小3特別活動「係を決めよう」指導アイデア
文部科学省視学官監修による、小3特別活動の指導アイデアです。5月は、学級活動(1)「イ 学級内の組織づくりや役割の自覚」の議題として、「係活動を決めよう」の実践を紹介します。
中学年では教師の適切な指導のもと、当番活動との違いを意識しながら、学級の係を学級会で決めていきます。子供たちが創意工夫し、主体的に組織をつくっていけるようにします。
執筆/神奈川県川崎市総合教育センター指導主事・下村智英
監修/帝京大学教育学部教授(前文部科学省視学官)・安部恭子
日本体育大学教授・橋谷由紀
目次
年間執筆計画
4月 学級活動(3) ア 3年生になって
5月 学級活動(1) 係を決めよう
6月 学級活動(2) ウ ぼうさいマスターになろう
7月 学級活動(1) なかよし集会をしよう
9月 学級活動(3) ウ 学習パワーアップ大作せん
10月 学級活動(1) 係発表会をしよう
11月 学級活動(1) クラス運動会をしよう
12月 学級活動(1) 今年もがんばったね集会をしよう
1月 学級活動(2) エ よくかんで食べよう
2月 学級活動(3) イ スッキリそうじ~みんなのためにきれいに~
3月 学級活動(1) ありがとう集会をしよう
学級活動(1)について
学級活動(1)は、主として自発的な集団活動の計画や運営に関わるものであり、教師の適切な指導の下での学級としての議題選定や話合い、合意形成とそれに基づく実践を重視します。学級活動(1)で扱う議題は、子供が学級や学校における生活上の諸問題の中から課題を見いだし、計画委員会で選定した議題案について学級全員で決定します。学級活動(1)の課題とは、学級や学校の生活をよりよくするためのものであり、学級の子供全員が協働して取り組まなければ解決できないものです。「友達の意見をしっかり聞きたいので、話を静かに聞くにはどうすればよいか」など、一人一人が心がければ解決するような内容は、学級活動(2)や学級活動(3)の題材として扱います。
学級活動(1)と学級経営について
小学校学習指導要領第1章総則には、次のとおり示されています。
学級活動における児童の自発的、自治的な活動を中心として、各活動と学校行事を相互に関連付けながら、個々の児童についての理解を深め、教師と児童、児童相互の信頼関係を育み、学級経営の充実を図ること。(後略)
特別活動において、子供の自発的、自治的活動を特質としている内容は、学級活動(1)、児童会活動、クラブ活動です。
学級経営の内容は多岐にわたりますが、学級集団としての質の高まりを目指したり、教師と子供、子供相互のよりよい人間関係を形成しようとしたりすることは、その中心的な内容となります。子供が自発的、自治的によりよい生活や人間関係を築こうとして様々に展開される特別活動は、結果として子供が主体的に集団の質を高めたり、よりよい人間関係を築いたりすることになります。
学級がよりよい生活集団や学習集団へと向上するためには、教師の意図的、計画的な指導とともに、子供の主体的な取組が不可欠です。学級経営は、特別活動の目標に示された資質・能力を意識して行うことにより、学びに向かう集団づくりの基盤となります。各教科等で「主体的・対話的で深い学び」を実現する授業改善を行う上では、よりよい人間関係が基盤にあることは欠かせません。学級活動(1)の実践を通して、子供がよりよい人間関係を築いていけるようにしていきましょう。
学級活動(1)の一連の学習過程について
事前の活動、本時の活動、事後の活動の一連の学習過程については、学習指導要領解説(特別活動編)には、「①問題の発見・確認」「②解決方法等の話合い」「③解決方法の決定」「④決めたことの実践」「⑤振り返り」、そして、「次の課題解決へ」のように示されています。簡単に表すと次のようになります。
また、本時の指導では、議題、提案理由、決まっていることをもとに、子供が主体的に意見を「出し合う」「くらべ合う」「まとめる(決める)」の3つの段階を通して、互いの意見の共通点や相違点を踏まえ、折り合いをつけて意見をまとめ、合意形成を図るようにすることが大切です。事後の指導では、みんなで協力して準備したり、実践したりすることで、よりよい人間関係を形成できるよう支援していきます。
【出し合う】段階
自分の意見を発表し、いろいろな意見を出し合う段階です。意見を発表するためには、どのような目的で、何のために話し合うのかを明確にしていることが大切です。そのために「提案理由」をより具体的にしておいたり、キーワードを明確にしたりしておくこともあります。そうすることで、自分の好みや得意・不得意だけでなく、ねらいを意識しながらも自分の思いや願いを意見に反映することができるようになります。
【くらべ合う】段階
出された意見を理解したり、比較し相違点や共通点を見付けたりする段階です。意見を理解するために、質問を通して意見の内容や思いを確認します。また、出された意見に対して賛成や反対意見を述べ合います。それぞれの意見の違いを明確にしながら、提案理由に合ったよりよい意見にまとめていきます。意見の内容を聞き合うことが、合意形成を目指す基礎になります。
