「特別支援教育の視点を取り入れた教育活動を大切に」インクルーシブ教育を実現するために、今私たちができること #8

連載
インクルーシブ教育を実現するために、今私たちができること

ノートルダム清心女子大学人間生活学部児童学科准教授・インクルーシブ教育研究センター長

青山新吾
インクルーシブ教育を実現するために、今私たちができること #1 執筆/青新吾

「インクルーシブ教育」を通常学級で実現するためには、どうすればよいのでしょうか? インクルーシブ教育の研究に取り組む青山新吾先生が、現場の先生方の悩みや喜びに寄り添いながら、インクルーシブ教育を実現するために学級担任ができること、すべきことについて解説します。

本連載では、インクルーシブ教育とは、貧困状況にある子どもや性的マイノリティの子ども、外国にルーツのある子ども、不登校の子ども、障害や病気のある子どもなどのマイノリティ属性を含むすべての子どもが対象だとしています。そして、すべての子どもたちが包摂される教育を目指すプロセスがインクルーシブ教育であり、そのためには通常学級の教育をもっと豊かにしていくことが求められているという前提に立っています。

今回は、特別支援教育の視点を取り入れることの意味について考えます。

執筆/ノートルダム清心女子大学人間生活学部児童学科准教授・インクルーシブ教育研究センター長・青山新吾

「特別支援教育」と「特別支援教育の視点を取り入れた教育活動」

特別支援教育が法律に位置付けられたのは2007年(平成19年)でした。

それから、約15年。特別支援教育は、個の教育的ニーズに応じる個別の指導・支援を行うものです。しかし、この15年の間に、本来の特別支援のアプローチのほかに、子ども同士の関係性に対するアプローチや、特別な支援を要する子どもが所属している集団へのアプローチも大切にされるようになりました。私は、これを「特別支援教育の視点を取り入れた教育活動」だと考え、結果として特別支援教育の幅が広がったと捉えています。

「特別支援教育の視点を取り入れた教育活動」は、特定の子どもに対するアプローチではなく、通常学級の教育そのものを豊かにするために役立つアプローチだと考えているのです。

時代は大きく動き、今、インクルーシブ教育という考え方、言葉が広がっています。

インクルーシブ教育を進める際、「特別支援教育の視点を取り入れた教育活動」が基盤になります。通常学級の教育を豊かにすることが、インクルーシブ教育の基盤になるのです。

インクルーシブ教育を進めるためには「特別支援教育の視点を取り入れた教育活動」が重要

『特別支援教育すきまスキル』から見るインクルーシブ教育の基盤

2018年に『特別支援教育すきまスキル』(明治図書出版)という本を出しました。これは、学校現場の日常の中で生じそうな状況をピックアップし、それぞれに応じて

・その状況の背景要因の分析=なぜその状況が生じているのかを読み解くこと
・そのために知っておくべき知識
・その状況に対しての①集団に対する指導スキル、②個別の支援スキル

をパッケージにして示したものです。これは、いかなる状況に対しても、教師が思考する手順を示しています。

宿題が終わらない子供

例えば、以下のような状況は、どの学校現場でもよく生じているのではないでしょうか?

例)宿題をしてこない、こられない子どもへの対応ポイントは?

背景要因1:計画的に物事を進めることが難しい
背景要因2:宿題の量が本人の力や特性と見合っていない

宿題を課したところ、それが提出されない状況を例にとってみました。

ここで、すぐにアプローチ方法を考えるのではなく、どうして提出できないのだろうか? というその状況(行動)の背景要因を検討することがポイントです。これは、本連載第3回4回で書いた「やさしいどうして?」のまなざしを向けることと同じです。

この場合、その原因として推察できることはいろいろありますが、ここでは上記の2つをピックアップしてみました。そのうち、ここでは、背景要因2を取り上げて考えてみます。

背景要因2は、宿題の量が本人の力や特性と見合っていないことを想定しています。こういった要因で結果的に宿題が提出されないことは十分に考えられることでしょう。そして、その対応ポイントは、宿題の量のコントロールにあることは明白です。

この場合、そこに対応するアプローチを2つの方向から考えてみます。

「集団へのアプローチ」と「個別のアプローチ」の2つの方向です。

集団へのアプローチとしては、その集団全体として、宿題を「選択」できるようなシステムを取り入れることが考えられます。提出できない子どもだけに対応するのではなく、集団全体に対して、その難易度やボリュームを変えて準備し、子どもによって「選択」できる状態をつくることが考えられます。

個別のアプローチとしては、「選択」すること自体が苦手な子どもに対して個別に向き合い、「対話」することを通して、その子どもに合ったものを「選択」できるように支援することが考えられます。また、宿題のボリュームを変えても取り組みにくい子どもには、個別に働きかけ、励まし続けることも重要になるでしょう。

なお、集団へのアプローチとして、そもそも宿題を課すことは必要なのかどうかを検討することも重要です。しかし、ここでは、宿題を課すことを前提に考えを進めていくこととします。

個と集団へのアプローチバランス

『特別支援教育すきまスキル』は、ある事象、状況に対して、その背景要因の検討(「やさしいどうして?」のまなざしを向けること)と、検討した背景要因を踏まえて、集団へのアプローチと個別のアプローチの2つの方向から取り組んでいくものです。

すぐに支援方法はでてこないので、背景養親を探る。集団へのアプローチと個別のアプローチ

この際、集団と個へのアプローチバランスが重要になります。このバランスは、子どもによって、置かれた状況によって考えていくことになります。

以上のように、それぞれの現場で、「特別支援教育の視点を取り入れた教育活動」に取り組むことが、インクルーシブ教育を進めていく基盤となるのです。

【参考文献】
・青山新吾・堀裕嗣『特別支援教育すきまスキル 小学校下学年編』(明治図書出版)
・青山新吾・堀裕嗣『特別支援教育すきまスキル 小学校上学年・中学校編』(明治図書出版)
・青山新吾・堀裕嗣『特別支援教育すきまスキル 高等学校編』(明治図書出版)


青山新吾先生

青山新吾(あおやま・しんご)ノートルダム清心女子大学人間生活学部児童学科准教授、同大学インクルーシブ教育研究センター長。岡山県立公立小学校教諭、岡山県教育庁特別支援教育課指導主事を経て現職。臨床心理士。著書『エピソード語りで見えてくるインクルーシブ教育の視点』(学事出版)、編著『特別支援教育すきまスキル』(明治図書出版)など、著書・編著多数。

【青山新吾先生 著書】
『エピソード語りで見えてくるインクルーシブ教育の視点』(学事出版)
『インクルーシブ教育を通常学級で実践するってどういうこと?』(岩瀬直樹との共著/学事出版)

イラスト/イラストAC

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
連載
インクルーシブ教育を実現するために、今私たちができること

学級経営の記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました