給食で苦手な食材がある子への対応|6月【特別支援学級の学級経営】

特集
支援を要する子への適切な対応ポイント記事まとめ
関連タグ

兵庫県公立小学校校長

関田聖和

文科省からは、すべての新任教員が10年以内に特別支援教育を複数年経験するよう努めるように通知が出されています。特別支援の知識や経験が乏しいまま、手探りで特別支援学級を担任している先生も多いことでしょう。この記事では特別支援学級でよくあるケースを挙げて、その道の専門家がポイント解説します。今回は、苦手な給食についてのお話です。

構成・執筆/兵庫県公立小学校校長・公認心理師・特別支援教育士スーパーバイザー 関田聖和

登場人物

皆川先生:自閉情緒クラス担当。教師生活25年のベテラン。特別支援学級主任・特別支援教育コーディネーター

島原先生:知的クラス1担当。教師8年目。特別支援学級担任1年目

根本先生:知的クラス2担当。教師3年目。特別支援学級担任2年目

しゅんたさん:皆川先生担当。独特な自分の世界をもっていて、彼なりのルールがある。他人とは打ち解けるまでにかなり時間がかかる。粘土や工作などは緻密で動物などは本物そっくり、大人顔負けの作品を作りあげる。
長期目標:同じクラスの友だちといっしょに作品作りをすることができる 
短期目標1:大人といっしょに作品作りをすることができる

るなさん:島原先生担当。よく動く。出し抜けにしゃべる。思いついたことをすぐに伝えてしまう。言わないでいいことまで言ってしまうことがある。発想が豊か。次から次へと案が浮かぶ。
長期目標:会話のキャッチボールを楽しむことができる 
短期目標1:先生としりとりなどの遊びに取り組むことができる

ゆうかさん:根本先生担当。不注意。衝動性が高い。よく忘れてしまう。様々なことが気になってしまい、失敗することが多い。いろいろなことに気が付いてくれるので、友だちが忘れていたことを思い出してくれるようなことがある。
長期目標:タブレットで記録を取ることができる 
短期目標1:タブレットで必要な事柄を写真に撮ることができる

職員室でのある日の会話

(根本先生)
今日の給食は、ゆうかさんの嫌いなピーマンが出る日。ちょっと憂うつだなぁ

(島原先生)
それは大変だね。でもニンジンが苦手なぼくは、毎日格闘してるよ……

(皆川先生)
ニンジン嫌いは大変ね。給食にニンジンはよく入ってるもんね。ピーマンが入っているとゆうかさんは、どんな状態になるの!?

(根本先生)
口に入れたあと、吐き出すんです。でも頑張って食べなさいと保護者に言われていて、かなり咀嚼したあと、残念ながら、吐き出してしまうんです。もちろんそれは、さようならということに……

(皆川先生)
頑張ってはいるんだね。ちょっと保護者の方と相談してみようよ

【POINT1】食事を通して人間関係をよりよくすること

食に関する指導の手引-第二次改訂版-(平成31年3月)第5章 給食の時間における食に関する指導 第1節「学校給食とは」には、

学校給食は、学校給食法に基づき実施され、成長期にある児童生徒の心身の健全な発達に資するものであり、かつ、児童生徒の食に関する正しい理解と適切な判断力を養う上で重要な役割を果たすものです。

食に関する指導の手引-第二次改訂版-(平成31年3月)第5章 給食の時間における食に関する指導 第1節「学校給食とは」

とあります。そして、目的と役割には、

学校給食は、成長期にある児童生徒の心身の健全な発達のため、栄養バランスのとれた豊かな食事を提供することにより、健康の増進、体位の向上を図ることに加え、食に関する指導を効果的に進めるための重要な教材として、給食の時間はもとより各教科や総合的な学習の時間、特別活動等において活用することができます。

食に関する指導の手引-第二次改訂版-(平成31年3月)第5章 給食の時間における食に関する指導 第1節「学校給食とは」

とあります。また、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 特別活動「エ 食育の観点を踏まえた学校給食と望ましい食習慣の形成」には、

給食の時間を中心としながら、健康によい食事のとり方など、望ましい食習慣の形成を図るとともに、食事を通して人間関係をよりよくすること。

小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 特別活動「エ 食育の観点を踏まえた学校給食と望ましい食習慣の形成」

とあります。なので、給食の時間では食習慣をはじめ、健康によい食事のとり方を指導します。また、給食は友だちや担任と和やかで楽しく会食をする時間のため、食事にふさわしい環境を整えることが大切となるのです。

頑張ってピーマンに挑戦し、食べようとしているゆうかさんの姿は尊いですが、最終的に咀嚼して吐き出してしまうことは、和やかで楽しく会食する時間とは言い難くなってしまいます。食べさせることを念頭に置くのではなく、保護者の方と大きさや数の調整をして、それ以外は減らすということを提案することも必要かもしれません。

上記の「食に関する指導の手引-第二次改訂版-」や「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 特別活動」には、完食という言葉は出てこないのです。

場合によっては、ほかの食物から栄養を摂るという考え方も必要です。ピーマンには、カリウム・β-カロテン・ビタミンC・ビタミンE・食物繊維が含まれています。これらを別の食材から得るということです。

【POINT2】触覚過敏の場合もある

前回の運動会の記事にも綴りましたが、なかには触覚や味覚に過敏な人がいます。

触覚
・洋服のタグが気になる
・服の着心地が気になる
・軽く触っただけでも痛がる
・歯磨きや髪を整えることを嫌がる
・血が出ている怪我なのに痛みをあまり感じない
・熱湯に触れているのに、やけどになるまで気づかない
・あざができるほどぶつけているのに痛がらない
【味覚】
・特定の味や食感が受け入れられない

この場合は、咀嚼にまで至らないことが多いですが、子どもの場合、頑張って無理しているということもあるそうです。時折、発疹や熱が出るなど、体の反応が出ることもあるので要注意です。給食指導で、無理やり食べさせることはないとは思いますが、避けたいことですし、あってはいけません。

【POINT3】一食分の量を把握しておく

嫌いなものへの対策はさておき、好きなものを食べすぎるということはないでしょうか。そんな時は、一食分のだいたいの量を知っておくと、おかわりを何度もするといったことを防げるかもしれません。また、「おかわりは1回だけ」と約束をしていくことも必要かもしれません。ほかの先生と共有できるのであれば、おかわり分がないような配膳も方法の一つです。調整をしながら取り組むといいですね。

日本の美徳として、「出されたものは、残してはいけない」という料理や食材に関わる方への感謝は大切です。もちろん、食べ物を粗末にしないことやフードロスの観点も大切です。しかし、楽しく会食する時間や食事にふさわしい環境を害するような場合は、一考が必要です。また、体に負担をかけて心と体を害するような食べ方は疑問です。

(根本先生)
保護者の方と相談して、ピーマンをゆうかさんが食べられる大きさにして、頑張って1回だけ挑戦することになりました

(皆川先生)
そうなのね。それでも無理は禁物よ。体調もあるので、今日はやめとこうね。という時があってもいいからね


いかがでしたか? 無理やり食べて体に不調をきたしては本末転倒というもの。苦手な食べ物を克服する意識も大切ですが、まずは友だちと楽しい会食ができるような環境づくりを優先したいですね。

イラスト/terumi

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
特集
支援を要する子への適切な対応ポイント記事まとめ
関連タグ

学級経営の記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました