特別支援学級における自立活動(人間関係の形成)について

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「はじめに子どもありき」の特別支援学級 〜自立活動編〜
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今回は「人間関係の形成」がテーマです。人間関係づくりに必要なことは、「相手意識」だと思います。「みんな違ってみんないい」「あって良い違い」「ダイバーシティー」と言う言葉がありますが、人間は実に多種多様です。見た目、経験、考え方など、全く同じ人はいません。そのような社会において、良い人間関係を作っていくにはどうしたらよいか、子どもたち自身が自発的に思考していく態度を育てていきたいと考え、授業を実践してみました。今回の授業が、その最初のきっかけやスタートとなればと思っています。

【連載】「はじめに子どもありき」の特別支援学級 〜自立活動編〜 #04

執筆/埼玉県公立小学校教諭・奥山 俊志哉

他者とかかわり合うための力を

今回は、自立活動6区分の中で「人間関係の形成」の授業実践について紹介します。
「人間関係の形成」の項目には、大きく分けて4つの項目が設定されています。

⑴ 他者とのかかわりの基礎に関すること
⑵ 他者の意図や感情の理解に関すること
⑶ 自己の理解と行動の調整に関すること
⑷ 集団への参加の基礎に関すること

学習指導要領(自立活動編)によると、自分や他人を正しく理解して人間関係を円滑にし、集団参加への基礎を培うことがねらいとされています。また、人に対して信頼感を持ち、人からの働きかけを素直に受け止め応じることや、他者の意図や感情を正しく理解できるようになること、場に応じた適切な行動ができるようになることなどが求められています。

このような学習指導要領の文言を受け、クラスの子どもたちの実態を踏まえ、「折り合いをつける力」「調整をする力」の2つの力を身につけ、人と関わることが大好きな子どもたちを育てていきたいと考えました。

担任するクラスには、順番や勝敗にこだわりのある子どもたちが在籍しています。これらのこだわりについてですが、私自身はこれらを尊重しつつ、子どもたちが頑張れるエネルギーへと変換できるように工夫をしています。ここで私が意識をしていることは、こだわりを治す・なくすではないということです。こだわりは個の特性であり脳(思考回路)の特性でもあります。治したり、なくしたりするものではないと捉えています。こだわりとの付き合い方や向き合い方を一緒に考えていこうと、子どもたちにはいつも声かけをするようにしています。ニューロダイバーシティー(脳の多様性)という言葉を耳にする機会が増えましたが、こだわり=考え方の多様性でもあるため、最大限尊重しようという考えが私の立場です。現に、子どもたちの「一番じゃないとヤダ!」「負けるのがイヤ!」という感情は、プラスのパワーを発揮します。これまでに子どもたちには、「(作業が早いことよりも、)丁寧にできたら一番だよ。勝ちだよ。」と、声かけをし続けています。子どもたちの一番や勝敗へのこだわりに対して、早く終わらせるよりも、丁寧に取り組んだ方が価値のあることであると、捉え方を変えているのです。その結果、今では早く終わらせるよりも、丁寧に物事に取り組む様子が頻繁に見られるようになりました。

このエピソードは、私が声かけをし続け、折り合いや調整するきっかけを子どもたちに提供した形になっています。私は、最終的には子どもたちの力で折り合ったり、調整したりができるようになってほしいと考えています。子どもたちの折り合いをつける力や、調整をする力を育てていくために、以下のような授業を実践しました。

取り組んだ内容は、椅子取りゲームです。椅子取りゲームについては、お誕生日会(生活単元学習)で取り組んだことがあるため、ルールはよく理解していました。今回は自立活動で取り組むため、学習のめあてを①これまでの学習や先生の声かけを思い出して、自分の力で順番や負けを受け入れることができるようになる。②気持ちを言葉やカードなど、適切な表現で表すことができる。の2つとしました。

