ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #30 「Goal 15 陸の豊かさも守ろう」を学ぶ授業|吉川裕子 先生
全国各地の気鋭の実践者たちが、SDGsの目標に沿った授業実践例を公開し、子どもたちの未来のウェルビーイングをつくるための提案を行うリレー連載。今回からは「陸の豊かさも守ろう」について学ぶ授業実践提案です。ご執筆は、立命館小学校の吉川裕子先生。小学3年生国語科の実践例です。
執筆/立命館小学校教諭・吉川裕子
編集委員/北海道公立小学校教諭・藤原友和
目次
1 はじめに
こんにちは。立命館小学校の吉川裕子です。立命館小学校は京都にある私立の小学校です。開校から19年目の学校です。
2 SDGsのGoal 15についての解説
SDGs Goal 15は、「陸の豊かさを守り、砂漠化を防いで、多様な生物が生きられるように大切に使おう」です。
地球上では、過去30年間のうちに日本の国土の約5倍の面積にあたる森が消滅したと言います。森林が減少した結果、世界の鳥類の14%、哺乳類の25%、針葉樹の34%、両生類の41%が絶滅の危機にさらされているそうです。*1
小学校3年生が対象なので、自分たちのまわりにも絶滅の危機にさらされている動植物があり、守ろうとする人たちの存在に気付くことができる授業にしたいと考えました。
3 SDGsのGoal 15を扱った授業の実際
●対象学年:小学3年生
●教科:国語
●ねらい:秋の言葉やSDGsに関わる語句の量を増やし、語彙を豊かにすることができる。
●教材:「秋の七草」
国語科の教科書に季節ごとに掲載されている「季節の言葉」の単元内で授業を行いました。
昔から大切にされてきている秋の言葉である「秋の七草」について知り、その中でも身近な人たちが保護活動を行っている「フジバカマ」を中心教材として、SDGsのGoal 15について考えました。
●授業展開
①発問 秋の七草は、どれぐらい昔から言われているでしょう。
秋の七草について聞いたことがある児童も半分程度いましたが、知らない児童も多かったので、国語辞典で調べてみました。七つの植物の名前を見て、
「キキョウは茶道のお菓子に出てきた」
「この前、華道で生けた」
「ススキはお月見の時に飾った」
「フジバカマも飾ってあるのを見たことがある」
「春の七草はお正月に食べた」
など、意外と自分たちの身近に秋の七草があることに気付きました。
『では、その秋の七草はどれぐらい昔から言われているでしょう』
と聞くと、約500年前からと約1000年前からに分かれました。
「100年よりは古いはず」
「戦国時代とか聞いたことあるから、それぐらい昔からあるんじゃないかな」
・説明
百人一首より昔の『万葉集』の中に、山上憶良が詠んだ「秋の野に 咲きたる花を 指折り(およびをり)かき数ふれば 七種(ななくさ)の花」「萩の花(はぎのはな) 尾花(おばな)葛花(くずはな) なでしこの花 おみなえし また 藤袴(ふじばかま) 朝顔の花」という歌があります。約1200年前です。みんなでこの和歌を音読しました。
②発問 1200 年前の秋の七草と、今の秋の七草は同じですか。
「比べたら朝顔がなくなっている」
「昔の歌には、キキョウはない」
・説明
じつは、1200 年前とは名前が変わっていて、秋の七草の朝顔は、1年生で育てたアサガオではなく、キキョウのことらしいです。また、尾花はススキのことだそうです。キキョウは絶滅危惧種、フジバカマは準絶滅危惧種に指定されています。
「絶滅危惧種」という言葉を聞いたとたんに、
「知ってる!!」
「恐竜も絶滅したんやで!」
と、生き物好きの子どもたちが大騒ぎになりました。
『でも、今の話を聞いて、不思議に思う人もいるよね?』
と聞くと、
「キキョウはうちのお寺のお庭に、秋かは分からないけど、たくさん咲いています」
「茶道や華道で飾ったりしているのに、絶滅危惧種っていうのは不思議です」
という声がありました。
そこで、インターネット上にある「京都府レッドデータブック」を詳しく読むと、キキョウは「野生では希少である」と書いてありました。野生と種を取って育てるのとは違うようです。
フジバカマも「京都府では絶滅寸前」だと書いてあります。
「種類は同じでも、昔と今ではもしかしたら色とか変わっているかもしれない」
「生えている場所が変わったのかもしれない。」
③発問 秋の七草が六草、五草になっても困らないのでは?