【まとめる(決める)】段階
意見の背景を聞き合ったり、論点になっていることを中心に話し合ったりすることを通して、納得できる考えにまとめる段階です。意見のよさを見付けることや、多くの意見を生かし合う意識をもちながら話し合うことで、互いの意見のよさを生かした創意に満ちた考えが生まれます。賛成、反対意見の言い合いや、反対意見ばかりの発言にならないように、不明な点については質問して明確にしたり、友達の意見に付け足したりしながら話し合えるように、適切な助言を行うことが大切です。
「くらべ合う」段階と「まとめる(決める)」段階は、それぞれ明確に分けられるものではありません。それぞれの段階で子供の思考の流れを生かして、創意工夫しながら合意形成できることを目指しましょう。
学級活動(1)「イ 学級内の組織づくりや役割の自覚」の指導について
学級活動(1)「イ 学級内の組織づくりや役割の自覚」について、学習指導要領解説(特別活動編)には、次のように示されています。
学級生活の充実や向上のため、児童が主体的に組織をつくり、役割を自覚しながら仕事を分担して、協力し合い実践すること。
学級の生活の充実や向上を図るために必要とされる学級内の組織づくりや仕事の分担などを、教師の適切な指導の下で子供自身が見いだし、協力しながら責任をもって行うことを内容としています。集団活動における役割分担の意義や活動の方法について理解し、学級生活の充実や向上のために、一人一人のよさを生かしながら活動できる組織づくりや分担などについて考え、話し合って決めるとともに、自分の役割を自覚しながら、協力し合って実践することができるようにしましょう。このような過程を通して、生活の中で自分の役割や責任を自覚し、他者と協力しながらよりよい生活をつくっていこうとする態度が養われていきます。
係活動について
学習指導要領解説(特別活動編)には、係活動について次のように示されています。
係活動は、学級の児童が学級内の仕事を分担処理し、児童の力で学級生活を楽しく豊かにすることをねらいとしている。したがって、当番活動と係活動の違いに留意し、教科に関する仕事や教師の仕事の一部を担うような係にならないようにすることが大切である。
また、「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料には、中学年の活動形態別の評価規準の例として次のように示されています。
当番活動との違いなど、みんなで楽しい学級をつくるために他者と協働して係活動に取り組む意義を理解している。(知識・技能)
これらのことから、中学年においては、当番活動と係活動の違いを理解したうえで係活動を決めていくことが大切になります。
【係活動と当番活動の違い】(小学校特別活動映像資料(国立教育政策研究所)を参考に筆者が作成)
また、小学校学習指導要領解説(特別活動編)には、発達の段階に即した指導のめやす(中学年 係活動)で次のように示されています。
・様々な活動を整理統合して児童の創意工夫が生かせるような係活動として組織できるようにし、協力し合って楽しい学級生活をつくることができるようにする。
・朝や帰りの時間などを生かして、積極的に取り組むことができるようにする。
これらのことから、児童の創意工夫を生かし積極的に係活動に取り組むことができるよう、学級会を通して係を決定していくことが大切です。低学年までは、当番的な活動を中心に行っていた学級も、中学年では当番活動との違いを意識しながら、教師の適切な指導のもとに係を学級会で決めていきます。
事前の活動
学習指導要領解説(特別活動編)では、低学年は「当番的な活動から始め、少しずつ創意工夫できる係の活動を見付けられるようにする。」と示されています。3年生の子供は、これまで当番活動と係活動が混在した形での活動を経験してきていることが考えられます。このことを教師は踏まえ、子供が行ってきた係活動をバージョンアップしていけるよう適切に指導していくことが大切です。
新しい学級でも係活動で楽しいことをたくさんしたいな。さっそく、議題として提案しよう。
計画委員会を開いて、これまでに集まった議題の中から、次の学級会の議題について選定しましょう。その後、学級みんなで議題を決定してから準備を始めましょう。
学級活動(1)は、児童の自発的、自治的活動であることを特質とし、児童が課題を見いだし、その解決方法についての合意形成を図り、協力して実践していきます(前述の「学級活動(1)の一連の学習過程について」を参照)。だからこそ、議題は学級全員で決定するようにしましょう。議題を決定する過程で、学級全員が提案者の議題に対する思いを知り、話し合うことへの期待や見通しをもつことにつながります。
2年生のとき、係活動をやってみて、みんなのために何かをすることはとても楽しいと感じました。だから、3年生でも、係活動をがんばるぞ!
