子供たちが本を読みたくなる工夫とは?「教師という仕事が10倍楽しくなるヒント」きっとおもしろい発見がある! #15

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教師という仕事が10倍楽しくなるヒント~きっとおもしろい発見がある!~
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帝京平成大学教授

吉藤玲子
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教師という仕事が10倍楽しくなるヒントの15回目のテーマは、「子供たちが本を読みたくなる工夫とは?」です。教師や保護者は子供たちに本を読んでほしいと思っています。しかし、読書のおもしろさを子供たちに伝えることは難しいものです。どのような方法で本のおもしろさを伝えるか、いろいろな工夫についてお届けします。子供たちを本好きにするヒントにしてください。

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執筆/吉藤玲子(よしふじれいこ)
帝京平成大学教授。1961年、東京都生まれ。日本女子大学卒業後、小学校教員・校長としての経歴を含め、38年間、東京都の教育活動に携わる。専門は社会科教育。学級経営の傍ら、文部科学省「中央教育審議会教育課程部社会科」審議員等、様々な委員を兼務。校長になってからは、女性初の全国小学校社会科研究協議会会長、東京都小学校社会科研究会会長職を担う。2022年から現職。現在、小学校の教員を目指す学生を教えている。学校経営、社会科に関わる文献等著書多数。

読書のすすめ

「本を読みましょう!」と教員はよく子供たちに言います。保護者も「もっと本を読みなさい!」と子供たちに言うことがあります。読書をすると何がよいのでしょうか? 学校には、必ず学校図書館(図書室)があり、毎日常住ではないかもしれませんが、司書がいます。また、司書教諭が年間の読書指導に関わり、図書委員会などの運営や読書週間の設置などの計画に当たります。

夏休みになると、「また読書感想文が宿題に出た。大変だなぁ」と思う子供も多いでしょう。課題図書などは子供の発達段階に合わせて紹介されるものの、どの本を読んだらよいか分からないという子供もたくさんいます。無理やりの読書の押し付けはかえって本嫌いを増やしてしまいます。読書のおもしろさは、自分の知識が増えること、体験できないようなことを知ることができ、自分の世界が広がることです。ファンタジーや物語文を読めばその世界の登場人物に学ぶことができます。そうはいっても読書のおもしろさを子供たちに伝えることは難しいことです。

私は、司書教諭の資格もあり、また勤務した学校で学校図書館を利用することが多かったので、司書の方とも話をし、いろいろ学ぶことがありました。現在も大学で司書に関わる講座を受け持っています。今回は、読書のおもしろさをどのように子供たちに教えたらよいか、教員も読書を楽しもうということを伝えたいと思います。

絵本のおもしろさ

本を読むときに文字数が多いと「もう嫌だ」という子供がいます。無理して分厚い、文字量の多い本を読ませる必要はないでしょう。絵本から学ぶこともたくさんあります。子供たちが大好きな『はらぺこあおむし』(エリック・カール 偕成社)という絵本は、世界で70以上の言語に翻訳されているそうです。ページの中の絵に穴が空いているなど、楽しい仕掛け本です。このような仕掛け本の絵本はいろいろあります。もし、文字が苦手という子供がいたら、絵本から読書に入ることをすすめます。

絵本にもフィクションとノンフィクションがあります。絵本は、フィクションが多くを占めますが、ノンフィクションの絵本は子供も教師も学ぶことがたくさんあります。『羽田九月二十一日』(野村昇司・作/阿部公洋・絵 ぬぷん児童図書出版)という羽田地区の歴史を書いた絵本があります。あまり知られていない話ですが、戦後、GHQにより強制退去させられた羽田の鈴木新田村の話です。最近できた羽田のイノベーションシティにその史実が詳しく書かれた碑があります。ようやく戦争が終わって、かろうじて生き延びた人々が、何の連絡もなく突然羽田空港拡張のために退去を命ぜられるのです。絵と文で考えさせられ切なくなる絵本です。

絵本は子供のための楽しい読み物というイメージがありますが、奥深いノンフィクションの絵本も数多くあります。ぜひ、ノンフィクションの絵本も学校現場で読書の時間に取り入れてみてください。

ブックメニューで給食とつながる

子供たちが喜ぶ学習方法の1つがブックメニューです。絵本の中に出てきた食事を紹介し、実際に栄養士さんとタイアップして給食のメニューにその食事を出してもらうことができます。図書館に掲示されている絵本の中から飛び出したメニューですから子供たちは大喜びです。

例えば『おせちのおしょうがつ』(ねぎしれいこ・作/吉田朋子・絵 世界文化社)という絵本を読んで、おせち料理について知って、その中から「きんとん」を給食メニューに入れてもらったり、『どんぐりむらのぱんやさん』(なかやみわ・作 学研プラス)に出てくるどんぐりパンを焼いてもらったり、『小さなスプーンおばさん』(アルフ・プリョイセン・作/ビョールン・ベルイ・絵 学研プラス)からマカロニスープを調理して給食のメニューに出すなどしてもらったことがあります。

給食とのつながりは読書へのすすめにつながります。給食メニューに出た本を図書室に掲示しておくと、子供たちは競って読みます。ぜひ、栄養士さんと相談して実践してみてください。

