令和時代の学級委員とは? 理想の学級づくりにむけ、学級委員制度をもう一度考えてみよう
学級委員制度は、学級という小さな社会において、児童が責任感や協力の大切さを学ぶ貴重な機会です。しかし、この制度を成功させるためには、担任が制度の意義を理解し、時代に合わせた工夫を加えることが求められます。学級委員の活動を通して、担任と児童が共に学び合い、成長し合う場を作り上げていきたいですね。担任が全力で支援し、学級委員の努力を引き出すことで、学級制度に意義をもたせることができます。今回は令和の時代における「理想の学級委員像」を考えていきましょう。
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目次
1 心に残る校長メッセージ
わたしが若手教員だった頃、お世話になった校長が、学級委員を委嘱するときに言った、忘れられない一言があります。
「あなた方は学級委員です。学級委員の仕事はたった一つ。いちばん困っている人を助けてください。それだけでいいのです。よろしくお願いします」
わたしの教職生活の中で、これほど強いメッセージを伝えてくれた人はいませんでした。
一方で、よく耳にするのは次のような一般的なメッセージです。
「せんせいが出張やお休みのとき、代わりの役を担ってください。学級委員はせんせいの代わりになる役です」
「学級委員は学級のリーダーです。友だちを引っ張っていき、学級をまとめてください」
これらのメッセージも理解はできますが、先ほどの「困っている人を助ける」というメッセージに比べると、どこか抽象的に感じられます。しかも、ほとんどの校長せんせいは、委嘱状をわたしながら、「がんばってください」という一言メッセージで終わっているのが実態ではないでしょうか。
学級委員制度は、特別活動研究の中で「必要がない」として削除されてきた歴史があります。また、「リーダー養成のために、できるだけ多くの児童にチャンスを与えるべきだ」という主張から、じゃんけんで決めるという実践も見られるようになりました。わたしもこの考えで進めてきました。
しかし、学級委員の選出方法や役割については、常に明確な方向性が定まらず、現状では学級担任に指導が任されている状況です。この混沌とした状況の中で、学級委員制度をどのように活用すればよいのか、議論が続いています。
「いちばん困っている人を助ける」という初任校の校長の言葉は、学級委員制度の意義をシンプルかつ明確に伝えてくれるものでした。このメッセージのように、具体的で共感を呼ぶ指針が、制度を効果的に活用する鍵となるのではないでしょうか。
いったいどんな方法がベストなのか? 役割や目的を再考しながら、学級委員制度の本来の価値を見直す必要があるのではないかと感じています。
2 学級委員制度の意義を考える
学級委員制度は、児童が学級という小さな社会の中で自らの役割を見つけ、責任を果たす経験を提供する重要な仕組みです。
⑴ 歴史的背景
学級委員制度は、戦後の教育改革の中で生まれた制度であり、児童が主体的に学び、成長する場としての学級運営の一環として導入されました。民主主義社会の基礎となるリーダーシップや協調性を育む目的がありました。それ以前の学校では、「級長」という役割を成績優秀な児童が担い、主に担任の補佐的な役割を果たしていましたが、学級委員制度ではより児童自身が主体的に活動することが求められるようになりました。
⑵ 学級委員の果たす役割
学級委員はクラスの代表として、児童たちの意見をまとめ、学級行事の運営や問題解決に取り組みます。この過程を通して、責任感やリーダーシップが自然と育まれます。また、クラス全体の意見を集約し、それを形にしていくことで、協調性や対話力も身につけることができます。
⑶ 成長の場としての意義
学級委員に選ばれることで、児童は他者からの信頼を感じ、それが自信を深めるきっかけとなります。また、困難に直面し、それを乗り越える経験は、児童のさらなる成長につながります。最近では、普段はやんちゃな児童が学級委員を務めることで、自分自身を見つめ直し、自己変革を起こす例も見られます。学級委員制度は、このような成長の機会を提供する貴重な場でもあります。学級委員制度は、児童が学級という小さな社会の中で、自らの役割を見つけ、責任を果たす経験を提供します。
3 そもそも学級委員は必要なのか