生活単元学習で取り組んだときには、椅子に座れず気持ちが乱れ、友達に手足口が出てしまったり、教室の隅に行って大泣きをしてしまったりという光景が見られました。また、椅子に座れた子と座れなかった子で言い争いが起こったこともありました。お誕生日会を全員が楽しいと感じられるようにするためにも、折り合いをつける、調整をすることは子どもたちにとって重要な視点であると考えました。

授業の様子を紹介します。第一回目にはあえて、子どもたちにいつものように椅子取りゲームに取り組んでもらいました。
すると、上述のような光景やトラブルが起こり、子どもたち全員に「椅子取りゲームは楽しかったですか?」と聞いてみたところ「楽しい」「全然楽しくない」の2つに分かれました。

それぞれの立場で理由を聞きました。自分の世界でしか物事を判断していないようでした。自分が良ければそれでよいと言った雰囲気を子どもたちから感じました。
最後に、「クラスの子みんなが楽しいと感じられるような椅子取りゲームがいいと先生は思うのですが、みんなはどう思いますか?」と聞くと、全員がその方がよいと答えました。
全員で楽しみたい、という子どもたちの思いから、この授業は出発しています。

第二回目は、「全員が椅子取りゲームを楽しめるようになるためにはどうしたらいいか、一晩考えたんだけど聞きたい?」のような声かけで授業をスタートさせました。子どもたち全員が「聞きたい」と言ったため、まず上述のめあて(クラスの子みんなが楽しいと感じられるような椅子取りゲームとは?)を再度伝えました。
そして、「こうするといいよ」と具体的な解決策は直接言わず、子どもたちに〈考える余白〉を残すようにしました。日頃の学習や声かけ等を思い出しながら、みんなが楽しめる椅子取りゲームを子どもたちの力で作り上げる経験をさせたかったからです。また、子どもたちは自分事としていろいろなことを考え、表現するのではないかと考えたからです。

子どもたちはいろいろと考えていました。以下に、椅子取りゲームを全員が楽しむために、子どもたちが実践していた取り組みを紹介します。

「次、頑張ろう」と3回言う。
「気にしない」と思う。
先生用の椅子に座って深呼吸をする。
自由帳に「くそー」と濃く書く。その紙は捨てる。
休み時間に好きなこと(パソコン、お絵かき)に没頭する。
楽しいことを考える。→ 給食のメニューのこと、家でアイスを食べる、など。
順番を友達に譲れた自分に、ごほうびシールをプレゼントする。

子どもたちの様子を改めて整理すると、日頃の学習や声かけをよく覚えており、気持ちのコントロール(折り合いや調整)に活かせていることが分かりました。また教室の雰囲気が温かいと、自分の気持ちを言葉やカードで、穏やかに、そして適切に表現できることが増えると分かりました。「涙ゼロ、トラブルゼロ、みんな楽しい椅子取りゲーム」という合言葉まで子どもたちは考えることができました。子どもたちの力で「涙ゼロ、トラブルゼロ、みんな楽しい椅子取りゲーム」に取り組み、授業の終わりの振り返りで「達成できた!」という声が聞こえることも増えてきました。

教育活動すべてが「涙ゼロ、トラブルゼロ」になることは難しいのかもしれませんが、子どもたち自身で涙ゼロ、トラブルゼロを作っていけるように、引き続き授業実践に邁進していきたいと思います。

【参考文献】
文部科学省「小学校学習指導要領解説」(平成29年告示)

イラスト/難波孝
バナーイラスト/イラストAC


奥山 俊志哉(おくやま としや)
1990年福井県生まれ/京都教育大学卒業、京都教育大学連合教職大学院修了 教職修士(専門職)/現在、埼玉県公立小学校教諭。
2024年現在、小学校教諭11年目(通常学級5年 特別支援学級6年)/自閉症・情緒障害学級担任、特別支援学級主任、特別支援教育主任/児童発達支援士資格 非営利活動任意団体空に架かる橋Iメンバー/TOSSサークル「自閉・情緒学級における授業づくり検討会」代表
「実践みんなの特別支援教育」(Gakken)


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