学校力向上のために今、学級経営を改善しなければならない理由
新学習指導要領の全面実施を前に、学力向上や学校力向上がますます叫ばれるようになり、その土台となる学級経営力の向上も強く求められています。これからの時代に求められる学級経営力の考え方や、学級経営力を高めるための具体策などについて、上越教育大学の赤坂真二教授に伺いました。
赤坂真二(あかさか・しんじ)●19年間の小学校での学級担任を経て、2008年4月より現所属。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。日本学級経営学会共同代表理事。『最高の学級づくり パーフェクトガイド』(明治図書)など著書多数。
目次
学級経営について学ぶ時間を校内研修の中に確保する
現在の教員養成課程には、学級経営が専門科目として位置づいていません。科目として設定している大学でも、必修科目ではないため、全員が同じことを学べる環境ではなく、指導者によって教える内容にばらつきが出ます。
教員養成課程で学んでおらず、教育委員会の研修が充実しているわけでもない。それでいて、多くの学校では学級経営を教員一人ひとりに任せています。そうした現状ですから、学級経営をどうすればよいかという段階で道に迷ってしまうことが、往々にしてあるのです。子どもでいえば、基礎学力以前の「学力基礎」の部分でつまずいているにもかかわらず、その子たちに対するケアがなされていないような状況です。
最も重要なのは、学校全体で、学級経営の優先順位を上げて取り組むことです。そのためには、校内研修が重要になります。年間計画の中に、学級経営や特別支援、教職員のメンタルヘルスケアといったことも含め、教員の仕事および学級を支える基盤となる知識と技術を学ぶ時間を確保することが必要です。
「校内研修=授業研究」と考えられがちですが、授業研究に力を入れるのは二学期からでも遅くないはずです。学級集団が形成されていなければ「主体的・対話的で深い学び」は成り立ちませんから、授業力より先に学級経営力を高める必要があります。学級経営ができていない状況で授業研究をしても、その場限りのものになってしまう恐れがあるのです。
商売でたとえるなら、どんなによい商品を作っても、それを売る店がボロボロの状態では売り上げが伸びないことでしょう。よい商品を売るのに見合う環境を整える必要があり、店員の力量も問われます。校内研修の意味をもっと広く捉え、教員の総合力を上げることを考える必要があります。
校内研修で大切なのは、ゴールを意識することです。学校のめざす子ども像から学級像がつくられていきますが、そこがしっかりと議論されていないことが意外に多いと感じます。めざす子ども像について、まずは教員がワールドカフェ方式などで具体的にディスカッションをし、自校ではどんなことをめざすのか、そのために何をするのか、どのような評価をするのかを決めたうえで、定期的に振り返るといったように、教員による話し合いを基盤にして研修のあり方をつくっていくことが求められます。
学級経営を中核に据えることで行きたくなる学級をつくる
管理職には、教員に学級経営力が標準装備されるようなしくみをつくることが求められ、校内研修で学級経営をプログラム化することや、学級経営の評価をしっかりと行うことが重要になります。
最近は、学級経営案をなくしている学校も増えています。働き方改革の影響などもあって、校内で優先順位の低いものから削られていることが背景にあります。学級経営は本来、優先順位が高くなければならないのに、管理職を中心として学級経営の価値が共通理解されていないために、削ってはならない部分を削るという間違った判断をしてしまうのです。
校内体制づくりには、ミドルリーダーの働きが大きく影響します。校長が明確なビジョンを示し、それを具体化できるミドルリーダーが必要になります。さらに管理職には、ミドルリーダーが動きやすい環境をつくることも望まれます。
学校全体で取り組むべきなのは、教員同士の会話量を保証することです。会話がなければ人間関係は構築されませんから、おしゃべりやむだ話といわれるインフォーマルなコミュニケーションを増やすことが、職員室づくりには必要です。そのうえで校内研修を対話型にして「この先生と話してよかった」「この先生に認められてよかった」と実感できるようにすることが理想です。学校が多忙化し、教員同士がフェイス・トゥ・フェイスで話す時間が減っているのなら、校内研修をきっかけにしてコミュニケーションを図るのが、有効な方法の一つです。
また、コミュニケーション量を増やし、教員の意欲を高めるためには、共通実践をもつことが効果的です。これは、授業研究でも学級経営でも同じことが言えます。教員が全員で取り組むことを一つ設けることによって、共通の話題をつくるのです。
私が関わっている学校で取り組んでいるのは、学級経営を核にしたカリキュラム・マネジメントです。学活と教科の連動を図り、話し合い活動で使っているルールを他の教科等にも活用します。そうすることで、子どものコミュニケーションが活性化し、学習効率が高まります。学級の雰囲気もよくなるので、学級崩壊も起こりにくくなります。
学級の質を高めれば学校力も自然と高まる
よい学級をつくれば子どもが学校に行きたがるようになるので、学校のステータスは自然と上がり、保護者との関係性も良好になるはずです。学級経営を基盤にした校内研修を行うことによって、生徒指導案件が減ることにも期待できます。管理職には、問題が起きてから対応するのではなく、あらかじめビジョンを明確にしたうえで、事前対応の部分に手間暇をかけることが望まれます。
学級経営は個別指導の連続だと思っている人もいますが、それは違います。学級経営は集団指導です。学級という環境の質を上げることによって問題行動を減らすという発想をもってください。授業や個別指導を重視することも大事ですが、環境要因を整えることも大事です。
ICF(国際生活機能分類)では、障害のある人がどうしたら生活しやすくなるかを考える場合に、「やりにくさ」を基準にします。要するに、障害のある人がなぜ生活しにくいかというと、その人を取り巻く環境が障害をもっているからだという考え方です。学級経営も同様で、子どもが問題行動を起こすのは問題行動を誘発する原因が環境にあるからだという意識をもち、全体指導の中で対応可能な子どもの自立力を上げることが必要になります。
集団指導と個別指導は表裏一体で、集団のあり方と子どもの問題行動は密接な関係にあります。ですから、管理職にはそのあたりの因果関係をよく理解したうえで、教員に助言をしてほしいと考えます。
ただ、管理職ができることにも限界がありますから、学級経営力を向上させるための取り組みは、行政にもお願いしたいところです。教育委員会の中に学級経営の助言者がいないことは、問題点の一つだと感じています。自治体によっては希望研修を設けていたり、若手教員の総合的な力量を上げるための研修の中の一項目として学級経営が組み込まれていたりもしますが、それだけでは不十分です。もっと多くの学級経営の講座が設定されることを望みます。
取材・文/藤沢三毅(カラビナ)
『総合教育技術』2020年2月号より