心のふれあいをめざして! 小学校での保護者会の工夫アイディア
あなたは、保護者会についてどう思いますか? 苦手な意識を持っていたりしませんか? 今回は、先生であれば避けられない「保護者会」についてのトピックを選びました。保護者に関わる対応やストレスは、先生の悩みの多くを占めているのが今日の教育現場です。しかし、先生も保護者も「子どもによりよく育ってほしい」という願いは共通しています。先生と保護者が二人三脚で、ストレスフリーの学級経営を行うためのアイディアをまとめました。
【連載】ストレスフリーの教室をめざして #07
執筆/埼玉県公立小学校教諭・春日智稀
目次
1 得意・不得意がはっきり?
筆者は、先生によって保護者会に対して「得意」「不得意」が大きく分かれるのではないかと考えています。得意な先生は気にならないですが、不得意な先生は「いやだなあ。不安だなあ」というイメージが先行してしまい、心理的負担が大きいのではないでしょうか。もしかすると、過去の保護者会に苦い思い出がある先生もいるかもしれません。
筆者は、こうした得意・不得意に左右されない保護者会を行うためには、会の中にアクティビティを取り入れることを提案しています。
2 なぜアクティビティが必要?
気難しいと思っていたベテランの先生にはいつも緊張してうまく話せなかったが、懇親会をきっかけに打ち解けたことによってユニークに一面を知り、楽に話ができるようになった、という経験は多くの先生にあるのではないでしょうか。これは、双方に「心のふれあい」が起こったからです。
先生も緊張する保護者会ですが、参加する保護者もまた同じ気持ちでしょう。「どんな先生かな」「どんな保護者がいるのかな」とドキドキしながら参加していることと思います。日本の心理学者である國分康孝(1982)は、「人と心のふれあいをもつためには自己を表現せねばならない。」と述べています。先生も緊張、保護者も緊張、では心のふれあいは生まれません。まずは縁あって時間と場所を共有することになった大人たちが自分を表現し、人と感情をわかちあう場面を意図的に創ることが大切なのです。
一色(2020)は、「保護者に対する心理的安全性を高く感じている教師ほど、創造的な教育実践を実施しやすい」と指摘しています。つまり、先生と保護者のよりよい関係づくりに注力することは、結果的に子どもたちへ還元されていくのです。
3 保護者会で使えるアクティビティ
⑴ サイコロトーキング
①集まった保護者で3~4人のグループを組む。
②サイコロの出た目に応じて、決められたテーマについて自由にグループで話す。
【テーマ例】
●宿題 どこまで面倒見てる?
●教えます!効率的な家事の秘訣
●うちの子、ここをなおしてくれたら…
●我が家の自慢話
●宝くじが当たったらこんなことをします
●聞いて聞いて、私の悩み
⑵ ジェスチャー伝言ゲーム
①列ごとに1チームとする。
②先生が先頭の人にお題を出し、「よーい、ドン」で後ろの人にジェスチャーのみでお題を伝達していく。
③先頭以外の人は後ろを向いておく。肩をたたかれたら振り返る。
④一番後ろの人は、先生のもとへ行き小声で回答する。
⑶ アンケートから見る親子の関係
①事前に子どもにアンケート(文章完成式)に回答してもらい、先生が保管する。
②懇談会が始まる前に、そのアンケートを保護者の座席においておく。
③集まった保護者で3~4人のグループを組む。
④わが子が回答したアンケートを見ながら、各質問項目について自由にグループで話す。
※アンケート項目例「私の長所は〇〇です」「私の家族の自慢ポイントは〇〇です」「おうちの人がひとつ願いをかなえてくれるなら、〇〇をお願いします」等
※事前に先生が目を通しておいて、トラブルになりそうなものは指導しておくとよいです。
4 どうすれば参加してもらえる?
「そもそも参加者が少なくて、伝えたいことが伝わらない」という場合もあるかと思います。そんなときには、次のアイディアを参考にしてみてください。
①「口コミ」を広げてもらう
まずは、いつも参加しているメンバーが「参加してよかった」「おもしろかった」という印象をもち、その口コミを広げてもらうことが大切です。現代の保護者ネットワークは広大かつスピーディーですので、それに任せるのも一つです。
②事前に懇談会の内容を告知する
学級だよりや連絡帳等で、内容を事前告知しておくとよいかもしれません。人は「何が行われるかわからない」対象への参加はなかなか気が進まないものです。
③少しのサプライズギフトを用意しておく
事前に子どもにギフトを作ってもらい、それを懇談会でプレゼントするのも良いです。発達段階に応じて、工作したものや感謝の手紙、成長が分かる手形印などが考えられます。事前告知には、それをにおわせる内容があってもいいかもしれませんね。
5 トラブル防止のために
⑴ 学校や学年単位で、共通の連絡事項を確認しておく
「隣のクラスでは話があったけど、うちのクラスでは話がなかった」ということ、よくありますよね。保護者会の前に、打ち合わせなどで連絡事項をよく確認しておきましょう。共通のレジュメを作成しておくと、漏れがないです。また、担任では回答ができない内容については、「学年主任や管理職に相談します」と伝え、指示を受けてから確実な回答をしましょう。
⑵ 家庭環境に配慮する
アクティビティで、保護者が自分や家族のことを表明することに抵抗を感じる場合があります。学級の実態に応じて適切なアクティビティを選択しましょう。また、決して話すことを強制するような雰囲気をつくってはいけません。
⑶ 適切な距離感を保つ
保護者と親しくなるのはとても良いことです。しかし、例えば「ある特定の保護者とばかり話している」「プライベートなことばかり話している」のはあまりよくありません。先生はみんなの先生です。保護者の間で「差がつけられている」と感じられたり、品格を疑われたりするような言動は慎みましょう。
6 先生の自己開示を!
これは「ジョハリの窓」と呼ばれる、自己分析のフレームワークです。保護者との良好な人間関係を形成する上で、参考になります。
Aの部分が、「自他ともに知っている自分」です。図のように、この部分は「自己開示:自分の情報をさらけ出すこと」と「フィードバック:他者からの評価により、自分自身を知ること」によって拡張できると言われています。
Dの領域が狭ければ狭いほど、その人は健全になり、人間関係は深まると言われています。このことから、「先生が保護者に自己開示をして、そのフィードバックをもらう」というサイクルが、よりよい信頼関係につながりそうです。
【参考引用資料】
・つきあいの心理学/国分康孝/講談社現代新書
・小学校教師における創造的な教育実践に関する探索的検討―保護者に対する教師の心理的安全性との関係に着目して―/一色翼/Tsukuba Psychological Research
イラスト/坂齊諒一
<プロフィール>
春日智稀(かすが・ともき)
2015年より埼玉県公立小学校教諭。体育主任・生徒指導主任・研究主任・教務主任などを担当。
ケアストレスカウンセラー/青少年ケアストレスカウンセラー。
日本生徒指導学会 日本学校教育相談学会 会員。