文部科学省の「ギフテッド」支援事業。3年目の大きな変化とは?~知りたい!令和7年度の概算要求~<前編>

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昨年度から始まった文部科学省による「特定分野に特異な才能のある児童生徒」支援事業。その3年目の方向性を記した「文部科学省令和7年度の概算要求主要事項」が公開されました。概算要求とは各省庁が翌年度の予算を要求する根拠となる数字で、いわば国の動きを知る指標の一つです。

今回公開された予算の枠組みは、これまでの2年とは大きく変化しました。今後、国の「ギフテッド」支援は、どのような方向に向かっていくのでしょうか? 文部科学省初等中等教育局教育課程課・嶋田孝次学校教育官に聞きました。

※ 文部科学省では「ギフテッド」という言葉は使用しておらず、「特定分野に特異な才能のある児童生徒」という用語を用いています。

文部科学省の嶋田孝次学校教育官
文部科学省の嶋田孝次学校教育官

文部科学省「ギフテッド」支援事業について

まずは、これまでの文部科学省「特定分野に特異な才能のある児童生徒」支援事業の動きをおさらいしておきましょう。

  1. 令和4年度 有識者会議による文部科学省への提言。
  2. 令和5年度 「特定分野に特異な才能のある児童生徒」支援事業1年目がスタート。
  3. 令和6年度 「特定分野に特異な才能のある児童生徒」支援事業1年目の成果報告を、文部科学省のHPで公開。「特定分野に特異な才能のある児童生徒」支援事業2年目が進行中。令和7年度の概算要求を行った。  ← 今、ここ

「みんなの教育技術」の過去記事を参照しながら、それぞれの年の具体的な動きを見ていきます。

令和4年 有識者会議が文部科学省への提言を行う

令和4年9月26日(月)の午前10時より「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議」が開かれ、文部科学省への提言が行われました。

「ギフテッド」、文部科学省に提言でキックオフ 記事へのリンクは、コチラ

有識者会議からの提言を受けて、文部科学省は「令和5年度」の予算として7700万円を確保し、以下の4つの柱で支援事業が動き始めました。

  1. 特異な才能のある児童生徒に関する研修パッケージの作成
  2. 特異な才能のある児童生徒の特性を把握するツールや特異な才能のある児童生徒の支援に資するプログラム等のデータ収集・整理
  3. 特異な才能のある児童生徒に対する指導・支援に関する実証研究
  4. 特異な才能のある児童生徒の指導・支援を行う教職員・保護者を対象とする相談支援に関する実証研究

令和5年度の事業成果報告を公開

「令和5年度」の事業成果報告が、今年(令和6年)の春に文部科学省のHPで公開されました(令和5年度は、令和5年4月1日~令和6年3月31日)。 

「ギフテッド」支援事業の成果報告が記載された文部科学省のHPはコチラ

「みんなの教育」では、令和5年度の事業成果報告を受け、随時記事を作成してきています。

↓「特異な才能のある児童生徒に関する研修パッケージの作成」に関する記事

ギフテッドへの合理的配慮、担任が最低限知っておくべき2大ポイント

勤務校に「ギフテッド」が入学してくる! 教職員チームは、まず何をすべきか? 

「ギフテッド」が周囲の子と意欲的に学べる授業づくり、2つのポイント

才能と学習困難を併せ持つ、2e(ツー・イー)の子供の「強み」を伸ばす声かけとは?

↓「特異な才能のある児童生徒関連のデータ収集・整理」に関する記事

「ギフテッド」支援に役立つ「学校外リソース」のデータベースを、文部科学省が公開!

令和6年「特定分野に特異な才能のある児童生徒」支援事業2年目

昨年、文部科学省の令和6年度の概算要求主要事項が公開されたタイミングで、取材に行きました(以下のリンク参照)。

文部科学省「特定分野に特異な才能のある児童生徒」支援の現在進行形 

令和6年度の支援事業は1年目と同じ枠組みで概算要求を出し、前年度通りの4つの柱に沿って支援事業が継続中です。

令和7年度「特定分野に得意な才能のある児童生徒」支援事業 3つの柱

「おさらい」を踏まえ、令和7年度の概算請求の内容を見てみましょう。

  1. 学校と連携した学習・支援プログラムの提供及び評価の在り方に関する実証研究
  2. 学校と連携した相談支援体制の構築等に関する実証研究(地域単位での取組)
  3. 学校と連携した相談支援体制の構築等に関する実証研究(全国的な取組)

