新しい指導要録とは?作成のポイントを解説!
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2020年度から指導要録の書式が変わり、各教科の評価が三観点になります。とは言え今年作成する要録は従来通り。実施に差し当たりいろいろなホンネを抱く教師も少なくないでしょう。でも、4月以降はもちろん、今年度の要録作成にあたっても、新様式を意識しておく必要はあるのです。意識すべきポイントを、新採教員にも分かりやすく解説します。
執筆/兵庫県公立小学校校長・ 俵原正仁
目次
ところで結局何が変わるの?
まずはちょっと長い前置きから
「お上の事には間違いはございますまいから」
『最後の一句』森鴎外
現実の社会でこの言葉が使われる時、多くの場合、そこに権力側の人間に対する皮肉や批判が含まれています。私も、若い頃は、文部科学省(以下、文科省)の出す通知や通達などしっかりと見たこともないくせに、「所詮、現場のことも分からんエリートが、机上の空論で何を言っているんだ」というような思い上がった考えを持っていました。
そして、時が流れ、私も順調に年を取り、教育委員会に籍を置くことになりました。嫌でも文科省の通知や通達を目にすることになります。で、お仕事ですから、一応目を通します。読んでみて、こう思いました。
「お上の言う事もあながち間違ってないやん」
なんで上から目線やねん!……とお叱りを受けそうですが、まぁ、これがその時に感じていた正直な思いでした。そのうち、通知や通達にかかわった人や何とか調査官の人の話を、講演会や研修会でも聞くようになります。次第に、自分の見方が変わってきました。
「お上の事には間違いはございますまいから」
皮肉なしでこう思ったのです。
「この人たち、現場のこともすごく勉強している。生半可な覚悟でこれつくってないわ。何となく気に入らん……と思いつきレベルで批判できる内容ではない!」
通知や通達をしっかり読み込めば、現場で生かすことができる。そう感じました。むしろ、現場に降りてきたものと元の通知や通達を見比べてみると、なんかニュアンスが違っているものさえありました。途中で誰かのバイアスがかかっているのでしょうか。それだけに、現場の教員こそ、原点を見なければいけない……まさに、完全なる手のひら返しです。
ずいぶん、前置きが長くなりました。つまり、2020年度から始まる学習指導要領の改訂に伴う指導要録の改訂についても、まず原点、つまり文科省の通知から見ていかなければいけないということです。
えっ、当たり前のことを言うなって?でも、私自身、そのようなことがなかなか分からなかったわけです。そのことがすでに実感できている人は、まさに「いち」のごとく「生先(おいさき)の恐ろしい」存在です。でも、全員がそうではないはずです。だから、述べさせてもらいました。
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お上は何を言っているのかな?
それでは、お上のことを見ていきましょう。
小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校等における児童生徒の学習評価及び指導要録の改善等について(通知)
上記は平成31年3月29日付けで出された通知です。通知の1ページ目には次のように書かれています。
ついては、下記に示す学習評価を行うに当たっての配慮事項及び指導要録に記載する事項の見直しの要点並びに別紙について十分にご理解の上、各都道府県教育委員会におかれては、所管の学校及び域内の市区町村教育委員会に対し、(中略)新学習指導要領の下で、報告の趣旨を踏まえた学習指導及び学習評価並びに指導要録の様式の設定等が適切に行われるよう、これらの十分な周知及び必要な指導などをお願いします。
小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校等における児童生徒の学習評価及び指導要録の改善等について(通知)
行政言葉で何やら難しげです。でも、簡単に言うと、「今から言うことを、ちゃんと学校にやらしときやぁ」ということです。では、その「今から言うこと」とは何でしょうか?……。
と、その前に大事なことを一つ言っておきます。
『指導要録の様式が変わるのは、来年度から』
例えば、来年度からは、各教科の評価の観点は3観点になりますが、本年度は、従来通り4観点で評価します。つまり、今まで通り指導要録を作成すればよいということです。……となると、当然こう思うはずです。
「それやったら、別にこんな通知のこと読まなくてもいいやん!」
いやいや、それが違うんです。先の通知を読み進めていくと、「学習評価の改善の基本的な方向性」として、次の3つのことが示されています。
- 児童生徒の学習改善につながるものにしていくこと
- 教師の指導力改善につながるものにしていくこと
- これまで慣行として行われてきたことでも、必要性・妥当性が認められないものは見直していくこと