ブックトークを実践しよう

テーマを1つ決めてお話をつなげていく「ブックトーク」という手法はよく使われます。子供たちの発達段階に応じて、例えば低学年なら「乗り物」をテーマにしたお話をつなげて選んで発表します。シナリオ台本のフレームは、いろいろなところで紹介されているので、教師が用意してあげてください。

例えば、『小学館の図鑑NEO 乗りもの』(小学館)で蒸気機関車に注目したら、『きかんしゃやえもん』(阿川弘之・文/岡部冬彦・絵 岩波書店)で日本の蒸気機関車の話を知り、次に外国の機関車『いたずら きかんしゃ ちゅうちゅう』(バージニア・リー・バートン・文・絵 福音館書店)につなげていきます。蒸気機関車は今ではほとんど見ることができません。でもこの2冊の絵本は、何十年も前から人気の本として読まれています。それだけ子供たちが興味のある本なのです。

ブックトークは、正解がない活動で、子供たちは、驚くような力を発揮してテーマに合った本を集めてきます。私は、先日、大学生にブックトークを紹介する授業で、自分が社会科教育や人権教育の中で関わってきたアイヌをテーマに取り上げました。

大ヒットした映画「ゴールデンカムイ」から入りました。
漫画の『ゴールデンカムイ』(野田サトル 集英社)
⇒アイヌの活動家であり政治家でもあった萱野茂さんの絵本『アイヌ ネノアン アイヌ』(萱野茂・文/飯島俊一・絵 福音館書店)でアイヌの概要について紹介します。
⇒さらに具体的に同じ作者の『アイヌの碑』(萱野茂 朝日新聞出版)でそのアイヌの歴史と現実を伝えます。
⇒そこで子供たちが興味のわいてきたアイヌ文化について『アイヌ もっと知りたい!くらしや歴史』(北原モコットゥナシ・蓑島栄紀・監修 岩崎書店)で絵図や写真を参考にしてアイヌ文化について説明します。
⇒最後に『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』(中川裕 集英社)ではじめの漫画の復習をし、アイヌ文化の奥深さを学ぶといったブックトークを組み立てました。

それを例にして学生たちに考えさせました。
ぜひ、みなさんも子供たちの発達段階に合わせたブックトークを行ってみてください。

「どうぞのいす」で本好きに

『どうぞのいす』(香山美子・作/柿本幸造・絵 ひさかたチャイルド)と言う絵本があります。うさぎさんが、作ったいすの横に「どうぞのいす」という立て札を立てておきました。すると、最初にろばが置いていったどんぐりを次に来たくまがもらってハチミツを置いて……というように、どんどんいすの上の物が変わっていくという楽しいお話です。

これを本に替えて、本のリレーを行います。私が勤務していた学校の図書室には、この絵本に出てくるような「どうぞのいす」を作成してカウンターに置いておき、「これは、どうぞのいすです。ここの本を借りていく人は、その本のかわりに、あなたのおすすめの本をここにおいていってくださいね。」と案内を出しておきました。

吉藤先生連載どうぞのいす

子供たちはとても興味をもち、回転の速いときには、1日に何冊もの本が入れ替わります。なかには、いすの上の本を借りたいのに、自分のおすすめの本が見付からないため、図鑑を置いていった子供もいました。この「どうぞのいす」はいろいろな図書館で見られますので、探してみてください。学校でも試してみてはいかがでしょうか。

図書館へ行ってみよう

図書館教育に携わるようになって、私自身も勉強のためいろいろな図書館を訪れるようになりました。そこで多くの新しいことを発見しました。「本を読みなさい!」と言っても、子供は本を読むわけではありません。どうすれば子供たちが主体的に読書に取り組むか、どの図書館もいろいろ工夫をしています。

例えば、東京・中野区に「東京子ども図書館」という図書館があります。ストーリーテリングの教材として手のひらサイズの読み聞かせの話を集めた『おはなしのろうそく』を出版しています。この図書館の中に暖炉をたいて子供たちにストーリーテリングをする部屋があります。とても温かい雰囲気で、こんな部屋でお話を聞いたら、「子供たちは、その原作を読んでみたいと思うだろう」と思いました。小さな図書館なのですが、私自身が小さい頃大好きだった『えほん百科』(平凡社)もありました。いろいろな人の読んだ形跡がある本が並んでいます。人が読んだ形跡のある本が並んでいる図書館は、なんとなく温かみがあります。

富山市立図書館や高知県にある通称雲の上の図書館・梼原町立図書館は、東京オリンピックの国立競技場を建てた建築家・隈研吾の設計です。木材をふんだんに活用し、空間も楽しめる図書館です。外観もさることながら、中に1歩足を踏み入れると異次元の世界が広がり、訪ねただけで楽しくなります。富山市立図書館の別館であるこども図書館では、「おもちゃ箱をひっくり返したような図書館」をテーマに楽しい飾りや変わった形の本棚が設置されています。

長野県小布施市は、「まちじゅう図書館」を推奨しています。郵便局や味噌屋さん、酒造のお店などの軒先に小さな本棚があって、店長や街の人が持ってきた本が置かれています。街の人たちが貸出帳に記入し、自由に借りています。

教員の仕事は忙しい毎日かもしれませんが、夏休みや週末などを利用して、いろいろな地域の図書館を訪ねてみるのもリフレッシュになり、本好きの子供を育てるヒントがもらえるかもしれません。

構成/浅原孝子 イラスト/有田リリコ

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