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【相談募集中】児童からの暴力で病休に。復帰が不安でたまりません

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先生のための個別相談サービス【みん教相談室】相談&回答一覧

病休中の講師の方から「みん教相談室」に相談が寄せられました。ある児童の暴力によってメンタルヘルスを損ねてしまい、病休後の復職に不安を抱えているそうです。これに回答をくれたのは、武道家の廣木道心先生。ご自身の経験から、自分も相手も傷つけない支援介助法を提唱し、教育現場で多くの先生に支持されています。同じように悩んでいる先生、まずはすぐに自分ができることもあります。ぜひ読んでみてください。

イラストAC

Q. 児童の暴力でショックのあまり病休。復職に不安を抱えています

講師として現在の勤務校で2年目です。専科をしています。大きな行事も終わり、やれやれと思っていたときに起きました。発達障害傾向の強い児童が業間に喧嘩をしているのを目撃し、急いで制しました。怒りが収まらず私の手をほどいて追いかけて、後ろからまた児童に殴りかかるので全力で制しにいきました。

すると手を制しているので今度は足で私のおなか、膝、足を蹴り、私が止めていた手を離した隙に今度は髪の毛を掴み引っ張られ、顔を殴られました。まだ興奮状態にあるのか次の授業に集まってきている児童のほうへ机やイスを投げます。私も全力で制しました。他の男性の先生が来てくれ取り出してくれましたが、私はそのまま授業を1日し、帰宅後、ひどい頭痛と体が鉛のように重くなり起き上がれなくなりました。

出勤すると涙が出てきて、心療内科を受診し1か月の病休となりました。その暴れた児童は普段から気に入らないことがあれば物に当たる、暴言暴力が絶えません。全力で私に殴る、蹴るとしてきたのは初めてでショックなのと、中には私が殴られる様子を見てニヤニヤと笑う児童も複数おり、一番ショックでした。病休中もずっと体が重く寝てばかりで、幼い3歳の息子にイライラをぶつけてしまうなどとうまく感情がコントロールできません。あと少しで復帰と思うと授業ができるのか、不安で仕方ありません。

(みつばち・女性・30代)

A.起こった出来事の捉え方と、復職のための具体的な提案を紹介します

はじめまして。廣木道心です。私は障害のある息子を持つ親であり、介護士として放課後等デイサービスにて特別支援学級や学校に通う子どもの支援や就労支援を行うなど、様々な現場で働き、福祉系専門学校の講師や生活介護の施設長の経験があります。また自身が考案した、お互いを護る「護道」という武道のスキルを通じて、障害のある子どもたちのパニック時の誘導法として「支援介助法」を考案し、指導しております。

それらの経験を踏まえて回答します。先生にとって何か支援のヒントとなることがあれば幸いです。よろしくお願いいたします。

今回のご相談の内容から「起こった出来事の捉え方」と「復職のための具体的な提案」の大きく二つに分けてお話しさせていただきたいと思います。

未来から今を考える

児童からの突然の暴力行為はビックリされたでしょうし、その様子を見て笑う児童がいたことは本当にショックでしたね。精神的にも肉体的にもダメージを受けたことで復職に対して不安になるのは当然だと思います。

まず「被害が拡大しないように……」と思って行動を起こされたとのことですが、パニックを起こした子どもへの配慮と同時に周囲の子どもたちの安全確保も、お互いの人権を守るためにも、その後の関係性においても大切なことですね。そうした場面に直面したときに逃げずに向き合ったことに関しては自信をもっていいと感じます。

また先生が頑張っている様子を笑っていた児童であっても、児童の心には良い影響を与えていると私は思います。

児童はまだ成長期ですから表面的な現象しか捉えられず、反応しているに過ぎません。しかし、例えば児童たちが大きくなり、結婚して親になったとき、子育てにおいて同じように「どう対応すべきか?」という選択を迫られるような出来事に遭遇する機会があるかもしれません。そこで思い出すお手本が、子どもたちを護るために行動していた大人の姿なのか、失敗を恐れて傍観するだけの大人の姿なのか、では大きく違うからです。

どうしても私たち大人は、すぐに成果を求めてしまいがちなところがありますが、実際の子育てでは成果がすぐに出ないことは多々あります。そのことは息子との関わりや、子どもから大人まで様々な福祉施設で働いてきた経験からも感じています。