このようなことは、4月当初から意識しておかなければいけないことです。
実際に指導要録を書き始めるこの時期に言われても、「今さら言われても知らんがな」と開き直るしかありませんよね。つまり、この方向性は、今、知っておかなければいけないことなのです。
今、知っておいた方がいいですよ
……と言われても、「それでも、4月でもいいやん!」と思うかもしれません。確かに、4月なら間に合います。でも、やはりこの時期に、内容を頭に入れておいた方がベターです。
「なんやかんやで4月は忙しいから、そんな余裕がなくなる」というのも理由の一つですが、今年度の指導要録を作成する際にも気を付けておいた方がよい内容が含まれているからです。
先の文書をさらに読み進めていくと、次のような内容にたどり着きます。
3 指導要録の主な改善点について
指導要録の改善点は以下に示すほか、別紙1から別紙3まで及び参考様式に示すとおりであること。設置者や各学校においては、それらを参考に指導要録の様式の設定や作成に当たることが求められること。
改善点は (1)~(5)挙げられています。 (1) は、三・四年生の「外国語活動の記録」について、(2)~(4)は、小学校とは関係ありません。実は最後の(5)が、なかなか刺激的なのです。
(5)教師の勤務負担軽減の観点から、
【1】「総合所見及び指導上参考となる諸事項」については、要点を箇条書きとするなど、その記載事項を必要最小限にとどめる。
さらに、この後には、通級による指導を受けている子どもについては、指導計画の写しを添付することで、指導要録への記入に替えることも可能である……と書かれています。
とかく、現場では、詳しく書くことが正義のような風潮になることがありますが、実は文科省は、そのようなことを望んでいないのです。むしろ、働き方改革に向けて、記述の簡素化を図るように、お上が言っているのです。現場で、無茶を言われたとしても「お上の事には間違いはございますまいから」と言うことができます。
さらに、話を続けます。
別紙1には、「小学校及び特別支援学校小学部の指導要録に記載する事項等」が書かれています(別紙2は中学校。別紙3は高等学校です)。その別紙1に書かれている項目を指導要録の形にしたのが、参考様式です。この参考様式を基に、それぞれの地域ごとに指導要録が作られることになるわけです。 文科省が示している参考様式は、次のようなものです。
ぱっと見た印象では、今までのものとあまり変わっていないような感じがします。大きく変わった点は、次の3点です。
- 各教科の学習の記録における評価の観点が、全ての教科で3観点になったこと
- 五・六年生の教科の欄に「外国語」が、三・四年生に「外国語活動の記録」が入ったこと
- 特別の教科道徳の文章表記の欄が入ったこと
ただ、「特別の教科道徳」については、小学校においては昨年度より全面実施されています。これに合わせて、昨年度より指導要録の形式が一部変わったところがあるかもしれません。
私の勤務している芦屋市では、形式の変更はありませんでしたので、総合所見の欄に、道徳に関する記述を追記するようになりました。芦屋市のようなパターンも多いのではないでしょうか。
どちらにしても、すでに書いたことがあるという点では、戸惑いは少ないかもしれません。でも、昨年度、次の点を意識して評価していましたか?
個々の内容項目ごとではなく、大くくりなまとまりを踏まえた評価とすること「特別の教科道徳」の指導方法・評価について(報告)
平成28年7月22日
キーワードは、「大くくり」。
この「大くくり」とは、「正直、誠実」「礼儀」「規則の尊重」「生命の尊さ」等の個々の内容項目ごとの評価ではなく、年間や学期という一定の時間のまとまりの中で、学習状況や道徳性にかかる成長の様子を評価するということです。
つまり、1時間の授業のみに特化した書き方をしてはいけないということになります。だから、次のような記述の場合、チェックが入る場合があります。
<要注意文例>
「まんまるおにぎり」の学習では、家族のためにおにぎりをつくったさやかさんの気持ちを考える中で、「自分も家族のために何かしたい」と言う思いを強くした。
ただし、一つの授業のことが書かれていても、その前後に、大くくりの文章がある下記のような場合は、OKということもあるようです。
<好ましい文例>
自分を大切にしてくれる家族に対して、敬愛の気持ちを持とうと考えた。特に「まんまるおにぎり」の学習では~~(略)。
ちなみに、芦屋の場合はアウトですので、このあたりのさじ加減は、各自調査してください。
たわらはら・まさひと。1985年兵庫教育大学卒。現在、宮川小学校校長を務める。座右の銘は、「GOALはHAPPY ENDに決まっている」。好きなキャンプ場は、高知安芸キャンプです。著書に『若い教師のための1年生が絶対こっちを向く指導!』(学陽書房)他がある。
イラスト/浅羽ピピ
『教育技術 小一小二』2020年3月号より