学校リスク回避で一番に取り組もう! 校長と教頭の同時不在を防ぎ、緊急時への備えを

連載
GKC(がんばれ教頭クラブ)

元山形県公立学校教頭

山田隆弘

学校運営において、校長と教頭が同時に不在となる状況は、万が一の事態が起こったとき、迅速な意思決定や対応に重大な支障をもたらします。特に災害や事故・事件が発生した際に、児童や教職員の安全に直結する問題です。日常の学校運営においても、校内のリーダーシップが欠如することで業務が停滞を起こす可能性がありますし、教職員全体の士気低下にもつながりかねません。学校経営を進めるうえで、最優先で回避しなければならない事態と言えるでしょう。

【連載】がんばれ教頭クラブ

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1 残っていてよかった!

ある年の3連休中のことです。わたしの勤務校で大きな生徒指導事案が発生しました。
被害児童と加害児童が存在する事態であり、一刻も早く対応せざるを得ない状況でした。
校長はプライベートの旅行に出かけていましたが、わたしは教頭として学校に残っていたため、校長と電話で連絡を取り、指示を仰ぎつつ初期対応を主導することができました。
当該担任と連絡を取り、事案の概要を把握した上で、被害児童と加害児童それぞれに面談を実施。問題解決に向けて慎重に対応を進められたのです。
この初動対応が比較的適切だったことで、その後の事案解決に大きく寄与したと考えています。

この出来事を通じて強く感じたのは、校長と教頭が同時に勤務地を離れないことの重要性です。もしこのとき、わたしも私用で学校を離れ、勤務地に残る管理職がいなかったら。
事案の初期対応が大幅に遅れ、事態がさらに複雑化していた可能性があります。
プライベートは確かに大切ですが、学校管理者という立場に立つことを受け入れたのなら、それよりも万が一の事態に備えた体制を確保し、学校運営の信頼性を高めることが大切でしょう。

2 正副役職の協力による安全確保

航空機のパイロットには、「機長と副機長が同じ機内食を食べない」という規則があります。万が一、機内食で食中毒が発生した際に、機長と副機長が共倒れにならないようにするためです。バックアップ体制ですね。これと同じような考え方が、学校の安全管理でも活用されている場面がありますよね。
そうです、それは学校給食の検食です。多くの学校では、児童に提供する前に、校長が最初に給食を「検食」し、その後、教頭が少し遅れて給食を摂るという形式が一般的です。
航空機と違って、給食のメニューは1種類しかありませんが、このように時間差をつけて食べることで、正副役職の協力による安全確保ができています。

検食の意味とは

校長が最初に給食を試食する目的は、給食が安全であることを確認することにあります。万が一給食に問題があった場合、校長が最初に影響を受けることで、学校全体に被害が及ぶことを防止できる可能性が高いです。教頭が校長の代理となり、関係各所にいち早く情報を伝達し、適切な対応を取ることが可能になります。
さらに、校長と教頭が時間差をつけて食べることには、もう一つの意味があると言えます。何らかの理由で給食の提供数が足りなくなったとき、教頭の分を提供して対応できるのです。
わずか1人分と侮るなかれ。数と量を厳密に管理している学校給食だからこそ、問題が生じるときには、1本の牛乳が足りない、1本のパンが足りないという、小さなミスとして現れることがあります。

他の学校業務への応用

このような正副役職の協力体制は、給食の検食に限らず、学校の他の業務にも応用可能です。例えば、緊急時の対応や災害時の避難など、危機管理の場面においては、正副役職が同時に行動しないことで安全性を高めることができます。例えば、教頭が避難を先導し、校長が最後尾につくことで、より確実な避難ができます。
普段から、管理職の間で、こうした避難時の役割を話し合っておくのもいいことです。

3 校長と教頭、同時不在を防ぐための鍵

学校の運営において、校長と教頭の同時不在を避けることは、学校の秩序と安定を保つために非常に重要です。以下の方策を実行していきましょう。

スケジュールの調整

校長と教頭の出張や研修は、事前にスケジュールを調整し、同時に不在になることを避けるよう努めます。例えば学期ごとに、校長と教頭が中長期的な予定を確認し、同時に不在になる可能性がないか確認します。さらに毎月1回など、短期的なスケジュールを確認する会を定期的にやれば完璧です。
特に保護者対応は管理職の判断が必要となることがほとんどです。事前にスケジュールを調整しておくことは、学校運営の柔軟性を保ち、トラブルを未然に防ぐために効果的です。
また、学期中の休暇についても、他の教職員に業務を引き継ぐための準備を進めておくことが大切です。例えば、校長が長期の出張を予定している場合、教頭がその期間に行う業務を事前に明確にしておくことで、スムーズな運営が可能となります。

