世界7か国からギフテッドの中学生たちが集結!~APCGユースサミットで、何が起きていたのか?~

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2024年8月、香川大学で行われた第18回アジア太平洋ギフテッド教育研究大会(APCG2024)と並行して、世界7か国・地域(※)の中学生たち(ギフテッド含む)が集まり、7か国混合チームで探究活動を行う「ユースサミット」が行われました。そのサミットの様子を、講師であるお茶の水女子大学の榎戸三智子先生のお話を基にレポートします。

※:複数箇所あり。

写真 7か国の子供たちが一つの教室に集った様子
7か国の子供たちが一つの教室に集う

榎戸三智子(えのきど・みちこ) お茶の水女子大学サイエンス&エデュケーション研究所特任講師
都内公立学校を中心に教育活動を行う。専門は科学教育・理科教育。ユースサミットにおいてギフテッドへの教育プログラムを企画・実施して、個々の才能を伸ばす教育に関心を持つようになった。

7か国の混合チームで行う探究活動とは?

探究したのは太陽熱

ー ユースサミットの概要について教えていただけますか? 

榎戸 今年(2024年)の8/16~20の5日間、日本を含む世界7か国(オーストラリア、中国、香港、タイ、台湾、サウジアラビア)から約90名の中学生が香川大学幸町キャンパスに集まり、探究活動に取り組みました。また、香川県内を観光したり、小豆島で地引網漁を体験したりもしました。

ユースサミットのテーマは、「Connecting the World Glocally to Ensure a Sustainable and Equitable Future」です。日本語だと「持続可能で公平な未来のために、グローカル(地球と地域)に世界をつなげよう」といったところでしょうか。

ー 生徒たちはどのような探究活動を行ったのでしょうか? 

榎戸 事前に各自で「太陽熱」あるいは「二酸化炭素」のどちらかのテーマを選び、それぞれのテーマごとに7か国の混合チームを作り、別々の教室に分かれました。私が担当した太陽熱のチームは、まず基本原理を学び、その後、チームで蓄熱容器内の水温を上昇させる装置の開発を目指しました。

太陽熱利用の基本原理を説明する榎戸先生
太陽熱利用の基本原理について説明する榎戸先生

生徒たちはチームごとに装置を計画、製作、実験をして、さらなる改良に取り組みました。4日目にはどのチームが最も水温を上げられるかコンペティションを行い、最終日には全員の前で、探究内容についてのプレゼンテーションを行いました。

ー なぜ太陽熱をテーマとしたのでしょう? 

榎戸 テーマとして「太陽熱」を提案したのは、次のような理由からです。

○太陽光を集めることで熱として利用することができ、電気やガスがなくても温かい食べ物や水などを手に入れることができる。災害時や貧困地帯でも有用で、今後の世界のエネルギー問題を考えたとき、各国の生徒たちの探究テーマとして有意義だと感じた。
○太陽熱は世界的に利用されていて、特に(ユースサミット参加国である)サウジアラビアでは2030年に向け、世界最大規模の利用施設を建設中である。日本は気候上不向きだが、実は約50年前、1000KWほどの太陽熱発電に世界で初めて成功したのは香川県の発電所だった。

探究活動での子供たちの様子

ー 探究活動は、どのように行われたのですか?

榎戸 まずは、各チーム内で自己紹介をしながらアイスブレイクをしました。そして、大まかに次の3ステップで活動しました。

  1. 図面を作成するなどして装置を計画
  2. 決められた材料で装置を製作
  3. 屋外で実験をし、適宜、改良を重ねて装置を完成

ー 事前に心配なことはありましたか?

榎戸 文化的背景が異なる子供たちの混合チームによる数日間の活動で、しかも日本を含め母語が(ユースサミットの共通言語である)英語ではない国の子供たちもいたので、「チームとして有意義な探究活動が成立するのか?」については、不安でした。

ー 実際に探究活動が始まると、どんな感じだったのでしょうか?

榎戸 自分で選んだテーマということもあったと思いますが、子供たちの目的意識が非常に高く、チームとして予想以上に意欲的に取り組むことができたと思います。各国の先生方にも、多大なるご協力を頂きました。

ー チームワークを円滑にしたものは何だったのでしょうか? 

