資質・能力を育む過程には、教科の学力を発揮させるような枠組みが必要【全国優秀教師にインタビュー! コレが私の授業づくり! 第13回】
今回からは、教師力BRUSH-UPセミナー、函館市小学校国語教育研究会、同小学校道徳研究会に所属し、北海道公立小学校に在籍する藤原友和教諭の単元づくり・授業づくりを紹介していきます。「みんなの教育技術」では、「道徳」や「well-being」に関する連載などでも知られる藤原教諭が、教科等横断的な単元の複合体(プロジェクト)を通して、どのような力を育もうと考えたのかについて話を聞きました。
目次
総合学習、道徳、国語の学習を教科等横断的につなげた単元
これから紹介するのは、総合的な学習の時間(以下、総合学習)を中心とする地域学習や、生成AIを取り入れた道徳、さらには国語の学習を教科等横断的につなげた単元の集合体です。最終的には、総合学習での「青函比較論」(資料1参照)というレポートとなって結実するわけですが、具体的な単元構成について紹介をしていく前に、まずこのような教科等横断的な単元複合体(プロジェクト)を構成しようと考えた理由について尋ねると、藤原教諭は次のように説明してくれました。
【資料1】
「資質・能力は何らかの問題解決を行う過程で発揮され、育まれるものだと考えています。もちろん、各教科の学力を育むことも大切ではありますが、資質・能力を育むには、問題解決のプロジェクトの中で、教科の学力を発揮させるような枠組みが必要だと思うのです。そうしたことから、これから紹介する教科等横断的な単元構成を考えました。
ちなみに今回紹介する実践は、コロナが5類になったところでの取組で、それまでできなかったことが復活し始めた年の実践です。ですから教育課程上、安定的に実践し続けていたものというよりは、以前の取組に近付けていきたいのだけれど、以前同様には積み上げられていない状態から、どんなことならできるだろうと考えて実践をしたものです」
では、5年生のときの総合学習も踏まえながら、6年生を対象に行った単元複合体(プロジェクト)の構成について、単元構成図を基にざっと紹介することにしましょう(資料2参照)。
【資料2】
この学習を行ったのは、6年生で、その子供たちは5年生のときに(当時の担任は藤原教諭ではない)総合学習を通して、地元函館の多様な魅力(特徴的な施設)について学習をしていました。その上で6年では、春に修学旅行で、津軽海峡を挟んで向かい合う青森を訪ね、そのときに青森の文化(函館と対比できる多様な施設)を訪れ、学ぶ機会をもちます。そうした学習を基盤に置きながら、地元函館と向かい合う青森について比較論のレポートを書き上げていくわけです。
そのレポートを書き上げていく過程では、生成AIも活用するのですが、その前に道徳の単元「生成AIが作った授業」で、AI活用のメリットと問題点について考えていきました。子供たちは、AI活用の可能性と同時に活用上配慮すべき点や課題について考え、さらにそうした理解を整理する過程でも、AIの評価を受けたのです(資料3、4参照)」
ちなみに、この授業を取材に来ていた地元テレビ局の取材インタビューに対して、ある子供は次のように話していました。
「AIに任せると、個人の感想がなくなってしまうので、人間も自ら行動するようにしないと、AIに(人の仕事を)奪われてしまう。(AIの)能力はすごいけど、間違うこともあると思いました」
【資料3】
【資料4】
協働的に思考するところに時間をかけたいので、生成AIを活用
続けて国語の学習を通し、「青函比較論」のレポートを書き上げるための情報を整理したり、意見の組み立てを行ったりしていったと藤原教諭は話します。
「この単元の中で最も大事にしたのはジャムボードのところです(資料5参照)。
【資料5】
子供たちの対話を通して比較論の対象とした『北海道立函館美術館』と『青森県立美術館』の特徴について、ベン図内に書かれた付箋の内容は、経験もしていますし、参考資料もあるため、どの子供も書くことができます。しかし、『両者に共通する価値は何か』ということ、つまり思考のレベルが一段階上がり、抽象化するところについては、自分たちで考え、見付けなければいけないので、時間がかかります。最初から、ここに時間をかけたいと考えていました。
具体的にはジャムボードで各施設の特徴を出していくことに1時間、さらに『両者に共通するものって何?』ということについての話合いについては1時間では終わらず、トータルで2時間以上かかりました。最終的には『市民と芸術を近づけるはたらき』(資料5ベン図中央の赤い文字)ということで整理できたのですが、そのように協働的に思考するところにしっかり時間をかけたかったので、生成AIを活用したというところもあります。また生成AIによるサンプル文章の型を示すことで、文章を書くのが苦手な子供たちも『こんなことを書けばよいのだな』ということが分かって、比較的スムーズに文章が書けるようになります」
とはいえ、すべての子供が2000文字以上という、それまで書いたことのない量のまとまった文章を書き上げるまでの過程は、簡単ではなかったとのこと。
「レポート前半部分の『はじめに』や『北海道立函館美術館について』は、修学旅行で『青森県立美術館』を訪ねる前から書き始めているのです。そこから夏休みにさらに調べ足して、レポートを仕上げるのは9月ですから、トータルで4か月くらいかけて書き上げています。その間、私からアドバイスはしますが、『これじゃ伝わらないよ』『引用が抜けているよ』といった指摘が中心で、細々とした指導を行うわけではありません」
実際に、レポートを書き上げる過程での子供と藤原教諭の対話が地元テレビ局のニュース映像として残っています。
子供「ちょっと意外だった」(学習過程を通した2つの美術館の比較について)
藤原教諭「どういうところが意外だった?」
子供「(美術館は)飾って楽しむものだと思っていたら、結構、目的があった」
藤原教諭「それを書けばいいじゃない」
それまでの一人一人の子供の学習過程のアセスメントを軸にしながら、対話を通して子供の中にあるものを引き出していくことが中心だったと話す藤原教諭。一部、大きく行き詰まった子供に対して、書き方の支援は行ったと言いますが、基本的には全ての子供が自力で、長文の「青函比較論」レポートを書き上げることができました(資料6参照)。
【資料6】
「こうした成功体験を経て、この後、子供たちは卒業文集に載せる作文を書いていきました。それは小学校生活における自分の体験を積み上げたものを基に書いたのですが、生成AIによるサンプル文を必要とする子供はずいぶん少なくなっていました。やはり、レポートを完成させたことが自信にもつながるし、一度経験することで『こんなところに気を付ければいいんだ』という書き方も、身に付いたということです」と藤原教諭。
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今回は、藤原教諭が教科等横断的に実践した単元の複合体(プロジェクト)について紹介をしました。次回は、こうした単元づくり・授業づくりで大事にしたポイントやその意図などを中心に紹介していきます。
【全国優秀教師にインタビュー! コレが私の授業づくり!】次回は7月12日公開予定です。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之