やる気が出ない時にすることとは?「教師という仕事が10倍楽しくなるヒント」きっとおもしろい発見がある! #21

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帝京平成大学教授

吉藤玲子
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教師という仕事が10倍楽しくなるヒントの21回目のテーマは、「やる気が出ない時にすることとは?」です。疲れすぎて次の行動がとれない、前向きに進めないという経験をしたことはありませんか。今回は、「今、やる気が出ない時」「明日どうしようと思う時」などのヒントにつながるお話をお届けします。

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執筆/吉藤玲子(よしふじれいこ)
帝京平成大学教授。1961年、東京都生まれ。日本女子大学卒業後、小学校教員・校長としての経歴を含め、38年間、東京都の教育活動に携わる。専門は社会科教育。学級経営の傍ら、文部科学省「中央教育審議会教育課程部社会科」審議員等、様々な委員を兼務。校長になってからは、女性初の全国小学校社会科研究協議会会長、東京都小学校社会科研究会会長職を担う。2022年から現職。現在、小学校の教員を目指す学生を教えている。学校経営、社会科に関わる文献等著書多数。

完璧を求めない

教師という職業を選んだ人は、誠実でとても真面目な人が多いものです。そのため、仕事でもプライベートでも結果に完璧を求めがちになります。しかし、どんなに準備をした授業でも子供からの予期せぬ発言があったり、授業中にトラブルがあったりして、なかなか満足のいく結果にならないことが多いものです。運動会などの行事でも同じです。主任になって緻密な計画を立てたのに、当日の不安定な天候に左右されてしまったなどという経験はありませんか。

東京都の多くの先生が高学年の移動教室で日光の東照宮に子供たちを引率することがあると思います。そこで現地のガイドさんから陽明門のグリ紋様が2本目の柱だけ逆さになっている話を聞きます。「満つれば欠ける」のことわざから、あえて不完全なものを加えて魔除けにしたのではと言われているという話です。この話を聞くたびに私はうなずいてしまいます。

ハプニングは付きもの

完璧でないから逆によかったということを経験したことはありませんか? 私が教員になって2年目に、若手の先生の授業参観を見た時のことです。夏休み明けの国語の保護者参観の授業でした。授業では、子供がよい話合いを活発にしていました。そんな中、1人の子供が辞書を教室の後ろの棚に取りに行き、その際に近くに飾ってあった夏休みの自由研究の風鈴にさわってしまい、それが床に落ちて割れてしまったのです。若手の先生は夏休み後半からずっとこの授業の準備をしていてかなり気合が入っていましたので、真っ青になりました。でもこのようなハプニングは授業ではよく起きることです。よかったことは、この先生が子供のそばに駆け寄り、「けがはなかった?」とまず聞いたことです。参観していた保護者は、子供の安否を一番に考えてくれた若手の先生に感心していました。保護者は後片付けなども手伝ってくれていました。その日、その先生は、職員室に戻ってきてから、「もうダメだ……」とつぶやいていましたが、何とか立ち直って次の日も頑張って学校へ来ました。

同じように準備が万全だと思っていた式典で思わぬハプニングが起こったり、全て順調に進んでいた研究発表会で突然具合の悪い先生が出てしまったりと、100%の成功はなかなかありません。それでよいと思います。肝心なことがクリアされていれば、全て完璧でなくてよいのです。学級経営、同僚とのつながり、授業、教師は行うべきことがたくさんあります。でも誰がその全てを完璧にしているでしょうか。やる気が出ない時は、まず「完璧でなくていいんだ!」と思ってください。そこから何かが見えてくるかもしれません。

前向きに進めないイラスト

立ち止まる勇気

家に帰って、服を着たままバタンキューとソファに倒れてしまうことはありませんか? 私は担任をしていた時、管理職になった時、そして今、大学で働いていてもそういうことが数多くあります。あまりに疲れ過ぎて、次の行動が思い浮かばないのです。

そういうことは多くの人にあることなので、まず、「疲れてバタンキューになることをあまり気にしないでください」と言いたいのです。ただ、それがずっと続く場合は考えたほうがよいことがあります。それは、オーバーワークではありませんか?

