ページの本文です

教師よ、智略家であれ!~新しいインテリジェンス(智略)を使ったコミュニケーションについて~

連載
シン・コミュニケーション~教師というプロコミュニケーターになるために~
関連タグ

岡田芳樹

高市首相は、2026年度に国家情報局を創設することを発表しました。この情報過多の現代社会において、インテリジェンス(情報収集・情報分析)の重要性が今、非常に高まっています。インテリジェンスは日本だと「知性」と訳されることが多いですが、この場合は「智略」と訳せそうです。たくさんの情報を収集して正しく評価し、意思決定することだからです。日本の公安警察や米国のCIA、英国のMI6などが行っている「諜報活動」は、まさにこれですね。この知的活動は、いずれ学校現場でも必ず重要になってくるでしょう。今回は、インテリジェンスと教師について、考えてみたいと思います。

執筆/株式会社電通総研 研究員・慶應義塾大学SDM研究所 研究員・元横浜市公立小学校教諭
岡田芳樹

シン・コミュニケーション#8

「時は金なり」、そして「情報は金なり」

「時は金なり(Time is money)」とは、「アメリカ合衆国建国の父」と呼ばれた政治家、ベンジャミン・フランクリンの遺した言葉です。
この偉人が活躍した時代から2世紀あまりが過ぎた現代、社会は大きく変わり、
「情報は金なり」
とも言えるようになってきました。今は、時間と同様に情報も大変貴重な資源なのです。
今回取り扱う「情報」は、英語で「インテリジェンス」と呼ばれるものです。
日本語のイメージでは、「情報」は「インフォメーション」とか「データ」の意味合いが強いですが、これらは「無選別の情報」を指します。これに対して「インテリジェンス」は、こうした無選別の情報をたくさん収集し、分析し、精査して、政策や経済活動の方針などの意思決定をすることです。
つまり、意思決定につながる新たな知の創出と定義できる知的活動ですね。

「インテリジェンス」は何のため?

では、インテリジェンスは一体何のためにするのでしょうか? それは大きく分けて、以下の4つの目的のためです。

①意思決定(未来予測)のため

情報が氾濫する現代社会では、何かを意思決定することは容易ではありません。政府や企業は社会情勢の影響を強く受け、日々緊張の中で最善の選択を迫られています。数多ある情報の中から真実を抜き出し、さらに今後の未来まで予測した上で意思決定する、この重要な過程こそ、インテリジェンスは大きく貢献しています。

②リスク・コントロールのため

技術の進歩で、人類の豊かさは飛躍的に進歩しています。しかしその引き換えに、テロリズムや戦争、汚染、差別などのリスクも大量に生み出されています。社会は我々に、豊かさと同じだけリスクも分配していると言えるのではないでしょうか。AIの発展はその好例ですね。AIは、人間の知的活動を飛躍的に向上させた一方でフェイクニュースのようなリスクも生み出し、その危険性もまた急激に深刻化しています。
メリットとリスクは表裏一体であり、言い換えれば、リスクを利用することでメリットを生み出すこともできると言えます。いかに危機を回避し機会を掴めるか。無数の情報を使ってリスクをコントロールするのが、インテリジェンスの大きな役割です。

③変化をいち早くキャッチする(競争優位を確保する)ため

現代社会では、成功者は大きな利益を得ることができますが、それだけシビアな競争を毎日戦っていると言えます。競争に勝つためには、競合他社より一歩でも先に情報収集・分析し、新たなサービスを社会に提供しなければなりません。社会情勢や人々の流行・ニーズなどの変化の兆しをいち早くキャッチし、素早くアクションに移すことが重要です。いち早く感知して、いち早く行動する。これこそ最たるインテリジェンスです。

④自己中心的な判断を避けるため

意思決定する際に最も怖いことは何でしょうか? それは、自分の思い込み(バイアス)によって判断を間違えることです。人間が最も間違いを犯しやすいのは、先入観があるときと自分の意見への固執があるときです。それを私たちは歴史から痛いほど学んでいます。情報をくまなく収集・分析することは、バイアスから脱却し、客観的な視点から判断するための最善手です。

