栗山和大教育課程企画室長⑶|多様な子供たちを包摂する「柔軟な教育課程」の編成、実施にはどのような方策が必要か 【教育キーパーソンにインタビュー! 令和の教育課程「その課題と未来」#16】

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教育キーパーソンにインタビュー! 令和の教育課程「その課題と未来」
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前回は、文部科学省初等中等教育局教育課程課教育課程企画室の栗山和大室長に、今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会の論点整理のを中心に概説していただきました。今回は、4多様な個性や特性、背景を有する子供たちを包摂する柔軟な教育課程以降の内容についてお話しいただきます。

「教師は教えなくてもいい」「全て子供に委ねればよい」は誤ったメッセージ

前回までの内容は、現行の学習指導要領を「さらに深め、より良いものにしていく」という側面も強い議論であり、以降は、「近年の教育の課題を正面から受け止めて、どうよりよく変えていくかという色彩が一層強い部分」と栗山室長は話します。

4の⑴現行の「個に応じた指導」の記述と充実の在り方では、『学習者が主体的に学ぶ中で自ら学習を調整しつつ資質・能力を身につける』という学習者主体の学びの在り方の重要性や、その中で教師が果たすべき役割について触れています。

具体的には、学習者主体の学びにおいて、『子供一人一人を見取り、適切な指導や関わりを行う教師の指導性はより積極的かつ高度なものが求められるし、時には教師が主導することが重要な場面もある』ということが明確にされています。『教師は教えなくてもよい』『全て子供に委ねればよい』ということではなく、そうした誤解が生じないようにしてほしい、という強いメッセージだと受け止めています。

また、多様な子供たちを包摂する『柔軟な教育課程』を編成し、実施するためにどのような方策が必要なのか、⑵教育課程の柔軟性の在り方では、具体の論点が示されています(資料1参照)。

【資料1】標準授業時数に関する学校質問調査への回答(令和4年度学習指導要領実施状況調査より)

資料1
標準授業時数について、多数の現場が学校の裁量を広げることに賛成し、授業時数の調整を行いたいと考えていることが分かる。

まず、『現行の教育課程の特例制度(教育課程特例校、授業時数特例校、小中一貫、中高一貫など)をより活用しやすくする』と指摘しています。例えば、授業時数特例校制度は、学習指導要領に示した各教科等の資質・能力の育成を前提に、年間の標準総授業時数は維持した上で、1割を上限として各教科の標準授業時数を下回った教育課程の編成を特例的に認め、下回ったことによって⽣じた授業時数を別の教科等の授業時数に上乗せすることで、教科等横断的、あるいは探究的な学習活動の充実を図ることを可能とする仕組みです。

この仕組みは、現在は教育委員会などから申請があった場合に、要件を満たすことを文部科学大臣が確認し、指定することになっていますが、こうした仕組みなどについて、もっと使いやすい在り方があるのではないか、という問題意識ですね。

また、『各教科等の標準授業時数についてどのような柔軟性が持たせられ得るのか』とも指摘しており、その上で、例示として、『午前は教科等の授業を実施し、午後は探究学習や教科・領域に該当しない多様な学びを重点的に実施する取組』などが挙げられています。

現在、例えば、研究開発学校制度を活用して東京都目黒区や愛知県春日井市などが、授業時数特例校制度を活用して東京都渋谷区などが、『子供が興味・関心や能力・特性等に応じて自ら教材・方法・ペース等を選択できる学習環境を教師が適切にデザインする』方向性を重視した取組を進めており、具体のイメージとして参考になるかもしれません(資料2参照)。

【資料2】1単位時間40分制を導入している目黒区の取組

資料2
令和元年より研究開発学校の指定を受け、令和6年度は市内全22小学校中19校で(来年度は全校の予定)、1単位時間40分制を実施。年間127コマの時間を生み出し、学校ごとに創意工夫ある教育活動を実施している(有識者検討会提出資料より抜粋)。目黒区の取組にご興味のある方は、以下URLより発表資料をご覧ください。

https://www.mext.go.jp/content/20240130-mxt_kyoiku01-000033750_02.pdf

さらに、『年間の最低授業週数(35週以上)や、単位授業時間(小学校1単位時間45分、中学校1単位時間50分)については、現在でも学校に裁量が認められているが、当該規定が硬直的な教育課程編成を助長しているとの指摘もあり、取扱いを検討すべき』と指摘しています。

この指摘の背景として、年間の最低授業週数(35週以上)の規定に関しては、年間の標準総授業時数の 1,015 単位時間を35週にわたって実施することを前提に、週当たり29単位時間の授業を行う必要があるとの認識が学校には根強く、標準授業時数を大幅に上回った教育課程編成を学校が見直すことが困難との声の存在があります。

しかし、実際には年間の授業日数は 200 日程度(40週)が一般的であり、必ずしも 1,015 単位時間を確保するために週 29 単位時間の授業を実施する必要はなく、実際、工夫により週28単位時間を実現している学校も増えてきているのです(なお、この旨は、令和6年8月の中央教育審議会答申〔P21〕でも言及されています)。

単位授業時間(小学校1単位時間45分、中学校1単位時間50分)の規定に関しては、現行制度においても、例えば、1単位時間を小学校で40分、中学校で45分とすることも可能(各教科等の標準授業時数の時間の総量は維持する必要あり)であり、実際にそうした取組をしている学校や市区町村もありますし、中には90分、100分といった長い授業時間を設定し、ゆったりと学ぶ時程を組んでいる学校もあります。

しかし、標準授業時数を規定している法令(学校教育法施行規則)の別表において、『この表の授業時数の1単位時間は、45分(50分)とする』とされているため、1単位時間を柔軟に設定することが可能であることが十分に理解されていないのではないかとの声があります。