私の5年生のお姉さんは、家で係活動が楽しいと話してくれます。係には、いろいろな種類があると言っていたけど、まだよく分からないです……。
そういえば、4年生はもう係を決めていたよ。休み時間にどのような係を決めたのか、聞いてみるね。
調べた係を、学級活動コーナーに掲示して、学級のみんなに伝えるとよいですね。
4月になり、新しい学級での生活が始まると子供から「係を決めたい」という意見が寄せられます。教師は、早い時期に係活動を決め、学級生活の充実や向上のために、一人一人のよさを生かしながら活動できる場をつくりたいと考えることが多いと思います。しかし、前述したように、低学年までは当番活動と係活動が混在した活動を行っていた可能性があります。教師としていろいろな係活動のアイデアをもっていることも大切ですが、子供が主体的に組織をつくれるよう、子供が同じ中学年の4年生や高学年の係を調べるなどして、発意・発想を生かし、自分たちで創意工夫して活動をつくっていくことができるよう、適切に指導していくことが大切です。
楽しそうな係がたくさん見つかったよ。早く係活動をやりたいな。
本時の活動
<議題> 3年〇組の係を決めよう
<提案理由>
・新しい学級になり、日直や掃除などの当番活動をがんばっているけど、係活動はまだ始められていません(現状の問題点)。
・自分が得意なことや興味あることを生かし合い、係を決めて、協力して活動することで(考えられる解決の方法)、みんながもっと仲よくなり、学級生活がより楽しくなると思い、提案しました。
提案理由は、提案者の思いを大切にしながら明確にすることで、「何のための活動か」「何のために話し合うのか」について共通理解を図ることができます。また、合意形成を図る際のよりどころにもなります。
<本時の板書例①>
学級会を行う前に、教師は司会グループへ話合いの進め方について指導をします。この際、子供が活動計画を作成しながら、当日の学級会の流れをイメージできるようにしたり、事前に背面掲示などで必要なものは何かを考えられるようにしたりするなど、見通しをもって学級会を行えるよう適切に指導をします。
また、話題が逸れてしまったり、停滞してしまったりしたときには、軌道修正を行う助言を適宜行います。しかし、教師の「よい考えですね」などの言葉が、結果として子供の話合いの内容を方向付けてしまい、主体性を妨げてしまうことがあります。子供を中心とした話合いになるように配慮しましょう。
【話し合うこと①】どのような係がよいか決めよう
<出し合うのポイント>
子供一人一人の思いを大切にするためにも、理由といっしょに発表することを促します。
ぼくは、思い出係があるとよいと思います。6年生にインタビューをしたときに、1年間の思い出の掲示を作って残しておくと、いつでも振り返ることができるのでよかったそうです。
私は、クイズ係があるとよいと思います。毎朝、私は誰でしょうクイズをしながら、みんなのことをたくさん知ることができるし、学級集会でも活躍することができると思うからです。
<くらべ合う>
出された意見について、提案理由を踏まえて、賛成意見や反対意見を述べ合います。楽しい学級生活をつくるための合意形成に向かうことを大切にします。
クイズ係に賛成です。毎日少しずつみんなのことを知ることができるのは、とてもうれしいし、まだ知らないことを「聞いてみよう」と思えるので、みんなとの学級生活がより楽しくなりそうだからです。
出された意見で、似ている内容のものをいっしょにしたり、合体して新しい係にしたりすることもあります。
また、くらべ合う段階の後半では、話し合うこと②で決める係の分担を意識し、同じ係を希望する人が多い場合は活動内容を見直して2つの係に分けたり、活動の可能性を検討し新しい考えを取り入れたりすることもできます。大切なのは、話し合うこと①で決まった係を実現できるようにすることです。
私は、まんが係に興味があるけれど、絵は得意ではありません。絵を得意としない人も活躍できるような工夫はないでしょうか。
まんが係とイラスト係を合体させてみるのはどうでしょう。ICT端末を活用して、ストーリーを考えたり、セリフを考えたり、絵を描いたりすれば、みんなできそうです。
私はイラスト係を提案したのですが、まんが係といっしょならいろいろなアイデアをもらえるし、自分のイラストが活躍する話を作るのは楽しそうなので、合体することに賛成します。
<本時の板書例②>
<まとめる・決める>
これまでの話合いをもとに学級にとってよいと考えるものについて合意形成を図ります。
これまでの話合いから「かざり係」「クイズ係」「レク係」「思い出係」「ミュージック係」、そして「イラスト係」は「まんが係」と合体したので全部で6つの係でよいですか。