今の仕事を書き出す

私の場合、仕事だけでなく、多趣味でもあるので、プライベートの忙しさもあります。そんな時には、「ちょっと、やりすぎていない?」と立ち止まることにしています。ちょっと立ち止まって、今直面している仕事や課題をできるだけ書き出してみて、何が一番大事で、もしかしたらこれは後回しにできることがあるかもしれないなど、○×を付けてみてください。そうするとあなた自身の課題が見えてくるかもしれません。

無理して先に進もうとしないで、立ち止まっていいのです。今ある条件の中で、何ができそうで、何ができないのか、もうこれは後まわしにしようと割り切ってみましょう。繰り返しになりますが、教師は本当に真面目なので、今日も明日も何か次のことをしなくてはいけないと思ってしまいがちです。しかし、「ここで少し立ち止まってみよう」と思うことが大切です。「仕事を休んで休職しよう」と言っているのではありません。「解決策が見つからない、どうしようかなぁ」と思う気持ちを受け止め、深呼吸して、疲れた体や心を休ませることが大切です。

計画を立てよう

前向きに進めない時に「将来のことなんて考えられない」と思うかもしれません。そんな時こそ、長いスパンの将来を予想してみましょう。

1年後の自分を予想する

「もうダメだ」と思った時、1年後の自分を予想してみてください。少なくとも今とは立場が変わっているでしょう。年は取るわけですから、主任になっている人もいるかもしれません。学級の子供もクラス替えで違うメンバーになっているかもしれません。プライベートなことなら結婚や出産など明るいこともあるかもしれません。悪いことを思えば、大きな災害があり、今のような生活をしていないかもしれません。1年後の確かなことは誰にも分かりません。だからこそ自分なりに将来を描いておくことが大切なのです。

東京・築地の聖路加国際病院名誉院長の日野原重明先生は、100歳近くの年齢でも全国の子供たちに「命の授業」をされていました。その授業の中で日野原先生は、子供たちに「命は自分たちに与えられた時間なんだ。その命をどう使うかしっかりと考えながら生きてほしい。そしてさらにその命を自分以外の何かのために使うことを学んでほしい」と繰り返し話されていました。自分に「命」という時間が与えられているのですから、ぜひ、その時間を私たちも有効に活用したいと思うのです。そういう意味で計画を立てることが重要です。

10年後の自分を考えよう

少し余裕ができたら10年後のことも考えてみましょう。「疲れている時に無理」と思うかもしれませんが、ソファに横になりながら将来の展望を考えてみると意外と元気が出てきます。これも日野原先生の講演会の話なのですが、3つのV「Vision(ビジョン)将来を見据えた大きな展望」「Venture(ベンチャー)未来を切り開く勇気ある行動」「Victory(ビクトリー)努力して勝利すること」が大事だと言うことです。つまり、構想を描いて、勇気をもって行動していけば、いつか夢はかなえられるという意味です。

私が講演会でこの話を聞いたのは40歳の時でした。自分の子供たちや家庭のこと、教員としてこの後どうするかということに悩んでいました。その時に当時勤務していた文京区のシビックセンターで行われた日野原先生の講演会に行き、勇気付けられました。

そして「10年後自分はどうしているのだろう、どうあるべきなのか」と考えさせられました。時間は必ず過ぎていきます。ダメだと思う気持ちは悪いことではないでしょう。でも、前向きに切り替える努力をすることが大切です。皆さんのことを待っている子供たちがいることを忘れないでください。皆さんは、「命」を自分以外に使える教師というすばらしい仕事に就いているということも覚えておいてください。

構成/浅原孝子 イラスト/有田リリコ

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