榎戸 大前提の話になりますが、「話し合いで使う言語が英語だった」ことは大きかったと思います。子供たちのやりとりを観察していて、英語は国際チームでの協働作業に適した(言語)ツールだと実感しました。英語の単純さは、文化背景が多様でも意思疎通をスムーズにするのです。

英語が得意ではない生徒もいましたが、彼/彼女らはGoogle翻訳や、運営側が用意した市販の自動翻訳機を使うことで、英語力をカバーしていました。私自身も英語が得意な方ではなかったので、科学的な内容を正確に伝えたい時は、翻訳機を使いました。言語という側面での「コミュニケーションの円滑さ」は、電子機器を使えばそれなりに担保できたと思います。

話し合いで用いた言語は英語
話し合いで用いた言語は英語。
混合チームでの話し合いの様子
混合チーム内で話し合いをした後……。
装置の製作が始まった!
装置の製作が始まった!

「自分の得意な分野」で「チームに貢献」する!

特筆したいのは、「質の高いアウトプットは、言語の壁を越える」ということです。

ー 質の高いアウトプットとは?

榎戸 今回、中学生には少し難しいかなと感じつつ、図面作成の参考用に、操作性が良く直感的でわかりやすい二次元のシミュレーションソフトを紹介しました。始めてみると、難なく使いこなす子も多く、より精度の高い独自の三次元のシミュレーションプログラムを作る子もいて驚きました。

PCを使っての図面作成作業
パソコンを使っての図面作成作業。

独自のプログラムを作っていた子は日本人で、英語はどちらかというと苦手でした。けれども、彼のクリエイション(質の高いアウトプット)は、チームのメンバーからリスペクトをもって受け入れられていましたし、チームの活動に大きく貢献していました。

自分の得意な部分を活かして貢献できた経験は、今後の彼の自信に大きく繋がったと思います。

目的に向かって、みんなで協力する!
目的に向かって、みんなで協力する!

また、子供たちのチームメンバーに対する優しさや率直さも印象に残りました。他のメンバーの優れたところを取り入れ、より良くしていこうとする姿勢は、ものづくりにおいて大きな力になりました。

ものづくりの場には、独特のワクワク感があります。
ものづくりの場には、独特のワクワク感があります。
雨のため、急きょ室内での実験に切り替えて作業
雨のため、急遽室内での実験に切り替えて作業。
まさに、創造! いろんな形をした太陽熱利用装置が生み出されます。
まさに、創造! いろんな形をした太陽熱利用装置が生み出されます。

予想以上にコンペが白熱

ー 印象に残ったエピソードはありますか?

榎戸 コンペは、限られた時間内にどのチームの装置が最も水温を上げられるかを競うもので、とても白熱しました。水温測定にはT&Dというメーカーのワイヤレスのデータロガーを使い、各種端末でその時間変化を確認し、コンペ中は前のスクリーンに全チームの記録を映し出していました。

他のチームの記録が同時進行でスクリーンに映し出される
他のチームの記録がスクリーンに映し出される

子供たちは他のチームの様子もよく見ていて、お互いに刺激しあえる場だったと感じました。

上位争いで接戦となっていた2チームのうちの1チームは、コンペ終了直後、「隣のチームが装置にアルミシートを追加して不正を行っていた!」と全力で抗議してきました。
非難されたチームも、「材料を追加しても規定の範囲だから問題ない!」と一歩も譲らず。結局、私が仲裁に入り事なきを得ましたが、それほど熱中できる場なのだと思いました。

コンペ後も粘り強く活動

榎戸 コンペの上位争いは白熱したのですが、実は、ほとんど温度が上がらないチームもありました。けれども、彼/彼女らは、コンペ後の活動時間にも粘り強く改良を重ね、最後は全チームの中で最もよい結果を残していました。

二つともギフテッドの特性である「課題への傾倒」を示すエピソードとして、興味深いですね!

才能は「コミュニケーションツール」であり「居場所」である

ここからは、榎戸先生と筆者が、ユースサミット中に交わした会話を再現したものです。

ー ユースサミットは、いかがですか?

