堀田龍也先生のEDIX講演レポート:次期学習指導要領に向けた教育の情報化の最新動向

EDIX東京2025にて行われた堀田龍也教授の講演をお届けします。今まさに、学習指導要領の次期改訂に向けて議論が本格化している中で、教育の情報化の最新動向についての講演です。教育現場のみならず、社会が変革の時期を迎えている中で、そうした変化の背景や教育におけるデジタル活用の意義、そしてこれから私たちが担うべき役割について語っていただきました。
取材/文:村岡明
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※動画は生成AIを利用した「NoLang」にて作成しました。
目次
はじめに
みなさん、こんにちは。東京学芸大学の堀田でございます。教育の情報化に関わるさまざまな委員を務めさせていただいております。今日は「次期学習指導要領に向けた教育の情報化の最新動向」について、お話をさせていただきます。
現在はちょうど、新しい学習指導要領を策定する方向性の議論の折り返し地点にあたります。今回の講演では、社会の変化を背景に教育がどう変わろうとしているのか、そして教育の情報化がどのように関与していくのかを中心にお話ししたいと思います。
社会変化と教育の課題
まず、日本社会が直面している大きな変化に触れておきたいと思います。少子高齢化と急速な人口減少により、日本は世界的にも注目される存在です。とくに我が国は、世界でも類を見ないスピードで人口が減少しており、これは経済や社会保障、教育といったあらゆる分野に影響を及ぼしています。
生産年齢人口が減少するということは、税収も減るということですから、教員を増やすことは現実的に難しくなっています。このため、学校が担うべき業務の見直しや教員の働き方改革が求められています。無駄な事務仕事の見直しや、管理職のリーダーシップの強化、さらには教育現場における業務の効率化が必要不可欠です。
さらに、国際的な競争力ランキングでも日本はかつての1位から35位、37位と大きく後退しました。G7諸国と比較しても、唯一日本だけが賃金が上昇していないという現実があります。このままでは、子供たちが今より厳しい社会を生きていくことになりますから、教育の在り方を根本から見直す必要性があります。
教員の役割とキャリア観の変化
「人生100年時代」と言われる中で、教員の働き方も見直されなければなりません。定年まで一律に同じ働き方をするのではなく、多様な働き方の中で役割分担がなされるべきです。たとえば、若い世代はフルタイムでしっかり働き、中堅は担任を持たない代わりに各教室を支援するような立場で働き、定年後でも専門性を生かしたピンポイントの働き方ができるといった、柔軟な役割設計が望まれます。
副業や途中退職、再雇用などのキャリアパスの見直しも必要です。現在の若者は3年で職場を変えるのが当たり前の時代です。教員もまた同様で、学校現場が多様な働き方を受け入れる環境を整える必要があります。
出ていく人もいれば、外からやってくる人もいる。やってくる人の中には企業で管理職をやっていたような、マネジメントスキルが高い人だっている。そういう人たちにどういう仕事を、どういう待遇でしていただくかを考えていかなければならなくなる、ということです。
大学と入試の変化
18歳人口の減少に伴い、大学の定員割れが常態化し、大学の淘汰が進んでいます。2050年には大体60万人になると言われています。大学の進学率は大体5割から6割程度で、令和3年にひっくり返って以来、大学の定員よりもずっと下回っていますので、大学が次々に倒産する時代になったんですね。
そのため、入試のあり方も大きく変わりつつあります。従来のような「知識の量」ではなく、「何を学びたいか」「どう学びたいか」といった主体性が問われる時代になっています。つまりこれから「勉強する」というのは、自分が何をどう学びたいかをしっかり考えるというようになるということです。
こうした変化は、非認知能力や自己調整学習といった力の重要性を高めています。現行の学習指導要領でも、学びに向かう力が最上位の資質として位置づけられており、これは次期学習指導要領にも引き継がれていく見込みです。
授業スタイルの変化と定着
GIGAスクール構想によって、1人1台端末が整備され、授業のスタイルも大きく変わりました。従来のように「先生の話を聞く」スタイルから、子供一人一人が「自分で調べ、考え、友達と相談する」「端末を通じて、児童生徒が自ら調べ、まとめ、発表する」というスタイルへの転換が多くの学校で進んでいます。
