【シリーズ】高田保則 先生presents 通級指導教室の凸凹な日々。♯17 支援の「フェードアウト」を考える

通級指導教室担当・高田保則先生が、多様な個性をもつ子どもたちの凸凹と自らの凸凹が織りなす山あり谷ありの日常をレポート。情熱とアイデアに満ちた実践例の数々は、特別支援教育に関わる全ての方々に勇気と元気を与えるはずです。
執筆/北海道公立小学校通級指導教室担当・高田保則
目次
はじめに
北海道オホーツク地方の小学校で、通級指導教室を担当している高田保則(たかだやすのり)です。日々、子どもたちと向き合う中で感じたことや考えたことを綴っています。ここに記す事例は、これまでに出会った子どもたちのエピソードを組み合わせて作った架空のお話ですが、実際に過ごした時間の空気感を込めています。
年末になりました。年が明けると、学校の今年度は、あっという間に終わりに近づいていきます。私は12月になると、担当している子どもの通級指導を継続するかどうかを検討します。もし担当する子の支援を終わりにするなら、時間をかけて準備を始めたいからです。
本来、通級指導の始まりや終わりは、子どもの希望や状態に合わせて決めるものです。しかし、子どもと指導者が楽しい時間を共有するほど、指導を終わらせるきっかけを見失いがちになります。そこで今回は、通級指導の終わり方について考えてみます。支援級や通常級も含めた「支援のフェードアウトを考える」というテーマで記していきます。
1.支援の賞味期限
子どもが期待する姿を見せないとき、私たちはつい支援を増やしたくなります。一方、子どもが望ましい行動を示したときには、さまざまな形の報酬を用意します。
また、失敗しないように細かな指示や説明を加えることもあります。場合によっては、ペナルティーを用いることもあるでしょう。
それらの手立ては、確かに一時的な効果を生みます。しかし、支援を増やし、報酬を与え、失敗しないように配慮し続ければ、子どもは健全に育つのでしょうか。増やした支援に、子どもが頼りきりになってしまうことはないでしょうか。過度な報酬に慣れ、次第に効果が薄れてしまうことはないでしょうか。細かな指示を毎日続けていると、子どもは次第に自分の頭で考えなくなります。最初はペナルティーを恐れていた子どもが、わざとルール違反をするお試し行動を取るようになり、ひいては学級や学校の荒れにつながることもあります。その子にフィットしていた適切な支援方法にも、賞味期限があります。子どもが次の段階へ育つためには、うまくいっていた支援を手放す必要が生じるタイミングがあるのです。
2.報酬の弊害
〈ゲームがやめられないEさん〉
Eさんは、長時間のゲームがやめられず、朝起きるのが辛くなっていました。やがて学校を休むようになってしまいました。困った保護者は、Eさんが登校できたらゲーム機の付属品を買い与えるという「ご褒美」を用意しました。Eさんは再び登校するようになりましたが、1週間ほどでまた欠席が始まりました。
このエピソードは、子どもに与える報酬の効果が、必ずしも長続きしないことを示しています。
Eさんが登校できるようになったとき、物的なご褒美がなくても登校を続けられる手立てが必要だったのかもしれません。
行動分析学に基づくABA(応用行動分析)では、望ましい行動を強化するために報酬を用います。
スタンプカードやシール、クラス全体の成果としてのご褒美などの報酬の手だては、学校現場でも広く活用されています。ABA分析は、子どもの行動を丁寧に捉え、支援の効果を検証しながら調整していく実践です。その中には、報酬を徐々に減らし、より自然な強化へと移行していく「フェードアウト」の考え方も含まれています。
しかし、学校現場では「効いた支援」を手放すことに不安を感じ、報酬を続けてしまうことが往々にしてあります。支援が効いているからこそやめられない、その心理がフェードアウトを難しくしているのかもしれません。
子どもの行動が安定してきたら、報酬を徐々に減らし、課題を達成した満足感や、周囲からの「できたね」という言葉など、より自然な強化で行動が維持されるように移行していく必要があります。フェードアウトをせずに同じ報酬を与え続けると、子どもはやがて慣れ、飽きてしまいます。さらに刺激の強い報酬を用いるようになると、行動の目的が「学ぶこと」ではなく「報酬を得ること」へとすり替わってしまうのです。
指導者が報酬を与え続けることが習慣化すると、子どもは次の指示を待つようになり、自分で考える機会を失ってしまいます。その結果、子どもの主体性が育ちにくい環境ができあがってしまうのです。