学級委員制度の必要性については、賛否が分かれることがあります。ここでは、肯定的な側面と課題、さらには代替案について整理してみます。
⑴ 必要性の根拠
学級委員は、学級運営における重要な役割を果たしています。特に、児童が主体的に行動し、他者と協力する力を育む場として効果的です。多くの学校では、学級委員が行事の準備や日常的な学級運営に携わることで、クラスの円滑な運営を支えています。また、リーダーシップや責任感を育成するための貴重な機会ともいえます。
⑵ 課題と検討すべき点
一方で、学級委員制度には課題も存在します。学級委員に選ばれた児童に過剰な負担がかかるケースがあり、リーダーシップを発揮する児童に役割が偏ることも少なくありません。また、制度が形骸化している場合には、学級委員に選ばれても十分な役割を果たさない児童が出ることがあります。その結果、制度の意義が薄れ、形だけの存在になってしまう恐れも指摘されています。
⑶ 代替案の可能性
学級委員制度に代わる方法として、学級全員が何らかの役割を持つ「全員参加型」の仕組みや、全員が輪番制でリーダーシップを体験できる制度を導入する学校も増えています。これにより、より多くの児童が責任を持つ経験を得られるようになります。また、真のリーダーは必ずしも学級委員に限らず、自然発生的にクラス全体を調整する児童が現れることもあります。そのため、学級委員制度をあくまで「学級運営の調整システム」「人材育成の機会」として割り切るという考え方も有効でしょう。
4 学級委員の対象と経験
学級委員制度が残っている学校では、学級委員に期待される役割や、そこから得られる経験について考えることが大切です。学級委員の役割をより明確化し、その経験を学級の成長に活かす方法を考えてみます。
⑴ 役割の明確化
学級委員に求められる役割を明確に伝えることは、学級運営において重要なポイントです。そのためには、学級の状況や学校の方針に合わせて、次のような役割を設定し、支援していきます。
① 学級会の話し合い活動の進行
学級会で意見をまとめる役割を担うことで、リーダーシップや全体を誘導する姿勢を学ぶ場となります。例えば、
「最初はみんなの意見がバラバラで困りました。でも、一人ひとりの意見を聞いてホワイトボードに書いたら、みんなが分かりやすいって言ってくれてうれしかったです」
というような振り返りを話してもらいます。
このような経験を通じて、話し合いのまとめ方や聞く力が身につきます。
② 学校行事の準備や進行役
学級委員が学校行事の準備や台本を進めることで、責任感やチーム全体の動きを意識する力が養われます。ある学級委員は運動会で進行を担当した際、
「セリフを覚えるのが大変だったけど、最後にみんなから『よかったよ』って言ってもらえて、自信がつきました」
と笑顔で語ってくれました。これは挑戦心を育む良い機会となります。
③ 困りごとの相談窓口
学級で困っている児童が相談しやすい雰囲気をつくることも重要です。
例えば、
「クラスメイトが一人でいるときに声をかけたら、『ありがとう』って言われて、わたしもうれしくなりました」
という話を聞いたことがあります。このような経験を通じて、人との関係づくりを学べます。
④ 担任不在時の指揮官
担任が不在の時や教室を離れた際に、学級をまとめる経験は、自主性を育てる大切な場です。
「せんせいがいないとき、みんなが騒ぎそうだったけど、『ちょっと静かにしよう!』って言ったら、みんなが聞いてくれて安心しました」
と言ってくれた児童がいました。これを学級全体に紹介しました。
これらの役割を学級内でしっかりと共有し、学級委員の存在感や位置づけを明確にしていきます。
(2) 成功体験の共有
学級委員としての成功体験をクラス全体で共有することは、ほかの児童にも挑戦する意欲を与えます。具体的には以下の方法が考えられます。
① 学級委員会での振り返り発表
例えば、
「学級委員として、○○をみんなにお願いしたら、『わかったよ』って協力してくれてうれしかったです」
というように、自分の体験を全員の前で話してもらいます。このような共有は、ほかの児童にも前向きな刺激を与えます。
② 学校行事での評価
学級委員が学校行事で果たした役割を、全体参加者から評価してもらうことも効果的です。
「みんなから『○○さんのおかげでスムーズに進んだよ』って言われたとき、本当にやってよかったと思いました」