支援の柱は3つとなり、枠組みが大きく変化したことがわかります。それぞれの柱について嶋田孝次学校教育官に説明してもらいました。

1 学校と連携した学習・支援プログラムの提供及び評価の在り方に関する実証研究

一つ目の柱は、これまでの実践事例を、教育課程にどうやって落とし込むのかの検証です。

これまでの実践事例をどう学校教育課程に落とし込むか、の説明図
「令和7年度文部科学関係概算要求のポイント」より抜粋

嶋田 これまでの教育実践事例では、学校外での取り組みは教育課程外の位置付けでした。今後は、子どもの学校外での学習成果を、教育課程にどう位置付け、学校の評価に繋げていくのか? これを教育委員会や学習支援プログラムを提供している民間の企業と共に検証していきます。

2 学校と連携した相談支援体制の構築等に関する実証研究(地域単位での取組)

二つ目の柱は、地域単位の取組として、都道府県もしくは政令指定都市の教育委員会に、「特定分野に特異な才能のある児童生徒」についての相談支援ができる体制を作っていきます。

ギフテッドについての相談支援体制構築に関する概念図
「令和7年度文部科学関係概算要求のポイント」より抜粋

嶋田 都道府県もしくは政令指定都市の教育委員会に、学校の先生方や保護者、子どもたちが相談でき、支援につなげてもらえる場所を作ることを目指しています。相談内容は、教育委員会内だけで検討されるのではなく、専門家や支援団体とも連携して相談支援の体制を構築していきます。

まずは実証検証のモデルとなる教育委員会を作り、ノウハウを蓄積してもらいます。いずれはそれらの教育員会のノウハウをもとに、他の教育委員会にも相談支援体制を整えていくことが目標です。

― 困っているギフテッドの姿を目の当たりにすると、「一刻も早く!」という気持ちになりますが。

嶋田 我々は各都道府県の教育行政に携わっている方たちから依頼を受け、講演という形で説明に行くことがあります。その際、特異な才能のある児童生徒への支援として、「こういった予算があります」とお伝えしています。

ただ、我々が直接伝えることができるのは基本的に都道府県の教育委員会ですので、都道府県から市区町村の教育委員会へ、そして各学校現場へと伝わっていくまでには、ある程度の時間が必要です。

その点はメディアの方々のお力もお借りしつつ、周知していく努力をします。その結果、取組の認知度が上がり、学習上・学校生活上の困難を抱える子供たちが適切な支援を受けられることを目指します。

3 学校と連携した相談支援体制の構築等に関する実証研究(全国的な取組)

三つ目の柱は、地域を超えた学びへの接続を図ることです。

全国的な取組についての概念図
「令和7年度文部科学関係概算要求のポイント」より抜粋

嶋田 一言で「特異な才能」と言っても、その種類は様々です。才能によっては、子どもが住んでいる地域内では、その子どもの良き理解者となるメンターに出会えない可能性もあります。そういった場合を想定し、地域を超えて学びへの接続ができるような仕組みを考えていきます。

「メンタリング」は、才能教育の大きな柱です(以下の記事をご参照ください)。

APCG(アジア太平洋ギフテッド教育研究大会)2024 ハイドルン・シュトーガー教授(ドイツ)の発表より

「メンタリングとは、経験豊富なメンターと経験の浅いメンティの間の比較的安定した二者関係です」と定義し、インターネットを使ってメンタリングを行う「サイバーメンター」というオンラインのメンタリングプログラムが紹介されていました。

ギフテッド教育、これが世界のガイドラインだ!~アジア太平洋ギフテッド教育研究大会2024ルポ・後編~ 

まとめ キーワードは教育委員会

令和7年度の概算要求のキーワードは、教育委員会です。3つの柱のうち2つが、教育委員会が中心となる施策です。

シリーズ「知りたい!令和7年度の概算要求・後編」では、文部科学省「ギフテッド」支援事業の採択団体のひとつ、鎌倉市教育委員会の取組を紹介します。

不登校の子どもに本気で向き合う「かまくらULTLAプログラム」~知りたい!令和7年度の概算要求・後編~

教育委員会が研究全体を強力に統括し、不登校の子どもたちに向けた新たな教育行政のモデルを提示することを目指した実証研究です。

「ギフテッド」支援事業が、なぜ不登校の子どもたちの話につながるの?