こうした現行制度や実態を踏まえつつ、柔軟な教育課程を編成し、実施することができるよう検討すべき、という指摘だと受け止めています。そして、これらは主に小中学校についての議論ですが、論点整理は、高等学校についても柔軟な教育課程とはどうあるべきなのか検討すべきだと、全日制・定時制・通信制の在り方を例示しつつ、指摘しています。

このほか、不登校児童生徒など『学校が編成する一つの教育課程では包摂が難しい多様な子供についても、その良さを伸ばしつつ資質・能力の育成に繋げていく包摂的(インクルーシブ)な教育環境の構築に向けて、教育課程における取扱いの在り方やそれに付随する環境整備の在り方を検討すべき』と指摘しています。

不登校児童生徒が大幅に増加している中で、多くの子供たちが校内外の教育支援センターで相談・指導などを受けているにもかかわらず、現状、こうした子供たち一人一人について教育課程が編成されているわけではないことについてどう考えるべきかという趣旨の指摘であり、特定分野に特異な才能のある児童生徒についても同様の課題があると受け止めています。

⑶学校段階間の連携・接続の在り方では、幼児教育と小学校教育の連携・接続については、幼児教育に関する有識者検討会でも同様の指摘があったと思いますが、『幼児教育と小学校教育が相互にその教育の良さを取り入れていくためにはどうすればよいか検討すべき』と指摘しています。

授業づくりの実態などを全体として捉え、教育課程の実施に過度な負担が生じにくい仕組みを検討すべき

5学習指導要領の趣旨の着実な実現を担保する方策や条件整備では、まず、⑴教育課程を実施する上での学校現場の過度な負担を防ぐための在り方の中で、『教育課程の実施に伴う負担への指摘に真摯に向き合う必要性はあるが、その負担感がどのような構造により生じているのか精緻に議論すべき』と指摘しています。

また、『その際、教師の “ワーク・オーバーロード” と、いわゆる “カリキュラム・オーバーロード” との呼称で指摘されている諸課題は区別』すべきとも併せて指摘し、これらが基本的な認識と受け止めています。

この点、『学習指導要領や同解説の在り方に加え、厚い教科書・入試の影響・教師用指導書も含めた授業づくりの実態などを全体として捉えて対応し、教育課程の実施に伴う過度な負担感が生じにくい仕組みを検討すべき』としています。

同時に、『学習指導要領の分量や、教職員定数といった教育環境のいずれか一方で全てを解決するといった短絡的な議論に陥ることなく、負担が生じる原因に丁寧にアプローチし、教育課程と教育環境整備が全体として機能するようにすべき』と指摘し、今後の検討に当たっての考え方が整理されています(資料3参照)。

【資料3】学校現場に過度な負担感が生じにくい仕組みづくり(石井英真委員発表資料より抜粋)

資料3
ワーク・オーバーロードとカリキュラム・オーバーロードを区別し、教育課程の実施に伴う過度な負担感生じにくい仕組みについて意見を述べた石井委員(京都大学)の発表資料の一部。当該発表の全体については以下URLより資料をご覧ください。

https://www.mext.go.jp/content/20240610-mxt_kyoiku01-000036442_02.pdf

そして、その上で、「総授業時数については、現在以上に増やすことがないよう検討すべき」と指摘しているのです。

⑵教科書・教材の在り方では、『教科書の内容は格段に充実し、ページ数が大幅に増えている現状』を指摘した上で、『入試の在り方に関連し、教科書の内容を全て教えなくてはいけないという考え方は依然として根強く、教科書のページ数の多さが、授業進度の速さや教育課程の実施に当たっての負担感を生んでいる実態も指摘されている』としています。

また、『経験の浅い教師でも充実した指導ができるように工夫されていることが、かえって教師の創意工夫や教師の指導力向上を阻んでいるのではないか』とも指摘しつつ、『新しい学びにふさわしい教科書に掲載する内容や分量のほか、デジタル教科書の在り方等についてあらためて検討すべき』としているのです。

本来、まず子供たちにどのような資質・能力を育むのかを考え、そのためにどのような単元構成にすべきか、その上で、1コマ1コマの授業はどうすべきか、という順番で授業づくりができれば、教科書も『内容を全て教えなくてはいけない』とはならず、教師用指導書もメリハリを付けて参考に使用するということになるはずです。このような姿に少しでも近付けるように教科書の在り方を含めて何をすべきか考えるべきだ、という指摘と受け止めています。

こうしたこととも関連しながら、『単元をベースとして授業を構想することの重要性や示し方を検討』し、学校現場に分かりやすく伝わるように示していくことが重要とされています。

⑶カリキュラム・マネジメントの実態と今後の推進の在り方では、各学校での実施の認識が高まっている一方、『年度途中でも柔軟に見直しながら実施していくことに課題がある』ともし、学校組織全体のマネジメントの観点からも、カリキュラム・マネジメントの充実について指摘しています。

さらに、の最後、⑷教育課程の円滑な実施に向けた学校への支援と環境整備では、『指導主事を配置していない基礎自治体があることも踏まえ、教育委員会や学校が…自主的・自律的に取組を進めることができるよう…学校への支援体制の強化を図る』とし、多様な子供たちを包摂する柔軟な教育課程の編成を促していくためにも、指導主事の配置や資質・能力の向上の重要性を指摘していると受け止めています。

また、『教育課程の改善・充実と教職員定数の改善をはじめとする教育条件整備は一体的に行っていく必要』があるとも指摘しています。

今回は、4、5の内容について概説していただきました。次回は、最終回として6学習指導要領の趣旨の実現に向けた政策形成・展開の内容の概説とともに、担当者としての栗山室長の思いも伺っていきます。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之

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