけです。だからこそ、学びに上下関係は一切なく、すべてが対等であるわけです。

このラーニングピラミッドの考え方を、定期的に子どもたちに語り、授業をデザインしていくと、学級づくりにも生きてくると思いませんか?

学び方の自己選択についての語りとは?

私は、早く課題が終わった子どもには、次なるステップを複数提示しておき、子ども自身が選ぶことが大事だと思います。私がいつも提示するのは、以下の6つです。

1.困っている人に説明することで学ぼう。
教科書を解き直そう(単元のはじめから)。
教科書の後ろの方のページにある「プラスワンの問題」を解こう。
計算ドリルの問題をノートに書いて解こう。
タブレット(Qubena(キュビナ)[学習ドリル])の問題を解こう。
発展プリントに挑戦しよう。

課題を終える速さは人それぞれです。だからこそ、複数の選択肢から自分で選んで学んでいくことが大事だと思います。

最近気付いたのですが、学力の上位層の子どもは、発展的な問題を友達といっしょに解くことを好んで行います。おそらく教科書レベルの問題は、習い事で何度も反復学習などをしていて、少し物足りなさを感じているのだと思います。私がいつも準備しておくのは、学習している各単元学習を使った私立中学校の入試問題のプリントです。

上記の6つのどの学習を選んでも、「必ずしてほしいことがある」と子どもたちに伝えています。それは、もし友達が「ねぇ、教えて」と言ったら、必ず反応することです。困っている人に説明することは、自分の学習習熟度が上がることを子どもたちはすでに知っています。だからこそ、「そのような絶好の機会を友達が与えてくれたなら、いっしょに精一杯学びましょう!」といつも語るようにしています。

不安な気持ちをワクワクにチェンジ!

新しい学年になり、やる気と希望とともに不安な気持ちを抱いている子どももいます。

その子たち全員が、「明日からの算数の授業、楽しみだな」と思えれば、初日はよいと思います。中には、初日から教科書の問題をどんどん進めていこうと考えている先生もいるかもしれません。ただ、初日からどんどん進めていかなくとも、後で調整はできるものです。授業開きで何より大切なのは、教師がどのような算数の授業をしていきたいかを子どもに語ることだと思います。

頃橋真也(ころはし・しんや)
教員歴14年。県の道徳研究会に13年間所属し、道徳の授業作りについて研究を深める。2021年度「第27回日教弘教育賞奨励賞、2022年度「第21回ちゅうでん教育大賞」教育奨励賞、授賞。X(旧Twitter)でも、情報発信中(ro5ro5先生@小学校の先生 @ro5r_o5)。

イラスト/畠山きょうこ

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