「悩むときが学びのとき」とも言いますから、行動を起こされたことについて先生が失敗したと思う必要はなく、生徒と共に一つの経験を重ねることができ、自身においては学びの機会を得られたと考えられると良いのではないかと思います。

今はお辛いと思いますが「日にち薬」という言葉があるように、大抵のことは時間の経過と共にダメージは回復していきますので、いつか「あの経験によって今の成長がある!」と感じられる未来がくることを心から願っています。

復職のための具体的な提案

まず、復帰される前に管理職や学年主任と相談して、フォロー体制を確認しておいたほうが良いと思います。

例えば、対象の児童がパニックを起こした際、やむを得ず担任が一時的に対応したとしても、その間に隣のクラスの先生に連絡を入れて応援に来てもらう、応援の先生と対応が変わった後に管理職にも連絡をつなげるなど「SOSの伝達方法」を相談しておきます。

福祉施設の場合、介護士が人手不足の状況下で働いているときは、普段から「介護士に協力したい」という希望を持っている利用者の方にお願いして、同じフロアにいる他の職員を呼びにいってもらうこともありました。それは単に協力をお願いするだけではなく、役割を与えることで、人の役に立っているという満足感や責任感を利用者も得ることができて自己肯定感が向上したり、利用者同士がお互いのことを考え合う機会になったりしました。

ただし、頼む際はこちらから一方的に役割を押しつける形になると、今度は頼んだ利用者にストレスを与えることになるため注意が必要です。このことは介護現場での利用者をクラスの生徒たちに置き換えても同じだと思います。

また、同時に他の児童を迅速に「安全な場所へ避難させる方法」も考えておいた方がいいでしょう。介護現場では、あらゆる役割を分担しておくことがあります。

例えば、パニックを起こしている利用者に対応する役、周囲の利用者を別室に移す役、パニックを起こしている利用者と対応している介護士の周囲の物(とくに机やイス、刃物などの危険物や投げられる小物類など)を片付けて対応に専念できるスペースを同時進行で確保していく役、状況によっては保護者やご家族への状況説明のためにスマートフォン等で記録撮影を行う役などに分かれて対応していたこともあります。

その他として、学校だけでなく保護者やご家族との連携も必要になってくると思います。介護現場の場合は事前に保護者からご家庭での様子や対応方法をお聞きした上で、こちらが行う施設での対応方法を説明して了承を得ることや、お互いの安全確保のために行う抑制行為についての同意書をとっていました。ご家庭でのそのお子さんの様子も細かく把握していると対応を考えるヒントになるでしょう。

実際のパニック時の対応技術

実際のパニック時の具体的な対応としては、支援介助法における対応技術(護道)を用いることもあります。

相談内容から対応を考えた場合、最初に児童の手を制した部分は良かったと思います。 殴る、つかむ、爪でひっかく、髪の毛を引っ張るなどはすべて手による攻撃ですので、支援介助法の対応技術(護道)でも基本としては相手の手を抑えていきます。

ただ護道の場合は、手を抑える際も相手にストップの意思を非言語で伝える「護道構え」を用いながら触れていくことや、手に触れて抑えた後に「一体化」という相手の動きを捉えて力を先に封じていく技術が含まれます。

またご相談内容の通り、手を抑えられると足を使って蹴ってくることがあります。本来はそれを最初から防ぐために正面に立たず、少し斜めにズレながら距離(間合い)を詰めて手を抑えます。どうしても正面で手を抑えた状態になってしまったら、腰周辺を見ながら、つかんでいる腕の動きも含めて、動き出しを感じ取り、どちらかの足が上がった瞬間(実際は動いたと感じたとき)に腕を内側に回すようにすれば、相手は片足になっているので、相手の方向を変えて側面や背中側につくことができます。

そして、そのまま相手を抱きかかえては「一体化」して動きを封じていきます。このようにお互いに傷つくリスクを減らしていきながら、相手のエネルギーだけを発散させて落ち着くように誘導していきます。

イスや机などを含む物を投げる行動に対しては、近づく際に投げてきた物に当たって怪我しないように相手に向かって真っすぐ進むのではなく、正面からズレて近づきながら、両手を前に伸ばした状態(護道構え)で腕を抑えていき、同じように「抱きかかえ」で動きを封じて落ち着くように促していきます。

