樺山敏郎先生の 全国花まる国語授業めぐり~子どもと登る「ラーニング・マウンテン」! ♯7 北海道富良野市立東小学校「世界遺産 白神山地からの提言」の授業

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樺山敏郎先生の 全国花まる国語授業めぐり~子どもと登る「ラーニング・マウンテン」!~
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カバT(Teacher&Toshiro)こと、元・文部科学省学力調査官の樺山敏郎先生が全国の国語の研究校の授業を参観し、レポートする連載第7回。今回のカバTは、北海道富良野市を訪れました。

カバTこと樺山敏郎先生

執筆/樺⼭敏郎  KABAYAMA Toshiro
(⼤妻⼥⼦⼤学家政学部児童学科教授、元・⽂部科学省国⽴教育政策研究所学⼒調査官)

【第7回】北海道富良野市立東小学校
「世界遺産 白神山地からの提言」(教育出版 第5学年)  

授業者:四ツ嶋千晴 教諭
訪問日:令和6(2024)年10月2日(水)

訪問の概要
富良野市立東小学校は、小生の科学研究費助成事業(略称、“科研”)における研究調査校として調査協力をお願いしている学校の一つです。同校は本年度から研究をスタートさせ、初めての公開授業を実施していただきました。富良野市内全小・中学校の先生方などが計40名も集い、全国学力・学習状況調査結果を踏まえた、これからの国語科授業の方向について熱心な授業観察、研究協議が行われました。
授業者の四ツ嶋先生は同校の国語科専科という肩書きをもち、その授業展開に注目が集まりました。
5年1組の児童は計25名。教材は、「世界遺産 白神山地からの提言」と題し、読みと書きが連動する単元構成となっていました。青森県と秋田県に広がる白神山地がなぜ世界自然遺産に登録されたのかを知り、資料1から7までの非連続型テキストを含む文章を読み、現在の状況や課題を捉えた上で、それらに対する自分の考えを意見の文章としてまとめていきます。
本時は、単元全体の中盤(6/9)で、それぞれが書いた意見文について他者と交流し、次時以降の仕上げへとつなげる段階でした。
  
北海道富良野市
 

Good Practice ~授業の花まるポイント(全9時間中の第6時)

「世界遺産 白神山地からの提言」の授業をする四ツ嶋教諭
授業者・四ツ嶋千晴教諭

シーン1:付けたい力を明確にした、“読む”から“書く”への連動

単元全体を通して“みんなで解決する学習課題”は、「白神山地の自然を守るためにはどうすればよいか考え、意見文を書こう」でした。この課題の文末が“意見文を書く”となっていることから、一見すると「書くこと」の領域ではないかと思いがちです。

しかし、四ツ嶋先生はそうは捉えていません。“ラーニング・マウンテン”(下の写真1、記事の末尾に実物あり)の中の「考えること・表すこと(思考・判断・表現)」の内容に注目すると、「読むこと」に関する指導事項2項目だけが設定され、「書くこと」の指導事項はありません。

この2項目は、「精査・解釈」と「考えの形成」に該当します。単元において取り上げる指導事項の厳選が図られているのです。この2項目で、“読む”から“書く”へと連動することができます。
下の写真1で言えば、第2ステージ(5時間)の2・3時間目で意見文を書くための根拠となる情報を見つけ、4・5時間目でその根拠に基づいて自分の考えをまとめる流れになっています。
付けたい力を明確にした、“読む”から“書く”への連動がシンプルで分かりやすく構成され、子供たちに分かりやすく構造的に示されていました。

写真1 単元全体の課題、付けたい力、学習内容とその流れが構造化されたラーニング・マウンテン
写真1 単元全体の課題、付けたい力、学習内容とその流れが構造化されたラーニング・マウンテン

シーン2:最終的に仕上げる意見文(モデル)の丁寧な分析

子供たちにとっては、第3ステージで最終的に仕上げる意見文にどのようなレベルを求められるかが気になることでしょう。自分の意見をもち、その根拠を明確にして相手に分かりやすい構成で書きまとめていくことは、決して容易ではありません。