3.授業参加の様子から支援のフェードアウトを考える
〈授業中にイライラしなくなったFさん〉
Fさんは、授業中にイライラして暴れるという引き継ぎを受け、4月に通級指導を開始しました。12月になった今では、そうした様子はまったく見られなくなりました。所属学級での授業を参観すると、Fさんは明るい表情で学習に参加していました。
通級指導の中で、私はFさんに尋ねました。
「勉強の調子はどう?」
「困ってないよ。わからないときは、みんなが教えてくれるから。」
Fさんが不安定になっていた背景には、学習内容が理解できない場面で助けを求める術を持てなかったことがあると、私は考えていました。Fさんの困りは解消に向かっているようでした。
「困ってないなら、通級を一回お休みしてみようか?」
「えっ、どうして?」
「お休みしても困らないか、確かめてみよう。」
通級指導の終了を嫌がる子は多いものです。うまくいっている環境が変わることを、子どもは本能的に避けるのかもしれません。だから私は、「終わり」ではなく「お休み」という言葉を使います。Fさんの通級指導は、休みの回数を少しずつ増やしながら、フェードアウトしていきました。

4.子どもの言葉から支援のフェードアウトを考える
〈授業が楽しくなったGさん〉
Gさんは、「授業が面白くない」という訴えで通級指導を開始しました。昨年度は授業と関係のない言動が目立ち、注意を受けることが増え、その結果、授業への意欲が低下していました。
私は、Gさんの興味や学習上の困りを丁寧に聞き取り、フィットした学習方法を提案しました。できたことを認め、長所に目を向けた言葉かけを心がけました。その結果、成績が上がり、授業への不満を口にすることが減っていきました。
ある日、通級指導の時間になってもGさんが指導室に来ませんでした。迎えに行くと、
「今日の社会の授業、面白いんです。今日はクラスの授業を受けたいです。」
と話しました。
「Gさんが『授業が面白い』と言うなんて、感動したよ。」
そう伝えると、Gさんは誇らしげな表情を浮かべました。その後、Gさんの通級指導は、しばらくお休みすることになりました。
5.子どもの行動から支援のフェードアウトを考える
〈学習習慣が定着したHさん〉
中学生のHさんは、高校進学を見据え、成績不振を理由に通級指導を希望しました。検査や観察を通して、私はHさんの学び方の強みを分析し、理解を重視した学習方法を提案しました。
秋の定期テストでHさんの成績が向上しました。テスト勉強の取り組みを尋ねると、Hさんは部活動の仲間と地域のコミュニティセンターで勉強していることを教えてくれました。コミュニティセンターには、以前から知り合いのスタッフがいて、わからないところを気軽に尋ねられる環境があったのです。
成績が上がり、学ぶことが楽しくなったHさんは、自ら学習参考書を購入したり、登校前に英単語を覚えたりするようになりました。学習習慣の変化が見られたことから、私は通級指導の休止を提案しました。
6.支援のフェードアウトを拒む子に
通級指導の休止を拒む子は少なくありません。通級の時間を楽しいと感じてもらえるのはありがたいことですが、通級を必要とする子は他にもいます。通級指導の開始と休止は、子ども本人の思いを尊重しながら、折り合いを見つけて判断しています。
私は、子どもの状態に応じて、次のような言葉をかけています。
「困ってないよね。」
「充実してるなぁ。」
「やる気オーラがにじみ出ている。」
「キミの席を、今困っている子に譲ってくれないか。」
こうした言葉かけを通して、子ども自身が「自分は大丈夫かもしれない」と感じ始め、通級指導の休止に納得してくれます。
7.おわりに ~支援の足し算が招くもの、引き算が育てるもの~
教室で次のような場面を見かけることがあります。
「席に着きましょう」
「教科書を出して、32ページを開いてください」
「鉛筆を持って」
明確な指示が必要な場面もありますが、それが常態化すると、子どもたちは次の指示を待つようになり、自分で考える機会を失っていきます。そこにさらに支援を足していくと、主体性は育ちにくくなります。
主体的に学び、自立した生活を送る子どもを育てるには、支援の引き算、すなわちフェードアウトを考える必要があります。視覚的な手順リストの活用、学級全体でのルーティンの共有、あえて指示を少し遅らせる工夫など、環境を整えることで、子どもは自分で判断する力を育てていきます。
支援のフェードアウトは、単に支援を取り除くことではありません。その子や集団にフィットした次の手立てを組み入れていく、継続的な営みです。子どもが自分で判断し行動できるようになるために、今必要な支援は何かを常に意識していきたいものです。

〇参考文献/『自閉症中学生2名に対するスクリプトおよびそのフェイディング手続きによる携帯電話スキルの指導』 宮崎眞 他 2011年3月 岩手大学教育学部研究年報 第70巻

高田保則先生プロフィール
たかだ・やすのり。1964年北海道紋別市生まれ。オホーツク地域の公立小学校教諭。公認心理師。特別支援教育士。開設された通級指導教室の運営を任され、新たな指導スタイルを模索している。趣味はバンド演奏。