たとえば、理科の実験を動画に記録して後で見直す、算数で図形をデジタルで操作して理解を深めるなど、ICTの活用は体験を深めるための有効な手段となっています。理科で言えば、動画に撮っておけば、実験中に気泡が出てきたのはだいたい何度のときだったかということを後でもう一回見直して確認できます。算数でも画面上で図形を操作できれば、紙とハサミで図形を切っていただけで授業がほとんど終わっちゃった、というようなこともありませんね。
また、クラウドの活用により、他者の取組を見る「他者参照」が可能となり、学び合う文化が醸成されています。例えばスライドに教科書のことをまとめているときに、他の人のスライドが縦に並んでいれば、自分も一生懸命まとめながら他の人のまとめもちらちら見られるわけです。箇条書きにしている人がいるとか、図を入れている人がいるとか、そういうまとめ方の工夫みたいなことをお互い啓発し合うということになります。
「他者参照」は、非常に教育的な価値が高い活動で、「カンニング」ではありません。それは答えが一つだった時代の考え方ですよね。今は同じ答えに結びつくやり方は多様だということは当然だし、もはや答えが一つではないこともいっぱいあるし、もっと言うと答えがないこともあるわけです。異なる視点を学び合うことで、思考の質が高まっていくのです。
教科書読解力と自己調整学習
個別に学ぶには教科書を自力で読み解く力が不可欠です。しかし、現実には先生がすべて説明してしまうために、児童が教科書読解力を身につけられないという問題があります。そうすると先生には教科書を読み取るスキルが身につくんだけど、子どもは先生の話を聞くスキルだけが伸びるということになります。
このため、「自分が考えて重要だと思う箇所に自分で線を引く」「図と関連づけて考える」などの活動を通して、自力で正確に読めるように読解力を育てる必要があります。教科書だから全部大事ということではなく、どこが中核的な概念で、それに比べるとちょっと軽いのはどれで、みたいな選別も一人一人ができなきゃいけなくなるわけです。
さらに、学習の振り返りや目標設定などを通して、自ら学びを調整できる力(自己調整学習のスキル)を育てることも重視されるようになっています。一人一人が学んでいくと言っても、最初から一人で学べる人なんかいないわけです。うちの学校では一人で学べないから教師が一斉授業するんだって言って、やってたら永遠に一人で学べるようにならないので、段階をつけて子どもたちに示す必要があります。今自分はどのぐらいできていて、次にどういうことを目指さなきゃいけないかということを、学び方のスキルの向上として教えるんだということです。
外国籍児童と情報格差の包摂
また近年、外国籍の児童・生徒が増加していますが、ICTは彼らの学びを支える強力なツールとなります。翻訳機能や動画解説を通じて、言葉の壁を超えて学ぶことが可能になります。言葉が拙くても学力がある子供を、どう包摂するかが教育の質を問われる時代になっています。そういう子が学校に来られなくなるということのリスクをどうやって包摂するか、私たちは考えなきゃいけない。そのときにこの端末があるかどうかというのは非常に大きい。
GIGAスクール構想がこのような包摂的な教育のために構想されたことを、改めて理解することが重要です。
CBTと全国学力調査の進展
全国学力学習状況調査において、CBT(Computer Based Testing)の導入も進み、中学校理科ではすでにCBT形式で実施されています。全国9600校のうち、トラブルがあったのは1%以下と、非常に安定した運用が実現されています。
ちゃんとできなかった45校の事由にはどういう内訳があったかというのを見ると、ネットワークや端末がダメだから19校で、準備不足が26校。準備不足の方が多いんです。これは問題の発信がうまくいかなかったとか、日にちが間違ってたとか、いわばヒューマン・エラーですね。
ネットワークの問題は同じ自治体に集中している傾向があります。これは日頃使ってるとわかることだと思うし、ネットワークアセスメントしていればわかることですけど、国はネットワークアセスメントをしてほしいと何度も通達し、そしてそのための補助金まで出していますが、それでもやってないところで、こういうことが起こっているのかも知れません。
ネットワークの整備状況や端末の性能によって利用率には差があり、格差解消が今後の課題です。とくに、ICTの利用率が高い自治体では、学力向上との明確な相関が見られており、ICTの活用が教育効果に直結していることがわかっています。