誰もが自分らしく、誰からも否定されない、ということ。全校道徳で、子どもたちと一緒に学んでみませんか?
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- 大切なあなたへ花束を
「全校道徳」という言葉を聞いたことがありますか? これは大人が子どもに何かを教える授業ではなく、子どもたちが主体になって、みんなで1つのテーマについて考え、語り合うことです。それはまさに、世の中の多様性を受け入れ、人と人が支え合うことを学べる素晴らしいきっかけになるのだそうです。そんな宮岡愛子先生の言葉に耳を傾けてみませんか? 木村泰子先生に師事し、現在は「みんなの学校マイスター」として講演活動や各校の支援で大活躍中です。
【連載】大切なあなたへ花束を #04
執筆/みんなの学校マイスター・宮岡愛子
「正解のない問い」をみんなで考える
「全校道徳」は、大空小学校で木村泰子さんがされていた実践です。
私も、自分の学校の子どもたちにこの授業をし、「正解のない問い」を考えることの大切さを実感してほしいといつも考えていました。
そして校長職の最後を目前に控えた2024年3月12日、最初で最後の「全校道徳」の時間をもちました。全学年1クラス、全校児童160人あまりの小学校です。
会場となった体育館には、多くの保護者のみなさん、そして木村泰子さんも来てくださいました。
テーマは、「どんな学校をつくりたい?」としました。直前まで悩みに悩んだテーマでした。
最初に全校道徳の目的を子どもたちに話しました。約束はたったの二つです。
1.自分から、自分らしく、自分の言葉で語るということ
2.友だちが出したどんな考えも受け止め、否定はしないということ
このことを伝えて、まずは、一人一人が自分の考えをもつ時間を設けました。
その後たてわり班※で、語り合いました。たてわり班は、1年を通して同じメンバーの子どもたちでつくっているので、子ども同士のつながりは、できています。
(※たてわり班=1年生から6年生までの子どもたちを1~2人ずつ集めた校内活動の班)
この日学校に来てくださった保護者や来校者の方々に教職員も加わり、大人は大人でチームをつくりました。
大人たちは子どものチームには介入しません。
このことで、子どもたちは「自分たちは任されている」と感じることにつながりました。
各たてわり班のリーダーである6年生たちは、誇らしく嬉しそうな表情を浮かべています。張り切ってみんなの意見を聞き、つなげていこうとしていました。
たてわり班の子どもたちが語り合うとき、自然と車座になっていました。リーダーの膝の上に座る低学年の子どもや、意見を言うときにリーダーの前にわざわざ来て話す子どももいます。途中でたてわり班から出て立ち歩く子どももいました。でも、子どもたちは皆、そうした子を否定するのではなく、「戻ろうよ」と声をかけ、優しく受け入れていました。
そして、各班で語り合った後は、リーダーたちが、それぞれの班の意見を発表します。
大人の方から「みんなの意見をまとめてね」という指示はしていません。しかしリーダーたちは、たてわり班で出た意見を、自分の言葉でまとめ、語っていました。
大人も大人のチームで話し合ったことを伝えます。
出された意見が、ホワイトボードにどんどん書き込まれていきました。
大人と子どもの意見が見分けられるよう、ホワイトボードを半分で区切って書いていきました。
リーダーが自分たちの班の意見を出すたびに、違う班の子どもたちもそれぞれに、伸びやかな自分たちの言葉で反応をするのが、見ている私もうれしく思いました。
大人の出す意見にも、子どもたちは笑顔です。その場の温かい空気感は今も思い出すことができます。
全校道徳の後、それぞれの教室に帰った子どもたちに、授業を終えた後の「自分の考え」を書いてもらうことにしました。この日、来てくださった泰子さんたちとともに、子どもたち一人一人が書いたものを読みました。
それぞれの意見は、みんなが今回の全校道徳にきちんと向き合っていたことを雄弁に物語っていました。
テーマを「自由な学校のつくりかた」と変えた子どももいましたし、「やさしい学校がいい」と書いてくれた子どももいました。
大人が伝えた「やわらかい、困っていることを言い合える」という意見に、素直な賛同を示す子どももいました。一人一人が、今の学校への思いと、願いを綴っていたのです。
そこには、みんなが「安心して、自分らしく、学校が楽しい居場所となり、自分の強みを伸ばしていきたい」と考えていることを読み取ることができました。
子どもたちはとっくに気づいているのです。一人一人が大切にされ、自分らしく学校にいられることが、楽しい学校をつくることになることを。
私たち大人こそが、ここに書かれた子どもたち一人一人の考えを読み合うことからスタートしなくてはならない、と改めて思いました。ふだん子どもたち一人一人が見せている言葉や行動の裏には、どのような思いがあるのか、ということが伝わってきたからです。私たち大人が変わっていける、大きなきっかけを得ることになったのだと感じました。
この全校道徳での子どもたちの姿を、我々大人はどう見るでしょうか?
「きちんと座っていない、円になっていない、途中で立ち歩いている子どもがいる。円から抜け出す子どももいる」
と見るでしょうか。
「一生懸命に自分らしく話し合いに参加しようとして、自分の考えを自分らしく伝えている」
と見るでしょうか。
これは、まさに皆さんそれぞれの「教育観」につながるものでしょう。
教職員の中にもいろいろな受け止めがあるのは事実です。形にこだわる教職員もいます。
全校道徳で問いかけた「正解のない問い」。それは、幼い低学年の子も、発達した高学年の子も、皆が個人として尊重され、お互いに受け入れ合うということです。それは、この子たちがやがて旅立っていく社会のあり方を予見することでもあります。
子どもたちは自分たちの力で、誰もが安心して自分の考えを出し、それを否定されずに受け止めてもらえる空間を作り上げていました。そして、子どもたちそれぞれの胸に、この全校道徳の意図は響いていただろうと私は感じました。
それは、子どもたちが語り合う時の顔と、泰子さんの話を聞いているときの表情、そして何より一人一人のメッセージから伝わりました。
そして、この子たちにとって、この全校道徳で出した自分の意見が実現したら、これからの自信につながるに違いありません。とても意味のある時間になったと思います。できることなら、もう一度やりたいと思うぐらい楽しい時間でした。取り組み始めたのが遅かったのは、今でも後悔しています。
イラスト/フジコ
宮岡愛子(みやおか・あいこ)
みんなの学校マイスター
私立の小学校教員として教職をスタートするが、後に大阪市の教員となり、38年間務める。教員時代に木村泰子氏と出会い、その後、木村氏の「みんなの学校」に学ぶ。大阪市小学校の校長としての9年間は「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに取り組んだ。現在は、「みんなの学校マイスター」として活動している。