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コロナ禍がきっかけのマイスタ、自己調整学習 【次期学習指導要領「改訂への道」#21】

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中教審レポートと関係者インタビューで綴る 次期学習指導要領「改訂への道」
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前回は、目黒区立東山小学校の取組の概要やポイントについて、同校の村尾勝利校長に話を伺いました。今回は、同校の取組の特徴の1つである、生み出した時間を活用したマイスタの実践の様子を紹介するとともに、そのような取組を行う意図やねらいなどについて、村尾校長に聞いていきます。

ダイアローグの時間で子供の内面、子供の心の風景を担任が知る

取材日の午後、村尾校長と共にマイスタの様子を低学年から順番に見ていきましたが、どの学年、どのクラスでも非常に静かに子供たちがプリントに向かって学習を進めていました。それらは、(5月中の取材時には)国語あるいは算数のプリントで、プリントのリストを手元に置きながら、子供たち一人一人が自分は何をやるか、単元や内容を確認して決め、取り組んでいます。 

「4月から5月にかけては既習事項が理解・定着できているかどうか、前年度の国語と算数の学習について、自分で確認をしながら進めているところです。これが、6月以降になると、どんな教科でもよいし、予習に使ってもよいし、特に深めたい探究的な内容に取組んでもよいのです」と村尾校長。 


東京都目黒区東山小学校・村尾勝利校長

丸つけする1年生の子供
学習したばかりの内容について、真剣にプリントに取り組み、丸付けをしている1年生。

小学校での学習を始めたばかりの1年生は、先生の指導も受けながらではあるものの、考えながら落ち着いてプリント学習を行っています。小学校の2年目が始まったばかりの2年生は、非常に落ち着いて静かに自分で何に取組むかを考え、プリント学習を進めて、子供によっては終わったプリントをチェックし、次のプリントに進んでいるのがとても印象的でした。 

中学年のクラスに来たところで、担任の先生と1人の児童が2人だけで廊下に出て、静かにかつ穏やかな表情で話をしている様子が目にとまりました。 

「これはダイアローグの時間(1対1の個人面談)です。本校では、年間2回、5〜6月頃と12月に面談を行っていますが、ここでの約束は絶対に叱らないということです。『最近、忘れ物が多いよ』といった生活指導の注意もダメです。『最近は何が楽しい?』というような普通の会話を自由にして、児童理解や児童との信頼関係づくりをしていきます。その中で、もし『こんなことに困っている』と相談を受けたら、それについて一緒に考えていけばよいのです。

面談する中学年の子供と担任の先生
マイスタの時間中に、個人面談を行っていた中学年の子供と担任の先生。

タブレットを使う高学年の子供たち
タブレットを使い、各自が自身の設定した課題に沿って学習に取り組む高学年の子供たち。

マイスタは子供自身が考えて行うため、通常、担任は子供の学習状況を見て回り、個別の対応をしています。それと同時に、年2回のダイアローグの時間で子供の内面、子供の心の風景を担任が知ることができ、持ち上がりではない担任の子供との信頼関係も早期に確立することができるのです。これは先生方にも非常に好評です」と村尾校長。 

さらに高学年のクラスでは、タブレット端末を使いながら、各自が取組む問題を選んで、マイスタの学習を進めている様子も見られました(注:時期や内容にもよるが、タブレットは低学年から活用されている)。 

「なぜ子供の自由にさせるのか」「新鮮だ」などが保護者の意見

このようなマイスタや自己調整学習の取組の成果や保護者の反応などについて、村尾校長は次のように話します。 

「今年の4月に、2年生以上にマイスタの意識調査をしてみました。すると、『自分の課題が分かっているか』という質問に対し、肯定的な回答が多く見られます。あるいは、『課題を解決するために学習方法を選ぶことができるか』という質問については、『先生とならできる』という子供もいますが、『選択肢から選ぶことができる』『経験から選ぶことができる』という子供が大半です。さらに、『マイスタでやりたいことは何か』といった質問に対しては、『復習』『予習』『授業で学習したことをもっとやりたい』という子供がいる一方で、『探究』と答えた子供も3割弱いました(資料参照)。 

【資料】

マイスタアンケート結果
今年度1回目の、マイスタアンケート(6年生対象の結果)。ちなみに、2年生でも『自分の課題が分かっている』と答えた児童は8割を超えている。

先日、高学年の授業参観で保護者にマイスタの時間を見てもらったのです。保護者はそのような学習を見たことがないので、『なぜ子供の自由にさせるのか』『学校では授業をやってほしい』といった意見などもありましたが、『新鮮だ』とか『このような学習を通して主体的に学ぶ力を付けたいという学校の方針が分かりました』という肯定的なご意見も多くありました。 

このようなマイスタや自己調整学習、さらに探究を進めていくには、やはり3時30分まで授業があるような状況ではむずかしく、先生方が午後、活用できる時間が必要です。その時間を使って実践を進めながら、さらにどの学校でもどの先生でも実践できるよう、資料や学習シート、ツールを研究開発し、蓄積することで、どんどん教科や単元の幅を広げていきたいと思っています。 

ただし、活用できる資料が増えれば増えるほど、児童の実態に応じた教材研究力が落ちるという心配も生じます。活用できるシートが増え、『これを使えばいい』となると考えなくなり、つまらない授業になってしまうでしょう。ですから、『先行資料を参考にしてもよいけど、必ず自分の子供たちの実態に合ったものに修正しよう』と話をしています。 

また、このようなマイスタや自己調整学習の時間を増やしていくと、派生的に不登校の子供も自分のペースで学習でき、学校に来やすくなるのではないかと期待しています。通常の授業であれば、過去の授業の内容が分からなければ、その日の授業も分からないでしょう。しかし、自己調整学習であれば、個々の進み具合は一人一人違うし、誰かと比較されるわけでもない、しかも資料や学習シートがあるので、自分なりに進めることができます。ですから、学習の不適応や集団の不適応を起こしている子供も、こうした時間なら、週1回でもよいので来てくれないだろうかと、研究を進めているところです」 

多くの先生は「教えないと子供はできない」と思い込んでいる

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