臨時代理の任命

しかし、どうしても校長と教頭が同時に不在となることも、年に数回はあるのではないでしょうか。
こんなときのために、あらかじめ臨時代理者を任命しておくことは不可欠です。
代理者は、学校運営に精通していて、信頼できる人物であることが求められます。
通常はベテランの教員、主幹教諭や教務主任、生徒指導主任などがその任に当たります。
ある小学校で、校長不在時に、教頭も急病になり、入院するという事態が発生しました。
このとき、代理に任命されていたベテランの主幹教諭が指導にあたりました。主幹教諭は、普段からの心構えもあって、スムーズに学校運営を引き継ぐことができました。
また学校の人員構成にもよりますが、緊急時に教育委員会事務局からの指示を仰ぐこともできます。
事前に事務局と相談し、指示を受ける人物(教育委員会の学校を指導する課長職など)を決めておくのです。この発想は管理職でなければできないと思いますので、ぜひ皆さんも検討してみてください。

連絡手段の確保

校長や教頭が物理的に学校にいない場合でも、オンライン会議システムやメッセージアプリを活用することで、リアルタイムでのコミュニケーションを維持できます。こういったツールを利用することで、重要な意思決定や緊急対応が可能となり、校長や教頭が遠隔地にいても学校の運営は円滑に進みます。
ある小学校では、校長が海外研修に参加している間、教頭とオンライン会議を通じて毎日の進捗確認を行っていました。校長が学校にいなくても、日々の問題について即座に解決策を講じることができました。
また、教職員との連絡手段として、メッセージアプリや専用の学校ポータルを利用することも有効です。これにより、学校内の情報が迅速かつ正確に伝わり、即時対応が可能となります。

感染症流行期の対応

感染症流行期には、予防接種をすることはもちろんですが、できるだけ校長と教頭が接触しないようにしたり、別々の場所で仕事したりすることは、感染症のリスクを低減するための有効な手段です。

① 分散勤務体制の導入
校長と教頭が同じ場所にいることを避けるため、物理的に別々の部屋で勤務することが考えられます。例えば、校長は校長室で業務を行い、教頭は職員室で仕事をし、必要なときは内線を使うことで、接触しないようにします。万が一どちらかが感染した場合、もう一方が業務を引き継ぐことが可能です。

② 出勤シフトの調整
感染者が増えるなどして学校閉鎖になった場合、校長と教頭が異なる時間帯に出勤し、顔を合わせないようにシフトを組むことも一つの方法です。これにより、互いに接触する機会を減らすことができます。

校内の物理的な距離の確保
校長と教頭がリモートでの会議や連絡を通じて業務を進めることで、物理的に接触する必要がなくなります。例えば、毎日の打ち合わせや報告をオンラインで行っていきます。
また、ゾーニングによる予防策として、校長と教頭の業務空間を物理的に分け、同じエリアに長時間滞在しないようにすることで、感染のリスクを最小限に抑えることができます。
さらに、両者が勤務する場所は定期的に換気を行い、共用の設備や道具についても衛生管理を徹底することが重要です。

④ コミュニケーションツールの活用
感染症の拡大期など、学校内で感染のリスクが高まっているときは、メールやチャットなどで情報を共有し、互いにすぐに連絡が取れる体制を整えることが重要です。また、大人数が対面する機会を避け、会議や打ち合わせはチャットルームで行うのも有効な手段です。

校長と教頭の同時不在を避けることは、学校運営において非常に重要です。緊急時に迅速な対応を行い、児童や教職員の安全を守るための的確な判断を下すことが可能になります。
また、日常的な運営においても、危機管理のマニュアルや指揮系統が整備されることで、教職員が安心して業務に取り組む環境が生まれ、結果として児童への教育や支援の質が向上します。
さらに、事前の調整や連携は管理職間の信頼関係を深め、学校全体の組織力を高める機会となります。不在時の責任代行者を明確にしておくことも重要で、代行者に学校管理の視点を養う研修の場としても機能します。

校長と教頭が常に連携を取り、責任ある学校運営を継続することは、安全で円滑な教育環境を築くうえで欠かせない基盤です。

写真AC


山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、様々な分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、様々な資格にも挑戦しているところです。


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