イラストAC

インテリジェンスの目的とは、つまり、「変化をいち早くキャッチし、リスクをコントロールして、自己中心的な判断を避け、正しく意思決定する」ためです。
これは、教育活動そのものだと言えませんか?
教員の仕事とは、どんな種類の仕事でしょうか。
「他者の課題を解決する仕事」
ですね。子どもの学びも、保護者からの相談も、すべてそうです。だからこそ、教師は「変化をいち早くキャッチし、リスクをコントロールして、自己中心的な判断を避け、正しく意思決定する」インテリジェンスを我が物にする必要があるのです。
さらに、教師がインテリジェンスに使う情報のほとんどが、子どもたちや保護者といった、対人関係から得られるものとなります。
そのため、教員がインテリジェンスを行う上では、コミュニケーション能力もまた大変に重要だということになってきます。

私たちのインテリジェンスはコミュニケーション

では、ここからは具体的に、コミュニケーションを下敷きにしたインテリジェンスの実例をご紹介していきましょう。

①子どもや保護者から要求が起こる
「先生、〇〇さんに悪口を言われました」との訴えがあった
②情報(事実関係)を収集する
当時の状況を確認する。当事者の話を聞く。目撃者の証言を得る。当事者と、その周辺の人間関係を調べる
③情報を分析する
集めた事実から、実は当事者間に誤解があったことが判明
④意思決定をする
当事者と対話をする場を設けて、お互いの誤解を解き、和解をさせる

この一連の流れで、最も大切なのは情報を収集できる力です。まずは、素早く、率先して、気後れしたり面倒くさがったりせずに、自分から情報を集めに行きます。
この姿勢は、不確実な社会で特に必要です。コロナ禍を指導の現場で経験された方は思い出してみてください。不測の事態が起こったとき、情報収集に慣れていない人たちは戸惑うばかりで、対応が後手後手になっていませんでしたか?
次に、情報を集める際の姿勢も大切です。まず自分の熱血的な指導で解決させよう、などという考えをお持ちなら、この際捨ててください。
人は誰しも、認知に偏りがあります。自分の見たいように世界を見ていると言っても過言ではありません。また、最初から警戒心を持たず、気安く語ってくれる人も少ないと言えます。
だからこそ、先入観を捨て、自分の感情を交えずに、根気強くフラットに客観的に、さまざまな人の口から出てくる情報を集めます。
こうした情報収集におけるコミュニケーション力が、問題解決に高い精度をもたらします。

イラストAC

普段からインテリジェンスを心がけよう

いざというときにしっかりインテリジェンスを働かせるためには、普段からの準備が大事だと言えます。ぜひ、学校現場で常日頃からルーティンとして、インテリジェンスのための下準備をしておきましょう。

①情報に対する感度を高めよう
現代は不測の事態だらけです。知らないことや、他人事だと思っていたことに、ある日突然当事者として巻き込まれることがあります。SNSいじめのように、新しい技術と教育現場が結びつくことなど、もはや珍しくも何ともありません。学校は教育関連の情報だけでなく、社会情勢を含め、あらゆる領域の情報に絶えずアンテナを張っておくべきでしょう。
時間のないみなさんのために、ここでご提案したいのは、職員室にて社会情勢のニュースをキャッチアップできる電子掲示板の設置、もしくは教育委員会や企業からニュースメールが送られてくるシステムといったものを構築するのはいかがでしょうか。最新の社会情勢に関するニュースは社会の授業をはじめ、職員室、そして教室の雑談にも活用可能です。ぜひ、学校と社会を短時間でつなぐシステムを構築されることをここで提言させてください。

②人たらしになろう
インテリジェンス・コミュニケーションは人との関係性ありきです。必要な情報を集めたいときに、人脈が乏しいようでは集めたくても集めることができません。インテリジェンス活動には「人たらし」要素が大事であると述べた著述家もいます。多くの人に好かれ、魅了する人ということです。
実際、本職のスパイには、映画などエンターテイメント作品で描かれる人物像とは裏腹に、人懐っこく魅力的な人物も多いとか。どんな性格の児童や保護者とも良好な関係性を築く必要がある教師は、ある程度「人たらし」であるべきと筆者は思っています。そして、多くの人に好かれる人は、例外なく傾聴が得意です。こうしたことも教師としての一つの力と言えるのではないでしょうか。

この記事をシェアしよう!

フッターです。