榎戸 これまで、主に公立の小中学校の児童生徒を対象に教育活動を行う中で、特異な才能を持った子の存在に気付いてはいましたが、特別にそうした子を意識したことはありませんでした。今回、そのような子が集まるユースサミットに参加してみて、ギフテッドの特性のある子供たちへの教育について、きちんと考えていきたいと感じました。とりわけ、以下のような場面が印象に残りました

  1. 初対面の交流の場では周囲とのコミュニケーションに困っていた子が、探究活動が始まった途端、生き生きと活動し始めた。
  2. 一般的なコミュニケーションが苦手な子でも、その才能を垣間見ることができるアウトプット(実験に貢献できること)に対して、他の子供たちが注目し、周囲に集まってきていた。

榎戸 一般的なコミュニケーションが苦手な子については、私の方で後押しをしたこともありました。

これ、凄いから、みんなに見てもらおうよ!

榎戸 ギフテッドには、お互いの才能に対してのリスペクトがあるんです。

ー 才能に対してのリスペクトとは?

榎戸 ユースサミット初日の夜、先生同士の打ち合わせの中で、「目配りが必要かもしれない」と話題に上った子がいました。突出した才能はあるものの、一般的なコミュニケーションは得意ではなかったからです。

本人は、他のメンバーとコミュニケーションをとりたい気持ちはあった様子でしたが、なかなか第一歩を踏み出せませんでした。しかし、いざ活動が始まると、その子の「アウトプット」を周囲の子どもたちが放っておきませんでした。「それ、凄いね。ちょっと教えて!」など、自然に子供たちが集まってくるのです。

そんな様子を見ると、ギフテッドにとって、「同じ領域の同年代の才能のある子供たちと交流できる環境」は自己肯定感を上げるために大事なのだと感じました。また、一言で「同じ領域」と言っても、それぞれの子の持つ才能は異なっているんだな、とも感じました。

ー 同じ領域でも、持っている才能が違う?

榎戸 例えば、わかりやすくリーダーシップを取れる子もいれば、特にプログラミングが得意な子もいました。手先が器用で工作が得意な子、デザインが得意でプレゼン資料作成の中心になっていた子もいました。それぞれにチームメンバーに対する優しさや率直さがあり、相互に有機的な関わりができていました。

ギフテッドたちが、目的に向かって個々の才能を集結させていく力は、凄かったです!


ー 子供たちのギフテッドの特性が解放され、響き合っていたのですね

榎戸 ユースサミットは、個々の個性や能力を活かせる有意義な場(居場所)でした。けれども、その個性や才能ゆえに、日常生活においてつらい思いをする子供たちもいると思います。今回のようなプロジェクトベースの活動の場で、同年代の子供同士が交流できる機会を設け、彼らをサポートしていくことはとても重要だと感じました。

今、世界は様々な課題に直面しています。気候変動や環境問題、紛争や貧困などの政治・社会問題、どれも一つの国や地域で解決できないことばかりです。今回のユースサミットでの経験は、彼/彼女らにとって、世界との関わり方についての見方を新たにする機会となったのではないかと感じます。将来的に、彼/彼女らの才能が、地域・社会の中で活かされれば、個人の成長だけでなく社会全体にとっても大変有益なことだと思います。

ギフテッドの特性のある子供たちが国境を越えて協力し合うことができるよう、今後も教育を通して何かしらのお手伝いをしていきたいと考えています。


いかがでしたか? ギフテッド支援について考える際、「学校外リソース」との連携を視野に入れることは不可欠だ、と筆者は考えています。

「ギフテッド」支援に役立つ「学校外リソース」のデータベースを、文部科学省が公開!

けれども、日々の授業や校務でお忙しい学校の先生方にとって、「学校外リソース」に目を向けることはなかなか困難だ、という現実もあります。

だからこそ、榎戸先生のような存在――学校外に存在し、専門領域のある教育者の、「ギフテッド支援に携わりたい!」という声を、このサイトの読者である先生方にお届けしました。
こうした発信が、今後日本のギフテッド支援体制を整えていく上で大切だと考えています。

次回は、学校と学校外の教育活動が連携することにより子供の才能が見出され、授業に活かされた好例を紹介します。

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ギフテッドの子は、学校外での学びも必要としていた! ~学校外リソースとの連携実践成功例~

楢戸ひかる(ならと・ひかる)
ライター。「ギフテッド」や「学校に行かない選択をした子供たちのためのフリースクール」取材を通じて、「選択肢としての新しい学び」や「教育活動の連携」を探究している。自身のサイト「主婦er」内に「ギフテッド関連記事のリンク集」がある。

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