教師の職業がおもしろいわけとは?「教師という仕事が10倍楽しくなるヒント」きっとおもしろい発見がある! #24


「教師という仕事が10倍楽しくなるヒント」の24回目のテーマは、「教師の職業がおもしろいわけとは?」です。教師という職業は大変には違いないのですが、どの職業も大変なところがあります。教師という職業は、大変なこと以上に魅力的なところがたくさんあり、そこを再認識してはいかがでしょうかという話です。

執筆/吉藤玲子(よしふじれいこ)
帝京平成大学教授。1961年、東京都生まれ。日本女子大学卒業後、小学校教員・校長としての経歴を含め、38年間、東京都の教育活動に携わる。専門は社会科教育。学級経営の傍ら、文部科学省「中央教育審議会教育課程部社会科」審議員等、様々な委員を兼務。校長になってからは、女性初の全国小学校社会科研究協議会会長、東京都小学校社会科研究会会長職を担う。2022年から現職。現在、小学校の教員を目指す学生を教えている。学校経営、社会科に関わる文献等著書多数。
目次
教師という職業はやっぱりおもしろい!
先日、ある人から「よく40年近くも教師という職業を続けてきましたね。大変だったでしょう」と言われました。そんなに大変だったかな? その時々で大変だったこともたくさんありましたが、「ともかく駆け抜けてきたなあ」というのが実感です。
世の中の教師や教育現場に関わる情報を見聞きして、一般の他の仕事をしている人は、教師とは大変な仕事だと思われているのかもしれません。どんな仕事でも大変なことはあると思うので、私は教師だけが特別に大変な仕事だとは考えていません。むしろ「楽しかった」からできたのだと思います。つらいことが先に来ていたら、途中でやめていたでしょう。では、何が楽しかったのか? それは、振り返ってみると、「教えること」「人との関わり」が楽しかったのだと思います。

卒業生との関わり
小学校のときの卒業生との関わりについては、この連載の最初の回に書きました。今でも何人かが近況をSNSで教えてくれています。そして現在、大学で教えていてもやはり卒業生との関わりを楽しんでいます。先生を目指して巣立っていった学生、理想と違って悩んでいる学生の相談にも乗っています。
偶然、人権メッセージの発表会場で、自分のクラスの子供の発表を参観に来ていた卒業生と会ったこともあります。「大丈夫? ちゃんと担任しているの?」の会話から始まり、近況報告をいろいろと話してくれました。自分の人生は一度しかなく、できることも限られていますが、いろいろな人の人生と関われることのおもしろさが教師という職業にはあると思います。教え子との出会いをこれからも大切にしていきたいと思います。
人に話すということ
かねてより退職後に地域の観光ボランティアガイドをやりたいと思っていたので、研修に参加し始めました。その実地研修のとき、「吉藤さんは、何か人に話す仕事をしているんですか?」と聞かれました。「そんなに違いますか?」と尋ねたら、「相手を見て話し、相手に分かるように話しているのでそう思ったんです」と言われました。
教師という仕事は1日中話していることが多いです。でも、相手のことを忘れたり考えなかったりしたら、子供も保護者もそっぽを向いてしまいます。どうやって自分の思いを相手に伝えようかと考えているうちに、おのずと話し方がうまくなっていったのかもしれません。改めて、「人に話すということ」が身に付く仕事なのだと分かりました。声の抑揚や大きさも経験の中で身に付きました。
皆さんもきっと多くの人の前で話す力が身に付いていると思います。そのことはぜひ自信をもってください。
教員という資格の重要性
世の中は転職ブームです。同じ仕事を一生続けていこうという発想が変わってきています。転職をする際に重要なのがそれまでのキャリアと資格です。「教員の資格なんて、塾の先生ぐらいしか役に立たないのでは」と思うかもしれませんが、人生100年時代、この資格があれば70歳を過ぎても職に就くことが可能なのです。実際に私が知っているだけで、3人もの人が現在70歳を過ぎて産休代替教員をしています。講師や特別な支援が必要な子供の支援員など、人材を必要とする職業がいろいろあります。
不安定な世の中です。これからは生成AIが発達して、なくなる仕事も出てくるでしょう。しかし、教師がロボットになることはないでしょう。教員という資格は、一生もっていることができます。つい忘れてしまいがちなことですが、この教員という資格をもっていることをぜひ先生方は誇りに思ってください。資格があれば、もし何らかの事情で一度退職してしまっても、復帰もできます。私の知っている親子は、お母さんが一度退職をしていたのですが、再度復帰して、昨年、大学生の息子と親子で採用試験を受けて合格しました。ぜひ皆さんがもっている教員という資格を世の中のために生かしてください。
仕事がおもしろいということ
私は、やればやっただけの効果があると考えるので、かなりの仕事人間です。多趣味ではありますが、仕事が趣味のようなところもあります。旅行に行けば何か社会科の授業の教材になるものはないかとすぐに探してしまいますし、また、そういう場所を選んで訪れています。教材作りや授業が楽しいのです。
地域に昔からあるのに、今まで入ったことのない建物がありました。それは、大衆演劇の劇場でした。将来、地域のボランティアガイドをするのだから、一度入って見てみようと劇場に行きました。鑑賞して驚きました。芝居の演技のうまさ、踊りの切れ味、たくさんの客、何もかもびっくりする体験でした。160名のお客さんをこれだけ沸かせることができる劇団員は、プロだなと思いました。たまたま私が鑑賞した人気のある劇団の総座長が、芝居の後やSNSで「仕事が楽しい!」「この役柄を楽しめた」「この踊りを楽しめた」というポジテイブな感想を毎回言っています。客の入りも気になるでしょうし、安定している職業ではないでしょうから、いろいろな不安もあるでしょう。ほとんど休みなく全国を練り歩いているのですからつらいこともあるし、疲れることもあると思います。でもその総座長からはポジティブな言葉が先に出るのです。
それに対して教員は、大変さが先に出てしまい「疲れた」「今日も忙しかった」「いつまでやれるのだろう」とネガティブな発言をしがちではありませんか?
私も学校現場に講師や学生の指導で伺いますが、まずは管理職や教員から「今日も大変だった」という言葉を聞きます。別に愚痴を言ってはいけないと言っているのではありません。大変なことは溜めておかないで吐き出したほうがよいでしょう。でも、まず「今日はこんな発見があった」「こんなおもしろいことがあった」というポジティブな視点で1日を振り返ることも大事なのではないかと思います。言葉は言霊だとよく言います。ぜひ、今ちょっときつかったら、なおさら、ポジティブな言葉を発してみませんか。何か改善されることもあると思います。
かくいう私も学級経営がうまくいかなかったり、学校全体をまとめるのが難しかったりしたときは落ち込みました。でも、ポジティブな発想と行動が今につながっているのだと思っています。
皆さんには、皆さんに期待を寄せている子供たちがたくさんいます。ぜひ、ポジティブシンキングで明日も明るく教室のドアを開けましょう!
構成/浅原孝子 イラスト/有田リリコ