今回は、意見の根拠となる内容について、資料1から7までの非連続型テキストを含む文章を精査・解釈し、必要となる情報を見つけることが求められます。
そこで、四ツ嶋先生は、教科書に掲載されているモデル(サンプル)の一部を改作し、その構造と内容について子供たちに丁寧に分析させていました(下の写真2)。四ツ嶋先生が教科書のモデル(サンプル)をどのように改作したかについては、ここでは触れませんが、ぜひ教科書のそれと写真2とを比べてみてください。

写真2を見ると、四ツ嶋先生が今回子供たちに求めた意見文のレベルが分かります。

その構造と内容は、①自分の意見(立場)、②理由付け(なぜそのように考えるのか)、③反対意見に対する自分の考え、④まとめ、の4つになります。②理由づけについては、意見の根拠として複数を挙げ、資料1から7までの中から必要な内容を要約したり引用したりすることが重要です。さらに、③反対意見に対する自分の考えについても、資料1から7までの内容を取り上げることが求められます。

こうした、最終的に仕上げる意見文のモデル(サンプル)について丁寧に指導していくことで、子供たちが単元を通して意欲を高めながら学習している様子が見て取れました。

写真2 教師が教科書のモデル(サンプル)を一部改作した意見文
写真2 教師が教科書のモデル(サンプル)を一部改作した意見文

シーン3:他者の意見文を一覧化しての交流

ICTを活用した交流場面が充実していました。前時までに書いてきた、クラス全員の意見文を端末で一覧化できるように準備されていました。

今回の意見では、世界自然遺産の白神山地に“人は入っていいか否か”の二者択一、つまりディベート形式での立場表明が重視されており、二つの立場を色分け(二色)するなどの工夫がありました。

本時では、他者の意見文を読み合い、その構成や内容についてのよさに注目し、自分の意見に取り入れられることはないかを検討していました(写真4)。

写真3 端末に意見を色別で一覧化した学級全員分の意見文
写真3 端末に意見を色別で一覧化した学級全員分の意見文
写真4 少人数グループで、意見文の構成や内容のよさについて交流している場面
写真4 他者の意見文の構成や内容のよさについて交流

Advice 〜エールを込めてアドバイス

授業後の協議会の中で、「ラーニング・マウンテンは、従来の学習計画とどのような違いがありますか」との質問を受けました。

これまでも、単元のまとまりを意識した学習計画を立ててこられた先生方は多いことでしょう。筆者考案のラーニング・マウンテンと従来の学習計画の大きな違いは、“単元の目標(3観点に基づく指導事項)”を明示することです。

従前は、単元に設定する言語活動や、一単位時間ごとの学習内容は提示されていても、単元全体で身につける資質・能力は強く意識されていなかったように感じています。加えて、ラーニング・マウンテンは、評価の観点や時期を明示するようにしています。

現在、重視されている、“言語活動を通して指導事項を指導する”という国語科授業の方向を、教師はもとより子供たち自身も自覚しながら、マウンテンの頂上(ゴール)に向かっていくのです。

このようなことを踏まえ、四ツ嶋先生に対して、①単元全体の見通しの中での一単位時間の課題設定、②子供たちの学習状況を踏まえた課題設定の重要性、この2点について助言しました。

① 単元全体の見通しの中での1単位時間の課題設定

単元全9時間設定での本時は、6時間目。
ラーニング・マウンテンによると、“反対意見を読み、よさを考えることを通して、自分の意見を吟味する”となっています。それを踏まえ、本時は子供とのやりとりを通して、次のような課題(めあて)が立てられました。

写真5 板書された本時の課題(めあて)
写真5 板書された本時の課題(めあて)

写真5に示された課題は、ほぼ単元の導入段階で立てたラーニング・マウンテンどおりです。異なる意見に触れると、自分の考えに揺さぶりがかけられ、“理由や根拠はこれでいいかな?” “自分の書きぶりに説得力があるかな?”と再検討を迫られることになるでしょう。それを次時からの仕上げへとつなげることができます。

ただ、本時のめあては、次時へ向けた“改善の観点”が不明確ではないかと指摘しました。前時までに一通り最後まで書いてきた意見を対象化し、全体を通してどの部分をどのように改善していくかを明確にしていくためには、その観点を明確にする必要があると。
そこで、示したのが6つの観点です(写真6の右下)。

写真6 筆者が助言した内容の一部(乱筆にて)
写真6 筆者が助言した内容の一部(乱筆にて)