全員が「困る!!」と答えたので、なぜ困るのか近くの席の人と交流しました。
「茶道とか華道とかにも使われてるって言っていたし、日本の文化が減ってしまう」
「(社会科で学習している)伝統工芸品の植物版みたいなものだから、減ったら困る」
「一つの植物が絶滅したら、他の植物にも影響を及ぼすかもしれないし、生態系も崩れるから」
「キキョウやフジバカマを食べているチョウがいるかもしれない」
「何かがあって、何かが生きている感じだから、人間と同じで協力しあって生きている」
「そのつながりが『生態系』ってこと」
・説明
SDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」について説明しました。
SDGsについては、みんなテレビや新聞、本などで聞いたことがあり、
「陸の豊かさっていうことが生態系ってこと」
と、説明してくれる人もいました。
そこで、フジバカマを守ろうと立命館大の学生と教職員、京福電鉄社員の皆さんが取り組んでいる「嵐電沿線フジバカマプロジェクト」について伝えました。
この活動に携わり、Zoomで授業を参観してくださっていた立命館大学職員の田中さんと大場さんにどんな活動をされているかを教えてもらいました。
●フジバカマが増えることで、この花の蜜を好むアサギマダラというチョウがやってくること。
●学生さんや嵐電の方、地域の人たちが協力してフジバカマを増やしていること。
●交雑を防ぎ、昔から伝わる種類を守るために、差し芽で増やしていること。
●フジバカマはいいにおいがするので、におい袋を作っていること。
などと教えてくださいました。
④発問 今日学習したことをもとに、フジバカマプロジェクトのキャッチコピーを作ってみよう。
短時間でしたが、キャッチコピーを作りました。以下に紹介するのが、子どもたちのキャッチコピーと振り返りです。
●「植物とのつながりを分かち合おう」
秋の七草というのをはじめて知って、フジバカマなどを大切にしたいと思いました。ぼくもこの活動をしたいです。
●「秋の七草、みらいをつなぐ草」
七草はなくなったり、ぜつめつしてしまったら、ぜったいにダメって事が分かりました。
●「一つの植物だけでない、しょくぶつをだいじにしよう」
ぼくの家にはききょうがあって、ぜつめつきぐしゅだとはじめてききました。
●「いいにおいをふやそう! アサギマダラをふやそう! 秋の五草にするな!」
今日、秋の七草を学びました。私ははじめてフジバカマをしって、ぜつめつきぐしゅだということもしりました。大切にしようと思います。
●評価について
評価は、キャッチコピー、振り返りで判断しました。
短い時間だったので、キャッチコピーを決めきれなかった児童もいましたが、振り返りを読むと、「秋の七草」「生たいけい」「フジバカマ」「キキョウ」「ぜつめつきぐしゅ」などのキーワードを使って、自分なりの考えをまとめていました。「秋の言葉やSDGsに関わる語句の量を増やし、語彙を豊かにすることができる」ことにある程度迫ることができたと考えられます。
4 授業の成果と課題、他教科・他領域とのつながり
課題としては情報量の過多があげられます。
SDGsについて知るだけでなく、万葉集、レッドデータブックや絶滅危惧種、「フジバカマプロジェクト」と一気にたくさんの情報を与えたので、キャッチコピーをじっくり考える時間を十分に取ることができませんでした。
しかし、短時間で一気にキャッチコピーを仕上げた子も多くいたので、直接ゲスト講師のお話を聞いた経験が活動の密度につながったと感じました。地域の身近な話題からSDGsや環境問題について考えることが、小学生の興味関心につながると考えられます。
他教科・他領域のつながりとしては、今回の授業の中で、生態系という言葉を通してアゲハチョウの幼虫を育てた経験を思い出し、「アゲハもミカンの葉しか食べなかった」ことに気付いた児童がいました。
3学期に学習する社会科での「地域の様子の移り変わり」の中でも、人の生活と自然の生態系がつながっていることに気付けるようにしたいと考えています。
何より、地域で活動されている「フジバカマプロジェクト」の皆さんとつながることで、「自分たちもこんな活動をしたい」と思った児童が複数いました。
これだけで終わらせずに、このご縁をつなげていきたいと考えています。
【参考文献】
*1『14歳からのSDGs あなたが創る未来の地球 水野谷優編著』明石書店 P.53
*2「絶滅寸前種「フジバカマ」の保全活動
この連載は、毎週木曜日のAM6:00に公開します。どうぞお楽しみに!