というようなことを話す機会を設けます。やりがいを実感できるようになります。
これにより、学級委員に挑戦したいと考える児童が自然と増えることが期待されます。
⑶ 失敗体験のとらえ方
成功体験だけでなく、反対に失敗体験を振り返り、次につなげることも重要です。
例えば、
「学級会でみんなに静かにしてほしいと言ったけど、うるさいままで悔しかったです。でも次は、話し方を変えてみようと思います」
というように経過を発表してもらうことで、失敗を成長の糧とする姿勢を学べます。このような振り返りは、児童に「失敗しても大丈夫」という安心感を与えます。そして、多くの児童の振り返りの機会にもなります。
⑷ 家庭との関連性
学級委員の体験を家庭でも活かすことは、児童の成長をより確実なものにします。例えば、学級委員の役割を通じて、家庭で兄弟や姉妹の世話を進んで行うようになる児童もいます。
ある保護者は、
「家で弟が困っているときに『どうしたの?』と声をかけるようになって驚きました」
と話してくれました。このように、家庭と学校の体験がリンクすることで、児童の成長が促進されます。
学級委員の体験を通じて、責任や任務だけでなく、人間関係の構築や問題解決能力を学べるような仕組みを作っていくことが重要です。これにより、児童が将来の社会で活躍するための土台を育むことができます。
5 委員委嘱時のメッセージ
学級委員を委嘱する際には、その重要性や期待を子どもたちに伝えるメッセージを添えることが大切です。校長がメッセージを伝えてくれればいいのですが、そうでない場合はぜひ担任が伝えてほしいです。
「〇〇さん、このたびは学級委員に選ばれたこと、本当におめでとう! 今日、わたしは、〇〇さんにこの委嘱状をお渡しすることを、とても誇らしく思っています」
「学級委員というのは、みんなのためにクラスをよりよくするお仕事をする、とても大切な役目です。〇〇さんの明るい笑顔や、みんなを思いやる気持ち、そして一生懸命がんばる姿が、クラスのみんなにとって大きな力になると信じています」
「学級委員の仕事は、決してひとりで全部やらなくていいんです。大事なのは、クラスのみんなと力を合わせることです。そして、困ったことがあればわたしにもどんどん相談してください。いっしょに考えて、解決していきましょう」
「これから、〇〇さんが学級委員として活躍する姿を見るのを、せんせいもとても楽しみにしています。〇〇さんの力で、このクラスがさらにすてきな場所になるよう、どうぞよろしくお願いします」
「あなたには、学級委員として、みんなをサポートする大切な役割があります。その中で一番大切なのは、困っている人を見つけて、手を差し伸べることです。助けが必要な友だちを見つけて、力になってあげてください。あなたにやってほしい学級委員の仕事です。よろしくお願いします」
最後にもう一度、学級委員になってくれたことに感謝し、心からお祝いを伝えます。
「〇〇さん、いっしょにがんばりましょうね!」
6 令和の時代の学級委員像
時代が変わる中で、学級委員の役割も変わってきています。これからの学級委員に求められることについて考えてみましょう。
⑴ リーダーシップとチームワーク
令和の学級委員は、権限で指示をするということでも、一人で何でもやるということではなく、友だちと協力して目標を達成するという学級風土のもとで活躍してほしいです。力を合わせて、より過ごしやすい学級を作るために動くリーダーシップが求められます。
⑵ 多様性と共生の意識
現代の教室では、いろいろな背景を持った子どもたちが一緒に学んでいます。学級委員は、すべての人が安心して過ごせるように、友だちそれぞれの違いを尊重して、仲良く過ごせる環境を作ることが大切です。
⑶ ICTを活用した運営
パソコンやタブレットを使って、意見を集めたり、情報をみんなに伝えたりする方法が広がっています。学級委員は、こうしたデジタルツールを使って、学級の意見を効率的にまとめ、学級のみんなが納得できるように公正にクラスを運営していきます。
イラスト/イラストAC
山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、様々な分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、様々な資格にも挑戦しているところです。