①自分の立場(意見)は明確か。
②上記①の理由付けは明確か。
③資料の引用は適切か。
④意見と根拠は合っているか。
⑤反対意見の取り込みは適切か。
⑥最後の自分の考えは明確か。

こうした6つの観点(ある意味、推敲の観点)をレーダーチャートで示し、各観点をセルフチェックした上で、自分として不十分と捉える観点に注目し、その課題を解決するという意識の下、他者(異なる立場でもいいし、同じ立場でもいい)の意見文のよさに学ぶことが有意義ではないかと考えるのです。

1単位時間で求める能力はシャープにしたいものです。その能力を子供たち自身も意識することが重要です。

② 子供たちの学習状況を踏まえた課題設定の重要性

前述したように、本時の課題(めあて)を個別化することにより、学習者個々に主体性が育まれていくものと考えます。

一方で、学級全体として一層強化していく能力に焦点化していくことが必要な場合もあります。

写真5のとおり、書いてきた意見文を交流する対象が「異なる立場」であれば、意見文のどの部分に改善の意識が働くかと考えると、それは写真2の「反対意見に対する自分の考え」の部分になるはずです。自分自身の頭の中で「異なる立場」を想定して書き込んだ部分について、実際の「異なる立場」の相手がどの資料を取り上げ、どのように要約したり引用したりしているかを、交流によって明らかにすることができるのです。

写真2では、「反対意見に対する自分の考え」の部分は、2文で構成されています。1文目は「確かに……」で、2文目は「しかし……」で始まります。この部分だけに注目すると、本時の課題は例えば、「“反対意見に対する自分の考え”を見直し、説得力あるものにしよう」などが考えられます。

やはり、本時の課題設定においては、ラーニング・マウンテンの頂上(ゴール)へ向かう子供の学習状況を踏まえた、教師の指導意図が重要です。

教える教師は学んでいる子供の状況をつぶさに捉えながら、個別最適かつ協働的な学びをどう組み入れていくかを検討していくことが求められます。

筆者は、こうしたことを、“学びの文脈を子供と共に創る”ことだと考えています。

 

ラーニング・マウンテン

 

〜旅のこぼれ話〜
10月、全国の学校ではさまざまな学校行事が目白押し。富良野市内の小学校では、10月中旬に学芸会が実施されています(ちなみに、東小学校では全学年が劇を上演。既に、一学期から構想を練っているとのこと)。この授業が行われたのは、10月2日でありました。ただただ、頭が下がる思いでした。
四ツ嶋先生はじめ、同校の校長先生、職員の皆さまに心から感謝の意をお伝えします。

「ラーニング・マウンテン」とは…?
「Letʼs Climb the Mountains of Learning」(学びの⼭に登ろう)の略称で、国語科の三領域における単元の学び全体を“山登り”に例え、⼦どもたちが⽬指す頂上(ゴール)とルート(プロセス)をデザインし、⾒える化したものです。筆者のオリジナルです。
コンピテンシー・ベースの国語科授業を⽬指し、 ユニバーサル・デザインに配慮しながら、⼦どもと共に創る学びの実現につなげるねらいがあります。
「ラーニング・マウンテン」には、教師が教えたいことを⼦どもたちが学びたいことへ変えていく⼒があります。そして、マウンテンの頂上に⽴つ⼦どもたちの学びは、教師が教えたいことを越えていく可能性を秘めているのです。
単元の導⼊段階で学び全体の⾒通しをもち、学びの中途における振り返りを⼤切にすることで主体性を育成します。同時に、課題の解決と⽬標の達成という頂上(ゴール)を⽬指して、最後まで粘り強く、学びを調整していこうとする態度を培っていきます。

 ※この連載は、月に数回更新予定です。どうぞお楽しみに!

イラスト/大橋明子

樺山敏郎教授の顔写真

かばやま・としろう。早稲田大学大学院教育学研究科卒、教育学修士。鹿児島県内公立小学校教諭、教頭、教育委員会指導主事を歴任後、2006年度から2014年度まで文部科学省国立教育政策研究所学力調査官(兼)教育課程調査官を務める。 2015年度より現大学へ。2022年度より現職。著書に『個別最適な学び・協働的な学びを実現する「学びの文脈」 学級・授業・学校づくりの実践プラン』(明治図書出版)、『読解✕記述 重層的な読みと合目的な書きの連動』(教育出版)がある。

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