そんな疑問をお感じの方もいらっしゃると思うので、この記事の最後では「ギフテッド」支援を理解するための2つの大切なポイントについて、改めて整理しておきます。

「ギフテッド」支援を理解するための2つの重要ポイント

ポイントは、以下の二つです。

  1. 文部科学省は「突出した才能をもつギフテッドの支援を開始すべきだ」とは言っていない。
  2. 学校に行かない選択をするギフテッドは多い。

1 文部科学省は「突出した才能をもつギフテッドの支援を開始すべきだ」とは言っていない

筆者には、忘れられない光景があります。「ギフテッド」有識者会議の第13回目、教育委員会関係団体からのヒアリング場面です。

第13回会議(2022.09.08)(会議資料)

教育委員会関係団体の「長」の方々は、異口同音に、こうおっしゃいました。

「ギフテッド」かどうかを判断する明確な指標が必要だと思う

この発言を聞いて、日本の「ギフテッド」支援を「狭義の才能教育」だと捉えている方もいらっしゃるのかもしれない……、と感じました。

狭義の才能教育広義の才能教育

一言で「才能教育」といっても、狭義と広義の意味があるのは、ご存じですか? 日本の才能教育を考える際、松村暢隆先生(関西大学名誉教授)の概念整理の枠組みが分かりやすいです。

  1. 狭義の才能教育 : 多様な才能を公式の方法で識別して、一部の子供を対象に特別プログラムを実施する。
  2. 広義の才能教育 : 才能を公式に識別せずに、全ての子どもを対象に、個人の得意・興味を伸ばして活かす指導・学習を行う。 

日本型の才能教育のベースは、広義の才能教育です


以下に提言書全文へのリンクを貼っておきますので、ご確認下さい。

特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議 審議のまとめ~多様性を認め合う個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実の一環として~」

文部科学省HP

2 学校に行かない選択をするギフテッドは多い

実際、筆者が出会ってきた多くの「ギフテッド」の子どもたちは学校に行けていません。「個性や特性」と「学校教育」とのミスマッチを、とりわけ敏感に感じ取り、苦しんできた子どもたちだからです。日本型の才能教育のベースは、広義の才能教育です。「ギフテッド」支援が不登校の子どもたちにフォーカスすることは、何ら不思議ではありません。

広義の才能教育 全ての子どもを対象に、個人の得意・興味を伸ばして活かす指導・学習を行う。


学校に行けない「ギフテッド」当事者たちの声を集めた記事のリンクを、以下に貼っておきます。

ギフテッド当事者「等身大の自分を伝えたい!」  


また、ギフテッドが学校に行けなくなるまでによくある過程を、ストーリーマンガ化し、連載しました。

第1話 「ふつう」が私を苦しめる


以下、連載マンガのページから一部を抜粋してご紹介します。

小学校入学前は学校を楽しみにしていたが……。

小学校入学直後から始まるギフテッドの苦しみを描いたマンガページ

友達と話があわず、独りぼっちに。

クラスの中で孤立するギフテッドを描いたマンガページ

簡単すぎる授業を聞いておらず、先生に注意される

退屈な授業を聞けず、しかし注意されて落ち込むギフテッドを描いたマンガページ

「ふつう」ではない自分の個性を一人で抱え込み、神経症になってしまう

ついに神経症を発症するギフテッドを描いたマンガページ

学校に相談するが、知識がない担任に課題を見落とされてしまう

保護者が学校に相談するが、担任は課題に気付いていない場面を描いたマンガページ

周囲の無理解、孤独……。ある日、限界に達して学校に行けなくなる

ついに限界に達して学校に行けなく鳴るギフテッドを描いたマンガページ


キャラクターデザインや、示しているエピソードについては、「ギフテッドのリアル」をお伝えできるよう、ギフテッド支援者や研究者、保護者と一緒に何度も話し合いました。

日本の「ギフテッド」支援は、特定な分野に秀でた特定の子を取り出し、何か特別なプログラムを行うといった内容ではありません。多様な子ども一人ひとりの育ちを、大人がどう保障し、どう育むのか? そういったことを考えていく営みであることを、今後もしっかりお伝えしていきたいと思っています。

楢戸ひかる(ならと・ひかる)
ライター。「ギフテッド」や「学校に行かない選択をした子供たちのためのフリースクール」取材を通じて、新しい学びの選択肢を探究している。自身のサイト主婦er内に「ギフテッド関連記事のリンク集」がある。


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