実際の対応技術に関しては文章のみではお伝えすることは難しいので、もしよろしければ護道の稽古会でのYouTubeの動画をご参照ください。

▼廣木道心先生【お互いに傷つけない、支援介助法】武術の技を生かした、パニック対処法

もちろん、動画を見ても実際に活用するには訓練が必要です。あと覚えていてほしいのは、支援介助法の対応技術(護道)は、支援者のための護身術ではなく、より良い関係を築くためのコミュニケーションツールであるということです。

危機介入の三要件(切迫性・一次性・非代替性)を満たしていたとしても、技術的な対応は最大限避けてほしいと考えています。ただ何も対応技術を知らない状況では今回のご相談のように支援者がけがをすることや、逆に現場が手探りで誤った対応をしてしまい、児童がけがをする恐れもあります。そのため、必要性があると感じられた場合は研修への参加を検討していただければと思います。

児童理解のための「分析」と再発防止のための「予防」の必要性

支援介助法では「対応」がメインではなく、同時に「分析」と「予防」もセットであることの必要性を提案しています。

例えば、パニック後の関係性の構築も踏まえて、お互いに傷つかないように一時的に「対応」した後は「児童がなぜ、パニックを起こしたのか?」をケース会議などで分析します。ご相談の児童は普段から物に当たり、暴言暴力が絶えないということですが、それは常に脳がサバイバルモードになっており、逃走あるいは闘争を脳からの命令で迫られているためでしょう。

サバイバルモードというのは、例えばクマに襲われるような状況に置かれた際、人間の脳内の血流は闘うために手に流れ、逃げるために足に流れます。そのため、論理的思考をつかさどる脳の機能はどうしても鈍くなっていますので、暴力や暴言に対して「そんなことをしていたら社会に出てから通用しませんよ!」みたいな口頭注意を促しても効果的とはいえません。なぜなら本人は目の前のクマとの闘いと恐怖で精いっぱいなので、むしろ感情的な反論は相手をおびえさせ、さらに攻撃的になり火に油を注ぐ結果になります。

言い換えれば、激しい暴力や暴言は実は恐怖の裏返しであり、一番困っているのはパニックを起こしている本人なのです。

ですから、その児童をサバイバルモードに追い詰めているストレス要因(心の発信)を「分析」しながら寄り添う気持ちを持って、まずは児童への理解を深めていく必要があると感じます。そして、分析の結果を踏まえてパニックを未然に「予防」する手段を考えて実行していきます。パニックとなる要因を未然に排除したり、落ち着くための他の手段を提案したり、適正な行動が分からない場合は伝わるような工夫も必要です。

この「対応→分析→予防」のフィードバックを繰り返しながら、心身の状態を整え、安心できる環境を調整し、お互いに歩み寄ったり、折り合いをつけたりできるような信頼関係を構築しながら、最終的に気持ちのコントロール方法を本人が会得することでパニックを起こさないで済むようになること(つまり、対応技術を使わないで済むこと)をめざします。

抱え込まずにチームでの連携を

さて、長くなりましたが、ここでお伝えしたことは、あくまでも復帰のための提案ですので、どうか無理のない範囲で参考にして頂ければと思います。復帰された後も、しんどいときは業務の負担を軽減してもらうように管理職に相談しながら、それこそスモールステップで業務に戻ることを心がけてほしいです。

心療内科やカウンセリングを活用しながらでもいいと思います。また心(脳)と体はつながっていますので、可能な範囲で徐々に身体を動かすことはお勧めです。福祉や医療、教育現場でのパニック対応に関しては、支援者が個人で抱え込むのではなく、チームで連携をとることが大切です。一人でやろうと考えずに周囲に助けを求めてほしいと思いますし、教員同士がお互いに助け合う環境になっていくことを願います。

そして、時間がかかるかもしれませんが今回の「経験」を未来への糧として捉えることができるようになれば、きっと児童や保護者の心の痛みが分かる素敵な先生になられると信じています。あなたの未来を心から応援しています。

▼廣木道心先生が開発した「支援介助法」について、もっと詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください!
「女性教師もできる! 自分も子どもも傷つけないパニック対応術」
お互いに傷つかない支援介助法


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