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保護者クレーム対応スキルを継続的に向上させ、学校全体に浸透させるためのヒント

連載
保護者クレーム対応の実践スキル 危機を絆に変える技術
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熱海 康太

保護者クレーム対応の実践スキル 危機を絆に変える技術⑬

これまでの連載を通して、クレーム対応を単なる「苦情処理」ではなく、保護者との信頼関係を築く大切なコミュニケーションの機会として捉え直す視点と技術を学んできました。スキルは「知ること」で終わるのではなく、「使い続けること」で本当の力になります。そのためには、日常の実践と定期的な振り返りを通して、自分のものにしていくことが欠かせません。

執筆/一般社団法人日本未来教育研究機構 代表理事・熱海康太

学校研修の仕方

クレーム対応のスキルを学校に浸透させるためには、個々の教員が孤立して学ぶのではなく、学校全体の文化として共有することが重要です。その実現には、学校研修が効果的です。研修では、理論を学ぶ講義に加え、ロールプレイングやケーススタディを取り入れることで、実際に起こり得る場面を体験的に学ぶことができます。

例えば「保護者が強い口調で電話をかけてきた」「ネット上で子どもに関する書き込みが拡散された」といった具体的なシナリオを設定し、対応を演じてみます。その際、受容→共感→傾聴の3ステップやクッション言葉の効果的な活用など、これまで紹介してきた技術を意識的に使うことが求められます。実際に声に出して表現することで、自分の対応の癖や改善点が明らかになり、座学だけでは得られない深い学びにつながります。私自身も多くの学校で「クレーム対応講座」を行い、保護者対応だけでなく、児童生徒や同僚とのコミュニケーションまで改善が見られたという反応をいただいています。

継続的なスキル向上の方法

一度学んだからといって、クレーム対応のスキルが永続的に定着するわけではありません。対応の場面ごとに状況や相手の思いは異なり、その都度柔軟な判断が必要になります。そのため、定期的な振り返りと実践を重ねることが欠かせません。

例えば、職員会議や学年会の中で「クレーム対応のポジティブ事例共有タイム」を設けることは有効です。短い時間でも、実際にあった事例を紹介し、どう対応したか、どのような工夫が有効だったかを話し合うことで、一人の学びが全体の知恵へと発展します。このような事例ではネガティブなことが扱われることが多いですが、できるだけポジティブなものを扱うことで、先生方の意識も変わってきます。

さらに、外部の専門家を招いた研修会や最新の研究知見を紹介するセミナーに参加することも、スキルを磨き続ける上で有益です。特に近年は、SNSやデジタル環境に起因するトラブルが増えており、従来の対応法だけでは不十分な場合もあります。新しい事例や対応策を知ることは、教員が安心して現場に立ち続けるための大きな力になります。

池和子/イラストメーカーズ

教職員同士の支え合い

クレーム対応において忘れてはならないのは、教職員同士の支え合いです。対応に悩んだときに「一人で抱え込まない」ことが何より大切です。心理的安全性のある職員室では、失敗や困難を共有できる雰囲気が整っており、それが組織全体の成長につながります。逆に、孤立した環境では小さな不安が大きなストレスとなり、対応の質にも影響を及ぼしてしまいます。

具体的には、「この対応についてどう思う?」と気軽に声をかけ合える関係づくりや、対応をシェアする仕組みを整えることが効果的です。クレーム対応は一人の力で完結するものではなく、チーム全体で知恵を持ち寄ることで、より冷静で一貫した対応が可能になります。支え合いの文化を育むことは、個々の負担を軽減するだけでなく、学校全体の信頼を高める力にもなるのです。

クレーム発見の価値観

クレームが発生した際に「クレーム発生」という捉え方はやめていきたいものです。その代わりに「クレーム発見」という見方を持ちたいものです。サイレントクレーマーとして、隠れていたものが意見を言ってくれて改善のチャンスをくれた、組織としてそのように捉えていくことが重要です。決して、個人のせいではなく、逆に、「ポジティブですらある」という雰囲気はクレーム対応に強い学校の特徴です。

自分自身の幸せを大切にする視点

最後に強調したいのは、教職員自身の幸せを守るという視点です。


バナーイラスト/futaba(イラストメーカーズ)

熱海康太

著者:熱海康太(あつみこうた)
一般社団法人日本未来教育研究機構 代表理事
大学卒業後、神奈川県内の公立学校、私立学校で教鞭を取る。
大手進学塾の教育研究所を経て、現職。
10冊以上の教育書を執筆し、全国10,000人以上の先生方に講演を行うなど、幅広く活動している。

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