【話し合うこと②】係の分担を決めよう
係活動は自分たちだけが楽しむのではなく、学級全体を楽しくするものです。分担を決めるときは、係の内容から自分が興味のあるものを選びましょう。
自分が興味のある係活動に名前マグネットを貼ってください。
役割分担を決めるときは、子供は「◯◯さんといっしょにやりたい」「◯◯さんは何するの?」などのように人間関係で決めようとすることがあります。しかし、教師の適切な指導により、活動内容に目を向けられるようにすることが大切です。活動内容から自分の所属を決める経験は、クラブ活動、委員会活動、運動会などの運営に関する役割分担(放送、得点、会場など)を決める際にも役立ちます。学校教育における係活動が果たす意義について考えながら指導すると、学級だけでなく学校をよりよくすることにもつながります。
事後の活動
事後の活動では、係のメンバーで集まり、めあてや活動計画を話し合うことが大切です。係活動では、係のメンバーで話合い、活動内容を決める場面が繰り返しあります。このときに、めあてや計画があると、何のための活動か、どうするとよりよく活動できるのかについて話し合って決めやすくなります。係で決めためあてや活動計画を含めた係活動ポスターを作成し掲示することで、活動を見通すことができたり、めあてを確認し合ったりすることができます。また各係が活動を行う日を集約した一覧やカレンダーを作ることで、子供が主体的に日程調整をしやすくなります。
<係のポスター例>
活動の振り返りは適宜行うようにします。係ごとに活動が落ち着いたときに行えるとよいですが、はじめのうちは教師が定期的に声をかけたり、場を設定したりすることが大切です。このとき、「みんなのために準備をして、活動することができた」「みんなが楽しんでくれた」という満足感や充実感を得られるようにしましょう。「○○ができなかった」「◯◯がダメだった」と反省するのではなく、「次は、◯◯してみよう」「◯◯してみると楽しくなると思う」とプラスの考えができるようにしましょう。
このときにもありがとうカードやリクエストカードが役に立ちます。自分たちの自己評価だけでなく、他者評価により気付くことも多々あります。子供からのカードには「楽しくなかった」「もっとおもしろくして」などの意見が書かれることも想定できます。事前に相手を大切にする言葉で書くことについて指導することはもちろんですが、否定的なカードを見つけたときこそ受容的な学級風土を醸成するチャンスと捉え、「どのようなカードだとうれしいかな」「どのようなことを書いてくれると活動に役立つかな」と問うことで、子供が考え、気付くことができるよう支援していきましょう。
<ありがとうカード・リクエストカードの例>
今日のクイズとても楽しかった。みんなもとても楽しそうだった。さっそくありがとうカードを送ろう。
昨日の学級集会活動が楽しかった。思い出係にこの思い出を描いてもらいたいな。リクエストカードを送ってみよう。
みんなからの「楽しかったよ」という感謝の気持ちや「◯◯してみたい」というリクエストがあると、もっと係活動を工夫したいと思えますね。
【参考文献等】
・『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説(特別活動編)』 文部科学省
・『みんなで、よりよい学級・学校生活をつくる特別活動 小学校編』 文部科学省国立教育政策研究所教育課程研究センター
・『「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料 小学校 特別活動』 文部科学省国立教育政策研究所教育課程研究センター
構成/浅原孝子 イラスト/小野理奈
監修
安部恭子
帝京大学教育学部教授(前文部科学省視学官)
埼玉県さいたま市の小学校に勤務後、さいたま市教育委員会、さいたま市立小学校教頭勤務を経て、2015年より文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・国立教育研究所教育課程研究センター研究開発部教育課程調査官、2022年より文部科学省初等中等教育局視学官を務める。
特別活動の魅力をすべての教師に伝える本!
楽しい学校をつくるには、具体的にどのようにすればよいか。コロナ禍の新しい学校生活様式を踏まえた小学校での特別活動の基本がよく分かります。特別活動を愛する3人による、子供たちとの学校生活を充実させるための「本質」が語られています。
著/安部恭子 著/平野 修 著/清水弘美
ISBN9784098402106