宿題とインクルーシブ教育ー「学校の当たり前」を見直す|インクルーシブ教育を実現するために、今私たちができること #15


「インクルーシブ教育」を通常学級で実現するためには、どうすればよいのでしょうか? インクルーシブ教育の研究に取り組む青山新吾先生が、現場の先生方の悩みや喜びに寄り添いながら、インクルーシブ教育を実現するために学級担任ができること、すべきことについて解説します。今回は、学校の当たり前を見直すという視点から考えていきます。
執筆/ノートルダム清心女子大学人間生活学部児童学科准教授・インクルーシブ教育研究センター長・青山新吾
目次
インクルーシブ教育とは何か
野口晃菜(2022年)は、「インクルーシブ教育」の対象は虐待をされている子ども、外国にルーツのある子ども、貧困状況にある子ども、性的マイノリティの子ども、障害や病気のある子ども、不登校の子どもなどのマイノリティ属性の子どもを含むすべての子どもたちであるとしています。そして、すべての子どもたちを包摂する教育を目指すプロセスがインクルーシブ教育であり、そのためには、これまでの教育システムを変えていくことが必要だとしています。本連載では、インクルーシブ教育を実現するためには、通常学級の教育が変わっていくことが求められているという前提に立っています。
今回は、「学校の当たり前」を見直すことで、これまでの教育システムを変えてインクルーシブ教育を進めていくヒントを探ります。
「学校の当たり前」には何があるかー宿題の話ー
日本の学校教育システムの中に当たり前にあるのが「宿題」です。「宿題」は、日本の学校教育において「最も日常的な学びの一部」として存在していますが、その当たり前がすべての子どもにとって「学び」になっているかどうか、立ち止まって考えてみる必要があります。
「宿題」に関して、みなさんはこれまでにどのような話を聞かれ、考えたことがあるでしょうか。ある保護者の方々と懇談した際に「宿題」が話題になりました。
「もう、毎日が憂鬱で仕方がないんです……」と話され、大きなため息を漏らされた方々がいました。さらに、お話を聞いてみると、
「もう、とにかく宿題の量が多すぎて、終わらないんです。ここまで頑張ったんだから、もう終わりにしようと私が言っても、全部やっていかないとダメなんだ!といって大泣きをしながらやり続けるんです。深夜になってしまうこともたびたびあって……」と言われました。

それを聞いていた別の方が、「分かります……うちは、『自由勉強』という名の下で、何をしてもよいという『宿題』がよく出るのです。これがくせ者で……」と共感的に言われました。
さらに、話を聞いてみると、
「歴史上の登場人物に興味があって調べているのです。それは子どもの興味・関心を活かしているからよいと思うのですが、ネットで検索して出てきたことを鉛筆でノートに写すだけなのです。1日にノート2ページ分の学習をするようになっているので、けっこう時間がかかります。子どももイライラした感じでひたすら写しているので、その後に不機嫌になったり、他にしないといけないことができなくてトラブルが起きたりしやすいんです。でも、そうやって苦労する割に、この時間がいったい何の力になるのかなって思ってしまいます。提出したノートには、先生が大きな丸を付けて返してくださっています。先生も大変でしょうね」と言われました。
これをきっかけに、この「宿題」トークは盛り上がったのでした。トークの中には、子どもたち自身はどのように言っているのかという話も出てきました。
「なんでもよいから、ノートを埋めて出しておけば、先生は丸をしてくれるからそれでいいんだ」
「理由を話しても聞いてくれずに怒られるだけだから、絶対に全部していかないとダメなんだ」
といった子どもたちの声が紹介されました。
また、「宿題」が原因で、家庭内の親子トラブルになるのだと先生に相談したところ、
「医療で障害の診断がありましたね。でしたら、もう『宿題』はしなくてよいので安心してください」と言われたという極端な話もあり、参加者全員が考え込んでしまったのでした。